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第五章 彼岸花
友から学ぶ
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黄虎が朱翔を連れて自殿に戻る頃には、空は薄明りで肌寒くなっていた。
「文はいつ送るのだ?」
朱翔は額に手を翳し夕陽を見ながら言う。
「雲雀は目立つから夜だな」
「わかった、夕餉の後にしょう」
「それまでは?」
「そうだな、黄水室で疲れでも取ろう」
「わかった」
「取り敢えず客室に案内するよ」
「私は別にお前の自室で構わないぞ、酒を呑んだらどうせそのまま寝てしまうだろ?ハハハ」
「ったく、また呑むのか?ハハハ 侍女にお前の寝床を用意させるから、ここで待っていてくれ」
「わかった」
朱翔は庭園を散策しながら、今までの話を繋ぎ合わせてみた。
蒼万が切れ者なのは知っていたが、予想以上の頭脳明晰な可能性を朱翔は見出していた。神獣や神力のことも含め、何を何処までいつから知っていたのか、玄武家を上回る口の堅と抜け目なさに、侮れない奴だと「ふっ」鼻で笑う。妹朱夏は、それを見抜いて蒼万に惚れ込んでいたのか?
───いや、それはない。
どう考えても、朱夏は蒼万の顔しか見ていない。朱翔は腰に手を当て、顔の前で手を振りせせら笑う。一体、志瑞也を何処から連れて来たのか? 蒼万が志瑞也と共にいるということは、柊虎だけではなく、恐らく蒼万も黄怜が女子だったことを知っている。朱翔もまた、霊魂の転生での性別の違いに気付いた。そして、この話は柊虎が先ではなく、蒼万が発端だということも。そもそも、黄龍家で女子が生まれた話は聞いたことがない。朱翔は今まで気に留めなかったが、黄怜が性別を隠していたことで疑問を抱いた。
「朱翔、待たせたな」
「……」
黄虎は朱翔を呼びに来たが返事がない。
「朱翔っ!」
「ああっ、ごめんっ…」
「考え込んでどうしたのだ?」
「…黄虎、黄龍家って、何故皆男子しか生まれないんだ? 過去に女子は生まれなかったのか?」
何故そんなことを聞くのかと思ったが、言われてみたらと黄虎は腕を組み考えた。
「聞いたことないなぁ、でも確かにそうだよな…」
「まぁ黄龍家に女子が生まれたら、四神家の争いの種になるだろうな…」
黄虎は不思議そうに尋ねる。
「どういう意味だ?」
朱翔は分かり易く説明することにした。
「お前は黄龍家だから分からないかもしれないが、私達朱雀家は主に浄化の力が強く、基本争いは好まないから中立だ、それに玄武家は、本家女子にしか神獣は付かない」
黄虎は当然と頷く。
「それは知っている」
朱翔は人差し指を立て、腰に手を当てながら黄虎の周りを歩きだす。
「つまりだな、玄武家の男子は他神家に比べると、霊力は高くても神力はそこまで高くない。実際玄武家の男子は、戦うよりも守りの力の方が強いだろ?」
「うん」黄虎は頷く。
「となると残りは白虎家と蒼龍家だ、黄龍家直属の武神は、その二神家からしか生まれない、生まれなければ互が競い合うこともない。だが黄龍家に女子が生まれたら、どうなると思う?」
朱翔は立ち止まって顔だけ黄虎に振り向いた。
黄虎は目を見開く。
「嫁に貰らい、生まれた子が男子であれば、神家違いの傍系になれる!」
朱翔は頷きまた歩きだす。
「そうだ、更に他の四神家の傍系とは違い、黄龍家の血を引く傍系で、強い神力が備わっていれば?」
また立ち止まり黄虎に振り向いた。
「場合によっては武神か、養子に入れば黄龍家の宗主になれる…ということか?」
朱翔は「よくできました」と微笑んで頷きまた歩きだす。
「現に前宗主黄羊様は、傍系から宮に入った。当時の事は少しだけ聞いたことがあるんだが、お前の祖父黄星様の嫁候補も揉めたらしいんだ、前例のない側室を取り宮に入れたのも、黄羊様が自分の血族に執着していたからってな… 黄羊様のことはお前の方が良く知っているだろ?ハハハ」
朱翔は立ち止まって体ごと黄虎に振り向く。
「だが場合によって、他の二神と婚姻しないとは限らない、霊力の高い玄武家となら、神力霊力共に高い子が生まれるかもしれないし、朱雀家となら、浄化の力を強く持った子が生まれるかもしれないだろ? だから女子が生まれると四神家が奪い合い、争いが起きると思わないか?」
「私は、本当に知らなさすぎる…」
言いながら、黄虎はうつむく。
朱翔は黄虎の肩に手を置き笑顔で言う。
「仕方ないさ、お前は四神家ではないから色々耳に入らない事もあるよ、でもこれから学ぶために、私と旅に出るんだろ?ハハハ」
「朱翔っ」
「うわっ…」
堪らず、黄虎は朱翔に抱きついて言う。
「ありがとう… お前や柊虎がいてくれて、本当に良かった…」
朱翔は一瞬驚いたが玄華の言う通り、黄虎は確かに黄怜によく似ている。黄虎の背中に手を回し軽く叩いた。
「気にするな、友なら当たり前だハハハ それにお前が黄理様や、玄華様のお気持ちを忘れなければ大丈夫さ」
黄虎は胸を熱くさせる。
「ちょっ黄虎っ、もう離せよっ、くっ苦しいっ」
「黄虎様?」
朱翔を呼びに行った黄虎が戻って来ず、探しにきた侍女が抱き合う二人を見て驚く。
「なっ、何をされているのですか⁉︎」
二人はばっと離れる。
「とっ友とお伺いして、自室に寝床を用意いたしましたのに…もっもしやっ、そのような意味で⁉︎」
「……」
黄虎は黙ってしまった。
だが、下手に黄虎に弁解させてしまうと、何を言い出すか分からない。場合によっては更に誤解を招く、そんなの堪ったものではないと、取り繕いが得意な朱翔が微笑みながら言う。
「驚かせてしまったね、だけど誤解しないでもらえるかな? 私は既に婚約しているし、それに黄虎も近々婚約するよ」
「まあ! 虎春様とですか⁉︎」
「あぁ…」
侍女は目を輝かせて喜ぶ。
「やっぱり寝床は、客室に用意し直してもらえるかな? ハッハハ…」
言いながら口元だけ笑い、黄虎を横目で睨む。
「承知いたしました。先に黄水室に行かれます…か?」
侍女は顔を黄虎に向けながら、横目でちらっと朱翔を見る。
「友と旅の疲れを取るだけだっ、私は男色ではない!」
侍女の疑いの眼差しに、黄虎は不機嫌に去って行く。
いくら男前でも、男色と疑われたままなのは耐えられない。ましてや黄虎となんて、噂好きの侍女達に広まると、どんな想像されるか分からない。朱翔は名誉の為に侍女に近付き言う。
「私はあんな男より、あなたのような女子が好みだよ」
朱翔はぱちんと片目を閉じて微笑んだ後、黄虎の後を追いかける。
侍女はぽっと頬を赤らめて、去って行く朱翔を見つめた。
「文はいつ送るのだ?」
朱翔は額に手を翳し夕陽を見ながら言う。
「雲雀は目立つから夜だな」
「わかった、夕餉の後にしょう」
「それまでは?」
「そうだな、黄水室で疲れでも取ろう」
「わかった」
「取り敢えず客室に案内するよ」
「私は別にお前の自室で構わないぞ、酒を呑んだらどうせそのまま寝てしまうだろ?ハハハ」
「ったく、また呑むのか?ハハハ 侍女にお前の寝床を用意させるから、ここで待っていてくれ」
「わかった」
朱翔は庭園を散策しながら、今までの話を繋ぎ合わせてみた。
蒼万が切れ者なのは知っていたが、予想以上の頭脳明晰な可能性を朱翔は見出していた。神獣や神力のことも含め、何を何処までいつから知っていたのか、玄武家を上回る口の堅と抜け目なさに、侮れない奴だと「ふっ」鼻で笑う。妹朱夏は、それを見抜いて蒼万に惚れ込んでいたのか?
───いや、それはない。
どう考えても、朱夏は蒼万の顔しか見ていない。朱翔は腰に手を当て、顔の前で手を振りせせら笑う。一体、志瑞也を何処から連れて来たのか? 蒼万が志瑞也と共にいるということは、柊虎だけではなく、恐らく蒼万も黄怜が女子だったことを知っている。朱翔もまた、霊魂の転生での性別の違いに気付いた。そして、この話は柊虎が先ではなく、蒼万が発端だということも。そもそも、黄龍家で女子が生まれた話は聞いたことがない。朱翔は今まで気に留めなかったが、黄怜が性別を隠していたことで疑問を抱いた。
「朱翔、待たせたな」
「……」
黄虎は朱翔を呼びに来たが返事がない。
「朱翔っ!」
「ああっ、ごめんっ…」
「考え込んでどうしたのだ?」
「…黄虎、黄龍家って、何故皆男子しか生まれないんだ? 過去に女子は生まれなかったのか?」
何故そんなことを聞くのかと思ったが、言われてみたらと黄虎は腕を組み考えた。
「聞いたことないなぁ、でも確かにそうだよな…」
「まぁ黄龍家に女子が生まれたら、四神家の争いの種になるだろうな…」
黄虎は不思議そうに尋ねる。
「どういう意味だ?」
朱翔は分かり易く説明することにした。
「お前は黄龍家だから分からないかもしれないが、私達朱雀家は主に浄化の力が強く、基本争いは好まないから中立だ、それに玄武家は、本家女子にしか神獣は付かない」
黄虎は当然と頷く。
「それは知っている」
朱翔は人差し指を立て、腰に手を当てながら黄虎の周りを歩きだす。
「つまりだな、玄武家の男子は他神家に比べると、霊力は高くても神力はそこまで高くない。実際玄武家の男子は、戦うよりも守りの力の方が強いだろ?」
「うん」黄虎は頷く。
「となると残りは白虎家と蒼龍家だ、黄龍家直属の武神は、その二神家からしか生まれない、生まれなければ互が競い合うこともない。だが黄龍家に女子が生まれたら、どうなると思う?」
朱翔は立ち止まって顔だけ黄虎に振り向いた。
黄虎は目を見開く。
「嫁に貰らい、生まれた子が男子であれば、神家違いの傍系になれる!」
朱翔は頷きまた歩きだす。
「そうだ、更に他の四神家の傍系とは違い、黄龍家の血を引く傍系で、強い神力が備わっていれば?」
また立ち止まり黄虎に振り向いた。
「場合によっては武神か、養子に入れば黄龍家の宗主になれる…ということか?」
朱翔は「よくできました」と微笑んで頷きまた歩きだす。
「現に前宗主黄羊様は、傍系から宮に入った。当時の事は少しだけ聞いたことがあるんだが、お前の祖父黄星様の嫁候補も揉めたらしいんだ、前例のない側室を取り宮に入れたのも、黄羊様が自分の血族に執着していたからってな… 黄羊様のことはお前の方が良く知っているだろ?ハハハ」
朱翔は立ち止まって体ごと黄虎に振り向く。
「だが場合によって、他の二神と婚姻しないとは限らない、霊力の高い玄武家となら、神力霊力共に高い子が生まれるかもしれないし、朱雀家となら、浄化の力を強く持った子が生まれるかもしれないだろ? だから女子が生まれると四神家が奪い合い、争いが起きると思わないか?」
「私は、本当に知らなさすぎる…」
言いながら、黄虎はうつむく。
朱翔は黄虎の肩に手を置き笑顔で言う。
「仕方ないさ、お前は四神家ではないから色々耳に入らない事もあるよ、でもこれから学ぶために、私と旅に出るんだろ?ハハハ」
「朱翔っ」
「うわっ…」
堪らず、黄虎は朱翔に抱きついて言う。
「ありがとう… お前や柊虎がいてくれて、本当に良かった…」
朱翔は一瞬驚いたが玄華の言う通り、黄虎は確かに黄怜によく似ている。黄虎の背中に手を回し軽く叩いた。
「気にするな、友なら当たり前だハハハ それにお前が黄理様や、玄華様のお気持ちを忘れなければ大丈夫さ」
黄虎は胸を熱くさせる。
「ちょっ黄虎っ、もう離せよっ、くっ苦しいっ」
「黄虎様?」
朱翔を呼びに行った黄虎が戻って来ず、探しにきた侍女が抱き合う二人を見て驚く。
「なっ、何をされているのですか⁉︎」
二人はばっと離れる。
「とっ友とお伺いして、自室に寝床を用意いたしましたのに…もっもしやっ、そのような意味で⁉︎」
「……」
黄虎は黙ってしまった。
だが、下手に黄虎に弁解させてしまうと、何を言い出すか分からない。場合によっては更に誤解を招く、そんなの堪ったものではないと、取り繕いが得意な朱翔が微笑みながら言う。
「驚かせてしまったね、だけど誤解しないでもらえるかな? 私は既に婚約しているし、それに黄虎も近々婚約するよ」
「まあ! 虎春様とですか⁉︎」
「あぁ…」
侍女は目を輝かせて喜ぶ。
「やっぱり寝床は、客室に用意し直してもらえるかな? ハッハハ…」
言いながら口元だけ笑い、黄虎を横目で睨む。
「承知いたしました。先に黄水室に行かれます…か?」
侍女は顔を黄虎に向けながら、横目でちらっと朱翔を見る。
「友と旅の疲れを取るだけだっ、私は男色ではない!」
侍女の疑いの眼差しに、黄虎は不機嫌に去って行く。
いくら男前でも、男色と疑われたままなのは耐えられない。ましてや黄虎となんて、噂好きの侍女達に広まると、どんな想像されるか分からない。朱翔は名誉の為に侍女に近付き言う。
「私はあんな男より、あなたのような女子が好みだよ」
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