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第3章 折り重なる感情
第32話
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「ない……ない、ないっ! どこにもない!」
昨夜まとめたばかりの荷物をひっくり返し、レナードは呆然と座り込んだ。何度探してもスマートフォンが見つからない。無事森を抜けられたとしても、1番近くの町まで数十キロはある。人目を避けるためにも食料をあまり持ち出す訳にいかない。だから電波が届く所まで行ったら、ここまで送ってくれた夫婦に恥を忍んで連絡しようと思っていた。
村に電話はない。学園内で携帯電話やスマートフォンを持っている人は見かけないし、固定電話さえなかった。手紙なんて証拠の残るものは論外だ。そもそも郵便局はあるのだろうか。
「きっとあそこだ」
レナードの脳裏に暗い教会の部屋が思い浮かぶ。ついいつもの癖でお尻ポケットに入れてしまったが、床に座り込んだ際に零れ落ちたのだろう。昨日は極度の緊張感による疲れもあって気が回らなかった。
深いため息を吐き、荷物を再度手早くまとめる。時刻は午前4時半。いまだ皆が寝静まる時間ではあるが、ノロノロと捜索していては段々明るくなってくるかもしれない。万が一追手がかかる前に少しでも村から離れなくてはならない。
少ない荷物を抱え、レナードは再び教会へ向かった。ついさっき出てきたばかりの小部屋は相変わらず存在はするものの、どういうわけか鍵がかかっている。
「何だよ、くそっ」
いつの間に状況が変化したのだろう。夜の内に誰か来たとでもいうのだろうか。レナードの顔色が悪くなる。ここに長居するのはまずい。
ガタリ。
彼が手も触れていない扉から音が鳴った。
「!!」
すんでの所で上げそうになった声を押しとどめ、レナードは口を覆ってじりじり後退りをする。中に誰かいる可能性はあったが、実際に確信するのとでは訳が違う。
「……待って」
顔面蒼白の彼の耳に、小さくか細い声が届いた。その瞬間、レナードは覆っていた手を思わず降ろした。
「誰だ? 君は……俺は君を知ってる……?」
感じていた恐怖が吹き飛び、衝撃で思わず声をかける。このドアの向こうの人物を絶対に知っている。会わなければならないはずだ。それなのに、レナードはどうしても誰か思い出せないかった。
「顔を見せて、そうすれば」
「出来ない……でも、行かないで」
寂しく悲しそうな声にレナードの心が揺れる。
「どうして?」
「ずっと待ってた。会いたかったんだ。でも、今の僕じゃ会えない」
「待ってたってどういうーー」
なおもいい募ろうとしたレナードの耳に、教会の正面玄関のドアを開ける重苦しい音が響いた。
(やばい!!)
顔面蒼白になったレナードはさっと身を引いた。
中からは悲しそうな吐息が聞こえたが、咄嗟に村の出口へ走り出す。誰か来たのならばいよいよ時間が無い。
息が切れそうになりながら辿り着いた出口付近。昨夜確かにみた道の前で、愕然と膝を着いた。
「出口が、なくなってる?」
森にぽっかりあいた穴にあったはずの道は姿を消している。ここにあったはずだ。レナードは勢いのまま付近の結界を乗り越え、元いた場所に戻される。位置を変えてまた出ても同じ結果だ。
「どうして。何で?」
道を間違えたのかと一縷の望みをかけて辺りを見渡した。だがすぐにそれは打ち砕かれる。似たような木が多いとはいえ、この出口付近には小さな実がなったリンゴの木が密集していて、この上ない目印になっていた。ここはレナードは茫然自失としてその場に立ち尽くす。
「閉じ込められた……」
小さく漏れた言葉は静かな森に空しく木霊するばかり。ただ豊作のリンゴがぽろりと1つ零れ落ちた。
昨夜まとめたばかりの荷物をひっくり返し、レナードは呆然と座り込んだ。何度探してもスマートフォンが見つからない。無事森を抜けられたとしても、1番近くの町まで数十キロはある。人目を避けるためにも食料をあまり持ち出す訳にいかない。だから電波が届く所まで行ったら、ここまで送ってくれた夫婦に恥を忍んで連絡しようと思っていた。
村に電話はない。学園内で携帯電話やスマートフォンを持っている人は見かけないし、固定電話さえなかった。手紙なんて証拠の残るものは論外だ。そもそも郵便局はあるのだろうか。
「きっとあそこだ」
レナードの脳裏に暗い教会の部屋が思い浮かぶ。ついいつもの癖でお尻ポケットに入れてしまったが、床に座り込んだ際に零れ落ちたのだろう。昨日は極度の緊張感による疲れもあって気が回らなかった。
深いため息を吐き、荷物を再度手早くまとめる。時刻は午前4時半。いまだ皆が寝静まる時間ではあるが、ノロノロと捜索していては段々明るくなってくるかもしれない。万が一追手がかかる前に少しでも村から離れなくてはならない。
少ない荷物を抱え、レナードは再び教会へ向かった。ついさっき出てきたばかりの小部屋は相変わらず存在はするものの、どういうわけか鍵がかかっている。
「何だよ、くそっ」
いつの間に状況が変化したのだろう。夜の内に誰か来たとでもいうのだろうか。レナードの顔色が悪くなる。ここに長居するのはまずい。
ガタリ。
彼が手も触れていない扉から音が鳴った。
「!!」
すんでの所で上げそうになった声を押しとどめ、レナードは口を覆ってじりじり後退りをする。中に誰かいる可能性はあったが、実際に確信するのとでは訳が違う。
「……待って」
顔面蒼白の彼の耳に、小さくか細い声が届いた。その瞬間、レナードは覆っていた手を思わず降ろした。
「誰だ? 君は……俺は君を知ってる……?」
感じていた恐怖が吹き飛び、衝撃で思わず声をかける。このドアの向こうの人物を絶対に知っている。会わなければならないはずだ。それなのに、レナードはどうしても誰か思い出せないかった。
「顔を見せて、そうすれば」
「出来ない……でも、行かないで」
寂しく悲しそうな声にレナードの心が揺れる。
「どうして?」
「ずっと待ってた。会いたかったんだ。でも、今の僕じゃ会えない」
「待ってたってどういうーー」
なおもいい募ろうとしたレナードの耳に、教会の正面玄関のドアを開ける重苦しい音が響いた。
(やばい!!)
顔面蒼白になったレナードはさっと身を引いた。
中からは悲しそうな吐息が聞こえたが、咄嗟に村の出口へ走り出す。誰か来たのならばいよいよ時間が無い。
息が切れそうになりながら辿り着いた出口付近。昨夜確かにみた道の前で、愕然と膝を着いた。
「出口が、なくなってる?」
森にぽっかりあいた穴にあったはずの道は姿を消している。ここにあったはずだ。レナードは勢いのまま付近の結界を乗り越え、元いた場所に戻される。位置を変えてまた出ても同じ結果だ。
「どうして。何で?」
道を間違えたのかと一縷の望みをかけて辺りを見渡した。だがすぐにそれは打ち砕かれる。似たような木が多いとはいえ、この出口付近には小さな実がなったリンゴの木が密集していて、この上ない目印になっていた。ここはレナードは茫然自失としてその場に立ち尽くす。
「閉じ込められた……」
小さく漏れた言葉は静かな森に空しく木霊するばかり。ただ豊作のリンゴがぽろりと1つ零れ落ちた。
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