破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

時岡継美

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悪役令嬢ドリス・エーレンベルク(5)

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 机の引き出しの中で、純金のブレスレットや大きな宝石がはめこまれた指輪や細工をこらしたネックレスが輝いている。
 勉強道具ではなくこんなところに高価な貴金属類を、しかも鍵もかけずに適当に放り込んでおくとは。
 
 小さくため息をつこうとしたら、先にオスカーが大きなため息をついた。
「申し訳ございません、一旦廊下でお待ちください」
 そう言って、宝石に目をくぎ付けにしているクラークの背を押して退室を促した。

 扉を閉めて、くるりと振り返ったオスカーの眉間には深いしわが寄っている。
「ねえ、オスカー。いまはまだ若いから大丈夫だけど、そんな怖い顔ばかりしていたらいつか深いしわが取れなくなっちゃうわよ」
 せっかくの美貌が台無しだわ。
 この世界にはボトックス注射なんてないはずだし。

「ドリスお嬢様」
 忠告が聞こえなかったのかそれとも無視したのか、眉間のしわを一層深くしたオスカーがいつもより低い声を響かせる。
「そのような高価な貴金属の収納場所を他人にひけらかすのはおやめください」

「へぇ。自分は他人ではないと思っているの?」
 思わず嫌味を言うと、オスカーが身を固くしたのがわかった。

 だっておかしいじゃない。
 ハルアカの中でも、ただ婚約者ってだけでミヒャエルと血が繋がっているわけでも養子縁組していたわけでもないのに、わたしをこの家から追い出すんだもの。
 この伯爵邸はパパとわたしのものだわ。追い出されるものですか!

「いえ、ただエーレンベルク伯爵家の執事として諫言かんげんしたまでです」
 言い訳をするオスカーを冷ややかに見つめる。
「あらそう。この宝石は売るわ。そのお金で家具を新調すれば文句はないでしょ、執事さん」

 いったいどんな気まぐれが始まったのか――そんな戸惑いを青灰の目ににじませるオスカーに向かってにっこり笑った。

 家具職人のクラークに、マホガニーの家具一式の見積もりと納期の目安をお願いした。
「ところで、このピンクの家具はどうしようかしら」
「前回の家具一式な中古品として引き取りましたが、こちらは人気の色とは言えませんので……」
 クラークが言葉を濁す。

 わかるわ。悪趣味な色だから中古家具の価値はゼロだと正直に言ってくれてもいいのよ?
 処分となると、薪の代わりぐらいにはなるのかしら。

「孤児院で引き取ってもらうことはできないかしら」
「寄贈するという意味ですか?」
 オスカーが口を挟んでくる。
 もちろんだと頷いた。こんな悪趣味なショッキングピンクでも、幼い女の子たちなら喜んでくれるかもしれない。

「運搬と設置はこちらでお任せください。その分の費用を上乗せした見積もりをお出ししてもよろしいでしょうか」
 商売っ気たっぷりのクラークの提案を快諾した。
「ええ、お願いするわ」

 クラークが屋敷を出た後、オスカーとふたりで宝石の吟味を始めた。
「なにこれ、成金のおばさまが好きそうなでっかい宝石ね! 誰の趣味!?」
「そちらは旅先でお嬢様がどうしても欲しいとせがんで旦那様に買っていただいたルビーです」
 いやあぁぁっ!
 うら若き10代のご令嬢が身に着けるアクセサリーではない。
 どんな趣味してんのよ!

「うわ、これもすごいわね」
 前世でプロ野球選手が着けていたようなゴールドネックレスを摘まみ上げる。
「そちらは……」
 なんで知ってるの?
 いちいち説明してくれようとするオスカーの言葉を途中で遮った。
「もういいわ。全部まとめて売ってきてちょうだい」

 宝石の収納場所はここだけではない。チェストやクローゼットにも入っているし、もっと高価なものやお母様の形見は伯爵邸の金庫室にしまわれている。
 机の引き出しにぐちゃっと放り込んでいたこれらの宝飾品は、買っただけで満足した代物ばかりだ。
 どこで、どういう経緯で買ったのか記憶にない。
 
 それに5年後には、エーレンベルク伯爵家はドリスの浪費とミヒャエルの投資事業の失敗で借金まみれとなり、宝飾品は全て差し押さえられてしまう運命だ。
 だったらそうなる前に、現金に換えてやるわ!

「強気の交渉で売ってきてちょうだい!」
 翌日、宝石商に行くオスカーに檄を飛ばして送り出した。

 オスカーが大量の金貨を詰め込んだ革袋をふたつ抱えて帰ってきたのには驚いた。
 さらには家具職人のクラークが、
「本日の夕刻にはマホガニーの家具一式をご用意できます!」
と言ってきたことにはもっと驚かされた。
 在庫がたまたまあったと言っているが、おそらく気まぐれなわたしの気が変わらないうちにと、夜を徹してツテを頼りに家具を探し回ったんじゃないだろうか。

「まあ、なんて仕事が早いの! オスカー、見積もりよりさらに上乗せしてお支払いして」
 これに気を良くしたクラークは孤児院への家具寄贈の交渉も全てやってくれて、さっそくショッキングピンクの家具を運ぶこととなった。
 もちろんわたしとオスカーも同行する。

 孤児院の子供たちは、突然届けられた家具に目を輝かせていた。
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