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第六章 寒芍薬
不安を和らげて
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話も一通り終わり、三人は明日に備え早めに寝床に入る準備をした。室内は寝床が四つある。志瑞也が柊虎の近くの寝床に向かうと「お前はこっちだ」蒼万が反対の端の寝床へと引っ張り、柊虎は呆れながら寝床に入った。部屋に他の者がいる状況でこうしていることに、息苦しさを感じ寝れるはずがない。外は物音一つ聞こえない程静かで、とくとくと、ただ時間だけが過ぎていった。
「寝れないのか?」
蒼万がぼそっと背後から耳元で言い、志瑞也もぼそっと返す。
「ちょっと考えごと」
「…さっきは何を話していた」
生温かい吐息に、肌が反応する。
「モモ爺達のことだよ…」
「…何故泣いていた」
密着した背中の隙間が熱くなり、少し離れようと体をずらした。
「何でもないって言っただろ、もう寝よう」
「…志瑞也、泣きたい時は私に言え」
お腹に回された蒼万の左腕に、ぐっと力が入り引き戻される。
「…わかった、ありがとう…」
涙が鼻根を通り横に流れ、喉の奥で気管が震える。乱れる呼吸を呑み込み、声を殺して耐えた。
もう、苦しい…心が痛い。
蒼万が上半身を起こし背後から覗き込み、志瑞也は咄嗟に左手を頬に翳して顔を隠した。お腹にあった蒼万の左腕が動き、志瑞也はその行く手を阻み「やめろ」と顔を横に振る。だが、蒼万は阻んだ手を振り払い、志瑞也の左肩を掴み体ごと仰向けに振り向かせた。泣いていると知られたら、理由を聞かれてしまう。口元を左手で塞ぎ、目を瞑り顔を右側に背けるも、蒼万が右頬に触れ、抵抗するのを振り向かせた。
次の瞬間、
(え… な、なんで…)
戸惑いが押し寄せる。
蒼万の唇が肌に触れ涙を拭う。込み上げてくる辛さを抑えられず、志瑞也は両手で口を塞ぎ咽び泣く。瞼、頬、手の甲、指、宥めるように、唇は優しくなでた。何故こんなことをするのか、責任感なのか忠誠心なのか分からない。でも、それでも構わない。どうせ消えてしまうなら、せめて一度だけでも、その唇と触れ合いたい。志瑞也は口元から少しずつ手を離す。開かれた扉から唇と唇が重なり、とても切なく心が震えた。こんなにも苦しい触れ合いがあるだろうか、まるで別れの餞別のようだ。
少し弾力のある唇が、余すところなく唇を包み込む。右腕にされた記憶が蘇り、あの感触を舌で味わいたい、蒼万は気持ち悪くないだろうか、流石に男同士でそこまでは、と……拒絶されたら。それでも止まらない欲に、唇は自然と開いてしまう。舌先でたどたどしく触れ合い、徐々に、徐々に、全体の肉厚を味わう。口内を満たしていく熱に、堪らず蒼万の首に両腕を回した。どれほど蒼万を想っているのか、一度の触れ合いで思い知らされた。夢中でしがみつき、舌を絡み合わせ隙間なく唇を重ねる。
蒼万が志瑞也の股の間を片足でこじ開け、下半身を滑らせ覆い被さった。身体に伝わる重みに、志瑞也は幸せを感じてしまう。だが、得体の知れない疼きが、心と身体を支配しようと現れる。一つ願いが満たされると、また一つ、また一つ、欲は限りなく増えるものだ。
志瑞也は支配に抗う。蒼万が受け入れてくれたのは、男としての一時的な欲求だ。宥めるつもりが煽られ、度を越してしまっただけだ。これ以上求めるのはお互いのために良くない、今なら過剰な優しさと受け止め、無理にでも気持ちを終わらせることができる。自分の想いに振り回しては駄目だ、必死に自分に言い聞かせた。知らなければ、触れ合わなければ、まだ我慢できただろう。だが、志瑞也は気づいてしまったのだ。心がほしい、求められたい……愛し合いたいと。蒼万から離れようと、名残惜しく舌を引っ込め、首に回した手を解き瞼を開けた。
「んんーっ!」
志瑞也の股間に、蒼万の下半身がぐっと押し付けられた。危険な刺激に涙が止まり、感覚が一気に自分の物へと集まる。
これはまずい。
「んーっ、んーっ…」
蒼万は奥に舌を絡ませながら、ゆっくりと下半身を擦り付ける。身動きが取れず組み敷かれ、まるで男女の情事をしているかのような動きに、志瑞也の腰は反応して疼く。蒼万の男の性に火をつけてしまい、やめるのが遅過ぎたのだ。だとしても、続けることはできない、焦って唇を引き離し小声で言う。
「んぷはっ…そっ、あっ…蒼万っ もっ…あっ、もう十分だからっ」
蒼万の動きが止まる。
「…何が」
志瑞也はほっとして、蒼万の肩をトントンと優しく叩く。
「もう大丈夫だから… ありがとう…」
蒼万が耳元で低く言う。
「私は十分ではない」
…は?
再び下半身に刺激が訪れる。
「蒼万っ、あっ…ひっ、柊虎が、居る…っ」
「ふっ、居なければして良いのか?」
…え?
蒼万は鼻で笑い、志瑞也を抱きしめ更にぐっと押し付けた。
「あう…っ」
思わず声が漏れてしまい、引き剥がそうと慌てて蒼万の肩を掴む。
「やっ、やめろよっ…あっ、やめっ…」
自分が招いた事だがなんとか蒼万を止めなければ、押し退けようとするが、体重を乗せられて動けない。夜這いをかけられた世の女子達は皆こうなのか?〝嫌よ嫌よも好きの内〟志瑞也はそう思いながら、蒼万の艶やかな髪に指を絡め抵抗する。
蒼万はもがく志瑞也の後頭部に手を回し、髪紐を解き襟足をかき上げた。
「はあっ…」
気持ちいい!
志瑞也は強烈に感じてしまい、首筋から頭に走る稲妻に目を眩ませた。腰から下は既に抵抗するどころか、淫らにも自ら股を開げ、継続的に刺激を与えてくる蒼万を受け入れている。次第に腕や手の力も抜け、ただ添えているのか、それとも引き寄せているのか、もうわからない。同時に押し寄せる快感に抗えず、志瑞也は閉じた口から甘い吐息を漏らす。蒼万の息が荒くなり、チクッと覚えのある痛みを感じた。
「そっ蒼万っ、跡つけたのか?」
蒼万が動きを止め耳元で言う。
「お前は私のものだ」
「なっ、何言ってっ」
志瑞也はばっと横に振り向くと、鋭い双眸と目が合う。
「私はお前が欲しい」
「……」
「誰にも触れさせたくない」
「……」
「私以外の者の前で泣くな、特にあいつは許さぬ」
「柊っんっ…ちゅっ」
志瑞也は口を塞がれた。
「私以外の名は呼ぶな」
……何て自分勝手な男だ!
志瑞也は逃れようともがきながら言う。
「なっ何だよそれっ、好きな女がいるだろっ」
「女とは言ってはいない」
はて? 一旦落ち着いて、今までの言葉の十は何かと考える。先の六つの言葉は、都合の良い思考にしか繋がらない。それに、この状態で読み取る事は無理だ。ならばと、十の答えに辿り着くため質問することにした。
「そっそれじゃ、蒼万の想っている人って?」
「お前だ」
「…蒼万は俺が、好きなのか?」
蒼万は頷く。
「おっ、俺が黄怜だからっ」
「お前を黄怜だと思ったことは一度もない」
「…本当か?」
「本当だ」
蒼万は嘘はつかないが、志瑞也は考えが追いつかない。思いもよらない十の告白に、心臓が大きく鼓動を打ち息苦しくなる。
蒼万が志瑞也の頬に触れて言う。
「お前の想い人は… 私ではないのか…?」
蒼万らしからぬ表情に、志瑞也は目を奪われる。この男は今、自身がどんな顔しているのか分かっているのだろうか。わずかに口を窄め、求めている答えが欲しくて悲しげに見つめてくる。それは、幾人ものお姉様達を虜にしそうな可愛らしさだ。しかも言葉を詰まらせ、声まで震わせて、こんな武器があれば百戦錬磨だろう。だが、この男にこんな器用な芸当ができるはずがない。それが自分に向けられているのかと思うと、愛しくて堪らなくなった。
「蒼万、キスして…」
「お前は…」
「俺は蒼万が、好きだ…」
たった一言だが、志瑞也は幸せすぎて涙が溢れる。一方的に求めていた切ない口づけとは違い、重なる感触や唾液までもが、濃厚な甘さに感じられた。蒼万の手が荒々しく身体をなで回し、熱い手で内股の付け根を掴み揉みだす。身体は素直に悦び、下腹部が疼き腰を捩らせた。蒼万は再び息を荒くし、獲物を目前にした猛獣の眼をしていた。互いの唇を交差しながら、一本の視線上で蒼万と志瑞也は出逢う。金色の瞳に、硬くなった志瑞也がびくんと動き、猛獣は「ふっ」と口元を笑わせ、志瑞也に蒼万をごりっと押し付けた。
「んんっー!」
志瑞也は完全体なる蒼万に一瞬で冷静になる。この猛獣は、今からここで獲物を喰べるつもりなのか? もしや、仕掛けに招かれたのは自分の方では? 志瑞也は片手を興奮した猛獣の胸に押しあて、少しずつ引き剥がす。唇を離された猛獣は少し唸り、獲物をおあずけされ不機嫌な顔をする。志瑞也はまだ手懐けていない猛獣を見つめ、宥めるように笑顔で優しく言う。
「蒼万、落ち着け、俺達は明日、何をしに行く?」
「…話だ」
「そう、だから、この続きは、えっと…」
「いつだっ」
「えっえっと…そっそうだっ、俺は、蒼万の、部屋がいい」
「…私の自室?」
「そう、ゆっゆっくり、なっ?」
「…ふっ、逃さぬぞ」
そう言って、蒼万は瞳を光らせ怪しげに笑う。
もしや餓えた猛獣相手に、とんでもない約束をしてしまったのではないか。先程の愛くるしい顔は何だったのか、ひよっとして騙されたのか。志瑞也は一瞬だけ、蒼万を疑ってしまった。
蒼万が落ち着きを取り戻してから、二人は向かい合わせで横になる。志瑞也は蒼万の二の腕に頭を置き、腰に手を回す。
「蒼万」
「何だ」
蒼万が頭をなでる。
「ありがとう」
「何が」
志瑞也は微笑んで言う。
「好きだよ」
「…私もだ」
蒼万は志瑞也を抱き寄せ額に口づけし、志瑞也は蒼万の胸に顔を寄せ眠りについた。
「寝れないのか?」
蒼万がぼそっと背後から耳元で言い、志瑞也もぼそっと返す。
「ちょっと考えごと」
「…さっきは何を話していた」
生温かい吐息に、肌が反応する。
「モモ爺達のことだよ…」
「…何故泣いていた」
密着した背中の隙間が熱くなり、少し離れようと体をずらした。
「何でもないって言っただろ、もう寝よう」
「…志瑞也、泣きたい時は私に言え」
お腹に回された蒼万の左腕に、ぐっと力が入り引き戻される。
「…わかった、ありがとう…」
涙が鼻根を通り横に流れ、喉の奥で気管が震える。乱れる呼吸を呑み込み、声を殺して耐えた。
もう、苦しい…心が痛い。
蒼万が上半身を起こし背後から覗き込み、志瑞也は咄嗟に左手を頬に翳して顔を隠した。お腹にあった蒼万の左腕が動き、志瑞也はその行く手を阻み「やめろ」と顔を横に振る。だが、蒼万は阻んだ手を振り払い、志瑞也の左肩を掴み体ごと仰向けに振り向かせた。泣いていると知られたら、理由を聞かれてしまう。口元を左手で塞ぎ、目を瞑り顔を右側に背けるも、蒼万が右頬に触れ、抵抗するのを振り向かせた。
次の瞬間、
(え… な、なんで…)
戸惑いが押し寄せる。
蒼万の唇が肌に触れ涙を拭う。込み上げてくる辛さを抑えられず、志瑞也は両手で口を塞ぎ咽び泣く。瞼、頬、手の甲、指、宥めるように、唇は優しくなでた。何故こんなことをするのか、責任感なのか忠誠心なのか分からない。でも、それでも構わない。どうせ消えてしまうなら、せめて一度だけでも、その唇と触れ合いたい。志瑞也は口元から少しずつ手を離す。開かれた扉から唇と唇が重なり、とても切なく心が震えた。こんなにも苦しい触れ合いがあるだろうか、まるで別れの餞別のようだ。
少し弾力のある唇が、余すところなく唇を包み込む。右腕にされた記憶が蘇り、あの感触を舌で味わいたい、蒼万は気持ち悪くないだろうか、流石に男同士でそこまでは、と……拒絶されたら。それでも止まらない欲に、唇は自然と開いてしまう。舌先でたどたどしく触れ合い、徐々に、徐々に、全体の肉厚を味わう。口内を満たしていく熱に、堪らず蒼万の首に両腕を回した。どれほど蒼万を想っているのか、一度の触れ合いで思い知らされた。夢中でしがみつき、舌を絡み合わせ隙間なく唇を重ねる。
蒼万が志瑞也の股の間を片足でこじ開け、下半身を滑らせ覆い被さった。身体に伝わる重みに、志瑞也は幸せを感じてしまう。だが、得体の知れない疼きが、心と身体を支配しようと現れる。一つ願いが満たされると、また一つ、また一つ、欲は限りなく増えるものだ。
志瑞也は支配に抗う。蒼万が受け入れてくれたのは、男としての一時的な欲求だ。宥めるつもりが煽られ、度を越してしまっただけだ。これ以上求めるのはお互いのために良くない、今なら過剰な優しさと受け止め、無理にでも気持ちを終わらせることができる。自分の想いに振り回しては駄目だ、必死に自分に言い聞かせた。知らなければ、触れ合わなければ、まだ我慢できただろう。だが、志瑞也は気づいてしまったのだ。心がほしい、求められたい……愛し合いたいと。蒼万から離れようと、名残惜しく舌を引っ込め、首に回した手を解き瞼を開けた。
「んんーっ!」
志瑞也の股間に、蒼万の下半身がぐっと押し付けられた。危険な刺激に涙が止まり、感覚が一気に自分の物へと集まる。
これはまずい。
「んーっ、んーっ…」
蒼万は奥に舌を絡ませながら、ゆっくりと下半身を擦り付ける。身動きが取れず組み敷かれ、まるで男女の情事をしているかのような動きに、志瑞也の腰は反応して疼く。蒼万の男の性に火をつけてしまい、やめるのが遅過ぎたのだ。だとしても、続けることはできない、焦って唇を引き離し小声で言う。
「んぷはっ…そっ、あっ…蒼万っ もっ…あっ、もう十分だからっ」
蒼万の動きが止まる。
「…何が」
志瑞也はほっとして、蒼万の肩をトントンと優しく叩く。
「もう大丈夫だから… ありがとう…」
蒼万が耳元で低く言う。
「私は十分ではない」
…は?
再び下半身に刺激が訪れる。
「蒼万っ、あっ…ひっ、柊虎が、居る…っ」
「ふっ、居なければして良いのか?」
…え?
蒼万は鼻で笑い、志瑞也を抱きしめ更にぐっと押し付けた。
「あう…っ」
思わず声が漏れてしまい、引き剥がそうと慌てて蒼万の肩を掴む。
「やっ、やめろよっ…あっ、やめっ…」
自分が招いた事だがなんとか蒼万を止めなければ、押し退けようとするが、体重を乗せられて動けない。夜這いをかけられた世の女子達は皆こうなのか?〝嫌よ嫌よも好きの内〟志瑞也はそう思いながら、蒼万の艶やかな髪に指を絡め抵抗する。
蒼万はもがく志瑞也の後頭部に手を回し、髪紐を解き襟足をかき上げた。
「はあっ…」
気持ちいい!
志瑞也は強烈に感じてしまい、首筋から頭に走る稲妻に目を眩ませた。腰から下は既に抵抗するどころか、淫らにも自ら股を開げ、継続的に刺激を与えてくる蒼万を受け入れている。次第に腕や手の力も抜け、ただ添えているのか、それとも引き寄せているのか、もうわからない。同時に押し寄せる快感に抗えず、志瑞也は閉じた口から甘い吐息を漏らす。蒼万の息が荒くなり、チクッと覚えのある痛みを感じた。
「そっ蒼万っ、跡つけたのか?」
蒼万が動きを止め耳元で言う。
「お前は私のものだ」
「なっ、何言ってっ」
志瑞也はばっと横に振り向くと、鋭い双眸と目が合う。
「私はお前が欲しい」
「……」
「誰にも触れさせたくない」
「……」
「私以外の者の前で泣くな、特にあいつは許さぬ」
「柊っんっ…ちゅっ」
志瑞也は口を塞がれた。
「私以外の名は呼ぶな」
……何て自分勝手な男だ!
志瑞也は逃れようともがきながら言う。
「なっ何だよそれっ、好きな女がいるだろっ」
「女とは言ってはいない」
はて? 一旦落ち着いて、今までの言葉の十は何かと考える。先の六つの言葉は、都合の良い思考にしか繋がらない。それに、この状態で読み取る事は無理だ。ならばと、十の答えに辿り着くため質問することにした。
「そっそれじゃ、蒼万の想っている人って?」
「お前だ」
「…蒼万は俺が、好きなのか?」
蒼万は頷く。
「おっ、俺が黄怜だからっ」
「お前を黄怜だと思ったことは一度もない」
「…本当か?」
「本当だ」
蒼万は嘘はつかないが、志瑞也は考えが追いつかない。思いもよらない十の告白に、心臓が大きく鼓動を打ち息苦しくなる。
蒼万が志瑞也の頬に触れて言う。
「お前の想い人は… 私ではないのか…?」
蒼万らしからぬ表情に、志瑞也は目を奪われる。この男は今、自身がどんな顔しているのか分かっているのだろうか。わずかに口を窄め、求めている答えが欲しくて悲しげに見つめてくる。それは、幾人ものお姉様達を虜にしそうな可愛らしさだ。しかも言葉を詰まらせ、声まで震わせて、こんな武器があれば百戦錬磨だろう。だが、この男にこんな器用な芸当ができるはずがない。それが自分に向けられているのかと思うと、愛しくて堪らなくなった。
「蒼万、キスして…」
「お前は…」
「俺は蒼万が、好きだ…」
たった一言だが、志瑞也は幸せすぎて涙が溢れる。一方的に求めていた切ない口づけとは違い、重なる感触や唾液までもが、濃厚な甘さに感じられた。蒼万の手が荒々しく身体をなで回し、熱い手で内股の付け根を掴み揉みだす。身体は素直に悦び、下腹部が疼き腰を捩らせた。蒼万は再び息を荒くし、獲物を目前にした猛獣の眼をしていた。互いの唇を交差しながら、一本の視線上で蒼万と志瑞也は出逢う。金色の瞳に、硬くなった志瑞也がびくんと動き、猛獣は「ふっ」と口元を笑わせ、志瑞也に蒼万をごりっと押し付けた。
「んんっー!」
志瑞也は完全体なる蒼万に一瞬で冷静になる。この猛獣は、今からここで獲物を喰べるつもりなのか? もしや、仕掛けに招かれたのは自分の方では? 志瑞也は片手を興奮した猛獣の胸に押しあて、少しずつ引き剥がす。唇を離された猛獣は少し唸り、獲物をおあずけされ不機嫌な顔をする。志瑞也はまだ手懐けていない猛獣を見つめ、宥めるように笑顔で優しく言う。
「蒼万、落ち着け、俺達は明日、何をしに行く?」
「…話だ」
「そう、だから、この続きは、えっと…」
「いつだっ」
「えっえっと…そっそうだっ、俺は、蒼万の、部屋がいい」
「…私の自室?」
「そう、ゆっゆっくり、なっ?」
「…ふっ、逃さぬぞ」
そう言って、蒼万は瞳を光らせ怪しげに笑う。
もしや餓えた猛獣相手に、とんでもない約束をしてしまったのではないか。先程の愛くるしい顔は何だったのか、ひよっとして騙されたのか。志瑞也は一瞬だけ、蒼万を疑ってしまった。
蒼万が落ち着きを取り戻してから、二人は向かい合わせで横になる。志瑞也は蒼万の二の腕に頭を置き、腰に手を回す。
「蒼万」
「何だ」
蒼万が頭をなでる。
「ありがとう」
「何が」
志瑞也は微笑んで言う。
「好きだよ」
「…私もだ」
蒼万は志瑞也を抱き寄せ額に口づけし、志瑞也は蒼万の胸に顔を寄せ眠りについた。
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