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1.どっからどう見てもかわいい幼馴染です
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春太郎はかわいい。
夕暮れの公園でぺたんと座り込んですんすんと啜り泣く声もかわいい。
髪の毛がくしゃくしゃになってランドセルの中身をぶち撒けられてべそをかいててもかわいい。
ビリビリに破られた封筒からのぞく第二次性の通達書には、渚春太郎と幼馴染のフルネーム、それから第二の性別はオメガだと記されていた。オメガでも春太郎のかわいさには変わりない。
「泣くなよ、帰るぞ」
「だって、だって僕のせいで雪ちゃんがあ……」
春太郎をいじめる悪ガキから庇ったはいいけど、数に押されて惨敗した。砂と擦り傷に塗れて俺もボロボロだ。こんなもん大したことじゃない。痕が残ったって、春太郎を助けるためについた勲章だ。
自分だっていじめられたのに俺の心配をしてくれるなんて、春太郎はかわいいだけじゃなくて優しい。
春太郎は華奢で女の子みたいな顔をしていてかわいかった。だから絶対オメガだろって悪ガキどもにいじめられてた。性別を調べる検査をして通達書がくると、群がってランドセルを取り上げて勝手に中身を見たら「やっぱりな」って、こともあろうかふざけて服を脱がせようとするもんだから、俺は堪らず止めに入ったのだ。
「僕……僕もっと強くなるから……雪ちゃんにめいわくかけないようにするから……」
しゃくり上げながら泣く春太郎はやっぱり可愛かった。
なけなしの小遣いで買ったジュースをやって宥めながら帰ったあの日から数年――――――
春太郎は今でもかわいい。
今日も誰かに呼び出されたようだ。春太郎のスマホに入れたGPSを頼りに彼を探す。
あ、いた。屋上へ続く階段の踊り場で、学ランを着崩したいかにもなヤンキーに絡まれている。
「テメェオメガなんだってな」
「ここでデカい顔してんじゃねえぞ」
と春太郎の学ランに仕込んだ盗聴器を通してスマホから聞こえてくる。このまま録音して先生に渡しとこ。
「どうせあの風紀委員長も咥え込んで」
そう言ったヤンキーが階段から落ちてきた。正確には、春太郎に殴られて吹っ飛んできた。
もう一人いた剃り込み入れたヤンキーも吹っ飛ばされてその上に重なる。
春太郎は仁王立ちしながら俺を見下ろしていた。
学ランのボタンが閉じられないほどパツパツに張った胸板、サラサラの金髪、鋭い眼光。世紀末の覇王みたいな雰囲気を纏った春太郎の後ろの窓から差す光が神々しい。
はあ、女神かよ。スマホのカメラをポチッとな。
「撮るな」
春太郎の鈴を転がすような声は、声変わりでコントラバスのような重低音になっていた。
写真じゃなくてビデオに切り替えるか。スマホを掲げながら階段を登っていく。
「だってかわいいもん」
「どう見てもかわいくないだろ……」
春太郎は呆れたようにため息を吐く。
「そんなことないって!だってマッチョで金髪でピアスをバチバチに開けててどっからどう見てもヤンキーですって見た目をしてて、恋人の俺すら睨まれるとヒェッてビビるけど、それは春太郎が約束守ってくれたからだろ?
強くなるって!俺に迷惑かけないようにするって!健気すぎてヤバい!かわいい!」
「……って……」
「え?!なんて?うわー!顔真っ赤になってる!かわいーーーー!!!」
「だからかわいいって言うなバカタレー!」
俺も吹っ飛ばされてヤンキー達の上に重なった。春太郎はダッシュでその場から立ち去ってしまった。え、春太郎に触られた。幸せ…………。
「風紀委員長が!」
「大丈夫か?!」
次から次へと同級生が集まってくる。鼻血を出しながら俺は天井を仰いだ。
やべえ……涙目、超かわいかったああぁぁ!!
「いやお前の方がヤベェわ」
普通に四限目に出た俺に、同じクラスの玉田が言った。七三に分けた黒髪に眼鏡と絵に描いたような委員長スタイルだけど、中身はスクールカーストの上位にいるような陽キャである。よく見ると耳にはピアスの穴がバチバチに空いている。
ちなみに春太郎に吹っ飛ばされた後、保健室に行ったものの、春太郎がかわいすぎて鼻血を出しただけだしちゃんと受け身は取ったから無傷だった。俺だってケンカができるように鍛えたのだ。エヘン。
「風紀委員長がケンカしたらダメだろ」
「だって春太郎を庇う為に風紀委員会に入ったんだぜ?」
「お前まで目をつけられるぞ」
「そこはほら、生徒会長様の力でお一つ……」
「オレにそんな権限ないっつーの。雪政ん家の方がコネあんだろ」
うちはαの家系でハシモトホールディングスっていう会社を経営している。具体的にはショッピングモールを全国に建てまくってる。下請けの会社もこの町にごまんとある。
でも
「"子どものケンカに口突っ込めるか"って怒られた」
「もう権力使おうとしたんかい」
「春太郎をいじめるヤツが悪い」
「いやアイツ番長て呼ばれてるからな? むしろ毎回絡んでいくヤツらがかわいそうになるわ」
「う、浮気だ……!」
「じゃあもう囲い込んでそこから出すな」
「それだ……!」
あん? と玉田は目を丸くする。
そうだ、春太郎はもうすぐヒートになる。春太郎のヒートの周期は当然把握済みだ。
オメガは巣作りの習性があると聞く。アルファの匂いがする物を集めて巣を作るのだ。
かっわっっっっ!!! 春太郎が俺の匂いがするもの集めて俺の匂いに包まちゃうってこと?! かわいすぎる…………。
ってことは、めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!
「ごめん、俺早退するわ! なんか適当に理由言っといて!」
「……頭がおかしくなったって言っとく」
「ありがと! 頼んだ! じゃっ!」
俺は家に帰って、まず巣作りのことをネットで調べまくった。巣作りの習慣は知ってたけど詳しくは知らない。春太郎が巣作りしてるとこは見たことないし。
なるほど、服は洗わない方がいいのか。匂いが落ちるもんな。あ、シーツ、まくら、靴なんかも使われるんだ。へえ……。
うーん、部屋のものを全部プレゼントしたいところだけど、春太郎のアパートには入りきらないよなあ。あっ、春太郎に選んでもらうとか?そうなると俺の部屋に来てもらった方が早くない?いや、ヒート中の春太郎にやらせるのは負担が大きいかなあ。
そんなことを考えながら調べ物をしてるだけで、夜が更け朝になっていたのだった。
夕暮れの公園でぺたんと座り込んですんすんと啜り泣く声もかわいい。
髪の毛がくしゃくしゃになってランドセルの中身をぶち撒けられてべそをかいててもかわいい。
ビリビリに破られた封筒からのぞく第二次性の通達書には、渚春太郎と幼馴染のフルネーム、それから第二の性別はオメガだと記されていた。オメガでも春太郎のかわいさには変わりない。
「泣くなよ、帰るぞ」
「だって、だって僕のせいで雪ちゃんがあ……」
春太郎をいじめる悪ガキから庇ったはいいけど、数に押されて惨敗した。砂と擦り傷に塗れて俺もボロボロだ。こんなもん大したことじゃない。痕が残ったって、春太郎を助けるためについた勲章だ。
自分だっていじめられたのに俺の心配をしてくれるなんて、春太郎はかわいいだけじゃなくて優しい。
春太郎は華奢で女の子みたいな顔をしていてかわいかった。だから絶対オメガだろって悪ガキどもにいじめられてた。性別を調べる検査をして通達書がくると、群がってランドセルを取り上げて勝手に中身を見たら「やっぱりな」って、こともあろうかふざけて服を脱がせようとするもんだから、俺は堪らず止めに入ったのだ。
「僕……僕もっと強くなるから……雪ちゃんにめいわくかけないようにするから……」
しゃくり上げながら泣く春太郎はやっぱり可愛かった。
なけなしの小遣いで買ったジュースをやって宥めながら帰ったあの日から数年――――――
春太郎は今でもかわいい。
今日も誰かに呼び出されたようだ。春太郎のスマホに入れたGPSを頼りに彼を探す。
あ、いた。屋上へ続く階段の踊り場で、学ランを着崩したいかにもなヤンキーに絡まれている。
「テメェオメガなんだってな」
「ここでデカい顔してんじゃねえぞ」
と春太郎の学ランに仕込んだ盗聴器を通してスマホから聞こえてくる。このまま録音して先生に渡しとこ。
「どうせあの風紀委員長も咥え込んで」
そう言ったヤンキーが階段から落ちてきた。正確には、春太郎に殴られて吹っ飛んできた。
もう一人いた剃り込み入れたヤンキーも吹っ飛ばされてその上に重なる。
春太郎は仁王立ちしながら俺を見下ろしていた。
学ランのボタンが閉じられないほどパツパツに張った胸板、サラサラの金髪、鋭い眼光。世紀末の覇王みたいな雰囲気を纏った春太郎の後ろの窓から差す光が神々しい。
はあ、女神かよ。スマホのカメラをポチッとな。
「撮るな」
春太郎の鈴を転がすような声は、声変わりでコントラバスのような重低音になっていた。
写真じゃなくてビデオに切り替えるか。スマホを掲げながら階段を登っていく。
「だってかわいいもん」
「どう見てもかわいくないだろ……」
春太郎は呆れたようにため息を吐く。
「そんなことないって!だってマッチョで金髪でピアスをバチバチに開けててどっからどう見てもヤンキーですって見た目をしてて、恋人の俺すら睨まれるとヒェッてビビるけど、それは春太郎が約束守ってくれたからだろ?
強くなるって!俺に迷惑かけないようにするって!健気すぎてヤバい!かわいい!」
「……って……」
「え?!なんて?うわー!顔真っ赤になってる!かわいーーーー!!!」
「だからかわいいって言うなバカタレー!」
俺も吹っ飛ばされてヤンキー達の上に重なった。春太郎はダッシュでその場から立ち去ってしまった。え、春太郎に触られた。幸せ…………。
「風紀委員長が!」
「大丈夫か?!」
次から次へと同級生が集まってくる。鼻血を出しながら俺は天井を仰いだ。
やべえ……涙目、超かわいかったああぁぁ!!
「いやお前の方がヤベェわ」
普通に四限目に出た俺に、同じクラスの玉田が言った。七三に分けた黒髪に眼鏡と絵に描いたような委員長スタイルだけど、中身はスクールカーストの上位にいるような陽キャである。よく見ると耳にはピアスの穴がバチバチに空いている。
ちなみに春太郎に吹っ飛ばされた後、保健室に行ったものの、春太郎がかわいすぎて鼻血を出しただけだしちゃんと受け身は取ったから無傷だった。俺だってケンカができるように鍛えたのだ。エヘン。
「風紀委員長がケンカしたらダメだろ」
「だって春太郎を庇う為に風紀委員会に入ったんだぜ?」
「お前まで目をつけられるぞ」
「そこはほら、生徒会長様の力でお一つ……」
「オレにそんな権限ないっつーの。雪政ん家の方がコネあんだろ」
うちはαの家系でハシモトホールディングスっていう会社を経営している。具体的にはショッピングモールを全国に建てまくってる。下請けの会社もこの町にごまんとある。
でも
「"子どものケンカに口突っ込めるか"って怒られた」
「もう権力使おうとしたんかい」
「春太郎をいじめるヤツが悪い」
「いやアイツ番長て呼ばれてるからな? むしろ毎回絡んでいくヤツらがかわいそうになるわ」
「う、浮気だ……!」
「じゃあもう囲い込んでそこから出すな」
「それだ……!」
あん? と玉田は目を丸くする。
そうだ、春太郎はもうすぐヒートになる。春太郎のヒートの周期は当然把握済みだ。
オメガは巣作りの習性があると聞く。アルファの匂いがする物を集めて巣を作るのだ。
かっわっっっっ!!! 春太郎が俺の匂いがするもの集めて俺の匂いに包まちゃうってこと?! かわいすぎる…………。
ってことは、めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!
「ごめん、俺早退するわ! なんか適当に理由言っといて!」
「……頭がおかしくなったって言っとく」
「ありがと! 頼んだ! じゃっ!」
俺は家に帰って、まず巣作りのことをネットで調べまくった。巣作りの習慣は知ってたけど詳しくは知らない。春太郎が巣作りしてるとこは見たことないし。
なるほど、服は洗わない方がいいのか。匂いが落ちるもんな。あ、シーツ、まくら、靴なんかも使われるんだ。へえ……。
うーん、部屋のものを全部プレゼントしたいところだけど、春太郎のアパートには入りきらないよなあ。あっ、春太郎に選んでもらうとか?そうなると俺の部屋に来てもらった方が早くない?いや、ヒート中の春太郎にやらせるのは負担が大きいかなあ。
そんなことを考えながら調べ物をしてるだけで、夜が更け朝になっていたのだった。
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