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第二章 竜胆
水をください
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「おんぎゃぁー おんぎゃぁー」
(…赤ちゃんの泣き声がするぞ?)
「玄華、黄怜が産まれましたよ」
耳に響く声と話し声、ぼんやりとした視界に志瑞也は戸惑う。
(ここは何処だ、今黄怜って… まさか俺、赤ちゃん黄怜の中にいるのか? しかも玄華って確か、黄怜のお母さん?)
新生児の視界では、近くの者以外はっきり見えない。志瑞也は視界や感情までもが、そこに実際に居て触れているような感覚になる。
「はぁ、はぁ、義母上…」
一人の女子が黄怜の体を拭いて、臍の緒の処理をしていた。
(誰だこの人は? 義母上ってことは、黄怜のばぁちゃんか?)
「良く頑張りましたね…可愛らしい女子ですよ」
そう言って、黄怜の祖母が涙ぐむ。
(神族って、皆綺麗だよなぁ)
「私しか立ち合えず、すまぬ…」
「義母上…いいのです。この子を守れるのであれば、私は何でもします」
(守る? お産なのに、付き添いはばぁちゃんしかいないのか?)
「ほら、抱いておやり」
「おんぎゃぁー おんぎゃぁー」
「私の大切な子、黄怜…」
志瑞也の視界に涙目の玄華の顔が映る。
(美人なお母さんだなぁ、懐かしいなぁ)
「玄枝様っ、中央宮に妖魔が侵入しました!」
(何だ? 今度は誰だ? 妖魔だって?)
「玄一、玄七、千玄、外の者達に、黄怜が女子と気づかれてはなりませんっ、事が漏れないよう気をつけなさい!」
(産まれた時から性別を隠していたのか… こんな時でも妖魔って…出るのか?……)
声が遠のき視界が暗くなる。
「あなた、妖魔退治で各神家の出入りが多い今、このままここに居ては、黄怜が女子だと気付かれてしまいます」
(視界が変わった、あっ、黄怜のお母さん、なんか深刻そうだな…)
「何故こんなにも妖魔が各領域で出没するの…? それも黄怜が生まれてからです…」
「私にも分からない…そうだ! 青龍湖の近くに離れを建て、お前達は暫くそこで暮らすのだ、青龍湖の神力には浄化の力がある。妖魔も寄っては来ないはずだ、それに万が一怪我や体調を崩しても、あの水には治癒回復の効き目もある。病気療養を理由にすれば、祖父上も許可するであろう」
不安そうに話す玄華を、男子が優しく抱き寄せる。
(こっちがお父さんだな、この時はまだ生きていたんだな、よっ男前! 目線的に黄怜は一、二才ぐらいかな? ふーん、青龍湖にはそんな神力があるのか、離れってことは、一緒に暮らしていなかったのか?)
「でっでもっ、その後は?」
「五つになれば講習会がある、それまでに母上に何か装飾を創らせよう。表向きは神力が高くて神獣を抑えていると言えば、誰も神獣が付いていないとは思わないであろう」
(講習会? 神獣を抑える装飾? 勾玉のことか! あの勾玉は黄怜のばぁちゃんが創ったのか‼︎)
「わかりました…あなたも一緒にっ」
「玄華、私までは一緒に行けないよ。そう泣くな、綺麗な顔が台無しではないか……」
黄一が玄華の涙を拭って口づけする。
「黄怜さあおいで、いい子だ、父がお前を守るから案ずるな」
黄一が黄怜を抱き上げ、黄怜は黄一の胸に抱きつき微笑む。
「父上…」
(お父さん、黄怜は両親に凄く愛されていたんだな…それに二人共、とても愛し合っていたんだ……)
再び視界が暗くなる。
「黄怜っ、一人で遠くへ行っては駄目ですよ! 千玄、黄怜を追いかけて!」
「黄怜様!」
黄怜は実にすばしっこく、追いかけて探し回る千玄を隠れて見ている。そうこうしている内に、湖に辿り着く。
「キャハハハハ」
(お、今度は三、四才ぐらいかな?アハハ でっかい湖だなぁ、そうか、これが青龍湖か!)
「よいしょっ、あ! 鳥さんだ!」
(アハハ今度は縁で遊び出したぞ、黄怜はお転婆娘だったんだな)
「あっ!」
黄怜は苔で滑って膝を擦りむく。
「いッ痛いよぅ母上っ… うえぇぇん」
(痛ッてぇ、俺まで痛いよっ)
「黄怜様っ お一人で遠くへ行かれてはいけないと申したではないですか!」
追い付いた千玄の顔は少し怖かった。
「千玄っふえっ、ごめんなさい…」
「お怪我は無いですか?…は! ちっ血が出ております、早く青龍湖の水で洗い流してくださいっ」
(怪我ぐらいで何をそんなに慌てるんだ?)
「ぎぃぃぃぃ…見つけたひゃっひゃっ…」
突然、目の前に涎を垂らした化け物が現れる。
「ちっ千玄っ、よっ妖魔があ、妖魔がっ」
(なっ、何だこいつは?)
「しまった…黄怜様そこを動かないで下さいっ!」
(これが妖魔? 青龍湖に妖魔は、寄って来ないんじゃなかったのか?)
千玄は手掌から剣を出し、振り翳した放光で妖魔を刻んだ。細切れになった残骸に、千玄が青龍湖の水をかけると、じゅくじゅく音を立てながら肉片が溶けていく。千玄が黄怜に駆け寄り膝に青龍湖の水をかけると、たちまち傷は塞がった。
(千玄さんて強いなぁ、神力で戦うの初めて見た、それにこの水もすげぇ! 蒼万も戦うと凄いのかな)
「黄怜様もう大丈夫です。千玄が妖魔を退治しましたのでご安心下さい」
「千玄ごっごめんなさい… 千玄はお怪我はない?」
(黄怜優しいな、俺まで怯える気持ちが伝わってきたのに、千玄さんの心配するなんて)
千玄が真剣な眼差しで言う。
「私は大丈夫です。何度もお伝えしておりますが、黄怜様の血は妖魔を引きつけます。決してっ怪我をされないよう、お気をつけ下さい」
(何だって? 黄怜の血はっ妖魔を引きつけるだって? あれっ…)
「…はい、私はいつ皆と同じように遊べるの…?」
(なんか…頭がくらくらする……)
「今玄枝様に、御守りを創っていただいております。もうすぐ完成すると…黄怜様? 黄怜様!」
志瑞也は体が熱くゆらゆらと揺れていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
(く…苦しい…)
「玄華様っ!」
「千玄どうしたの? 黄怜っ、熱があるわっ」
「母…上…」
(お母さん…)
「青龍湖の水ですっ」
「何があったの⁉︎」
「ごめ…な…さい…」
(ごめんなさい…)
「実は………」
「妖…!……」
「……」
(聞こえない…)
「おみ…ず…」
(…み…ず…)
志瑞也は喉の渇きでわずかに意識を戻す。
「黄怜お水よ、さぁお飲み」
「…ん、ん、ん…」
(…ん、ん、ん…あ…まい…)
「もっと欲しい?」
「うん…」
(…うん……甘くて…美味しい……)
「ゆっくりお休み」
「…はい…」
(………)
「黄怜っ!」
「黄怜様っ」
二人が心配そうに顔を覗き込む。
「母上…? 千玄…?」
(あ、黄怜のお母さんと千玄さんだ!)
「黄怜っ一人で遠くに行ってはいけないと、あれほど…ううっ… 母を悲しませないで…」
玄華が黄怜を抱きしめる。
「ふえっ…母上、ごめんなさい…」
(お母さんに抱きしめられるって、凄く安心する、それにとてもいい匂いだ、懐かしい…この匂いは… 最近…どこかで………)
視界が真っ白に光り、それは徐々に眩しいほどに目を差した。
(…赤ちゃんの泣き声がするぞ?)
「玄華、黄怜が産まれましたよ」
耳に響く声と話し声、ぼんやりとした視界に志瑞也は戸惑う。
(ここは何処だ、今黄怜って… まさか俺、赤ちゃん黄怜の中にいるのか? しかも玄華って確か、黄怜のお母さん?)
新生児の視界では、近くの者以外はっきり見えない。志瑞也は視界や感情までもが、そこに実際に居て触れているような感覚になる。
「はぁ、はぁ、義母上…」
一人の女子が黄怜の体を拭いて、臍の緒の処理をしていた。
(誰だこの人は? 義母上ってことは、黄怜のばぁちゃんか?)
「良く頑張りましたね…可愛らしい女子ですよ」
そう言って、黄怜の祖母が涙ぐむ。
(神族って、皆綺麗だよなぁ)
「私しか立ち合えず、すまぬ…」
「義母上…いいのです。この子を守れるのであれば、私は何でもします」
(守る? お産なのに、付き添いはばぁちゃんしかいないのか?)
「ほら、抱いておやり」
「おんぎゃぁー おんぎゃぁー」
「私の大切な子、黄怜…」
志瑞也の視界に涙目の玄華の顔が映る。
(美人なお母さんだなぁ、懐かしいなぁ)
「玄枝様っ、中央宮に妖魔が侵入しました!」
(何だ? 今度は誰だ? 妖魔だって?)
「玄一、玄七、千玄、外の者達に、黄怜が女子と気づかれてはなりませんっ、事が漏れないよう気をつけなさい!」
(産まれた時から性別を隠していたのか… こんな時でも妖魔って…出るのか?……)
声が遠のき視界が暗くなる。
「あなた、妖魔退治で各神家の出入りが多い今、このままここに居ては、黄怜が女子だと気付かれてしまいます」
(視界が変わった、あっ、黄怜のお母さん、なんか深刻そうだな…)
「何故こんなにも妖魔が各領域で出没するの…? それも黄怜が生まれてからです…」
「私にも分からない…そうだ! 青龍湖の近くに離れを建て、お前達は暫くそこで暮らすのだ、青龍湖の神力には浄化の力がある。妖魔も寄っては来ないはずだ、それに万が一怪我や体調を崩しても、あの水には治癒回復の効き目もある。病気療養を理由にすれば、祖父上も許可するであろう」
不安そうに話す玄華を、男子が優しく抱き寄せる。
(こっちがお父さんだな、この時はまだ生きていたんだな、よっ男前! 目線的に黄怜は一、二才ぐらいかな? ふーん、青龍湖にはそんな神力があるのか、離れってことは、一緒に暮らしていなかったのか?)
「でっでもっ、その後は?」
「五つになれば講習会がある、それまでに母上に何か装飾を創らせよう。表向きは神力が高くて神獣を抑えていると言えば、誰も神獣が付いていないとは思わないであろう」
(講習会? 神獣を抑える装飾? 勾玉のことか! あの勾玉は黄怜のばぁちゃんが創ったのか‼︎)
「わかりました…あなたも一緒にっ」
「玄華、私までは一緒に行けないよ。そう泣くな、綺麗な顔が台無しではないか……」
黄一が玄華の涙を拭って口づけする。
「黄怜さあおいで、いい子だ、父がお前を守るから案ずるな」
黄一が黄怜を抱き上げ、黄怜は黄一の胸に抱きつき微笑む。
「父上…」
(お父さん、黄怜は両親に凄く愛されていたんだな…それに二人共、とても愛し合っていたんだ……)
再び視界が暗くなる。
「黄怜っ、一人で遠くへ行っては駄目ですよ! 千玄、黄怜を追いかけて!」
「黄怜様!」
黄怜は実にすばしっこく、追いかけて探し回る千玄を隠れて見ている。そうこうしている内に、湖に辿り着く。
「キャハハハハ」
(お、今度は三、四才ぐらいかな?アハハ でっかい湖だなぁ、そうか、これが青龍湖か!)
「よいしょっ、あ! 鳥さんだ!」
(アハハ今度は縁で遊び出したぞ、黄怜はお転婆娘だったんだな)
「あっ!」
黄怜は苔で滑って膝を擦りむく。
「いッ痛いよぅ母上っ… うえぇぇん」
(痛ッてぇ、俺まで痛いよっ)
「黄怜様っ お一人で遠くへ行かれてはいけないと申したではないですか!」
追い付いた千玄の顔は少し怖かった。
「千玄っふえっ、ごめんなさい…」
「お怪我は無いですか?…は! ちっ血が出ております、早く青龍湖の水で洗い流してくださいっ」
(怪我ぐらいで何をそんなに慌てるんだ?)
「ぎぃぃぃぃ…見つけたひゃっひゃっ…」
突然、目の前に涎を垂らした化け物が現れる。
「ちっ千玄っ、よっ妖魔があ、妖魔がっ」
(なっ、何だこいつは?)
「しまった…黄怜様そこを動かないで下さいっ!」
(これが妖魔? 青龍湖に妖魔は、寄って来ないんじゃなかったのか?)
千玄は手掌から剣を出し、振り翳した放光で妖魔を刻んだ。細切れになった残骸に、千玄が青龍湖の水をかけると、じゅくじゅく音を立てながら肉片が溶けていく。千玄が黄怜に駆け寄り膝に青龍湖の水をかけると、たちまち傷は塞がった。
(千玄さんて強いなぁ、神力で戦うの初めて見た、それにこの水もすげぇ! 蒼万も戦うと凄いのかな)
「黄怜様もう大丈夫です。千玄が妖魔を退治しましたのでご安心下さい」
「千玄ごっごめんなさい… 千玄はお怪我はない?」
(黄怜優しいな、俺まで怯える気持ちが伝わってきたのに、千玄さんの心配するなんて)
千玄が真剣な眼差しで言う。
「私は大丈夫です。何度もお伝えしておりますが、黄怜様の血は妖魔を引きつけます。決してっ怪我をされないよう、お気をつけ下さい」
(何だって? 黄怜の血はっ妖魔を引きつけるだって? あれっ…)
「…はい、私はいつ皆と同じように遊べるの…?」
(なんか…頭がくらくらする……)
「今玄枝様に、御守りを創っていただいております。もうすぐ完成すると…黄怜様? 黄怜様!」
志瑞也は体が熱くゆらゆらと揺れていた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
(く…苦しい…)
「玄華様っ!」
「千玄どうしたの? 黄怜っ、熱があるわっ」
「母…上…」
(お母さん…)
「青龍湖の水ですっ」
「何があったの⁉︎」
「ごめ…な…さい…」
(ごめんなさい…)
「実は………」
「妖…!……」
「……」
(聞こえない…)
「おみ…ず…」
(…み…ず…)
志瑞也は喉の渇きでわずかに意識を戻す。
「黄怜お水よ、さぁお飲み」
「…ん、ん、ん…」
(…ん、ん、ん…あ…まい…)
「もっと欲しい?」
「うん…」
(…うん……甘くて…美味しい……)
「ゆっくりお休み」
「…はい…」
(………)
「黄怜っ!」
「黄怜様っ」
二人が心配そうに顔を覗き込む。
「母上…? 千玄…?」
(あ、黄怜のお母さんと千玄さんだ!)
「黄怜っ一人で遠くに行ってはいけないと、あれほど…ううっ… 母を悲しませないで…」
玄華が黄怜を抱きしめる。
「ふえっ…母上、ごめんなさい…」
(お母さんに抱きしめられるって、凄く安心する、それにとてもいい匂いだ、懐かしい…この匂いは… 最近…どこかで………)
視界が真っ白に光り、それは徐々に眩しいほどに目を差した。
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