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第9章
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そして今日はついに王立学園の卒業式です。私はショーン様に続く次席として卒業しました。
たった一年でしたが、箱庭から出てきて良かったと思います。
愛する婚約者のショーン様の側にずっと居られて、彼の素晴らしさを再確認出来ましたし、イボンヌ様やヒルマン様のような一生の友にも出逢えましたから。
卒業パーティーで、私はモスグリーン色の美しい光沢のあるドレスを着て、ショーン様と踊りました。
「今日まで助けてくれてありがとう。僕は君にはいつも助けてもらってばかりだな。
ピンクゴールドのウェディングドレスが仕上がったらすぐに結婚式になるけど、これからもずっと僕を助けてください。
そして今度は僕にも全力で君を助けさせて下さい。お願いします」
「うふっ、なんだか変なお願いですね。でも、これからは本当に全力で私を助けてくださいね。
正直なところ、箱入り娘が初めて箱庭から出ていくようなものなので、やはり少し不安ですから」
「まあ実際のところ、君なら心配は要らないとは思うけどね。
なにせ君の所が箱庭なら、うちの領土なんてせいぜいマッチ箱みたいなものだからね」
ショーン様はそう笑いながら、私の身体を大きくクルッと回した後で、
「初めて会った時から、ずっと君のことを愛してる。
離れ離れになっている間はずっと寂しくて、辛かった。だから君とこうして卒業ダンスを踊れるなんて夢のようだよ。
僕のわがままを聞き入れて、僕の側に来てくれてありがとう」
と、満面の笑みを浮かべると、思い切り私を抱きしめたのでした。
✽✽✽✽✽
王立学園の卒業式には、ナタリア様とその婚約者のオスカー様、そしてお二人の取り巻きの方々は参加されていませんでした。
あの方々は半年前に再教育が必要だと陛下に認定されていたのです。
実は『星祭りパーティー』の日の出来事を、ヒルマン様が父親のバッハーマ侯爵にお話になったのだそうです。
すると侯爵様はこのことは看過できないと、大層ご立腹されたそうで、お城に学園長と文科大臣のを呼び出したそうです。
ちなみにバッハーマ侯爵様はこの国の宰相閣下で、文科大臣ソーナット侯爵とはナタリア様のお父上です。
そしてその場にショーン様やイボンヌ様、ヒルマン様と共に私も参考人として召喚されたのですが、何とその場には国王陛下まで居られたので仰天しました。
ショーン様達は入学してからの学園の対応の悪さや、教育環境の悪さを理路整然とお話しました。
しかしそんなことは昔からあることだと、彼らは何処吹く風といった態度をとったので、さすがに私もカチン!ときました。
そこで入学してから書き綴っていたノートを朗読して差し上げました。もちろん実名付きで。
さすがに何度も自分の娘の名前が出てきた文科大臣ソーナット侯爵は、顔面蒼白になりました。
そこへヒルマン様が私の白フクロウのブローチを彼の父親に手渡して、何故私のブローチを持っているのかを、皆にも聞こえるように説明されました。
そうです。あの夜、ヒルマン様は学園の護衛と共に、ナタリア様から私のブローチを回収し、彼女から奪われた証拠品として預かって下さっていたのです。
あの王家の末裔だけが持つことを許さる、あの白フクロウの紋章入りのブローチを……
ええ、ええ。国王陛下を含め、皆様真っ青になりましたよ。
さすがにここにいらっしゃる方々は、国史くらいはきちんと学んでいらっしゃるし、我がロックアップ男爵家の力もご理解されていますものね。
国王陛下は私のノートに名前が書かれた者達を、全員廃嫡処分にするとおっしゃいました。
しかし私はこう陛下にお願いしました。
これだけの人数の者達を廃嫡して市井へ追い払ったのでは、平民の皆様に迷惑をかけますわ、と。
彼らは常識も礼儀も働く能力もないのですから。
ですから放逐する前に、あの方達には徹底的に再教育して下さいねと。
そして、反省してやり直し可能だと思う者に関しては、どうぞ許してやって下さいと。
とはいえ、いくら厳しくと言っても自国では絶対に甘やかしてしまうのは明白です。
そこで、宰相のバッハーマ侯爵様は、世界中の出来の悪い貴族のご子息ご令嬢を、厳しく教育し直すことで有名な、隣国の山の中にある学園へ強制的に転校させました。
もちろん文科大臣のソーナット侯爵様や、オスカー様のお父上のトッティ公爵様は、国王陛下に嘆願書を出されましたが、却ってそれが陛下の逆鱗に触れました。
そしてお二人共、最終的に隠居するように命じられたのでした。
結局あの親達の子ですから、あのお二人の再生も難しいかもしれませんね。
それに、婚約の方はどうなさったんでしょうかね? それにあの子爵令嬢との関係は一体……
まあ私には全く関わりのないことですので、どうしても知りたいというわけではありませんけれど。
そうそう。良いニュースもありました。
文科大臣のソーナット侯爵様が、ご嫡男の方に爵位を譲られて引退されたので、新しい大臣が就任なさいました。
学園長も変わったことですし、この学園も少しはましになると良いのですが。
あの出来事以来、目先の利く家の方々からは、我がロックアップ領にある初等学園に留学したい、そんな問い合わせが急増しているそうです。
✽
私とショーン様は、いつかはイイラント領に、王立学園の養蚕研究所のような施設を作りたいと思っています。
その施設が出来れば、きっと虹色の絹生地(シルク)だって夢ではないでしょう。
後そう言えば、国王陛下が、ご家臣や貴族の方々に向かって歴史の重要性を力説し、もう一つの王家を敬う事を忘れるなと警告なさったそうです。
まあ、うちの方は今更敬われなくても一向に構わないのですが・・・
✽✽✽✽✽✽✽
これでこのお話は完結となります。アルファポリスには初めて投稿させてもらいました。
読んで下さってありがとうございました。
☆ この話は以前『小説家になろう』に短編小説として投稿した作品で、加筆修正しています。
たった一年でしたが、箱庭から出てきて良かったと思います。
愛する婚約者のショーン様の側にずっと居られて、彼の素晴らしさを再確認出来ましたし、イボンヌ様やヒルマン様のような一生の友にも出逢えましたから。
卒業パーティーで、私はモスグリーン色の美しい光沢のあるドレスを着て、ショーン様と踊りました。
「今日まで助けてくれてありがとう。僕は君にはいつも助けてもらってばかりだな。
ピンクゴールドのウェディングドレスが仕上がったらすぐに結婚式になるけど、これからもずっと僕を助けてください。
そして今度は僕にも全力で君を助けさせて下さい。お願いします」
「うふっ、なんだか変なお願いですね。でも、これからは本当に全力で私を助けてくださいね。
正直なところ、箱入り娘が初めて箱庭から出ていくようなものなので、やはり少し不安ですから」
「まあ実際のところ、君なら心配は要らないとは思うけどね。
なにせ君の所が箱庭なら、うちの領土なんてせいぜいマッチ箱みたいなものだからね」
ショーン様はそう笑いながら、私の身体を大きくクルッと回した後で、
「初めて会った時から、ずっと君のことを愛してる。
離れ離れになっている間はずっと寂しくて、辛かった。だから君とこうして卒業ダンスを踊れるなんて夢のようだよ。
僕のわがままを聞き入れて、僕の側に来てくれてありがとう」
と、満面の笑みを浮かべると、思い切り私を抱きしめたのでした。
✽✽✽✽✽
王立学園の卒業式には、ナタリア様とその婚約者のオスカー様、そしてお二人の取り巻きの方々は参加されていませんでした。
あの方々は半年前に再教育が必要だと陛下に認定されていたのです。
実は『星祭りパーティー』の日の出来事を、ヒルマン様が父親のバッハーマ侯爵にお話になったのだそうです。
すると侯爵様はこのことは看過できないと、大層ご立腹されたそうで、お城に学園長と文科大臣のを呼び出したそうです。
ちなみにバッハーマ侯爵様はこの国の宰相閣下で、文科大臣ソーナット侯爵とはナタリア様のお父上です。
そしてその場にショーン様やイボンヌ様、ヒルマン様と共に私も参考人として召喚されたのですが、何とその場には国王陛下まで居られたので仰天しました。
ショーン様達は入学してからの学園の対応の悪さや、教育環境の悪さを理路整然とお話しました。
しかしそんなことは昔からあることだと、彼らは何処吹く風といった態度をとったので、さすがに私もカチン!ときました。
そこで入学してから書き綴っていたノートを朗読して差し上げました。もちろん実名付きで。
さすがに何度も自分の娘の名前が出てきた文科大臣ソーナット侯爵は、顔面蒼白になりました。
そこへヒルマン様が私の白フクロウのブローチを彼の父親に手渡して、何故私のブローチを持っているのかを、皆にも聞こえるように説明されました。
そうです。あの夜、ヒルマン様は学園の護衛と共に、ナタリア様から私のブローチを回収し、彼女から奪われた証拠品として預かって下さっていたのです。
あの王家の末裔だけが持つことを許さる、あの白フクロウの紋章入りのブローチを……
ええ、ええ。国王陛下を含め、皆様真っ青になりましたよ。
さすがにここにいらっしゃる方々は、国史くらいはきちんと学んでいらっしゃるし、我がロックアップ男爵家の力もご理解されていますものね。
国王陛下は私のノートに名前が書かれた者達を、全員廃嫡処分にするとおっしゃいました。
しかし私はこう陛下にお願いしました。
これだけの人数の者達を廃嫡して市井へ追い払ったのでは、平民の皆様に迷惑をかけますわ、と。
彼らは常識も礼儀も働く能力もないのですから。
ですから放逐する前に、あの方達には徹底的に再教育して下さいねと。
そして、反省してやり直し可能だと思う者に関しては、どうぞ許してやって下さいと。
とはいえ、いくら厳しくと言っても自国では絶対に甘やかしてしまうのは明白です。
そこで、宰相のバッハーマ侯爵様は、世界中の出来の悪い貴族のご子息ご令嬢を、厳しく教育し直すことで有名な、隣国の山の中にある学園へ強制的に転校させました。
もちろん文科大臣のソーナット侯爵様や、オスカー様のお父上のトッティ公爵様は、国王陛下に嘆願書を出されましたが、却ってそれが陛下の逆鱗に触れました。
そしてお二人共、最終的に隠居するように命じられたのでした。
結局あの親達の子ですから、あのお二人の再生も難しいかもしれませんね。
それに、婚約の方はどうなさったんでしょうかね? それにあの子爵令嬢との関係は一体……
まあ私には全く関わりのないことですので、どうしても知りたいというわけではありませんけれど。
そうそう。良いニュースもありました。
文科大臣のソーナット侯爵様が、ご嫡男の方に爵位を譲られて引退されたので、新しい大臣が就任なさいました。
学園長も変わったことですし、この学園も少しはましになると良いのですが。
あの出来事以来、目先の利く家の方々からは、我がロックアップ領にある初等学園に留学したい、そんな問い合わせが急増しているそうです。
✽
私とショーン様は、いつかはイイラント領に、王立学園の養蚕研究所のような施設を作りたいと思っています。
その施設が出来れば、きっと虹色の絹生地(シルク)だって夢ではないでしょう。
後そう言えば、国王陛下が、ご家臣や貴族の方々に向かって歴史の重要性を力説し、もう一つの王家を敬う事を忘れるなと警告なさったそうです。
まあ、うちの方は今更敬われなくても一向に構わないのですが・・・
✽✽✽✽✽✽✽
これでこのお話は完結となります。アルファポリスには初めて投稿させてもらいました。
読んで下さってありがとうございました。
☆ この話は以前『小説家になろう』に短編小説として投稿した作品で、加筆修正しています。
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