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第100話 連れ去り

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美桜は教室の床に倒れた出雲に駆け寄ろうとするも、弦十郎によって右手を掴まれているので駆け寄ることが出来なかった。

「出雲が! 出雲が死んじゃう! 行かせて!」

美桜が叫ぶも、弦十郎はあれが出雲という男かと言って美桜の手を掴み続けた。

「あの男がお前が拾ったという男か?」

美桜にそう聞くと、美桜はそうよと答えた。

「同い年で、好みだったのか?」

弦十郎に聞かれた美桜は、そうかもねと返した。

「母親と同じで肝心なところで濁すところが似ているな」

弦十郎がそう言うと、美桜に行くぞと言い引っ張って教室を出ていく。美桜は話してと叫びながら抵抗をするも、弦十郎が美桜の頬を強く叩いて静かにさせた。

「静かにしていろ。 お前の命で日本が救われるのだ。 黙って命を差し出せ」

弦十郎は美桜にそう言うと、美桜を担いで学校を出ていった。弦十郎と美桜が学校を出て行ったことで、学校中にいた黒服の集団も撤収をした。学校には弦十郎達が去っても悲鳴や恐怖が渦巻き、教師達が忙しなく事態の収拾に当たっていた。

出雲達も弦十郎が帰ってから、立ち上がれない女生徒や怯えている男子生徒が多くいた。それに倒れたままの青葉に女生徒が数人声をかけていた。

「先生! 先生大丈夫!? しっかりして!」

身体を揺らしながら青葉に声をかけ続ける女生徒達。青葉はその声を聞いて静かに眼を開けた。頭部や腰が痛いのか手で何度も擦っていた。

「あっ! 皆大丈夫!? 怪我してない!?」

青葉は痛む身体に鞭を打って女生徒達に支えられながら立ち上がった。そして教室内を見渡すと、泣いている生徒や震えている生徒を見て、青葉は一人ずつ大丈夫だからと抱きしめていた。

蓮や琴音に椿も震えていたが、琴音と椿には蓮が話しかけて震えを収めていた。そして、蓮達は倒れている出雲に話しかけたり回復魔法が使える生徒を呼んでいた。

「出雲が血を吐いているんだ! 助けてくれ!」

回復魔法が使える女生徒が出雲のもとに駆けよって回復魔法をかけ始めた。

「内臓が傷ついてる! 早く病院に連れて行かないと!」

回復魔法だけでは治療が出来ないと判断をしたのか、女生徒が病院に連れて行かないとと叫んだ。その声を聞いた蓮は、青葉に駆け寄って出雲を病院にと話しかけた。

「えっ!? 黒羽君が何でそんな重症なの!?」

青葉は驚きながら出雲に駆け寄ると、血を吐いて倒れている姿を見て身体を揺さぶっていた。

「連れて行かれそうになった天神さんを助けようと黒羽君が飛び掛かって、黒服の男に蹴られたんです!」

回復をしていた女生徒が青葉に説明をする。その際に蓮が、美桜の父親が首謀者なようですと付け加えた。美桜の父親が首謀者だと聞かされた青葉は、貴族でしかも上位の位の人なのと頭を抱えていた。

「貴族が犯罪者……絶対逮捕とかならないし、捜査されるのかしら……」

青葉がそんなことを呟いていると、蓮が救急車をと青葉を肩を掴んで言った。すると青葉はそうだったわねと言い、スマートフォンを取り出して救急車を呼んだ。

「病院は私の祖父がいる病院にお願いします!」

琴音が青葉に言うと、分かったわと青葉が返事をした。

「あ、救急車をお願いします! 場所は国立中央魔法学校にお願いします!」

そう言うと、電話の向こうの救急隊員がすぐに向かいますという声が蓮達に聞こえていた。蓮達は出雲がこれで助かると胸を撫で下ろしていた。

「先生! 何で貴族の人が襲ってきたんですか!?」

一人の女生徒が青葉に聞いていた。しかし、青葉には情報がなく気絶をしていたので答えることが出来なかった。青葉が分からないのごめんねと言っていると、校内放送で校長が全教師を大会議室に呼ぶ放送であった。

「多分さっきの侵入者についてかな? ちょっと先生行ってくるから、みんなゆっくりしててよ!」

青葉は生徒達全員に言うと、走って教室を出て行った。教室に残された生徒達は、先ほどの恐怖が未だに抜けきらずに喋りもせずに俯いている生徒が多かった。

青葉が教室を出てから数分後に、救急隊の四名が教室に急いで入ってきた。蓮はその姿を見ると、こっちですと声を上げる。

「この男です! 血を吐いています!」

そのことを言うと、ストレッチャーを組み立てて出雲を乗せて教室を出て行った。
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