同窓会〜好きだった人と再会した春〜

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同窓会 一章〜好きだった人と再会した春〜

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 私の名前は、黒川 恵美子(クロカワ エミコ)。
 学生時代のあだ名は『クロ子』。
 良く『黒衣に徹する』とか言う様に、私もそういう黒衣タイプ。
 どちらかと言うと、華やかな皆を影で支えるめちゃくちゃ平凡で地味な女。
 表立って行動出来ないし、注目を浴びるのも恥ずかしい。
 歌舞伎の黒衣の様に、黒い前垂れをして皆のお手伝いをする、そういう『産まれながらの脇役』だ。
 顔も頭も体型も。
 美人でも頭脳明晰でも美ボディでもない。
 まぁ、地味でイモなぽっちゃり喪女、それが私。

 ……だった。高校の頃は。



~~~


 今日は同窓会。
 高校卒業から五年。
 地元駅前の飲み屋を貸しきっている。

 高卒就職組も、大学進学組も、出てくる言葉は仕事の話や恋愛の話ばかり。
 学生時代、ほとんど会話したことのない男子が、綺麗になったね、なんて声を掛けてくれる。
 少し大人になったせいか、私も、君もかっこよくなったね、なんて言葉を返している。

 社会人の嗜みですから…。

 高校の時から体重が少し減ったのと、成長と共に顔がちょっと変わった気がする。
 スッピンでイモい高校時代よりは、化粧のお陰で綺麗になったとは思う。イモいのは変わらないけど。

 私は友達と話ながら、会場を見回しながら、春田 駿(ハルタ シュン)くんをさがしている。

 席が隣になったとき、些細な言葉を交わしただけの関係。
 当時から、連絡先も知らないし、一緒に遊んだ事も無かったけれど、実はずっと好きだった。
 仲良くなりたいな~って思っていたけれど、結局三年間片想いのままだったし、教室の中では話せたけれど、帰宅部の春くんに対して、私は部活が忙しくて、中々声を掛けることが出来なかった。

 だから。
 今、こうして。
 ほとんど女子と話さなかった男子が、普通に話し掛けてきたり、女子グループで固まっていた子が、クラスメイトだった男子に沢山話し掛けている。
 皆社会人になって対人スキルがあがっているんだな。
 よし!このノリに乗じて、私も春くんに話し掛けたい!

 ……と、思っているんだけど当の本人がいない。
(成長と共に顔つきが変わって、見つけられないだけ?)
 私は心の中で『うーん』と首を捻る。

 高校の時から、春田くんは女子にモテていた。
 春田 駿くん、皆からは『シュンシュン』とか『シュン』って呼ばれていた。私は恥ずかしいのと、勇気が出なくて『春田くん』って呼んでいた。
 春田くんは、クールな美少年だった。でも、時折ボソッと呟く言葉が面白くて良く笑いを取っていた。
 そして、さりげない優しさに私は救われて――恋に落ちた。

(春田くんはカッコよくて面白くて優しい人だから、きっと彼女が居るだろうけど……)
 『シュン』って呼んだり、告白したり。
 出せなかった勇気が私の胸の中で燻っていて、何となく男の人を好きになれないままこんな年になってしまった。

 彼氏居ない歴=年齢っていう喪女。

 会社でもバカにされたり、逆に男の人に「その年齢で処女とかヤバくね?捨てさせてやるからホテル行こうぜブス!」なんて襲われかける始末…。

 処女ってそんなに駄目なのかな。
 お仕事頑張ってても「処女の癖にww」とか「ブスやるじゃんwww」とか言われる。 
 恥ずかしいやら悔しいやら。

 でも抵抗すると、「お前がブスだから、仕方なくサービスしてやってるのに、偉そうに抵抗すんなよ」とか言われると、なんか、もう、心が萎える。
 「股間に蜘蛛の巣張っちゃうよ~」って男の先輩にお尻触られた時も、心で泣きながら笑顔でやんわりと返すしか出来なかった。

 会社の嫌な先輩のせいで、私は『処女』にコンプレックスを募らせている。

 でも、好きでもない人に自分の裸なんて見られたくない!
 そもそも、私の好きな人が、私の裸で興奮するとは限らないし……。
 ましてや両思い?
 そんな奇跡なんて起こるわけ無い!
 
(私を好きになってくれる異性なんて……)


 !!

 ああ、ダメ!
 またネガティブになっちゃった。
 ダメダメ!
 卑屈で駄目な自分といい加減サヨナラしたい!


 とりあえず、春田くんに会いたい!
 それで、高校の時、ずっと片想いだったって言うんだ!
 バレンタインのチョコも、義理チョコ風に安いチ■ルの詰め合わせだったんだけど、あれ、実は手作りでチ■ルチョコの再現をした偽チ■ルだったんだよって言いたい!
 本命チョコだったけど、恥ずかしくて面白義理チョコ偽装だったんだよって言いたい!
 卒業式の時も、本当はネクタイが欲しかったって言いたい!

 あの日、声をかける前に、既にネクタイが首に無くてショックを受けたのが一つ。
 友達との会話を盗み聞きした結果、本命用に前もって外しているって知った事が二つ。


 私はもう、何も言えなかった。

 好きな気持ちを伝える事自体も、春田くんにとっては迷惑なんじゃないかって思えた。

 私は勇気を出さないまま、静かに失恋したのだった。

 だいたい、私なんて春田くんからすれば、クラスメイトの一人ってだけだし、特に仲が良いわけでもない。
 席が近いときに話したり、廊下のロッカーで立ち話をする程度。
 彼にとっては、ただの下らない世間話だったんだろうけど、私は凄くドキドキして、嬉しくて、春田くんの言葉を何度も何度も思い出していた。

 春田くんの言葉が面白くて楽しくて、たまに心にグサリと刺さって。嫌な感じじゃなくて、『こんな風に考えたことなかった!』みたいな、そんな感じ。
 自分にはない視点が、凄く私の世界を拡げてくれた様に思う。

 見た目もカッコいいけど、春くんの放つ言葉が何より大好きだった。
 静かに失恋してもなお、会社に入った今だって、高校の時のあの日々が鮮明に思い出される。
 好きな気持ちは今でも色褪せない。


 だから、今日伝えよう。
 それで、潔くフラれたら、きっと新しい恋が出来る。
 恋が出来たら、上手くいけば処女を捨てる事が出来るかもしれない。
 恋をしても、フラれ続けてずっとこのまま処女かもしれない。

 だけど、今よりは少し、前に進めるはず。

 快楽なんて、オナニーとか大人の玩具でどうにでもなる。

 でも胸のトキメキや恋心だけは、自分一人じゃどうにも出来ない。

 言えなかった言葉が、喉に詰まったまま。
 まるで喉に刺さった魚の骨のように、いつまでも鈍い痛みを放ちながら、私の時を止めている。

 (春田くんどこだろ…)

 もしかして、凄く見た目が変わっちゃったとか??

 それとも、今日、来ない…とか。


 私は席を立ちあがり、トイレに行くふりをして辺りを見回す。

 春田くんの姿はない。

(ああ、今日きっと不参加なんだ…)

 私は突然暗い気持ちになった。

 長い片思いの決着を付けようとやってきたのに、まるで不戦敗の気分。

 はぁ、と息を付いたところで、幹事のの性と肩がぶつかった。

「あっ」
「わり」

 よろけた私の肩を掴んで支えてくれた。

「ごめん、大丈夫?」
「あ、あはは!私もごめん!よそ見してたー」

 へらっと笑う私を、幹事の男性が下から舐める様にジロジロと見つめてくる。
 えーと、だ、誰だっけ……?

「??」
 なんだか蛇に睨まれたカエルのように、私は居心地の悪さを感じながら首を傾げた。

「!!……クロ子、クロ子か!お前、高校のころと比べると、女っぽくなったなー!」
「はぁ?」
「いや、綺麗になったな!化粧ってやっぱすげぇなぁ!あと痩せた?」
 あ、わかった。彼は幹事の寛治くんだ。記憶のピースがカチリとハマる。
 私をクロ子と呼び、ダイエットを勧めて弄ってくる……。悪気がないから質が悪い。

「はぁ…、まぁ、ありがとう。寛治君もイケメンになったねー!」

 私は社交辞令に答えながら、フッと思い出した。
 あれ?寛治君と春田くんって仲が良かった気がする……!

 正直、春田君しか目で追ってなかったから記憶にあまりないけど。

「へへっ、照れるなー」
 照れくさそうに頭を掻く姿は微笑ましくみえて、私もつられて微笑んだ。
 いかにも陽キャな寛治くんが苦手だったけど、お互い社会人だと少しは話せそう。
 春田くんが、同窓会に来るか聞いてみようかな……と、私が、勇気を振り絞って聞こうとしたその時。
「アッ!」
 と、突然、何かを思い出したように寛治君は短く叫んだ。

「いっけね!俺、シュンを迎えに行くところだったわ!」

「えっ」

 突然の名前に私の胸がどきりと大きく跳ねた。
 今、『シュン』って言った?
 ねぇ、寛治君、シュンって言った??


「あ、あの、誰を迎えに・・・?」
「春田駿だよ!高校の時クラスメイトだったろ?覚えてない?」
「そ、そんなわけない!お、覚えてるよ!」

 忘れるわけないじゃん!好きな人なのに!!

 焦る私とは裏腹に、寛治君はにこっと笑うと一人納得したように頷いた。

「ははっ、良かった。今、駅前についたらしくて。店わからないから迎えに行くところ。クロ子も一緒に行く?」

「えっ、あっ、う、ううん!ちょっとおトイレ行きたいから…」

 私は咄嗟に嘘をついた。
 急に会えるとなったら、心臓が口から飛び出しそう。
 ドキドキがヤバイ!!
 わー!どうしようどうしよう!!
 化粧崩れてるかも!!
 ヤバイヤバイヤバイ!!!

 私の心の内を知ってか知らずか、幹事君は『そっか、じゃあ後で』と言い残すと、一人で迎えに行った。

 私は手荷物を持ってトイレに駆け込むと、小水を済まして鏡の前に立った。
 嬉しすぎて、バカな犬みたいに嬉ションしちゃいけないからね…。

 (うっ、化粧浮いてる)

 私はカァッと顔を赤くすると、鞄の中から化粧道具を取り出して顔面を直し始めた。

 (う、うおおおお!!綺麗にしなきゃ!綺麗にしなきゃ!)

 あぶらとり紙で表面を拭いながら、いっそ顔を洗って一からやり直したい気持ちになった。
 でも、長くトイレに籠るのも恥ずかしいし……。

 私は、手早く化粧を直していたその時。

 ~♪

 着信音がトイレ内に響いた。

 私は慌ててスマホの通話ボタンを押す。

 会社の後輩からだった。

『先輩すみません!!大変なんです!大口顧客様が、先輩を名指しで呼んでて、凄く怒ってるんです!私たちじゃ手に追えないんです!すぐに会社に戻って来てください!』

 …ああ、取るんじゃなかった。

 どうしようもなく後悔する電話内容だったけど、半泣きの後輩の声に、私は手早く荷物を纏めてトイレを飛び出す。

 (もぉぉぉーー!!やだーーーー!!!)


「ごめん!会社から呼び出しあって、もう帰らなきゃならないの!悪いんだけど、後で連絡するね!」

 私は仲の良い友達に声を掛けて店内を飛び出した 。

 会費は最初に徴収されてるから良いとして、何より、これから春田くんに会えるのに、また何も言えないまま逃げ出すみたいで嫌だった。

 (せめて、春田くんの連絡先だけでも友達の友子ちゃんに教えて貰お…。きっとグループLINEとか作るだろうし…)

 私は店を出てタクシーを捕まえると、そのまま会社へと戻っていった。

 その時、少しでも後ろを振り返る余裕があれば、私と入れ違いに店内へと入っていく春田くんの姿が見えたのに、私は全く気づいていなかった。





続く

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