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ほんとうの家の主
しおりを挟む――「奥の間」――
第一章 何気ない日常
夕暮れの買い物帰り
井上真理子(いのうえ まりこ)は
スーパーの袋を片手に、小さな住宅街の
細い道を歩いていた。
夫は都心に勤め、子どもは
中学生の一人息子。
どこにでもいる普通の主婦だ。
夕飯の献立を頭の中で組み立てながら
家の角を曲がった時だった。
――見えた。
自分の家の二階の窓から
誰かがじっと外を覗いている。
それは、息子の部屋の窓だ。
けれど、息子はまだ塾に行っているはず。
夫もまだ帰らない。
窓辺に立っていたのは、確かに
「人影」だった。
黒い髪が顔にかかり、輪郭は不鮮明。
だが、その影が視線を下に向け
真理子と目が合った瞬間――
ぞくりと背中を冷たいものが這い上がった。
「……誰?」
思わず声を漏らしたが
人影はすっと後ろに引いて消えた。
ただの見間違い
そう思い込みながらも
真理子の手は震えて買い物袋の中の卵が
カタカタ鳴った。
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