箱入り男爵令嬢ですが、それが何か問題ですか?

悠木 源基

文字の大きさ
8 / 9

第8章

しおりを挟む
 
 ヒルマン様の話を聞いてオスカー様はさらに顔を青くしました。
 いいえ、彼だけではなく、ナタリア様も、そして彼女のいつもの取り巻き令嬢達も。
 
「まさか… だってたかが男爵家じゃないか」
 
「ロックアップ家は爵位や特権や称号に重きを置いていないのです。爵位などはいらないと思っているくらいですわ。
 しかし我が家の独立を恐れている王家から代々お願いされるから、仕方なく爵位を継いでいるだけです。
 我が家は王都にタウンハウスを所有していないし、社交場にも参加していません。ですので、我が家を見下す貴族の方もいらっしゃるようですね。
 でも我が家は参加できないのではなくて、参加しなくても構わないと王家から承認されているからなんですよ。
 だって社交がしたければ、相手の方を我が領地ご招待すれば済む事ですからね」
 
 私がこう言うと、妹のヒラリーも言葉を続けました。
 
「トーミリエお姉様が今まで王立学園に来なかったのは、兄弟が多くて金銭的に苦しいからだとか、姉が引きこもりだったからという噂があるようですね。
 ですがそれは全く見当外れな噂です。姉はここへ来る必要性がなかったから入学しなかっただけです。
 姉はとうの昔に学園で学ぶ内容なんて修了していて、父の代理でロックアップ領内を駆け巡って仕事をしていたのですから。
 今年になって編入して来たのは、このままではご令嬢達に邪魔をされて思うように勉強ができない。助けて欲しいとショーン様に頼まれたからですわ。
 ショーン様は、王立学園でしか出来ない研究をなさっていますから。
 一番上の姉は料理や嗜好品、私はファッションの勉強をするついでに王立学園に入学しましたが、ここで学ぶレベルは我が領土の初等学園並でしたわ。
 そうそう、オスカー様はお父様が財務大臣をなさっているのに、我がロックアップ領が納める税金が、国庫の三分の一を占めている事をご存知ないのですか?」
 
 妹の嘲るような笑みを見て、オスカー様、ナタリア様だけでなく、私や妹を今まで見下したり、嫌がらせをしてきた者達は真っ青になりましたよ。
 
 講堂の中はシーンとなりました。すると、ヒルマン様がいつもように飄々とこう口を開かれました。
 
「トーミリエ嬢、ショーンからの伝言だよ。
『ついに成功した! ようやく君に捧げるピンクゴールド色の繭ができた!』だってさ」
 
「それは本当ですか、ヒルマン様!」
 
「ああ。本当だ」
 
 家庭教師からすばらしいと評価を受けているカーテシーを皆様に披露した後、私は急いで講堂を出て養蚕研究所へ向かいました。 

 私がこの学園に入学してから、既に半年が経っていました。
 しかし、いつもショーン様の用事がある所だけを連れ回されていたので、学園内のことをまだよくわかっていません。
 それでも養蚕研究所なら、こんな暗闇でも迷わずに行けると思います。だって愛する婚約者と毎日二人で通った場所ですもの。
 
 二年前に、ショーン様はモスグリーン色の繭玉を生み出しました。
 そしてその繭玉から作られた絹糸で織られた絹生地(シルク)は、淡いモスグリーン色に光り輝いていて、染色したものとは比べようもないほど美しい生地に仕上がりました。
 それは昔、私が発した何気ない一言から、ショーン様が思い付いて研究を始めたものです。
 
「最初から繭玉に色が付いていたら、染色する手間が省けるのにね。
 桑の葉っぱは緑色なんだから、緑色の繭玉になればいいのになぁ」
 
 って。女の子なのにロマンの欠片もない言葉ですよね。
 でも、ショーン様はそれにヒントを得たそうです。お役に立てたのなら嬉しいです。
 
 そしてその絹生地の評判はあっと言う間に国内外を席巻したのです。
 まあ、私がいつものように領土内にふれ回り、外国のお客様にせっせと売り込んだ成果も多少はあるかもしれません。
 国の内外から注文が殺到した事で、イイラント領は大分活気が戻ってきたようです。
 もちろん縫製工場のある我がロックアップ領もその恩恵を受ける事ができました。
 そしてショーン様はその成功に驕ることなく、さらなる研究の準備をしながら、私にこうおっしゃったのです。
 
「次はピンクゴールド色の繭玉を生み出して、その絹糸で織った絹生地でトーミリエのウェディングドレスを作ろう。世界一美しい君の為のドレスを…」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

慈悲深い天使のテーゼ~侯爵令嬢は我が道を征くつもりだ

あとさん♪
恋愛
王太子の婚約者候補に名を連ねながら、政権争いに敗れ、正式任命されなかった侯爵令嬢パトリシア。 彼女には辺境伯家との縁組が命じられた。辺境伯は毛むくじゃらの天をつくような大男で、粗野で野蛮人だと王都では噂されている。さらに独立して敵国に寝返るかもしれないと噂される辺境伯家に嫁いだら、いったいどうなるの? いいえ、今まで被り慣れた巨大な猫を、この際、盛大に開放させましょう。 わたくしは過去の自分を捨て、本来のわたくしに戻り、思うまま生きてやります! 設定はゆるんゆるん。なんちゃって異世界。 令嬢視点と辺境伯視点の2話構成。 『小話』は、2人のその後。主に新婚さんの甘々な日常。 小説家になろうにも掲載しております。

殿下と男爵令嬢は只ならぬ仲⁉

アシコシツヨシ
恋愛
公爵令嬢セリーナの婚約者、王太子のブライアンが男爵令嬢クインシアと常に行動を共にするようになった。 その理由とは……

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...