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第二章 竜胆
触れてしまった
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志瑞也は暖かな温もりと、馴染みのある匂いに導かれゆっくりと瞼を開ける。眩しくて目を窄めながら、瞬きを繰り返す。目が慣れ見渡すとそこは龍水室。志瑞也は確かに黄怜の夢を見た、夢の中で自分は黄怜だった。記憶を手繰り寄せ思い返すと、徐々にぼんやりとした頭がはっきりしてきた。
(妖魔、そうだ、俺を襲ったのは妖魔だ!)
身震いがして、庭園で襲われた事を思い出す。掴まれた右腕を確認しようと力を入れると、寝衣を着たままで更に右腕に重みがあり上がらない。目を向けると、右腕の上に誰かの腕がある。見覚えのある腕輪。まさかと思い腕の主へ目線を辿ると、蒼万が包み抱え寝ているではないか。一瞬驚くが、蒼万の寝顔を見るのは初めてだ。左手を水から出し、閉じた瞼につく長いまつ毛、高い鼻筋、細く弾力がある唇。
「私の顔で遊ぶな」
志瑞也はぱっと指を離す。
「おっおはよう蒼万」
「……」
「俺どれぐらい眠っていたんだ?」
「三日だ」
「そんなに? そっか、色々とごめんな、ありがっ」
突然ぎゅっと抱きしめられ言葉が詰まる。
「すまない…」
目の前にある喉仏がゆっくり動いた。志瑞也は戸惑ったが黄怜の記憶を思い返し、この水はきっと青龍湖の水で、怪我をした自分のために用意したもの。状況から見て、水に沈んでしまわないよう、蒼万がずっと支えてくれていたのだろう。心配して一緒にいてくれたことが、素直に嬉しかった。
蒼万の頬にそっと左手で触る。
「ふっ蒼万は何も悪くない、俺は大丈夫だから」
蒼万は優しく志瑞也を見つめた。
志瑞也は頬に触れた手の親指で蒼万の唇に触れ、人差し指で鼻筋を下から上になぞり、中指でまつ毛を目頭から目尻にかけて優しく触れた。
しまった!
金色の瞳と目が合い志瑞也は固まる。何故蒼万に触れたのか分からない、この先の行動を考えていなかったことに焦る。鼓動が速くなり、蒼万の顔から手を離さなければと思うが、体が動かなかった。それどころか、その眼差しに吸い寄せられるように、少しずつ顔が近付いていく。
バンッ!
「志瑞也さん!」
激しい扉の音に志瑞也はびくっとする。
「意識が戻られたのですね! 良かった…本当に良かったですわ」
言いながら葵が近付く。
「あっ葵ちゃんっ、心配かけてごめんねっ」
志瑞也はさっと蒼万から離れ、湯船から上がる。
「体調はいかがですか?」
「もう大丈夫だよっ おっ俺っ濡れてるから着替えてくるよっ」
志瑞也は龍水室を出て行く。
湯船に残された蒼万に葵が言う。
「お邪魔だったかしら、兄上?ふふふ」
「何がだ」
蒼万が葵を横目で睨む。
「昨夜沙羅から報告は受けてましたが、朝まで待って差し上げたのよ」
「…お前は勘が良過ぎる」
そう言って、蒼万は湯船から上がり龍水室を出る。その後ろを、葵も軽い足取りで付いて行った。
志瑞也は部屋で濡れた寝衣を脱ぎ体を拭いた。自分の行動に後から恥ずかしさが込み上げ、動悸が収まらない。この気持ちは一体何なのだろう。蒼万の唇を思い出し、触れた指を唇にあてると、動悸は更に激しくなる。一旦落ち着いて整理しようと、部屋の中をうろうろしだす。
(俺…蒼万のこと好きなのか? 俺蒼万にキスしたかったのか? 蒼万は男で…俺も男で… でも霊魂は女で……)
混乱しすぎて頭を掻きむしる。
「うあぁぁぁぁあーっ」
バンッ!
「志瑞也っ」
「志瑞也さんっ」
「志瑞也様っ」
「グァアオ」
「どうした志瑞也っ」
「どうした志瑞也っ」
「しし志瑞也ぁさん…」
神族、神獣、妖怪、霊が、勢いよく部屋の戸を開けた。
「ふっ」
「きゃっ」
「あらっ」
「グルゥ」
「ほう」
「ふむ」
「ああ、あ…」
開いた時とは違い戸は静かに閉まる。
「う…うあぁぁぁぁあ──っ!」
その日、志瑞也は部屋から出てくることはなかった。
(妖魔、そうだ、俺を襲ったのは妖魔だ!)
身震いがして、庭園で襲われた事を思い出す。掴まれた右腕を確認しようと力を入れると、寝衣を着たままで更に右腕に重みがあり上がらない。目を向けると、右腕の上に誰かの腕がある。見覚えのある腕輪。まさかと思い腕の主へ目線を辿ると、蒼万が包み抱え寝ているではないか。一瞬驚くが、蒼万の寝顔を見るのは初めてだ。左手を水から出し、閉じた瞼につく長いまつ毛、高い鼻筋、細く弾力がある唇。
「私の顔で遊ぶな」
志瑞也はぱっと指を離す。
「おっおはよう蒼万」
「……」
「俺どれぐらい眠っていたんだ?」
「三日だ」
「そんなに? そっか、色々とごめんな、ありがっ」
突然ぎゅっと抱きしめられ言葉が詰まる。
「すまない…」
目の前にある喉仏がゆっくり動いた。志瑞也は戸惑ったが黄怜の記憶を思い返し、この水はきっと青龍湖の水で、怪我をした自分のために用意したもの。状況から見て、水に沈んでしまわないよう、蒼万がずっと支えてくれていたのだろう。心配して一緒にいてくれたことが、素直に嬉しかった。
蒼万の頬にそっと左手で触る。
「ふっ蒼万は何も悪くない、俺は大丈夫だから」
蒼万は優しく志瑞也を見つめた。
志瑞也は頬に触れた手の親指で蒼万の唇に触れ、人差し指で鼻筋を下から上になぞり、中指でまつ毛を目頭から目尻にかけて優しく触れた。
しまった!
金色の瞳と目が合い志瑞也は固まる。何故蒼万に触れたのか分からない、この先の行動を考えていなかったことに焦る。鼓動が速くなり、蒼万の顔から手を離さなければと思うが、体が動かなかった。それどころか、その眼差しに吸い寄せられるように、少しずつ顔が近付いていく。
バンッ!
「志瑞也さん!」
激しい扉の音に志瑞也はびくっとする。
「意識が戻られたのですね! 良かった…本当に良かったですわ」
言いながら葵が近付く。
「あっ葵ちゃんっ、心配かけてごめんねっ」
志瑞也はさっと蒼万から離れ、湯船から上がる。
「体調はいかがですか?」
「もう大丈夫だよっ おっ俺っ濡れてるから着替えてくるよっ」
志瑞也は龍水室を出て行く。
湯船に残された蒼万に葵が言う。
「お邪魔だったかしら、兄上?ふふふ」
「何がだ」
蒼万が葵を横目で睨む。
「昨夜沙羅から報告は受けてましたが、朝まで待って差し上げたのよ」
「…お前は勘が良過ぎる」
そう言って、蒼万は湯船から上がり龍水室を出る。その後ろを、葵も軽い足取りで付いて行った。
志瑞也は部屋で濡れた寝衣を脱ぎ体を拭いた。自分の行動に後から恥ずかしさが込み上げ、動悸が収まらない。この気持ちは一体何なのだろう。蒼万の唇を思い出し、触れた指を唇にあてると、動悸は更に激しくなる。一旦落ち着いて整理しようと、部屋の中をうろうろしだす。
(俺…蒼万のこと好きなのか? 俺蒼万にキスしたかったのか? 蒼万は男で…俺も男で… でも霊魂は女で……)
混乱しすぎて頭を掻きむしる。
「うあぁぁぁぁあーっ」
バンッ!
「志瑞也っ」
「志瑞也さんっ」
「志瑞也様っ」
「グァアオ」
「どうした志瑞也っ」
「どうした志瑞也っ」
「しし志瑞也ぁさん…」
神族、神獣、妖怪、霊が、勢いよく部屋の戸を開けた。
「ふっ」
「きゃっ」
「あらっ」
「グルゥ」
「ほう」
「ふむ」
「ああ、あ…」
開いた時とは違い戸は静かに閉まる。
「う…うあぁぁぁぁあ──っ!」
その日、志瑞也は部屋から出てくることはなかった。
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