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終章
第二節 奥様のことはお忘れになって
しおりを挟む最高位の花魁の証、黒扇を二つ合わせた形の花魁髷は無残なほど崩れ去っていた。
これも最高位の証、豪華な十二本の鼈甲のかんざしも全て抜け落ちている。
「冴子姉さん、お疲れさまでございました・・・」
襷掛けの志保が暖かいタオルを手に駆け寄る。
「さ、さ、お拭いいたしましょう」
「・・・ああ、志保ちゃん・・はあ、はあ・・・・・どうだった?」
「休憩は十分!抜きのカットの撮影に入る。カメラと照明は休みなしだ。急げ!」
監督の檄が飛んだ。
世界四大男優がアドリブで冴子を犯し続けたため、ポルノには絶対不可欠のもの。
アノ部分の結合映像が充分には撮れていないのだ。
編集時にインサートする<抜きのカット>の撮影にこれから入るのである。
「おい、お前。ボ~ッとするな!」
助監督がレナを睨みつけた。
「あ、申し訳ありません」
襷掛けのレナが袂からガーゼを取り出し、荒い息の女帝に近寄る。
「ん?バカ野郎!髪や乳はどうでもいい。そこが映る訳がないだろう。女王さまの
肝心要のところだけ拭けばいい。バカ野郎!!」
「申し訳ございません」
・・・・ツ、ツ・・・・ペタ、ペタ・・・・ツウ~・・・・
レナが拭う女帝のアノ部分から剛の眼は離れない。
「・・・あ、ありがとう。レナさん。それくらいで大丈夫よ」
「じゃあ冴子、オランダ公使の『吊り橋』からいくぞ。尻の下にカメラとマイクを
突っ込むから、腰をしっかり持ち上げてくれ」
「はい」
・・・・ヌチュッ・・・ヌチュ、ヌチュウ~・・・・
「よ~し、オーケーだ。え~と・・・ああ、イギリス公使は『達磨返し』だったな。
・・・・・・あ、この馬鹿野郎!!縛りは助監督の仕事だ。早く縛れ!!」
「すいません」
「・・・バカ野郎‼赤だ、赤だ。バタフライの腰紐は赤だったろうが。桃色の紐で
縛るな。本番をしっかり見ていなかったな。バカ野郎!貴様は一生、助監督だ」
監督の怒鳴り声が効いたのか?フランス公使役とアメリカ公使役との抜きの撮影は
順調に進んでいった。
わずか三十分で再び、北条冴子は四人の男優の熱く白い間欠泉を噴出させたのだ。
★ ★ ★ ★
「やあ、お疲れ、お疲れ。スタッフも見学の方も大拍手だ。冴ちゃん」
拍手喝采のの中で、剛はただただ北条冴子を見詰めるだけ。
壺中庵淫斎とメフィストフェレス社長は剛を見詰めるだけ。
「・・・はあ、はあ・・・お・・粗末さまでございました・・はあ、はあ」
「お疲れでついでに、もう一仕事お願いする。神様、仏様、冴子様」
「ええ~!!」
「騙して、台本と違う凌辱モノにしたうえ、まだお願いするのは申し訳ないけど」
「それはいいのよ。凌辱されると判っているよりも、いきなり襲われる方が迫力が
あるもの。きっと今回の作品は傑作だと思うわ」
「そう。でも只の凌辱ビデオで終わると、俺の監督魂が満たされない」
「それで?」
「マダム・バタフライは誇り高い最高位の花魁だから、いくら公使閣下とはいえ、
毛唐への肉の貢ぎ物されたのだから、深い悲しみに落ちたと思う」
「きっと、そうよね」
「そう、そう。全てが終わり、ふと気が付くと花魁髷はグシャグシャ、絢爛豪華な
花魁衣装も帯は全て解かれて、毛唐どもの獣じみた匂いがプンプン匂い、白いものが
あちこちで生乾き・・・辛いよねえ・・・・」
「そうねえ・・・・冴子も悲しい気分になってきたわ・・・」
「そこで、悲しみに沈むマダム・バタフライの姿でラストシーンを飾りたいんだ。
娼館はすでに闇に閉ざされているが、荒れ狂った雷鳴も嘘のように過ぎ去っていて、
着乱れた花魁バタフライを青白く浮き上がらせているという感じ。まあ深夜に満月が
中天で輝くというのは天文学的にはあり得ないけどね。そこはげいじゅ作品だから」
「いいわね。お受けいたします」
「よっしゃ、照明さん、芸術的なライティングを頼むよ。冴子女王さまの情が濃い
そうな黒々した逆巻きが、月光で仄かに浮き上がるという按配でね」
「月明かりが脱げ落ちている花魁衣装も青白く照らすのもどうかしら?」
「いいね、いいね。それと冴ちゃん、昔の花魁は秘部をさらすことよりも、乳房を
さらすことが恥ずかしかったらしい。白いものだらけの桃色襦袢で恥ずかしそうに、
オッパイは隠して頂戴。乳首が見えるか、見えないかのギリギリのせんだよ」
「判りました」
「よっしゃ!ラストシーンにいこう!!」
「待った、待った」
「ええ、気が変わったの?」
「せっかくだから、こういう具合にしたらどうかしら?悲しみに沈むバタフライの
脳裏に浮ぶのは恋しい色男。優しく抱いて慰めてもらいたい・・・・でも、ワチキは
もう憎き毛唐に汚されたカラダ。合わせる顔がない。死んでしまいたい。でも死ぬは
怖い・・・・お月さま、ワチキはどうすればいいんでござんしょう・・・というので
どうかしらねえ?」
「いいね、よっしゃ。ではラストシーンに参ろうではないか」
「待って、待って」
「は~あ?まだ何かあるの?冴ちゃん」
「ここは真に迫る演技をしたいの」
「それで?」
「マダム・バタフライの目線の先に色男が立っていて欲しいのよ。見学の若旦那に
お願いしてくれないかしら?」
「・・・・・・ええ・・・僕はAV出演はどうも・・・・・」
「オホホホ・・・色男が実際その場にいたら漫画でございますわいなあ~。幻想の
シーンでございますわい。カメラの後からバタフライを見詰めていてくだしゃんせ。
ワチキも若旦那を瞬きもせず見詰め続けますから」
冴子と剛は、じっと黙って十分以上も見詰めあった。
互いに実の母、実の息子であることは知る由も無く。
妄想が黒雲のように湧き上がり剛は呆然としていた。
瞬きもしない冴子の眼からひとしずく涙がこぼれる。
冴子と剛が超えてはならない一線を越えてしまう時が刻一刻と近づいていく。
「冴子姉さん、セットの片付けに少しお時間が掛かりますので、若旦那と御一緒に
『極楽の湯』で汗をお流しになったら?」
冴子と剛が実の母と子だとは、志保もレナも勿論知らない。
壺中庵淫斎からは、頭の固いAI青年をポルノの女帝に引き合わせ、その脳味噌を
ほぐしてやることにしたから、手伝いを頼むと言われていただけ。
「そうね。犬畜生どもの匂いが臭いと若旦那に失礼ですものね」
北条冴子はポルノの女帝である。
恩ある淫斎先生から天才坊やを柔らかくしてくれと頼まれたことは、柔らかいのを
硬くしてあげて、女の味をたっぷり味合わせてあげることだと理解していた。
肉の繋がりをする男優だけでなくスタッフの前でも丸裸になることは平気の平左の
冴子が、恥じ入るように恥部を片手で押さえ、剛の手を引き湯けむりへと向かう。
「ワチキは汚れた身をあらいながしますので若旦那、先にお湯に浸かりなさいませ」
尻を剛に向け、四人分の白い間欠泉の名残りがまだ溜まっているところを清める。
洗い髪を束ねて左肩へと流し、お湯に浸かった剛へと向かう。
「雷様は遠くへ行ったけど、雲はまだ走るように流れているわね・・・」
「・・・そうでうね」
「あら?遠くの方ではまだ稲妻が光っている」
「そうですね」
「あの方角だと東京あたりがやられているのかも?」
「そうですね」
「ふふ・・・・タケシ・・・・」
「え?」
「御免ね。離れ離れになった息子と偶然だけど同じ名前だから、そう呼んでみたく
なったの。御免なさいね」
「かまいません。僕も冴子さんが他人では無いようなきがしてきましたよ」
「ふふ、嬉しいわ・・・・でも、まるで近親相姦みたいでゾクゾクしてきたわ」
「え?あ、あの、淫斎さんの本で知りましたが息子さんは秋田の御本家で?」
「え?あ、そ、そうなの・・・・・『やり過ぎかしら?』の本を出したものだから
親戚中が御機嫌斜めで、今は会わせてもらえないの・・・・」
「・・・お気の毒ですね。冴子さんも息子さんも・・・・」
「え?ええ・・・・若旦那は裕福なご家庭で育って、一流大学を御卒業なさって、
よく冴子には判らないけど難しいご研究をされていて羨ましいしいわ」
「え、実は僕だって・・・」
「いいのよ、いいのよ。そんなに御謙遜をしなくても・・・・ねえ、志保ちゃん、
『極楽の湯』をもっと楽しみたいから、お湯の中で差しつ差されと行きたいわね」
★ ★ ★ ★
ポルノの女帝は壺中庵淫斎に頼まれていた、坊やの教育にボチボチ取り掛かる。
教育の意味するものは、冴子と淫斎では大幅に異なるのだが・・・・。
「・・・・もう、タケシを呼び戻して、それは君の母親だと教えてやらないと、
行くところまで行ってしまうかもしれんぞ!」
メフィストフェレス社長が壺中庵淫斎の腕をギュッと掴んだ。
お酒の用意をしていた志保は、二人が実は母と子だと初めて知り、手にしていた
銚子を落とし、呆然としている。
「申し上げていたでしょう。もう賽はなげられたと」
「・・・この湯けむりに潜んでいる妖魔の正体は社長だと、冗談半分で言ったが
本当のようだな・・・・」
「妖魔の半分は僕かもしれませんが、もう半分は淫斎先生かもしれませんぜ」
「・・・・・・・・」
「双身歓喜天を見詰める淫斎先生の眼が妖しく光っていたのを僕は見落としては
いませんよ。二十五年間も赤の他人として暮らしてきた母と子が相姦地獄に落ちて
いくところを目の前で見るチャンスなどはまずはありませんからね。先生が敬愛を
しているフォークナーの『サンクュチャリ』を凌ぐ名作を、冥途の土産に書こうと
思っているのではないですか・・・・」
「じゃからといって、冴子とタケシを実際に地獄の湯に突き落とすのは違うじゃ
ろうが・・・・お主は何でそこまでのことをしようとするんじゃ?タケシどころか
お主の身の破滅を招くことにも成り兼ねんのに・・・・」
「タケシが唯の天才止まりなら、世界を引っ繰り返すほどのものは創れません。
AI世界の魔王になってもらわないと・・・」
「純真そのもののタケシは魔王にはなれんぞ!」
「これも申し上げていたでしょう。タケシがオイディプス王のように盲目の狂人
になると、僕はタケシの杖となり、共に荒野をさ迷うまでのこと」
★ ★ ★ ★
レナは妖魔の巫女にでもなったのか?
呆然としたままの志保に代わり、湯けむりの向こうに届ける酒の燗をしていた。
襷掛けの着物姿のまま『極楽の湯』に入り、酒を乗せたタライ舟を押していく。
「・・・・ああ、レナちゃん。相変わらず気が利くわね。お銚子に二本に、盃は
ひとつなんて。さあ、若旦那。まずは一杯いたしましょう・・・」
ひとつ盃で母と子が酒を酌み交わす。
北条冴子の片手は、もう剛の股間に伸びていた。
我が子だとは知らず。
「・・・・ふふ、若旦那の坊ちゃま、すっかりお元気ね。たくさんお溜めになって
いるのかしら?彼女はいるの?そうだと昨夜当たりも、彼女とお勉強していたかも」
「いえ、彼女はいません。妻ならいるけど」
「え?」
「・・・僕が十八歳で、美久が十四歳の時・・・あ、妻の名が美久なんです。籍を
入れるのは美久が海外留学から帰国してからですけど」
「じゃあ、お淋しいですわね・・・奥様は何の勉強で海外なの?」
「ヘアデザインです。今はスペインのバルセロナにいます」
「羨ましいわね。新進気鋭の科学者とヘアデザイナーのカップルなんて」
「あの、実は美久も僕と同じで・・・・」
「駄目。今日は冴子とお勉強よ。奥様のことはお忘れになって」
剛は二十五歳の健康な男児だ。
しかも、三日と開けず愛を交わしていた美久の旅立ちから既に三ヵ月以上だ。
しかも、一緒に湯に浸かっているのは、連日深夜まで『AI冴子』に改造して
いたポルノの女帝だ。
湯けむりの向こうで、母と子がどんなことを始めたのか?
二人の姿は岩陰にあるので壺中庵淫斎とメフィストフェレス社長には見えない。
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