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第3章 折り重なる感情
第31話
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(嫌だ、嘘だ、関係のないことじゃないか。俺は能力もないただの部外者だったはずだ。仲間ができたと思ってた――でも一緒に破滅したい訳じゃない。帰れない? 軟禁? だって俺は違う国から、森の外からやってきたじゃないか! 出られないはずがない!!)
ついさっきガイルとノアからされた話を何とかして否定しようとぶんぶんと頭を振る。
「出て行ってやる。今すぐ帰るんだ、両親と過ごしたあの家、あの国に」
もうどうでもいいと思っていた。家はなくなったわけではないけれど、2人との思い出が詰まった家は1人でいると寂しくて、もう帰る場所なんてないと思っていた。けれど捨てたわけじゃない。いつか時間が心の整理を付けたら帰りたい場所ではあったはずだ。望めばすぐに行ける場所だったはずだ。
いまだがらんとした自室で自分の鞄を引っ掴み、レナードは後ろを振り返らずに真っすぐ村の入口を目指した。放課後すぐに話し始めたのに、空にはもう星が光る時間になっていた。
ーーよりによって夜の森に入りがって!
入口に差し掛かるとルプスの言葉が彼の頭をよぎる。後ろを少し振り返れば、夜の村はしんと静まり返って誰一人出歩く者はいない。
あれほど怖い思いをしたというのに、漠然とした不安のために目の前の恐怖へ身を投げ出すのか。本当にこの選択肢は正解だろうか。せめて朝まで待つべきじゃないのか。
暗闇と共に森の奥から獣の声が聞こえてくる。道の脇に備えられた石は、頼りなげにぼんやりとした柔らかな光を放っている。だが光を失った石がもし途中にあればまた危険と遭遇するのは間違いない。
勢いだけで飛び出してきたレナードの足が止まる。外へ繋がる道はぽっかりと暗い穴のようにあいていて、彼の不安を煽り建てる。それでも引っ込んだ勇気を奮い立たせて、えいと目をつむって村と村と道の境界線へと踏み出した。
「……あれ?」
目を瞑ったまま数歩。少しとはいえ進んで変わったはずの風景はまるで変わらない。疑問符をいくつも浮かべながら、今度は目をしっかりと開けたまま踏み出す。
「やっぱり、変だ」
境界線から出た途端、彼はいつの間にか村の中に立っている。その後何度試しても駄目だった。
「ここを通るからいけないんじゃないか?」
村と道との境目には明確な境界線がある。一瞬でも森の中を経由して道に入れば、この不可解な現象は起きないかもしれない。大丈夫、すぐに戻れば問題ないはずだ。辺りを警戒しつつ、レナードは恐る恐るを足を踏み出す。――刹那、彼の目の前の地面に一本の矢が突き刺さった。
えっ、と驚きの声を出す暇もない。矢は彼を追いたてるように森の中から追撃を放ってくる。
「な、なんだよこれ!」
思わず踵を返して逃げ出すものの、木々に隠れて襲撃者の姿はまるで見えない。とにかくどこかに隠れなければと走り出したが、さっきの今で流石に寮に向かうのは憚られた。寝静まる住宅の並びで騒ぎを起こして計画が露見するのも避けたい。
「この道は……!」
見覚えのある脇道を見て、レナードは方向転換して猛ダッシュを始める。
彼の目指す先には教会があった。追撃者は付かず離れず追ってきているようだが、村内に戻り遮蔽物が増えたせいか矢がとんでくる回数も減ってきた。
(ここなら入れる!)
教会の裏手側に周り、薄くあいた裏口のドアを見つけた。もしかすると誰かと会う可能性もあったが、追手に射られるよりマシだ。言い訳はなんとかなる。
果たしてドアの向こうには誰もいなかった。狭い室内は妙な匂いが漂っていたが、人の気配はない。奥に扉があったものの、そこは鍵がかかっているようだ。もう大分距離が縮まってきているはずなので、この部屋が見つかれば最早逃れられないかもしれない。かといってシティボーイだったレナードの体力も限界だ。
室内は静かだ。外ではかすかに森のざわめきに紛れて襲撃者のものらしい移動音が聞こえてくる。しかし一向に近づいてこず、むしろ遠くなっているようだった。
(まいたか?)
3分、30分とも思える時間の間隔のなくなるような静寂の中、レナードは屈めていた腰を伸ばすようにゆっくりと立ち上がった。扉の外に耳をつけてみる。どうやら誰もいないようだった。
脱力した。深くため息を吐いて壁にもたれかかる。一日分の疲れがどっと体にのしかかってくるようだった。
(仕方ない、今は戻って朝になったらまた試そう)
襲撃者をまいたとはいえ、すぐにまた森に入る気にはなれなかった。矢など使う魔物はいないだろうが、夜の危険性についてやはり考え直すべきだ。そうして結局彼は脱出への思いと裏腹に、重い足を引きずって閑散とした自室に舞い戻ったのだった。
ついさっきガイルとノアからされた話を何とかして否定しようとぶんぶんと頭を振る。
「出て行ってやる。今すぐ帰るんだ、両親と過ごしたあの家、あの国に」
もうどうでもいいと思っていた。家はなくなったわけではないけれど、2人との思い出が詰まった家は1人でいると寂しくて、もう帰る場所なんてないと思っていた。けれど捨てたわけじゃない。いつか時間が心の整理を付けたら帰りたい場所ではあったはずだ。望めばすぐに行ける場所だったはずだ。
いまだがらんとした自室で自分の鞄を引っ掴み、レナードは後ろを振り返らずに真っすぐ村の入口を目指した。放課後すぐに話し始めたのに、空にはもう星が光る時間になっていた。
ーーよりによって夜の森に入りがって!
入口に差し掛かるとルプスの言葉が彼の頭をよぎる。後ろを少し振り返れば、夜の村はしんと静まり返って誰一人出歩く者はいない。
あれほど怖い思いをしたというのに、漠然とした不安のために目の前の恐怖へ身を投げ出すのか。本当にこの選択肢は正解だろうか。せめて朝まで待つべきじゃないのか。
暗闇と共に森の奥から獣の声が聞こえてくる。道の脇に備えられた石は、頼りなげにぼんやりとした柔らかな光を放っている。だが光を失った石がもし途中にあればまた危険と遭遇するのは間違いない。
勢いだけで飛び出してきたレナードの足が止まる。外へ繋がる道はぽっかりと暗い穴のようにあいていて、彼の不安を煽り建てる。それでも引っ込んだ勇気を奮い立たせて、えいと目をつむって村と村と道の境界線へと踏み出した。
「……あれ?」
目を瞑ったまま数歩。少しとはいえ進んで変わったはずの風景はまるで変わらない。疑問符をいくつも浮かべながら、今度は目をしっかりと開けたまま踏み出す。
「やっぱり、変だ」
境界線から出た途端、彼はいつの間にか村の中に立っている。その後何度試しても駄目だった。
「ここを通るからいけないんじゃないか?」
村と道との境目には明確な境界線がある。一瞬でも森の中を経由して道に入れば、この不可解な現象は起きないかもしれない。大丈夫、すぐに戻れば問題ないはずだ。辺りを警戒しつつ、レナードは恐る恐るを足を踏み出す。――刹那、彼の目の前の地面に一本の矢が突き刺さった。
えっ、と驚きの声を出す暇もない。矢は彼を追いたてるように森の中から追撃を放ってくる。
「な、なんだよこれ!」
思わず踵を返して逃げ出すものの、木々に隠れて襲撃者の姿はまるで見えない。とにかくどこかに隠れなければと走り出したが、さっきの今で流石に寮に向かうのは憚られた。寝静まる住宅の並びで騒ぎを起こして計画が露見するのも避けたい。
「この道は……!」
見覚えのある脇道を見て、レナードは方向転換して猛ダッシュを始める。
彼の目指す先には教会があった。追撃者は付かず離れず追ってきているようだが、村内に戻り遮蔽物が増えたせいか矢がとんでくる回数も減ってきた。
(ここなら入れる!)
教会の裏手側に周り、薄くあいた裏口のドアを見つけた。もしかすると誰かと会う可能性もあったが、追手に射られるよりマシだ。言い訳はなんとかなる。
果たしてドアの向こうには誰もいなかった。狭い室内は妙な匂いが漂っていたが、人の気配はない。奥に扉があったものの、そこは鍵がかかっているようだ。もう大分距離が縮まってきているはずなので、この部屋が見つかれば最早逃れられないかもしれない。かといってシティボーイだったレナードの体力も限界だ。
室内は静かだ。外ではかすかに森のざわめきに紛れて襲撃者のものらしい移動音が聞こえてくる。しかし一向に近づいてこず、むしろ遠くなっているようだった。
(まいたか?)
3分、30分とも思える時間の間隔のなくなるような静寂の中、レナードは屈めていた腰を伸ばすようにゆっくりと立ち上がった。扉の外に耳をつけてみる。どうやら誰もいないようだった。
脱力した。深くため息を吐いて壁にもたれかかる。一日分の疲れがどっと体にのしかかってくるようだった。
(仕方ない、今は戻って朝になったらまた試そう)
襲撃者をまいたとはいえ、すぐにまた森に入る気にはなれなかった。矢など使う魔物はいないだろうが、夜の危険性についてやはり考え直すべきだ。そうして結局彼は脱出への思いと裏腹に、重い足を引きずって閑散とした自室に舞い戻ったのだった。
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