魔法の世界で新たな人生を～捨てられた人生のやり直し～

第108話 天神弦十郎

出雲は部屋に戻ってテレビの電源を入れた。そこでは臨時ニュースとしてリポーターの若い男性が黒いマントを羽織っている集団の姿をカメラで映し、町を破壊している姿を全国放送していた。

「この集団を美桜の父親が仕向けているのか……町のどこかに美桜はいるのかな？」

出雲がテレビを見て呟いていると、出雲の部屋に雫が入ってきた。雫は何をしているのと出雲に話しかけると、出雲がテレビを見てと言った。

「この集団が町を壊しているのですか！？」

その声を聞いた蓮達も出雲の部屋に集まってきた。蓮達は出雲の部屋にあるテレビを凝視して襲われている町を呆然と見ていた。出雲達がテレビ中継を見ていると、弦十郎がゆっくりと中継をしているカメラマンに向かって歩いていた。

「美桜の父親だ！ 何をするつもりなんだ？」

出雲が画面に近づきながらそう呟いていると、弦十郎がテレビカメラの前で止まり、何かを話し始める。

「国民よ！ 聞いているか！ 私は天神家の当主、天神弦十郎である！」

自身の家名と名前を言う弦十郎。その様子を見ていた蓮は、名前を言ったらもしものことがあった時にどうするんだと呟いていた。弦十郎はさらにテレビカメラに向かって話しかけていた。

「貴族はその昔、国の政治の中枢にいた。 しかし現在はその中枢ではなく貴族は国に指示されて動く便利屋とかしている。 私はそれが許せない！ この国を支え、この国のために動くのが貴族のはずなのにその貴族という存在が蔑ろにされている！」

貴族の現在の立ち位置に不満があるようで、それを失くしたいようである。しかしやり方が町の破壊をして自身の言葉を伝えるのでは意味がなく、ただ恐怖を煽るだけである。弦十郎が何をしたいのかが出雲には理解が出来なかった。出雲は蓮に話しかけて、弦十郎はないを言いたいのか聞いた。その問いかけに蓮が、言いたいことは分かると返答した。

「弦十郎さんが言いたいことは、貴族の地位を上げたいってことだね」

蓮がそう言うも、出雲にはあげたい理由が分からなかった。

「今でも十分な地位があるのに、どうして犯罪をしてまで主張するの！？」

出雲が声を荒げて言うと、蓮が貴族のことを話し始めた。

「昔の貴族は今でいう総理大臣の地位に近くて、国の行政に口を出せる立場だったんだ。 しかし今では、領地の運営や領民の意見を聞いて領地の政治をし、国の下部組織の運営や国防を任されているだけ」

出雲は蓮から説明を受けると、貴族は学校での反応や周囲の反応を聞いている限り地位がかなり上なように感じていたので、実際とは違うのかと思っていた。

「椿は貴族なのって学校で驚いていたけど、どうしてだったの？」

突然出雲に話しかけられた椿は、うひゃっという可愛い声を上げて驚いていた。

「きゅ、急に話しかけないでよ！ 私が貴族と聞いて驚いた理由だっけ？ それはね、貴族は私達一般人にとって雲の上の存在というか、家柄や育ちが良くて私達の生活を守ってくれている存在だからよ」

出雲のいた世界と似ている現代の世界だが、多少違う部分の一つがここである。貴族制度が存在し、その貴族が一般人の生活を守っている。ただ弦十郎は支配思想が大きいのか、領地を貰って領民の生活を守るだけでは嫌であっただろう。

出雲達がそう話していると、弦十郎が良く聞けと話していた。出雲達は話すのを止めて、テレビの方に顔を向けた。弦十郎はカメラの前で姿勢を正し、多少乱れた服装を直す。そしてカメラを真っ直ぐ見つめて口を開く。

「貴族による貴族が国の運営をする貴族のための国を再構築する！」

そう弦十郎が叫ぶと、周囲にいる黒いマントを羽織っている集団が雄たけびを上げた。そして、黒いマントを脱ぐとその集団には男女混合であった。その集団を見た蓮は、唖然とした顔をしていた。

「旧貴族や貴族の称号を剥奪された人達ばかりだ！」

蓮が唖然としていると、琴音が剥奪されていれば美桜のお父様に同調するわねと呟いている。

「確かに、もし国を乗っ取ることが出来れば貴族としてもらえるかもしれないが、多分勝った際に殺されるだろうね」

蓮が殺されると言うと、雫がおそらく殺されますねと同意をした。

「弦十郎様の側近や身近な関係者以外の人以外は、この戦いが終わった後に処分されますね。 利用されているとも気がつかずに可哀そうに」

雫が溜息をつきながら可哀そうにと言っていると、弦十郎がこれからの日本のための戦いだと叫んでいた。

「これからの日本のためってどういう意味なんだ！？ 今のままじゃダメなのか！？」

出雲がなんでだよと言う。蓮は出雲の肩を掴んで侵略が水面下で行われているんだと言った。

「こんなに平和な日本なのに！？」

平和という言葉を聞いた蓮は、いま世界の国々は戦争をしているんだと言った。