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婚約者は妹との仲を深めていました。それをただ眺めていた私は、その後に起こる事を考えてはいませんでした。
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私は何を見せ付けられているのだろうか。そう心の中で呟いたのはハイネ伯爵令嬢のミュンファだ。そして、目の前で繰り広げられてる光景にゲンナリしている。目の前にいるのは実の妹のレイラとミュンファの婚約者のコイル伯爵令息のソエラである。春の日差しの中で行われている、本来は婚約者同士で仲を深め合うお茶会。しかしながら、関係を深めているのは妹と婚約者である。この時、ミュンファが早めに指摘していれば問題なかったのかもしれない。しかし、毎回である為、当然分かっていてしていると思っていたのだ。
「何を考えているんだ?!」
そう叫んだのはミュンファとレイラの父親であるハイネ伯爵である。怒鳴られているのはレイラなのだが、その本人は全く理解していなかった。ハイネ伯爵の隣で母親であるハイネ伯爵夫人は頭が痛いと溜め息を吐いている。
「お前に婚約者はいない。それであるのに姉の婚約者に手を出すなど」
そうなのだ。レイラは姉であるミュンファの婚約者を自分の婚約者であると勘違いした挙句、貢がせていたのだ。なぜ発覚したのか。それはコイル伯爵にあまりに高額な物を強請られ過ぎているので、何とかならないか。との話からなのだが、婚約者であるミュンファはそんな贈り物など一度とて貰っていない。信じられないなら調べてもらって構わないと言われ調べれば、出てくるのは父親が贈った物ばかり。元々、物欲などないミュンファである。おかしいとなり、レイラの部屋を調べてみれば、出てくる出てくる。ミュンファに両親が問い掛けたところ、いつものお茶会では婚約者と妹が何時もいちゃついており、それを毎回眺めている。そんな答えが返ってきた。
「姉の婚約者になんて事を」
母親も嘆くしかない。しかもである。レイラは高位貴族の令息と婚約目前であったのだ。こうなっては、其方との婚約など出来よう筈もない。何より、向こうにも婚約者がいるのでは? と言われる始末である。色々調べ、なぜそう言われるのかを理解したハイネ伯爵だ。
「何を言ってるのか分からないわ?」
「お前には婚約者などいない! 何度言わせれば分かる! だから、きちんと勉強しろと言っているだろう!」
初めて知ったように目を見開いたレイラだが、こうなってはどうしようもない。ミュンファにしてみれば、婚約者らしい事は何もしてもらえていない。破棄になろうが白紙になろうが解消になろうがどうでも良いのだ。どのみち、結婚できなくても問題ないと思っていたりする。レイラのお馬鹿ぶりは今に始まった事ではない。誰に似たのか我が儘でしかも、浪費家である。
「お父様、私はこのままこの婚約は破棄で構いませんわ」
「傷物呼ばわりされるんだぞ?」
「構わないですわ。あんな、婚約者の前でその妹といちゃつくような方と夫婦になるなど考えられません。それならば、修道院に入る方がマシというものですわ」
ミュンファは本心を曝け出す。どのみち、こうなっては相手も気まずいだろう。まず、レイラが我が儘なのは今に始まった事ではない。ならば相手であるソエラはどう言うつもりであったのだろうか。その真意を知ろうとはミュンファは思っていない。知ったところで事実は変わらないのだ。
「レイラと婚約するのならそれも良しですわ」
「はあ。全く、お前は良縁を逃したのだぞ」
父親の言葉にレイラはキョトンとした表情を見せた。侯爵家令息がレイラを見初めたのだ。が、レイラは確かに見た目は儚げで可愛らしい容姿だが、中身はお馬鹿である。侯爵夫人など務まる筈もない。結婚したところで苦労するだけである。主に相手が、だが。
「言っておくが、この話はいつの間にか外に漏れている。婚約のし直しでなければ面子が保てんのだ。そこまで考えて行動したのか?!」
「ソエラ様との婚約はしたくないわ。良縁の方が良いに決まってるじゃない」
「愚か者が! それを不意にしたのは自分だろうが!!!」
父親の慟哭にミュンファは目を閉じた。何を言ってもレイラには通じないのだ。ソエラも愚かな事をしたものだと、ミュンファは息を吐き出した。
「お父様。問題はレイラだけではありませんよ」
ミュンファは一つ見落としている事を指摘することにしたのだ。レイラがお馬鹿なのは分かっている。では婚約者であったソエラはどうなのか。
「ソエラ様は何故、レイラの相手をしていたのかという疑問です」
婚約者そっちのけで、婚約者の妹と仲を深めていたのだ。レイラだけが責められる事ではない。
「普通なら、婚約者の妹とはいえ、赤の他人ですわ。距離を置くのが普通です。ですが、言いたくはないですが、こう、体を触れ合わせる的な仲の深め方で。婚約者でもなければしてはいけない程、不設楽だと私は思うのですが」
毎回、行われるお茶会でそれを見せ付けられ続けたのだ。ミュンファにソエラに対する想いなど育つ筈もないのである。どちらかと言えば、婚約者など必要ないと思ってしまう程である。
「思えば、早くにお父様にご報告すべきでしたわね。まあ、面倒くさかったのもあるので、私にも非はあるかと思いますが」
ミュンファは馬鹿正直に言い切ったのだ。両親はそこで肩を落とす。姉妹であまりにも違いすぎるのだ。
「伯爵家はお兄様がおりますし、婚約者様も立派な方ですわ。私一人が結婚しなくともなんとかなりますわ」
ハイネ伯爵家の三兄姉妹はある意味有名だった。兄は王太子の覚えもめでたい何でもそつなくこなす素晴らしい能力の持ち主だ。その上の妹のミュンファは才女として有名である。そして、下の妹であるレイラは見た目だけのお馬鹿さん、でこれまた有名だった。
「向こうとも話をしてくるが……」
ハイネ伯爵はそこで言葉を切ると、レイラを鋭く睨みつけた。
「彼との婚約は避けられないと思え! もし嫌がるようなら修道院か勘当だ!」
流石の父親も我慢の限界であったようだ。浪費の酷さから、領地経営に使うべき金銭にまで手を出し、大変な目に遭ったのはつい最近である。その後にこの騒動だ。まかり間違えて侯爵令息と婚約できたとしても、すぐに破棄になっただろう。
「貴方、取り敢えず、話し合いをしてきて下さい。このままでは上の子の婚約にも支障をきたします」
「分かっている」
話し合いから数日後、両家の当主が話し合いの席に着いた。そこで知らされた真実は、両家にとって頭の痛い問題でしか無かった。ハイネ伯爵家には伯爵以外にも子爵の爵位を持っていた。つまり、ミュンファと婚姻する事で爵位を譲り渡される算段であったのだ。それをソエラは棒に振ったのである。三男である彼に爵位を買う金などなく、ましてや親がそれを買うつもりはなかった。理由として、爵位を買ったとしても、頭があまりよろしくないソエラでは領地を持たない爵位は過ぎたものでしかない。しかし、ミュンファと婚姻する事で小さいまでも領地を持つ爵位が手に入るのだ。しかも、ミュンファは才女として有名であり、ソエラに能力がなくとも領地経営は何とかなったからだ。
「うちの息子が申し訳ない。どうも、そちらの下の娘さんを見た瞬間に気に入ってしまったようで、婚約者ではないと知りながら、不埒な行動をしていたらしく」
コイル伯爵としては申し訳なさで潰れてしまいそうな勢いだ。しかし、ハイネ伯爵は彼の言い分にある程度理解を示した。どちらが悪いというわけではないからだ。レイラもまた、しっかり、コイル伯爵家の資産を食い潰していたからである。
「下の娘と婚約するとなると、爵位は渡せない。理由は分かると思うが」
「分かっている。ソエラは頭が残念すぎる。それに言い方は悪いとは思うが、其方の下の娘さんも、その……」
「馬鹿ですね」
コイル伯爵が言いにくそうにしていたので、ハイネ伯爵がキッパリと言い切った。
「慰謝料ですが、其方の資産を食い潰したのはうちの娘であるので仕方ないと思います。使い込んだ金銭は品物を換金し返せるだけ返しましょう。残りを慰謝料という形でご理解いただきたい」
「それだけで済むのなら有難い」
「それと、娘にはソエラ殿と婚約婚姻しなければ勘当と通告している」
「それはこちらも同様に」
二人の父親は二人が婚約婚姻を嫌がると分かっていた。何故なら、かたや侯爵令息との婚姻。かたや爵位と領地を不意にしたのである。ソエラはミュンファとの婚約続行を望み、レイラは侯爵令息との婚約をいまだに言い続けている。侯爵家からは随分前に話は無かったことにしてほしいと断られていた。断られなくても、辞退するつもりではあったが。
「それで結局、二人は勘当されたのね」
ミュンファは疲れ切っている父親に確認する様に問い掛ける。レイラの部屋から出てきたのは何もソエラに貢がせたものだけではなかったのだ。出てくる品物の数に両親は打ちひしがれていた。誰から貰ったのかの確認をし、もし、婚約破棄に関わっていた場合は謝罪と慰謝料の支払い。相手方にも通達される前に謝罪に訪れ、婚約破棄された相手方にも謝罪と慰謝料を支払いなんとか大事にならずに済んだ。
「あの子に貴族は無理だろう。何故、同じ教育をしていたにも関わらず、あそこまで酷い育ち方を」
両親の嘆きと疲労ぶりに流石のミュンファは同情せずにはいられなかった。一言で言うと、末っ子ゆえの甘やかしであったと言える。
「あの子は何でも我が儘を聞いてもらえる環境にいましたからね」
ミュンファはお茶を一口含むと呟く様に言葉を溢した。
「そういえば、お前は物を欲しがらなかったな」
「物など壊れてしまいますし、流行り廃りがありますわ。でも、知識にそれはありませんもの。物よりも知識の方が尊いと思いますの」
貴族令嬢として必要な物は流石に父親に用意して貰うが、それ以上は必要ないとミュンファは考えている。今回、婚約破棄からの、妹はあまりの酷さに勘当され、ソエラもまた、勘当されたと聞いている。あの二人が果たして市井でどれほど生き抜けるのかは疑問だが、案外合っている可能性も否定出来ない。何故なら、二人は勉強が嫌いだからだ。
ミュンファは当然、学園で婚約破棄をされた令嬢として遠巻きに見られていたが、本人はどこ吹く風である。
「ミュンファは本当にマイペースよね」
「貴方には言われたくないわね」
「私は言っても良いのよ。何せ、貴方の妹のせいで婚約破棄したんだから」
「破棄したかったんじゃなかったの?」
「したかったわよ。だって、馬鹿なんだもの」
そう軽口を言っているのは、同じ学園に通う同じ爵位の令嬢である。
「言っては悪いとは思うけど、貴方の妹に唆された令息達はお馬鹿だったから、ある意味、感謝されてるって話、知ってるかしら」
「あら、初耳よ」
「お馬鹿だから、引っかかるのよ。きちんとしてらっしゃる方々は見た目に騙されたりはなさらないわ」
ミュンファは確かに、と頷いた。
「それに、其方のご両親はしっかりされていて、きちんと対処して下さったわ。本来なら慰謝料は必要なかったのだけど、ケジメだと言われましたわ」
「その通りでしょう。遺恨を残すのは得策ではありませんわ。まあ、私の嫁ぐに必要な持参金も使わなければいけなかったので、私は学園卒業と同時に修道院にでも行きますわ。両親があまりにも哀れで。お兄様もおりますし、うちは何とかなると思うのです」
兄の婚約はそのまま続行されることとなった。何より、本人達が惹かれ合っており、良好な関係を築けている。確かに金銭的に厳しくはなったが、婚約者である令嬢が少し多めに持参金を用意してくれることとなっている。
「私は知識さえあれば良いの。修道院にも多くの書物があると聞いていますわ。私は生涯、知識と向き合っていこうと考えていますのよ」
友人の令嬢はそんなミュンファの言葉に苦笑いだ。そんなに上手くはいかないと彼女は気が付いていた。ミュンファの能力で修道院などと、と考えている者は実は多いのである。
結果として、ミュンファは宰相を輩出する公爵家の跡取りと婚約婚姻を結ぶ事となった。持参金がないので辞退しますと、馬鹿正直に言い切ったミュンファに相手はただ笑い飛ばした。持参金など必要ないと言い切り、その頭脳を持って嫁に来いと言われてしまったのだ。
「こんな事になるなんて考えていませんでしたわ」
ミュンファの嘆きに苦笑いを浮かべたのは婚約者となった公爵令息である。代々、宰相を務めており、持参金など考える必要もないほどの資産を有している。逆に、ミュンファと婚約した後に、援助もしてくれたのだ。
「お花畑の令嬢では我妻とはなれない。その点、君は合格点以上だ」
晴れやかに告げられた言葉に、ミュンファは諦めるしかなかった。援助金を出された時点で逃げられないのだが。
「末長くよろしく頼むよ、婚約者殿」
「承知いたしました、未来の旦那様」
二人のそんな姿を、学園生は生温い視線で眺めていた。
終わり。
「何を考えているんだ?!」
そう叫んだのはミュンファとレイラの父親であるハイネ伯爵である。怒鳴られているのはレイラなのだが、その本人は全く理解していなかった。ハイネ伯爵の隣で母親であるハイネ伯爵夫人は頭が痛いと溜め息を吐いている。
「お前に婚約者はいない。それであるのに姉の婚約者に手を出すなど」
そうなのだ。レイラは姉であるミュンファの婚約者を自分の婚約者であると勘違いした挙句、貢がせていたのだ。なぜ発覚したのか。それはコイル伯爵にあまりに高額な物を強請られ過ぎているので、何とかならないか。との話からなのだが、婚約者であるミュンファはそんな贈り物など一度とて貰っていない。信じられないなら調べてもらって構わないと言われ調べれば、出てくるのは父親が贈った物ばかり。元々、物欲などないミュンファである。おかしいとなり、レイラの部屋を調べてみれば、出てくる出てくる。ミュンファに両親が問い掛けたところ、いつものお茶会では婚約者と妹が何時もいちゃついており、それを毎回眺めている。そんな答えが返ってきた。
「姉の婚約者になんて事を」
母親も嘆くしかない。しかもである。レイラは高位貴族の令息と婚約目前であったのだ。こうなっては、其方との婚約など出来よう筈もない。何より、向こうにも婚約者がいるのでは? と言われる始末である。色々調べ、なぜそう言われるのかを理解したハイネ伯爵だ。
「何を言ってるのか分からないわ?」
「お前には婚約者などいない! 何度言わせれば分かる! だから、きちんと勉強しろと言っているだろう!」
初めて知ったように目を見開いたレイラだが、こうなってはどうしようもない。ミュンファにしてみれば、婚約者らしい事は何もしてもらえていない。破棄になろうが白紙になろうが解消になろうがどうでも良いのだ。どのみち、結婚できなくても問題ないと思っていたりする。レイラのお馬鹿ぶりは今に始まった事ではない。誰に似たのか我が儘でしかも、浪費家である。
「お父様、私はこのままこの婚約は破棄で構いませんわ」
「傷物呼ばわりされるんだぞ?」
「構わないですわ。あんな、婚約者の前でその妹といちゃつくような方と夫婦になるなど考えられません。それならば、修道院に入る方がマシというものですわ」
ミュンファは本心を曝け出す。どのみち、こうなっては相手も気まずいだろう。まず、レイラが我が儘なのは今に始まった事ではない。ならば相手であるソエラはどう言うつもりであったのだろうか。その真意を知ろうとはミュンファは思っていない。知ったところで事実は変わらないのだ。
「レイラと婚約するのならそれも良しですわ」
「はあ。全く、お前は良縁を逃したのだぞ」
父親の言葉にレイラはキョトンとした表情を見せた。侯爵家令息がレイラを見初めたのだ。が、レイラは確かに見た目は儚げで可愛らしい容姿だが、中身はお馬鹿である。侯爵夫人など務まる筈もない。結婚したところで苦労するだけである。主に相手が、だが。
「言っておくが、この話はいつの間にか外に漏れている。婚約のし直しでなければ面子が保てんのだ。そこまで考えて行動したのか?!」
「ソエラ様との婚約はしたくないわ。良縁の方が良いに決まってるじゃない」
「愚か者が! それを不意にしたのは自分だろうが!!!」
父親の慟哭にミュンファは目を閉じた。何を言ってもレイラには通じないのだ。ソエラも愚かな事をしたものだと、ミュンファは息を吐き出した。
「お父様。問題はレイラだけではありませんよ」
ミュンファは一つ見落としている事を指摘することにしたのだ。レイラがお馬鹿なのは分かっている。では婚約者であったソエラはどうなのか。
「ソエラ様は何故、レイラの相手をしていたのかという疑問です」
婚約者そっちのけで、婚約者の妹と仲を深めていたのだ。レイラだけが責められる事ではない。
「普通なら、婚約者の妹とはいえ、赤の他人ですわ。距離を置くのが普通です。ですが、言いたくはないですが、こう、体を触れ合わせる的な仲の深め方で。婚約者でもなければしてはいけない程、不設楽だと私は思うのですが」
毎回、行われるお茶会でそれを見せ付けられ続けたのだ。ミュンファにソエラに対する想いなど育つ筈もないのである。どちらかと言えば、婚約者など必要ないと思ってしまう程である。
「思えば、早くにお父様にご報告すべきでしたわね。まあ、面倒くさかったのもあるので、私にも非はあるかと思いますが」
ミュンファは馬鹿正直に言い切ったのだ。両親はそこで肩を落とす。姉妹であまりにも違いすぎるのだ。
「伯爵家はお兄様がおりますし、婚約者様も立派な方ですわ。私一人が結婚しなくともなんとかなりますわ」
ハイネ伯爵家の三兄姉妹はある意味有名だった。兄は王太子の覚えもめでたい何でもそつなくこなす素晴らしい能力の持ち主だ。その上の妹のミュンファは才女として有名である。そして、下の妹であるレイラは見た目だけのお馬鹿さん、でこれまた有名だった。
「向こうとも話をしてくるが……」
ハイネ伯爵はそこで言葉を切ると、レイラを鋭く睨みつけた。
「彼との婚約は避けられないと思え! もし嫌がるようなら修道院か勘当だ!」
流石の父親も我慢の限界であったようだ。浪費の酷さから、領地経営に使うべき金銭にまで手を出し、大変な目に遭ったのはつい最近である。その後にこの騒動だ。まかり間違えて侯爵令息と婚約できたとしても、すぐに破棄になっただろう。
「貴方、取り敢えず、話し合いをしてきて下さい。このままでは上の子の婚約にも支障をきたします」
「分かっている」
話し合いから数日後、両家の当主が話し合いの席に着いた。そこで知らされた真実は、両家にとって頭の痛い問題でしか無かった。ハイネ伯爵家には伯爵以外にも子爵の爵位を持っていた。つまり、ミュンファと婚姻する事で爵位を譲り渡される算段であったのだ。それをソエラは棒に振ったのである。三男である彼に爵位を買う金などなく、ましてや親がそれを買うつもりはなかった。理由として、爵位を買ったとしても、頭があまりよろしくないソエラでは領地を持たない爵位は過ぎたものでしかない。しかし、ミュンファと婚姻する事で小さいまでも領地を持つ爵位が手に入るのだ。しかも、ミュンファは才女として有名であり、ソエラに能力がなくとも領地経営は何とかなったからだ。
「うちの息子が申し訳ない。どうも、そちらの下の娘さんを見た瞬間に気に入ってしまったようで、婚約者ではないと知りながら、不埒な行動をしていたらしく」
コイル伯爵としては申し訳なさで潰れてしまいそうな勢いだ。しかし、ハイネ伯爵は彼の言い分にある程度理解を示した。どちらが悪いというわけではないからだ。レイラもまた、しっかり、コイル伯爵家の資産を食い潰していたからである。
「下の娘と婚約するとなると、爵位は渡せない。理由は分かると思うが」
「分かっている。ソエラは頭が残念すぎる。それに言い方は悪いとは思うが、其方の下の娘さんも、その……」
「馬鹿ですね」
コイル伯爵が言いにくそうにしていたので、ハイネ伯爵がキッパリと言い切った。
「慰謝料ですが、其方の資産を食い潰したのはうちの娘であるので仕方ないと思います。使い込んだ金銭は品物を換金し返せるだけ返しましょう。残りを慰謝料という形でご理解いただきたい」
「それだけで済むのなら有難い」
「それと、娘にはソエラ殿と婚約婚姻しなければ勘当と通告している」
「それはこちらも同様に」
二人の父親は二人が婚約婚姻を嫌がると分かっていた。何故なら、かたや侯爵令息との婚姻。かたや爵位と領地を不意にしたのである。ソエラはミュンファとの婚約続行を望み、レイラは侯爵令息との婚約をいまだに言い続けている。侯爵家からは随分前に話は無かったことにしてほしいと断られていた。断られなくても、辞退するつもりではあったが。
「それで結局、二人は勘当されたのね」
ミュンファは疲れ切っている父親に確認する様に問い掛ける。レイラの部屋から出てきたのは何もソエラに貢がせたものだけではなかったのだ。出てくる品物の数に両親は打ちひしがれていた。誰から貰ったのかの確認をし、もし、婚約破棄に関わっていた場合は謝罪と慰謝料の支払い。相手方にも通達される前に謝罪に訪れ、婚約破棄された相手方にも謝罪と慰謝料を支払いなんとか大事にならずに済んだ。
「あの子に貴族は無理だろう。何故、同じ教育をしていたにも関わらず、あそこまで酷い育ち方を」
両親の嘆きと疲労ぶりに流石のミュンファは同情せずにはいられなかった。一言で言うと、末っ子ゆえの甘やかしであったと言える。
「あの子は何でも我が儘を聞いてもらえる環境にいましたからね」
ミュンファはお茶を一口含むと呟く様に言葉を溢した。
「そういえば、お前は物を欲しがらなかったな」
「物など壊れてしまいますし、流行り廃りがありますわ。でも、知識にそれはありませんもの。物よりも知識の方が尊いと思いますの」
貴族令嬢として必要な物は流石に父親に用意して貰うが、それ以上は必要ないとミュンファは考えている。今回、婚約破棄からの、妹はあまりの酷さに勘当され、ソエラもまた、勘当されたと聞いている。あの二人が果たして市井でどれほど生き抜けるのかは疑問だが、案外合っている可能性も否定出来ない。何故なら、二人は勉強が嫌いだからだ。
ミュンファは当然、学園で婚約破棄をされた令嬢として遠巻きに見られていたが、本人はどこ吹く風である。
「ミュンファは本当にマイペースよね」
「貴方には言われたくないわね」
「私は言っても良いのよ。何せ、貴方の妹のせいで婚約破棄したんだから」
「破棄したかったんじゃなかったの?」
「したかったわよ。だって、馬鹿なんだもの」
そう軽口を言っているのは、同じ学園に通う同じ爵位の令嬢である。
「言っては悪いとは思うけど、貴方の妹に唆された令息達はお馬鹿だったから、ある意味、感謝されてるって話、知ってるかしら」
「あら、初耳よ」
「お馬鹿だから、引っかかるのよ。きちんとしてらっしゃる方々は見た目に騙されたりはなさらないわ」
ミュンファは確かに、と頷いた。
「それに、其方のご両親はしっかりされていて、きちんと対処して下さったわ。本来なら慰謝料は必要なかったのだけど、ケジメだと言われましたわ」
「その通りでしょう。遺恨を残すのは得策ではありませんわ。まあ、私の嫁ぐに必要な持参金も使わなければいけなかったので、私は学園卒業と同時に修道院にでも行きますわ。両親があまりにも哀れで。お兄様もおりますし、うちは何とかなると思うのです」
兄の婚約はそのまま続行されることとなった。何より、本人達が惹かれ合っており、良好な関係を築けている。確かに金銭的に厳しくはなったが、婚約者である令嬢が少し多めに持参金を用意してくれることとなっている。
「私は知識さえあれば良いの。修道院にも多くの書物があると聞いていますわ。私は生涯、知識と向き合っていこうと考えていますのよ」
友人の令嬢はそんなミュンファの言葉に苦笑いだ。そんなに上手くはいかないと彼女は気が付いていた。ミュンファの能力で修道院などと、と考えている者は実は多いのである。
結果として、ミュンファは宰相を輩出する公爵家の跡取りと婚約婚姻を結ぶ事となった。持参金がないので辞退しますと、馬鹿正直に言い切ったミュンファに相手はただ笑い飛ばした。持参金など必要ないと言い切り、その頭脳を持って嫁に来いと言われてしまったのだ。
「こんな事になるなんて考えていませんでしたわ」
ミュンファの嘆きに苦笑いを浮かべたのは婚約者となった公爵令息である。代々、宰相を務めており、持参金など考える必要もないほどの資産を有している。逆に、ミュンファと婚約した後に、援助もしてくれたのだ。
「お花畑の令嬢では我妻とはなれない。その点、君は合格点以上だ」
晴れやかに告げられた言葉に、ミュンファは諦めるしかなかった。援助金を出された時点で逃げられないのだが。
「末長くよろしく頼むよ、婚約者殿」
「承知いたしました、未来の旦那様」
二人のそんな姿を、学園生は生温い視線で眺めていた。
終わり。
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