破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます

時岡継美

文字の大きさ
7 / 66

悪役令嬢ドリス・エーレンベルク(6)

しおりを挟む
「お姉ちゃんは、お姫様なの?」
 5歳ぐらいだろうか、大きな緑色の目をキラキラ輝かせた女の子がわたしを見上げている。

 あの家具はやっぱり、これぐらいの年齢の女の子には刺さる色味なのね。まったくドリスときたら、色の趣味は幼いし宝石の趣味はババアだし、ゲームの設定とはいえひどすぎるわ。

 しゃがんでその女の子と視線を合わせる。
「お姫様じゃないわ。わたしはね……悪役令嬢よ」
 少々もったいつけながら内緒話をするように耳打ちした。
 
「あくやくれいじょう?」
 首を傾げる様子がかわいらしい。
「そうよ、お姉ちゃんを怒らせるとこわいのよー」
 にやりと笑うと、子供たちがキャー!っと悲鳴をあげて逃げ出し、そのまま孤児院の中庭で鬼ごっこが始まる。
 
 鬼はもちろん、悪役令嬢のわたしだ。
 ほかの子供たちも加わって家具の搬入が終わるまで鬼ごっこは続いた。
 子供たちの体力は底なしで途中でヘトヘトになってしまい、オスカーにバトンタッチした。
 
「このお兄ちゃんはね、極悪執事よ! 怒らせると殺されちゃうわよ!」
「ごくあくしつじー!」
 子供たちはまたキャーキャー叫びながら楽しそうに逃げ回る。
 勘弁してくれ!と目で訴えきたオスカーを華麗に無視したら、不承不承といった様子で鬼をやってくれた。

 そういえばお互い幼かった頃は、オスカーとこうやって鬼ごっこをして遊んだこともあったっけ……。
 
 突然燻りだした甘酸っぱい思い出を再び記憶のかなたに押しやる。
 駆けまわってほてった顔を手でパタパタあおいでいると、ふくよかな体型の初老の女性が歩いてきた。

 孤児院のジュネ院長だ。
「ドリス様、この度は多大なご支援を賜りありがとうございます」
「とんでもございません。引き取り手のない大型家具がたくさんあって持て余しておりましたの。助かりましたわ」

 クラークたちによる家具の搬入が終わったが、わたしはまだ孤児院にとどまることにした。
 ドリスはもともと友人もなく伯爵邸に引きこもりがちで暮らしている。友人がいない理由はもちろん、わがままが過ぎるためだ。
 ミヒャエルが一人娘を気遣って同年代の友人を作ってくれようとしていた時もあった。しかし、思い通りにならないとすぐに癇癪をおこしてわがまま放題に振る舞うドリスに定期的に遊ぶ友人はできなかった。
 だからこうして子供たちと過ごす時間が楽しくて仕方ない。

 家具とともに持ってきた差し入れの焼き菓子をみんなで食べた後、小さい子たちはお昼寝の時間、大きな子たちは勉強の時間になった。
 勉強の時間は、文字や簡単な計算をわかりやすく教えるオスカーが大活躍してくれた。
 
「悪役令嬢は字がヘタクソだな」
 横に座る10歳ぐらいの男の子がわたしの字を見てフンっと鼻を鳴らす。
「そういうあなたはどうなのよ」
 覗いてみると、とても綺麗な字で「ルーク」と名前が綴られている。
 
「やだ、とっても上手じゃないの! 見てなさい、次に会う時はわたしだって上達しているんだからね!」
 ふんすと胸を張る。
「ガキかよ。もう来んな」
「あなたほどガキじゃないし」
 不毛な言い争いをしていたら、オスカーに静かにするようたしなめられてしまった。

 結局、小さい子たちがお昼寝から目覚めるまで孤児院に長居させてもらった。
「次は悪役令嬢のドレスを持ってくるわね。男の子たちにはボールを用意してくるわ。待っていてちょうだい。ではごきげんよう!」
 悪役令嬢っぽく片手を腰に当て、もう片方の手で髪をバサっと後ろにはらう。
 子供たちからは拍手と歓声があがり、盛大な見送りを受けながら馬車に乗り込んだ。

 楽しかった。またすぐにでも来よう。
「悪役令嬢も捨てたもんじゃないわね!」
 
 帰りの馬車で上機嫌で笑うわたしを、オスカーが複雑そうな面持ちで見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

処理中です...