同窓会〜好きだった人と再会した春〜

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同窓会 ニ章〜好きだった人とカップルになった春〜

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「春田くん!ほんっとーーーーーーに、ごめんなさいっ!!!!!」

 賑わう饂飩屋さんの店内に、私の声が一瞬響き、直ぐに店内の賑わいで掻き消された。

「アハハ、いいってば。黒川さん顔を上げて」

「いや、もう本当に申し訳なくって……ごめんなさいっっ!!」

 私は、テーブルに額を擦り付けるように頭を下げながらひたすら謝った。

 願わくば土下座したいくらいだった。

 そんな私とは対称的に、春田くんは鼻唄でも歌いそう機嫌の良さでニコニコと笑っている。

「……いやー、むしろ記念的な?このまま残しておこうかな?僕は寧ろ嬉しい♡」

「だだだだダメっ!クリーニングに出します!出させて!出す!……からっ!だから、ちょっと渡して……!」

 私は泣きそうな顔で春田くんへと手を伸ばした。

「あはは、なぁに?握手?」

 春田くんはヘラッと笑いながら私の差し出した手に自分の手を重ねた。
 
 違う!
 そうじゃない!

 私の意図を完全にわかった上で、あえてはぐらかして笑う春田くん。うう、可愛い格好いいけどぉ、でも……。

 手を握ろうとする春くんから逃れるように、私は慌てて手を引っ込めると、両手を膝の上に戻してペコペコと頭を下げた。

「春田くんのシャツをクリーニングに出させて下さいいい!」

 事の起こりはこう。


 うっかり『私、処女だから……!』とか不用意な発言をし、恥ずかしくて顔を隠すように春田くんの腕にしがみついてしまった。
 穴があったら埋まりたいような気持ちだった。
 その私の顔を、春田くんの腕に押しつけてしまった。

 そう、顔を春田くんの腕、つまり白のコットンシャツに押し付けてしまったのだ!


 初めてのデートと意気込んで、塗りたくった私の化粧顔が、春田くんのシャツで魚拓、いや顔拓になった。

 つまり!

 春くんの白いコットンシャツに、私の口紅がべっとりと……。
 コントみたいに私のキスマークがべっとりと……。
 よりによって白いシャツに……。

 バカ、私のバカ。本当なバカ。

 付き合った経験がないから、こんな失敗して、春田くんに迷惑掛けて……。


 ああ、もうこんなダメな女、春田くんに付き合って貰う価値なんてない。

 春田くんの服を汚しちゃうなんて。

 春田くんは優しいから、さっきからずっと笑っているけど、本心では呆れているかも知れない。

 デートなんて、これが最初で最後かもしれない。

 う、泣きそう。

 そして、大人としても恥ずかしいドジ。

 あーーーー、先輩の声が聞こえてくる。

『バーカバーカ!お前のきったねぇ化粧をつけんじゃねーよ!ブスの癖に塗りたくったって一緒だろ?!バーカ!だからお前処女なんだよ!ブス!』

 ああ、本当、ブスだぁ……。化粧なんかしなきゃ良かった、ブスの癖に、処女の癖に……。


「あの、本当に、弁償させてください…」

 私はテーブルの上に三つ指をつくと、深々と頭を下げた。

「え?やだ」
「だって腕に魚拓が!」
「は?魚拓??」
「私の顔拓?みたいな?……口紅がベットリがっつり付いて……」

 そう言い掛けた時、それまでニコニコと微笑んでいた春くんが、突然爆笑し始めた。
 ヒーヒー笑いながらテーブルを叩いている。

「あはは!あーっはっはっはっ!顔拓!ヤバイ、ウケる…あはははは!」

 ひとしきり笑うと、春たくんは瞳に滲んだ涙を指で拭いながら、私に向かって頷いた。

「うん、黒川さんの顔拓だからね、このままで良い。いや、絶対これじゃなきゃヤダ。黒川さん面白い事を言うね」
「いや、ダメでしょ、口紅付けてたらダメでしょ!クリーニングに出させてよぉっ」

 私はそう言って春田くんの腕を掴んだ。

「あんっ♡僕を脱がせてどうするつもりー?」
「!?ち、ちがっ」

 わざとらしく甘い声をあげる春田くんに、私は真っ赤になりながら慌てて手を引っ込めた。何度も繰り返した攻防。

 春田くんったら、あざとい変な声を出して!!
 そんなアイドルみたいに可愛い見た目で、可愛い声まで出されたら、女の子の出番がないじゃん!違う意味でドキドキしちゃったじゃん!!
 もう!私の事をからかって!酷い!

 (……でも)

 私は、フッと冷静になって考えた。

 確かに春田くんの言う通りだ。
 服を汚してしまったからといって、すぐに脱がそうなんてまるで追い剥ぎみたい。
 第一、シャツの下が人前に見せる格好ではないかも知れない。Tシャツならいいけど、あからさまな下着とか、いきなり素肌とかじゃ困るし……。


「…クリーニングも弁償も駄目?」
「ダメダメ。僕、これで良いよ。黒川さんのキスマーク入りとか、凄いレアじゃん」
「レアって…。モノは言い様でしょ!ダメだってば!」
「えー?持ち主が良いって言ってるのに?じゃあ僕も黒川さんにキスマークつけちゃうって言うのは?目には目を歯には歯をキスマークにはキスマークを。それでおあいこにしよ?」
「…えっ」

 私は、春くんの言葉に面喰らって言葉を失うも、トートバッグの中から化粧ポーチを取り出して口紅をさがす。

 春田くんが口紅を塗って私の服にキスマークをつけるとか…、な、なんかドキドキしちゃう。
「あの、じゃあ、はい、どうぞ……」
 おずおずと口紅を差し出すと、再び春田くんはツボって笑いだした。

「アハハハ!黒川さん!可愛い!可愛すぎる!」
「???」
「ん、ふふっ!無垢な黒川さん可愛い」
「え、なに?なに?どういう事?」
 本気で首を傾げた私を、春田くんは瞳を細めて愛しげに見つめて優しく微笑んだ。
「僕が黒川さんにつけるキスマークは、口紅は使わなくて口で吸うやつだよ」

「??」

「ふふ、黒川さんの腕に僕が吸い付くねってこと!」

「ひぇっ…!!」

 春くんの言っている意味を理解して、私は真っ赤になってのけぞった。
 あっ、キスマークって、そういう事、あ、あ、あ。
 え、えっちだ!!!!!

 私が真っ赤になって悶絶していたその時。

「お待たせ致しました。カレーうどんのお客様」
「あっ、僕です」
「こちらは、ごぼう天うどんでございます。ごゆっくりどうぞ」

 女性店員はそう言って私の方にごぼう天うどんを置くと、一礼して厨房へと戻っていった。

「黒川さん、とりあえず食べちゃお」
「うん、でも、春田くん、カレーうどんって……」

 白いシャツなのに大丈夫?と、言い掛けた私に、春田くんは笑った。

「無謀?絶対カレーが跳ねそうだよね。うん、多分きっと汚しちゃうと思う。だから、黒川さんの事があってもなくても、シャツは汚れる運命だからさ。黒川さん、シャツに関してはそんなに気にしなくて良いよ?」

「春田くん…」

 シャツを汚した私に気を使って、春田くんはわざとこの御店に入ったんだ。
 カレーうどんなんて白いシャツの天敵みたいなメニューのために。
 私に気を使わせないように、わざと汚してしまうようなメニューを……。

「暖かい内に食べちゃお。ね?黒川さん」
「うん……!」

 なんか、春田くんは本当に優しい人だなぁってしみじみ実感する。
 もしかしたら私の考え過ぎかもしれない。
 だけど、やっぱり『優しい』って感じてしまう。
 クリーニングも弁償も受け入れて貰えないなら……。

(あ、そうだ!)

「ねぇ、春田くん、食べ終わったら服を買いに行きたいな」
「え?」
「私、春田くんに服をプレゼントしたい」
「えっ?!い、いいよ!そんな……」
「私、初めての彼氏に服をプレゼントするのが夢だったの!」

「ええっ?!」

 驚く春田くん。
 はい、勿論、全て嘘です。

 こういう理屈で攻めれば、春田くんは断りにくいはず!

 春くんはひとしきり驚いた後、顎に手を充てて首を傾げながら、小さく『えーーー、えーーー?』って呟いてる。

 きっと、私の嘘だって気付いてる。
 だけど、これを押せば断れないはず。

「一緒に買いに行こ?ね!春田くん♡」
「うーん、……ん、わかった。プレゼントしてもらおうかな」

 私にしては珍しく強気で押すと、春くんは観念したみたいに苦笑いを浮かべて頷いた。

「食べよっか」
「うん、いただきますっ!」
「頂きます」
 二人で箸を取り胸で合掌する。

 初めてのデートのうどんは美味しかった。



続く
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