婚約破棄から始まる物語詰め合わせ

善奈美

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行いは巡り巡ってくるものである

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 その国は王家を中心に貴族は公爵三家、侯爵六家、伯爵十二家、子爵十二家、男爵十二家、辺境伯六家で構成されている。一代限りの領地を持たない準男爵位、騎士爵位はその職でそれなりの功績を挙げれば与えられる名誉爵位だ。
 
 ここで重要なのは高位貴族になればなるだけ政略的婚姻を強いられる。公爵三家は初代国王の兄弟姉妹が起こした。その関係で、爵位を継ぐのはその家の長子となっている。つまり、長子が女児であっても、爵位を継ぐのは長子なのである。
 
 当然、それは王家でも同様である。その為、今代の王は女王であり、宰相もまた女宰相である。女王は王配との間に男児を長子として産み落とした為、次の王は男児がなる。
 
 おかしな茶番とはこの事かと、辺境伯家に生まれた令嬢は嘆息する。辺境伯は侯爵家と同等か、それに準ずる身分に相当し、当然、王家に嫁ぐのに何も不備もない血筋になる。目の前で繰り広げられる愚かしい出来事。まさに、自分の立場を弁えぬ。
 
「女王陛下、私、ここまで辱めを受けるのは初めてでございます」
 
 女王も頭が痛いと嘆息した。まさか、次代を継ぐべき王太子が約束事を守れないとは。
 
「我が子ながら、愚かしすぎる」
「母上?!」
「この場は公式な場。陛下と呼ぶべき場ですよ。それすら分からぬとは。廃嫡と言われても文句は言えないのです」
 
 女王の言葉に王太子は不満を露わにした。
 
「我が国の成り立ち。きちんと理解しているのか?」
 
 女王は扇をパチンと音を立てて閉じた。これは相当怒っているのだと、その場にいる臣下は理解する。
 
 今は新年を祝う舞踏会の最中だ。その最中、事もあろうに王太子は辺境伯家令嬢に対し、婚約破棄を言い渡したのだ。理由もあまりにお粗末すぎる。自分が好いている伯爵令嬢を虐めていると証拠もなしに喚き散らしたのである。それも、伯爵令嬢本人からの訴えのみでである。
 
「陛下。私、そんな暇はありませんの。我領地は国境に面しており、私自身も魔法士として参加しております。学園にも便宜を図ってもらい、ほぼ、領地で防衛をしておりましたわ。それであるのに、高々、一令嬢を虐める。そんな非生産的な行動は取りません。そんな暇があるなら、休んでいたいですわ」
 
 辺境伯令嬢は呆れを通り越し、疲れが見える表情を見せる。
 
「私との婚約が気に入らないと言うのなら、直接、陛下に直談判なさればよろしかったのではないでしょうか。私、王太子妃などに未練はありません。父も母も兄達ですら必ずしも私が結婚する必要はないと言ってくれてますの。それだけ、私の力を認めてくださってますわ」
 
 辺境伯家は子宝に恵まれた。三人の兄と下に二人の妹がいる。沢山の兄弟に囲まれているのだ。何も結婚ばかりではないのである。
 
「確かにの。私としては、其方の手腕を買っていた」
  
 辺境伯令嬢はそうだろうとは思っていた。何せ、今代の王太子ときたら、勉強は嫌い。すぐに飽きる。女癖が悪い。良いところと言えば容姿だけというダメ男なのである。
 
「はあ、しかし、こんな場所で婚約破棄。これはもう、庇い切れないな」
 
 『女王陛下、お気の毒様です。いくら長子でも、ここまで無能では国が駄目になってしまいますからね』と、辺境伯令嬢は心の中で呟き嘆息する。
 
「陛下」
 
 女王の斜め後ろから声を掛けたのは王配だ。三大公爵家の一つである公爵家の三男である。当然、高い能力を有している。女王も勿論最高のスペックの持ち主だ。そんな二人から生まれたのが、へっぽこ王太子って言うのがなんとも哀れである。
 
「これに王位を譲るのは流石に臣下に顔向け出来ません」
「その通りだ。令嬢には本当に申し訳ないことをした」
「いいえ。私的には領地で防衛の要としての役割に専念できればと」
「そう言ってもらえるのは本当にありがたいが」
 
 辺境伯令嬢は女王と王配の心痛、察してあまりあった。廃嫡となるのは何百年振りなのかと、女王は呟く。それを聞いた王太子は顔色をなくした。
 
「は、母上?」
「私はここで宣言する。長子である王太子を廃嫡し、次男である第二王子を王太子とする。異論のある者は名乗り出るが良い」
 
 女王の言葉に、臣下は一斉に最敬礼をした。異論はないと言うのだ。王太子は愕然とし目を見開いた。
 
「お前は何を考えていた。そこにいる伯爵令嬢の実家がどういう実情か知っているのか?」
「え?」
「まず、伯爵家として没落一歩手前。無能な当主故、代替わりせよと命令するも無視を決め込んだ。結果、財政は破綻一歩手前。領民は重税を課せられ大変な目に合っている。それであるのに、当主一家は贅沢三昧。爵位を取り上げ、取り潰す他ないほどになっている。しかし、伯爵家は十二家と決まっておるからな。子爵家から一家爵位を上げ、男爵家から一家爵位を上げる。空位になった男爵位は準男爵か騎士爵の者から決めると決まっている」
 
 王太子の傍にいた伯爵令嬢は青冷めた。つまり、貴族ではなくなると言うことだ。
 
「え?」
「知らぬのか。お前の父親は領民を苦しめている。お前が贅沢三昧している間に、領民は生活に困窮しその命を散らしているかもしれんのだ」
 
 女王は嘆かわしい、と言わんばかりに眉間に皺を寄せ、右手の人差し指で揉む。本来、貴族家の令嬢は領地のことに精通していなくてはならない。何故なら、女児であっても当主となる可能性があるからだ。伯爵家には長子である長男がいる。その長男もどうしようも無い放蕩息子だと専らの噂だ。新年の舞踏会に姿を見せていないのは、王家がそれを認めなかったからである。それであるのに伯爵令嬢がこの場にいるのは王太子が連れ込んだだけにすぎない。
 
「本来、議会に通し、結論を出すのだが」
 
 女王はパンっと扇を叩いた。
 
「議会にかけるまでも無い。重臣達も目に余ると言っている。早く帰ったほうがいいぞ。夜会が始まる前に、騎士達を向かわせたからな」
 
 伯爵令嬢は震え始めた。騎士が女王の命令で動いた。その意味を分からない貴族はいない。粛清されるのだ。伯爵である父親は、貴族であるからとその権力に胡座をかいていた。公爵家や侯爵家。辺境伯家よりも権力はなくとも、それなりに強い力を持っていた。お金がなくなれば、領民の税金を上げ、国に上げる税金は減らす。そんな事を再三行っていた。バレない筈が無いのだ。それに気が付かなかった伯爵家は愚かでしか無い。
 
「いいえ。帰る必要はないかと思います、陛下。どの道、両親、一族共々、近いうちに王城の地下牢の中です。一足早くそちらに入ってもらいましょう」
 
 女宰相は無表情で言い切った。元王太子もだが、男が権力を持つべきと言う固執した考えを持っている。確かに戦闘本能という意味では、女よりも有利であるだろう。そう、有利であるだけなのだ。
 
「そうだな。騎士達の手間を増やすまでもない」
 
 女王が言うなり、何処からか現れた兵達が伯爵令嬢はを捕縛する。何故か元王太子も捕らえられた。
 
「無礼だぞ!」
「何を言います。元王太子殿下も同罪ですよ。知らないとでも思っているのですか? 国庫から出されるお金は税金です。それを着服し、そこにいる令嬢に何かしらと買い与えておいででしたね。しかも、伯爵家から色々と便宜を図ってもらってましたね。領民が苦しんでる事を知らないことこそ、王太子という身分にある者は罪になるのですよ。愚かしすぎて言葉も出ません」
 
 女宰相は冷たい視線を元王太子に送る。
 
「連れていきなさい。目障りです。この様な者を産み落とした事を、私は恥ずかしく思います」
 
 女王の言葉に、会場にいる貴族達はさっと頭を下げた。
 
「辺境伯令嬢には本当に申し訳ない事をした」
「いいえ。陛下がお心を痛める必要はございません。彼等はどうなるのですか?」
 
 辺境伯令嬢は小首を傾げた。そのまま命を奪ったのでは温い。そう考えての発言だ。
 
「強制労働をと考えています」
 
 女宰相はそう告げた。辺境伯令嬢はそこの言葉に微笑む。
 
「それでは誰も納得しませんでしょう。もうそろそろ魔物の季節です。各辺境伯家ではこの時期、魔物を狩りますの。それはとても危険な任務ですわ」
 
 辺境伯令嬢の物言いに、会場にいる貴族達は息を呑む。つまり、魔物狩りに使うと進言しているのだ。
 
「仮にも王侯貴族です。領地を護るために武術、魔術を嗜むのは義務ですわ」
 
 辺境伯令嬢はいい笑顔を見せた。
 
「それぞれの辺境伯家に打診なさってはどうでしょう? 人手はいくらあっても足りませんわ。たとえ、全く使えなくとも、肉壁にはなりますわよ」
 
 辺境伯令嬢の表情がスッと無表情に変わる。ただ、安全な場所でのうのうとしているなど許されないのだ。強制労働もある意味守られているではないか。そう言いたいのだ。
 
「苦労を知らねばなりません。安全な場所で好き勝手なさっていたのです。辺境伯領がどれほど危険な場所か。魔の森だけではなく、隣国からの脅威もあるのです。それを知らずして何が王太子ですか。陛下も若気の至りでよく魔物狩りをされていたと聞き及んでおりますわ。それですのに、あの無能者はぬくぬくとしていたのですっ」
 
 辺境伯令嬢は手に持っていた扇を強く握り締めた。ビキッ、と扇が軋んだような音を立てる。
 
「毎年、多くの騎士や領民が犠牲になるのです。その命、国のために使っても責められませんわっ」
 
 女王は辺境伯令嬢のその物言いに頷くしかなかった。この国は四方を隣国に囲まれ、魔の森がその間にあると言う危険な場所に位置している。魔物の季節ともなれば毎年、被害が出る。
 
「分かった。元王太子、元伯爵家一族は、今年の魔物の季節に駆り出すとしよう。勿論、前線にだ」
 
 流石の貴族達も息を呑んだが、辺境伯令嬢の静かな怒りに黙るしかなかった。
 
 その年、各辺境伯家は元伯爵家一族を前線に放り投げ、魔物達の足止めに使ったとされる。元王太子も同じ運命を辿った。それは凄惨であったと伝わっている。生き残った者がいたのか、それは女王と各辺境伯家の者しか知らない。生き残ったとしても、次の年もその次の年も同じ目にあったのではないかと、他の貴族家の者達は推測した。調べることもせず、ただ言いなりになっていた元王太子は呆気なく命を散らしたと国中に知らせが走ったが、誰一人同情する者はいなかった。
 
 
終わり。
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