天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

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第五章 彼岸花

手強い話相手

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 黄虎は驚愕の事実に身を乗り出す。
「でっでは、きっ黄怜はっ、女子だったのですっか?」
「そうです。玄華が懐妊して直ぐ、私の霊力でお腹の子が女子だと分かりました。義父上に知られたらまた奪われてしまうと思い、黄星と相談し、男子として育てるよう指示しました。義父上の世継ぎへの執着は異常だと知っていましたから、黄一も玄華もその方が良いと。ですから二人は、睦黄の存在を知りません。黄怜が生まれると神獣を見せろと圧力をかけられ、女子と知られたら何をするか分からない恐怖に、二人共怯えていました… 実際黄龍家に女子が生まれないのは、災いの種になるからと代々云われています。義父上は自分の血を継ぐ者から、災いが生まれた事実を隠したかったのでしょう…」
「そんな…」黄虎は顔を横に振る。
「黄怜は本当は女子として明るく育つべきなのに、男装させて親しい女子の友もいなく、寂しい思いをさせてしまいました… でも黄虎、黄怜にとってあなたは唯一無二の従姉弟であり弟です。あなたの存在が、どんなに有難いか分かりますか? 黄怜はあなたをとても大切に思っていました、私も玄華もです。九虎がいたからこそ黄理が生まれ、あなたがいるのです。事が事実だったとしても、私は完全に九虎を憎むことはできないのです」
 玄枝の意外な言葉に黄虎は顔を曇らせる。
「ではっ、祖母上のしたことをっ、ゆっ許されるのですか?……わっ私は許せませんっ、でないとっ、それでは黄怜があまりにもっ、伯母上もっ」
 震える黄虎の手を取り玄枝は優しく話す。
「黄虎、事の決まりは許す許さないだけではないのです。事実が明るみになった際に、私も許せなくなるかもしれません。しかし初めから許さないと決めつけてしまっては、全て許せなくなってしまうのです。大切な思い出まで全てです。そうなると、今度は自分を許せなくなるのです。あなたにはそうなってほしくありません」
「玄枝様っ、では私はっ、こっ今後どう動けば良いのですかっ⁉︎」
 手に取るように黄虎は素直だ、玄枝は微笑みながら言う。
「だから安易と申したのです、私と共にゆっくり見極めるのです」
 そんな悠長にしてよいものか、無責任ではないかと黄虎は顔をしかめる。
「しっ、しかし…」
「焦りは禁物ですよ、余裕のある者の方が事は有利に運べます。分かりましたか?」
「……」
 黄虎は黙りながら拳を握る。
 何故こんなにも玄枝が自分達を引き止めるのか、朱翔は何か理由があると感じた。
「私は玄枝様に賛同いたします」
「朱翔っ」
「黄虎考えても見ろよ、私達は今はっきり言って、九虎様の何を調べるんだ?」
「そっそれは、これから…」
「それが闇雲だって、玄枝様は言ってるんだよ」
「でっでも…」
 それでもまだ納得しない黄虎に、朱翔は鼻息をついて指で数えながら言う。
「いいか黄虎、今分かっている事と言えば、お前が九虎様の自室で聞いた不確かな内容と、その後黄怜が妖魔に襲われた事と……って、その二つしかないじゃないかっ」
 数えた朱翔も改めて情報が少ないと知る。
「…そっそうだけど、ん? 待てよ…あっ、玄枝様っ、一つ忘れておりました、あの日黄怜の血の付いた私の衣を、祖母上が全て燃やしておりましたっ」
 刹那、玄枝と玄一は針の視線で目配せする。
「黄怜が襲われた証拠を消す為だと祖母上は申しておりましたが、今思い返せば私が柊虎に打ち明けた時、あいつはあの日の蒼万の行動と、何故衣を燃やしたかだけしか聞き返しませんでした。何か関係があるのですか?」
 九虎への疑惑が確信に変わり、玄枝は微かに奥歯を噛みしめた。そして、柊虎がそれを知っていて黄虎に探りを入れたのであれば、蒼万はやはり血の謎に気付いている。血の事を話せば朱翔が何かに気付くだろう。だが、下手に二人に動き廻られては困ると思い玄枝は言う。
「黄怜の存在は妖魔を呼び、血は妖魔を引きつけます」
「…なっ?」
「……」
 黄虎は固まり、朱翔はわずかに眉間に皺を寄せた。
「何故かは分かりませんが、私が創った御守りは妖魔から黄怜の存在は隠してくれましたが、流血すると駄目でした」
「…御守り? もしやっ、いつも首に着けていた勾玉のことですか⁉︎」
「そうです。黄怜が産まれた時は、私達もこの事には気付きませんでした。黄怜が生まれた頃、妖魔が頻繁に出没して中央宮が騒がしく、このままでは女子と知られてしまうと思い、療養を名目に心宿に移り暮らさせました。本来は五つの講習会までに何か装飾を創り、神獣を抑えていると思わせるつもりでしたが、心宿で黄怜が怪我をした際、襲ってきた妖魔によって血の事が分かったのです。それからは急ぎ妖魔から守るために、勾玉に強い霊力を込めて創りました」
 思い返せば、黄怜の神獣を一度も見たことはない。だが、黄虎は当時微塵も疑わなかった。黄怜はどんな気持ちだったのか、あの笑顔の裏側は何を思っていたのか、黄虎は胸が張り裂けそうになる。
「あの勾玉はずっと、神獣を抑えているとばかり思っておりました…」
「周囲にはそう思わせるしかなかったのです。特に義父上に… 黄怜が五つの時に御守りを着けると妖魔の出没が止まり、一時は私達も安堵しました。その事で存在が呼び寄せていると分かりましたが、黄怜が六つの時に擦り傷を負い妖魔が現れた事で、勾玉の効力は血には効かないと分かりました…」
 黙って聞いていた朱翔が話しだす。
「玄枝様、話を戻させていただきますが、九虎様が血の付いた衣を燃やしたってことは、黄怜の血が妖魔を引きつけるのを、九虎様は知っていたことになりますよね? 人を襲うはずのない妖魔が黄怜だけを狙うことができるのは、誰かに操られていたからではないのですか?」
 やはり、朱翔は何かに気付いていた。
「今の事実から単純に推測すると、妖魔を操っているのは九虎様で、その妖魔を操るための餌が、黄怜の血って事になります」
 朱翔が何を言わんとしているのか、黄虎は眉をひそめる。
「……」
 玄枝は黙ったまま朱翔を見た。
 玄葉同様、玄枝も玄一も鼓動の乱れが全く聴こえない。策が通じない相手となれば、直接聞くしか方法はない。恐らく、玄枝は問う内容のみに答えるはずだ。ならばと、朱翔は言葉を選びながら明確に尋ねる。
「しかし玄枝様、妖魔を操るのは邪術では? 邪術は生きた神族には扱えないそうですね、強い怨みを持つ人間や、強い怨みを持って死んだ者にしか扱えない。玄枝様達は既に、妖魔が操られていることはご存じだったのでは? だから〝操っている者〟から守るために、御守りをお創りになられたのでは? 冥界に長けている玄武家しか知らない事があると思われますが、教えていただけますか?」
 そう言って、朱翔は怪しげに微笑んだ。
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