魔法の世界で新たな人生を～捨てられた人生のやり直し～

第120話 記憶と目覚め

小学生の時の思い出を夢で見ていると、ガラッと風景が変わった。次は中学生時代のようである。中学生になると成長期なのにもかかわらずろくな食べ物を口にしていないのか身体に筋肉が全く付いていないようである。

出雲は震える足に鞭を打って水道水の水を一口飲んだ。出雲は公立の中学校に通っているのだが、中学校二年生に進級すると、親にもう学校に行かなくていいと言われていた。担任教師が何度も家庭訪問に来たが、両親は担任教師を追い返していた。

追い返されることを不審に思った担任教師が児童保護施設に通報をして、その職員と共に何度も来るが。その時でさえも追い返していた。

出雲は何度も助けてと声を上げようとするも、栄養失調によって声を上げることもできず、床に倒れているしかなかった。保護施設の職員と担任教師が帰ると、床に倒れている出雲を踏んでリビングにある椅子に座る。

既に出雲はこの家では物と同じ扱いであり、話しかけられることもなかった。そんな生活が数週間続くと、ある日に両親が一人の五歳の子供を連れてきた。その子供は女の子であり、出雲の眼から見ても顔立ちがハッキリしている可愛い顔をしていた。

肩に髪の先が触れる程度の髪の長さをし、その髪色は茶色がかっている黒髪であった。一見日本人離れをしている顔立ちだが、よく顔を見ると日本人の顔をしている。

「こんな使えない物よりもずっと使える子供を手に入れた！」

父親が高笑いをし、母親は使える年齢になったら金を稼いでもらいましょうと言っている。床に倒れている出雲の横を通ったその女の子は、出雲と両親を見て最悪な家に来てしまったと思っていた。

養子として引き取りに来た際の出雲の両親は、とても優しく、大切にしてくれる印象を受けていたが、実際は欲の塊で実の息子でさえ金儲けの道具に出来なければ虐待をしていたからである。出雲がその女の子が来てからはさらに酷い仕打ちを受けていた。ギャンブルで父親が負けた際には暴力を振るわれたり、週に二度食事を食べられれば良い方であった。

そんな出雲とは違い、養子となった女の子は寿司やオムライスなど出雲が食べたことがない料理を毎日食べていた。ちなみにその女の子の名前は愛奈であると両親の会話から知ることが出来た。

愛奈が来てからさらに月日が流れると、出雲は朝方に起こされた。そして父親に強引に車に乗せられるどこかの町にある河川敷に捨てられた。出雲は嫌だと抵抗をするが、父親は出雲の顔や腹部を殴りつける。

「使えないお前を養う金がもったいなく感じてな。 愛奈もいるしお前はもう用なしだ。 どこかでくたばってくれ」

そう言うと父親は車に乗って家に帰ってしまう。突然の出来事に出雲は呆然とするも、あの地獄のような毎日から抜け出せたとの気持ちもあり、安堵している部分もあった。

「自由になった……けどこれからどうやって生きて行けば……」

出雲はそう呟くととりあえず近場にあった段ボールを見つけて地面に敷いて座った。そこで出雲の夢は終わり、眼が開いた。息を荒くしながら眼を開けた出雲の目の前には美桜の顔があった。出雲は美桜を見ると痛む身体を起こして美桜を抱きしめた。斜めに身体を捻って美桜の上半身だけだが、美桜を抱きしめると不思議と安心感を感じていた。

美桜はいつもと同じではない疲れ切っている顔をし、目元にはクマがあった。自身に付きっきりでいてくれたのだと思うと、扉が開いてそこには雫を含めた蓮達がいた。カットされた果物を持っていた琴音や出雲の替えの服を持っている蓮が驚き、雫は起きている出雲を見て安堵の表情を浮かべていた。

「やっと目が覚めた！ 丸一日寝てやがって！ 心配したぞ！」

蓮が出雲の右肩を軽く叩いて言う。

「美桜と共にずっと心配していたんだから！ 無理しすぎないで！」

琴音がいつもと違う口調で出雲に言うと、出雲はごめんと言った。

「それに美桜以上に心配してた人もう一人いるよ」

そう琴音が言うと、扉の前に椿が立っていた。椿は出雲と目が合うと、一気に走り出して出雲に抱き着いた。出雲は抱き着かれた痛みを我慢し、椿の頭を優しく撫でた。

「心配かけてごめんな。 すぐに帰れなくてごめんな……」

出雲が椿にごめんねと言い、さらに心配してくれてありがとうとも言った。すると椿は号泣してしまった。