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第四章 七変化
救済
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志瑞也と蒼万が東宮を発って二日が経った。道中、蒼龍家傍家所有の宿屋があり、食事の世話はそこに仕える分家の者達が面倒を見てくれた。東宮領域内での志瑞也の肩書は朱子の遠縁。志瑞也が手伝おうとすると、蒼万殿の時と同様に慌てて断られる。それでもめげずに手伝ってる内に、諦めて次第に楽しく会話していた。そこで暮らす村人達に会うと、蒼万の名だけで皆感謝し沢山の餞別を貰える。景色も空気も綺麗で自然が広がり、皆が明るく親切で、普通の人達との会話に志瑞也は楽しんでいた。正直なところ、蒼万との会話に少し疲れてもいた。二度同じことを言わさないためには、考えて話さなければならないからだ。
志瑞也はあることを試みた。
「蒼万、少しは村の人達と話をしてみたら?」
「何故」
「皆蒼万には感謝しているけど、怖がっていたよ」
「何故」
「……」
必要なこと以外は話さない、笑わない、感情を出さない。志瑞也は呆れて、まともな意思疎通ができないこの男への試みを諦めた。しかし、夜寝る時は「志瑞也こっちに来い」「何故?」「お前は一人で眠れないであろう」と志瑞也がそうなる。蒼万で分かった事は〝何故〟は口癖なのか、二度は言わない言葉ではないらしい。攻略法を見つけるには、まだまだ会話が足りないのだった。
頭を捻らせている間に、二人は南宮領域の張宿に辿り着いた。村に進むにつれ、山一面木々が無惨にもなぎ倒され、山の土が雪崩のように辺りに積もり、その中に幾つもの家屋が崩れ埋もれていた。
志瑞也は信じ難い光景を見渡す。
「酷いっ、 これって土砂崩れか? これが妖魔の仕業なのか?」
蒼万は頷く。
「これ…俺のせいなのか?」
「……」
勾玉を外した事により、妖魔が出没した可能性があると分かっていても、実際見るまでは実感できないでいた。荒々しい光景を目にし、背筋がざわつき震える右腕を掴む。
その様子を、蒼万は黙って横目で見ていた。
その時、幼子の泣き声が聞こえ二人は辺りを見渡す。土砂や木々の間を通り、声のする方へ駆け寄る。そこには丁度幼子が通れるぐらいの隙間があり、隙間の向こうの土砂の前で、五つぐらいの男の子が泣き喚めいていた。
迷子に慣れた顔で、志瑞也は優しく声をかける。
「僕そっちは危ないよ、ほらおいで」
志瑞也の方からは木々に挟まれ、これ以上は行けない。恐らく、自ら隙間を通って向こう側に行ったのだ。隙間から腕を伸ばして掴もうとするが届かない、蒼万は木々が倒れないよう支える。
「怖くないから、ほらおいで」
「ううっぐすっ…うん」
男の子が志瑞也の手を掴む。
ほっとしてゆっくりとこちら側に引っ張り、隙間を通して抱えた。
「僕偉いな、よく頑張ったな」
安心したのか、志瑞也にしがみつき大声で泣き喚めく。志瑞也は優しく抱きしめ、その子の頭をなでる。
「いい子だな、蒼万ありがとう」
蒼万は頷く。
男女が慌てて駆け寄ってきた。
「弓弦っ!」
「父上っ 母上っ」
この子の両親が土砂に埋まっていると思っていたが、生きていたと安堵し、駆け寄る両親へ弓弦を引き渡す。
弓弦母が顔を覗き込みながら尋ねる。
「急にいなくなって、何処行ってたの?」
「ううっ…お家に帰ろうと思って…」
両親は先程弓弦がいた場所を見る。
「…お家は無くなっちゃったから、また新しいの建てようね」
「そうだぞ弓弦、父がもっと頑丈な家を建てるからな!」
「うん!」
弓弦父が逞しく腕を上げ力瘤を出すと、弓弦は嬉しそうに微笑んだ。
志瑞也は二人の言葉に胸が熱くなる。そして、懐かしくも遠すぎる、両親を思い出した。
「お二人共、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ、弓弦良かったな」
志瑞也は弓弦の頭をなでながら微笑む。
「お兄ちゃんありがとう」
「このお兄ちゃんも、一緒に助けてくれたんだぞ」
そう言って、志瑞也はわざとらしく蒼万を見る。
「……お兄ちゃんありがとう」
弓弦も蒼万を見て少し怯えながら言った。
「ぷっ、蒼万もお礼言ってもらえて良かったな」
蒼万は笑を堪える志瑞也を横目で見た。
蒼万が弓弦の両親に尋ねる。
「被害の状況はご存じか?」
「はい、朱雀家と白虎家からの応援で、妖魔は全て退治したと聞いております。軫宿は山火事で朱能様と朱翔様が、翼宿は洪水で白虎家の磨虎様と黄龍家の黄虎様が、こちらは見ての通り土砂崩れで、今白虎家の柊虎様が民の救済にあたっております…もしや貴方様は、蒼龍家の蒼万様でいらっしゃいますか?」
蒼万が頷く。
「お隣の方は?」
「私の従者だ、柊虎は今何処に?」
愛想笑さえしないその表情に、弓弦の両親は緊張しつつも目を輝かせて言う。
「来ていただいてありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「こちらです」
弓弦父が二人を柊虎の元へと案内した。
志瑞也はあることを試みた。
「蒼万、少しは村の人達と話をしてみたら?」
「何故」
「皆蒼万には感謝しているけど、怖がっていたよ」
「何故」
「……」
必要なこと以外は話さない、笑わない、感情を出さない。志瑞也は呆れて、まともな意思疎通ができないこの男への試みを諦めた。しかし、夜寝る時は「志瑞也こっちに来い」「何故?」「お前は一人で眠れないであろう」と志瑞也がそうなる。蒼万で分かった事は〝何故〟は口癖なのか、二度は言わない言葉ではないらしい。攻略法を見つけるには、まだまだ会話が足りないのだった。
頭を捻らせている間に、二人は南宮領域の張宿に辿り着いた。村に進むにつれ、山一面木々が無惨にもなぎ倒され、山の土が雪崩のように辺りに積もり、その中に幾つもの家屋が崩れ埋もれていた。
志瑞也は信じ難い光景を見渡す。
「酷いっ、 これって土砂崩れか? これが妖魔の仕業なのか?」
蒼万は頷く。
「これ…俺のせいなのか?」
「……」
勾玉を外した事により、妖魔が出没した可能性があると分かっていても、実際見るまでは実感できないでいた。荒々しい光景を目にし、背筋がざわつき震える右腕を掴む。
その様子を、蒼万は黙って横目で見ていた。
その時、幼子の泣き声が聞こえ二人は辺りを見渡す。土砂や木々の間を通り、声のする方へ駆け寄る。そこには丁度幼子が通れるぐらいの隙間があり、隙間の向こうの土砂の前で、五つぐらいの男の子が泣き喚めいていた。
迷子に慣れた顔で、志瑞也は優しく声をかける。
「僕そっちは危ないよ、ほらおいで」
志瑞也の方からは木々に挟まれ、これ以上は行けない。恐らく、自ら隙間を通って向こう側に行ったのだ。隙間から腕を伸ばして掴もうとするが届かない、蒼万は木々が倒れないよう支える。
「怖くないから、ほらおいで」
「ううっぐすっ…うん」
男の子が志瑞也の手を掴む。
ほっとしてゆっくりとこちら側に引っ張り、隙間を通して抱えた。
「僕偉いな、よく頑張ったな」
安心したのか、志瑞也にしがみつき大声で泣き喚めく。志瑞也は優しく抱きしめ、その子の頭をなでる。
「いい子だな、蒼万ありがとう」
蒼万は頷く。
男女が慌てて駆け寄ってきた。
「弓弦っ!」
「父上っ 母上っ」
この子の両親が土砂に埋まっていると思っていたが、生きていたと安堵し、駆け寄る両親へ弓弦を引き渡す。
弓弦母が顔を覗き込みながら尋ねる。
「急にいなくなって、何処行ってたの?」
「ううっ…お家に帰ろうと思って…」
両親は先程弓弦がいた場所を見る。
「…お家は無くなっちゃったから、また新しいの建てようね」
「そうだぞ弓弦、父がもっと頑丈な家を建てるからな!」
「うん!」
弓弦父が逞しく腕を上げ力瘤を出すと、弓弦は嬉しそうに微笑んだ。
志瑞也は二人の言葉に胸が熱くなる。そして、懐かしくも遠すぎる、両親を思い出した。
「お二人共、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いいえ、弓弦良かったな」
志瑞也は弓弦の頭をなでながら微笑む。
「お兄ちゃんありがとう」
「このお兄ちゃんも、一緒に助けてくれたんだぞ」
そう言って、志瑞也はわざとらしく蒼万を見る。
「……お兄ちゃんありがとう」
弓弦も蒼万を見て少し怯えながら言った。
「ぷっ、蒼万もお礼言ってもらえて良かったな」
蒼万は笑を堪える志瑞也を横目で見た。
蒼万が弓弦の両親に尋ねる。
「被害の状況はご存じか?」
「はい、朱雀家と白虎家からの応援で、妖魔は全て退治したと聞いております。軫宿は山火事で朱能様と朱翔様が、翼宿は洪水で白虎家の磨虎様と黄龍家の黄虎様が、こちらは見ての通り土砂崩れで、今白虎家の柊虎様が民の救済にあたっております…もしや貴方様は、蒼龍家の蒼万様でいらっしゃいますか?」
蒼万が頷く。
「お隣の方は?」
「私の従者だ、柊虎は今何処に?」
愛想笑さえしないその表情に、弓弦の両親は緊張しつつも目を輝かせて言う。
「来ていただいてありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
「こちらです」
弓弦父が二人を柊虎の元へと案内した。
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