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悪事は必ず露見します。
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「ヴィヴィアン、貴様との婚約を破棄する! 私の婚約者でありながら身なりを整えないとはっ」
そう喚き散らしたのは私の婚約者である伯爵令息です。名前はアラン・ディストラ伯爵令息。私も好きで身なりを整えていないのではないのです。私は自宅でそれこそ、下女以下の扱いを受けています。溜め息を飲み込んで、しっかりと前を見た。
「分かりましたわ。どうぞ、妹とお幸せに」
嫌味でもなく、事実として告げました。まあ、後ろにいる妹は嬉しそうだ事。私は屋敷を出て行きますわね。付き合っていられませんわ。
そう思っていたのですが……。
「え? 公爵様ですか?」
「そうだ。お前を侍女にと望まれてな」
父の顔を見た時、察しました。私は売られたのです。溜め息がまた出てきそうです。嫌われているのは知っていましたが。私は侯爵家の容姿でおりません。白銀の髪と瑠璃の瞳。父は金髪に緑の瞳をしています。母も似たような色合いでした。つまり、私は異分子なのです。
「承りました」
この決定が、まさか、実家が没落することになろうとは思いませんでした。私の母は今の国王様の弟君と婚姻していたというのです。ですが、私が生まれる前に不慮の事故で亡くなられています。これは事実として私も知っていました。まさか、父が母を手に入れる為に暗躍していた事実が今更浮上したのです。ああ、母は私が幼い頃に他界しました。他界、は間違いですわね。自殺してしまいました。出てきた事実が本当なら、母は心を病んでいたのでしょう。母の形見はほぼ、妹が奪ってしまっています。ですが、一つだけ、母が誰にも見つからないようにと私に渡していたものがありました。誰にも奪われないようにと年季の入ったトランクケースに隠されています。私はそのトランクを片手に公爵家に人身御供並みに訪れたのですが。
「では、手筈通りに」
そう公爵様がおっしゃると、私は侍女達に引きずられて行きました。え? 私何かされてしまうのですかっ。
気が付けば服を剥かれ(お嫁に行けなくなります!)、隅々まで磨かれました。身体中をマッサージされ、髪は艶々です。何が起こっているのか本当に謎なのです。
「ああ、磨かれたな」
公爵様、そこは笑うところではありません。それに侍女がドレスを着るなんてありえません。理解出来ません。しかも、身につけた宝石類が恐ろしすぎて打ち震えています。
「理解出来ていないな」
「あ、当たり前ですっ。父にはここでの仕事を斡旋されたとっ」
公爵様は手に持っていたペンを置いた。そう、ここは執務室です。そして、先の話をされたのです。
「君はあの男の娘ではない。まず、その色は王家の色だ。あの家に王家の者は降嫁していない。逆はあるけどね」
「え?」
「まあ、酷い扱いを受けていたと自覚があるかも謎だが。学園に通わせてもらえなかっただけでも問題だ」
「……私はっ」
「あの男は君の母親を手に入れる為に、当時、王弟殿下であり公爵となる予定である王族を手に掛けた。その事実がやっと得られたのだ。その過程で、君が既に母親の体内に宿っていた。王弟殿下の御子であるのは間違えない。つまり、侯爵家は王族を害していたことになる。まあ、君の異父姉妹は気が付いていないだろうが。しかし、一緒になり虐めていたのは罪だ」
公爵様の言葉に私は唖然としました。そして、気が付くのです。母が絶対に隠しておきなさいと言われていたあの装飾品一式。イヤリングにネックレス、そして、指輪と髪飾り。不思議な石が使われていて、見たことのない色彩の色味だったわ。だから、伝えてみたの。公爵様は驚いたように席を立ちました。
「見せてもらえないだろうか?! 絶対に壊したりはしないっ」
母はあの人達に見つからないようにとは言いましたが、その他の方々の事までは言及していませんでした。私は頷くと取りに行こうとしましたが、付いてきてくれていた侍女の方が取りに行ってくださいました。本当に申し訳ないです。
「これです」
持ってきてもらった薄汚れたトランクケースを開けて、一つのケースを取り出し公爵様に渡しました。そっと受け取った公爵様はさらに慎重にケースの蓋を開けました。私も一度しか見た事がありません。母が一度だけ見せてくれて、その後は見付からないようにそっとしておきました。まさか、その中に宝飾品があるなどあの妹は気が付かなかったのでしょう。
「魔道具だっ」
「え? 魔道具ですか? どう見ても宝飾品に見えます」
「王族や高位貴族の女性はよくこの手の魔道具を身に付けている。よく見なければ魔道具であるとは気が付かれない」
そして、調べた結果、父であると思っていた男の決定的瞬間が残されていました。つまり、王弟殿下、私の本当の父親を死に至らしめたと得意げに語る場面が記録されていたのです。母が自殺した理由は私ではなかったのです。散々、私がいるせいで、そう言われていました。母は愛していた男性を殺され、殺した男の妻となった事に耐えられなかったのです。私は唇を噛み締めるしかありませんでした。母はどんな思いで妹を産んだのか。
「侯爵家は終わりだな。そして、君の婚約者であり、今は君の妹の婚約者か? あそこの家も知らぬこととは言え、君の現状を知りながら手を差し伸べることもなく一方的に破棄。同罪と見做される。どう見ても君の容姿は王家のそれであるのにだ」
少しも頭が回らなかったのかと、薄く笑う公爵様はとても怖いです。それで私はどうなるのでしょう。ついつい小首を傾げてしまいます。それに母の実家はどうしているのでしょう。よくよく考えると、全く交流はありませんでした。
「どうかした?」
「はい。あの……」
問うていい問題なのか悩みます。でも、私の祖父母なのです。母と仲が悪かったのなら諦めますが。
「気になる事は吐き出そうか?」
公爵様の言葉に頷きます。今まで、疑問を持っても答えてもらえませんでした。でも、今は、答えてもらえる筈です。
「母の両親はどうしているのですか?」
公爵様の表情が変わります。徐に話し出した内容に私は背筋が冷たくなりました。母の実家は父親だと思っていた男と同じ爵位を持っていたそうです。母には王弟殿下との婚約話の他に、あの男からの縁談があったそうです。ですが、母の両親はあの男の元に母を嫁がせる気はなかったそう。王弟殿下は母の幼馴染みで、幼い時から仲が良く、社交を始める年齢で二人は婚約したそうです。そう、横槍を入れてきたのはあの男だったのだそうです。
「あの男は彼女の両親と兄弟を陥れた」
「え?」
「既に鬼籍に入っている」
私はあまりの事に両手で口を塞ぎました。酷い人だとは思っていましたが、自分の思い通りにならないと何をするか分からない。そんな危険な人物だったのです。
「貴女が無事であったのは奇跡です。まあ、自分の境遇をあまり不審がっていないのが問題点ではありますが」
いえ、私も流石に扱いが酷いとは思ってましたよ。食事は一日一回だけ。酷い時は与えてもくれません。しかも、使用人よりも酷い食事です。唯一、庭師の方がこっそり私に食べ物を分けてくれていました。それがなければ今頃、儚くなっていたかもしれません。
「これ程の証拠はありませんよ。やっと、王弟殿下の無念が晴らせます」
公爵様の言葉はある意味、恐ろしい程に室内に響いていました。それに身のうちから溢れ出る魔力がかなりキツイです。それでも耐えられるのは私にも魔力が備わっているからでしょう。あの男には知られていませんでしたが、かなりの魔力量であると母は言っていました。それは多分ですが本当の父親である王弟殿下の血筋であるからなのではないかと推察します。
「君は屋敷で寛いでいてくれたまえ。これから、あの男は地獄を見るだろう」
公爵様はいうなり席を立ち、執務室を出て行かれました。その時、執事と思われる方に何やら話しておられました。
その後、私は今までとは天地の差ほどもある扱いを受けています。朝早く起きる必要もなく。掃除や洗濯、食事の用意の前の準備などしなくて良くなったのです。ですが、私は毎日毎日、仕事に明け暮れていたので暇なのです。他のご令嬢の方々は何をしているのでしょうか。異父妹は碌でもないことを企んでいましたが。
あの日から半年。私は公爵様と共に国王陛下と謁見しております。マナー関係はここ半年でかなり叩き込まれましたが、それでも、まだまだ及第点は貰えていません。それでも、謁見しなくてはならないのだと言われました。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しく」
公爵様はそう言うと臣下の礼を取りました。私も倣います。
「よい。して、その娘が私の姪か?」
「そうです。そして……」
公爵様の言葉の後に、謁見の間の扉が開かれました。そして、放り込まれるように入ってきたのは、私を蔑んでいた家族であると思っていた男と妹。そして、元婚約者の家族です。何が起こっているのか理解していない顔です。
「調べが付いたのだな?」
「ええ。彼女のお陰で、決定的証拠も手に入れました。これ以上ない証拠ですよ」
母が私に託していた宝飾品の魔道具ですが、かなり優秀なものであったようです。私が見たもの聞いたものは一部に過ぎなかったのです。多くの証拠が、残っていたそうです。それを検証し、映し出されていた者達を探し出し、そして、彼等の後ろに連れて来られています。流石のあの男も何が起こっているのか察したようです。分かっていないのは妹でしょうか。私の姿に鬼の形相を見せています。そうでしょうね。私が身に纏っているドレスや宝飾品は妹が身につけているものなんか目ではないくらいの高級品ですもの。特に今日は戦闘服だ、そう言われていつも以上の豪華さです。豪華ではありますが下品な煌びやかさはありません。妹は下品な煌びやかな物が好きでしたね。理解は出来ませんでしたが。
「何故に呼ばれたか、分かっていないのだろうな」
「いくら公爵様であろうと私は侯爵です。どうなっても知りませんぞっ」
「その言葉はそのまま返そう。国王陛下には既に捜査結果は報告済みだ」
何を言っているのか、そんな表情だ。
「王弟殿下を手にかけた罪。その妻である侯爵令嬢を手に入れるために、その実家を没落させ、秘密裏に殺害した罪。隠し通せるととでも思っていたのか?」
公爵様の言葉の後に、私はあの宝飾品を男に見せました。一体、何をしているのかと言う表情です。私はその宝飾品に触れました。そう、耳飾りです、映像の方はスクリーンがなくては駄目なので、音声だけです。耳障りな声が謁見の間に響きます。その声を耳にし、男は青ざめました。自分で語った言葉です。覚えている筈ですよね。
「我が弟をその妻をその娘を、妻の家族を不幸にした自覚はあるな。娘は私の姪だ。つまり、王族だ。弟は当時、まだ王族に籍があった。言っている意味が理解出来るな」
国王陛下は厳しい表情で言い募ります。
「言いがかりです! しかもそれはなんですか?!」
「母が私に託していました。魔道具だそうです」
私は静かに語りました。男は驚愕に目を見開きます。
「待ってよ! その女が王族なら私も王族でしょ!」
妹の言葉に国王陛下と公爵様は氷の眼差しを向けます。
「お前はその男の娘だ。我が弟の娘ではない」
「分からないじゃない!」
「いいや、絶対にあり得ない。何故なら、王弟殿下が亡くなられてから三年後にお前は生まれている。日数が合わないだろう?」
妹は目を見開きました。王族であったなら、また、我が儘に振る舞うのでしょうね。まあ、血の卑しさは隠しようがないと思います。
「じゃあ、その女もじゃない!」
「彼女は王家の色を受け継いでおり、お前とは四歳差。ああ、薄汚れた色、そう言っていたか? 後ろにいる男も言っていたな。これ程、はっきりと王家の色であるのに」
妹も元婚約者も驚愕に目を見開いています。あの当時、私の栄養状態は最悪でした、髪はパサパサで銀髪には見えず、瞳も精彩を欠いていました。今は綺麗に手入れされ、痩せ細っていた体はうっすら肉に覆われています。何せ、あまり食べていなかったので、体を慣さなくて食べられなかったのです。最近、やっと少しずつ量が増えてきています。それでもまだ少ないと言われていますが。
「王族に対して暴言を吐き、最低なことをしていた自覚はあるな。特に妹、か。最低であると報告は受けている。よって、侯爵家は爵位を剥奪しその罪に応じた刑罰が与えられる。尚、侯爵本人は磔の上公開処刑とする。そして、我が姪の婚約者でありながら、妹と密通し、更に暴言を吐き助けることすらしなかった伯爵家もまた、爵位剥奪の上、平民とする」
国王陛下の言葉に絶望が映し出された顔が並びます。
「侯爵から罪の話を聞きながら報告しなかった者達は鉱山送りとしよう。どうせ世の中に戻しても碌な事にならん。また誰かを騙す可能性もあるからな」
ここに連れて来られた者達は全て、元の身分には戻れません。そして、妹ですが。
「私は知らないわ! だって、知らされていなかったのだもの!」
「本来、自分の姉が迫害されていたら手を差し伸べるのが姉妹だ。それすらせずに、父親やその他者達と同様に使用人以下の扱いをしていた。知らないとで思っているのか? よって、お前も鉱山行きだ。昼は鉱夫達の食事の用意。夜は慰み者としてせいぜい頑張るのだな。お前は若い。人気者になるだろう」
妹は目を見開く。そうでしょうね。夜は娼婦になれと言われたのですもの。しかも、罪人専門の娼婦です。こんなことを言ったらなんと言われるかわかりませんが、自業自得であるとそう思います。それに、あの子はもう純潔ではありません。父親ともそのような行為をしていました。私は下女以下の扱い。だから、そんな場面もよく目撃しました。まあ、誰にも伝えてはいませんよ。流石に恥だと思いますから。
結果、私を、否、私達家族を陥れた者達は断罪されました。国王陛下の前に連れて来られた者達だけではありません。爵位を失った者もかなりいたそうです。つまり、あの男に手を貸していた者達は多かったと言うことです。
そして、私ですが……。
「いいえ、貴族令嬢として教育を受けていませんので、侍女辺りの職につければそれで嬉しいのですが」
「何を言っている? 君は王族籍を得たのだよ。このまま、私の妻に、そう国王陛下には伝えてあるよ」
「え?」
「こう見えて、私はまだ、二十代なのだよ」
「はあ……」
「そして、未婚で結婚を約束した女性はいない」
どういう事でしょうか。私、公爵様に迫られてます。当然私は逃げ腰です。グイグイ来られるとどうしてよいのか分からなくなります。
「最初、第二王子の婚約者にと国王陛下が宣いましたが、鼻で笑ってやりました」
え? 国王陛下を鼻で笑う?!
「私なら、多少、マナーがなってなくても。淑女教育を受けておらず、多少、問題があっても、何とでもなりますからね。ほら、睨めば大抵皆、黙ります」
いえいえ、待ってください。それは脅しと言いませんか?!
そして気が付けば、国王陛下公認で婚約し、一月で結婚式。このドレスやら宝飾品はどのように用意されたのですか。身震いしてしまいそうです。それに、大教会はそんな簡単に予約が取れる場所ではありませんよ。そんな気持ちで公爵様に視線を向ければ、満面の笑みを向けられました。あ……、これは逆らってはいけないやつですね。私、この先、どうなってしまうのでしょうか?
終わり。
そう喚き散らしたのは私の婚約者である伯爵令息です。名前はアラン・ディストラ伯爵令息。私も好きで身なりを整えていないのではないのです。私は自宅でそれこそ、下女以下の扱いを受けています。溜め息を飲み込んで、しっかりと前を見た。
「分かりましたわ。どうぞ、妹とお幸せに」
嫌味でもなく、事実として告げました。まあ、後ろにいる妹は嬉しそうだ事。私は屋敷を出て行きますわね。付き合っていられませんわ。
そう思っていたのですが……。
「え? 公爵様ですか?」
「そうだ。お前を侍女にと望まれてな」
父の顔を見た時、察しました。私は売られたのです。溜め息がまた出てきそうです。嫌われているのは知っていましたが。私は侯爵家の容姿でおりません。白銀の髪と瑠璃の瞳。父は金髪に緑の瞳をしています。母も似たような色合いでした。つまり、私は異分子なのです。
「承りました」
この決定が、まさか、実家が没落することになろうとは思いませんでした。私の母は今の国王様の弟君と婚姻していたというのです。ですが、私が生まれる前に不慮の事故で亡くなられています。これは事実として私も知っていました。まさか、父が母を手に入れる為に暗躍していた事実が今更浮上したのです。ああ、母は私が幼い頃に他界しました。他界、は間違いですわね。自殺してしまいました。出てきた事実が本当なら、母は心を病んでいたのでしょう。母の形見はほぼ、妹が奪ってしまっています。ですが、一つだけ、母が誰にも見つからないようにと私に渡していたものがありました。誰にも奪われないようにと年季の入ったトランクケースに隠されています。私はそのトランクを片手に公爵家に人身御供並みに訪れたのですが。
「では、手筈通りに」
そう公爵様がおっしゃると、私は侍女達に引きずられて行きました。え? 私何かされてしまうのですかっ。
気が付けば服を剥かれ(お嫁に行けなくなります!)、隅々まで磨かれました。身体中をマッサージされ、髪は艶々です。何が起こっているのか本当に謎なのです。
「ああ、磨かれたな」
公爵様、そこは笑うところではありません。それに侍女がドレスを着るなんてありえません。理解出来ません。しかも、身につけた宝石類が恐ろしすぎて打ち震えています。
「理解出来ていないな」
「あ、当たり前ですっ。父にはここでの仕事を斡旋されたとっ」
公爵様は手に持っていたペンを置いた。そう、ここは執務室です。そして、先の話をされたのです。
「君はあの男の娘ではない。まず、その色は王家の色だ。あの家に王家の者は降嫁していない。逆はあるけどね」
「え?」
「まあ、酷い扱いを受けていたと自覚があるかも謎だが。学園に通わせてもらえなかっただけでも問題だ」
「……私はっ」
「あの男は君の母親を手に入れる為に、当時、王弟殿下であり公爵となる予定である王族を手に掛けた。その事実がやっと得られたのだ。その過程で、君が既に母親の体内に宿っていた。王弟殿下の御子であるのは間違えない。つまり、侯爵家は王族を害していたことになる。まあ、君の異父姉妹は気が付いていないだろうが。しかし、一緒になり虐めていたのは罪だ」
公爵様の言葉に私は唖然としました。そして、気が付くのです。母が絶対に隠しておきなさいと言われていたあの装飾品一式。イヤリングにネックレス、そして、指輪と髪飾り。不思議な石が使われていて、見たことのない色彩の色味だったわ。だから、伝えてみたの。公爵様は驚いたように席を立ちました。
「見せてもらえないだろうか?! 絶対に壊したりはしないっ」
母はあの人達に見つからないようにとは言いましたが、その他の方々の事までは言及していませんでした。私は頷くと取りに行こうとしましたが、付いてきてくれていた侍女の方が取りに行ってくださいました。本当に申し訳ないです。
「これです」
持ってきてもらった薄汚れたトランクケースを開けて、一つのケースを取り出し公爵様に渡しました。そっと受け取った公爵様はさらに慎重にケースの蓋を開けました。私も一度しか見た事がありません。母が一度だけ見せてくれて、その後は見付からないようにそっとしておきました。まさか、その中に宝飾品があるなどあの妹は気が付かなかったのでしょう。
「魔道具だっ」
「え? 魔道具ですか? どう見ても宝飾品に見えます」
「王族や高位貴族の女性はよくこの手の魔道具を身に付けている。よく見なければ魔道具であるとは気が付かれない」
そして、調べた結果、父であると思っていた男の決定的瞬間が残されていました。つまり、王弟殿下、私の本当の父親を死に至らしめたと得意げに語る場面が記録されていたのです。母が自殺した理由は私ではなかったのです。散々、私がいるせいで、そう言われていました。母は愛していた男性を殺され、殺した男の妻となった事に耐えられなかったのです。私は唇を噛み締めるしかありませんでした。母はどんな思いで妹を産んだのか。
「侯爵家は終わりだな。そして、君の婚約者であり、今は君の妹の婚約者か? あそこの家も知らぬこととは言え、君の現状を知りながら手を差し伸べることもなく一方的に破棄。同罪と見做される。どう見ても君の容姿は王家のそれであるのにだ」
少しも頭が回らなかったのかと、薄く笑う公爵様はとても怖いです。それで私はどうなるのでしょう。ついつい小首を傾げてしまいます。それに母の実家はどうしているのでしょう。よくよく考えると、全く交流はありませんでした。
「どうかした?」
「はい。あの……」
問うていい問題なのか悩みます。でも、私の祖父母なのです。母と仲が悪かったのなら諦めますが。
「気になる事は吐き出そうか?」
公爵様の言葉に頷きます。今まで、疑問を持っても答えてもらえませんでした。でも、今は、答えてもらえる筈です。
「母の両親はどうしているのですか?」
公爵様の表情が変わります。徐に話し出した内容に私は背筋が冷たくなりました。母の実家は父親だと思っていた男と同じ爵位を持っていたそうです。母には王弟殿下との婚約話の他に、あの男からの縁談があったそうです。ですが、母の両親はあの男の元に母を嫁がせる気はなかったそう。王弟殿下は母の幼馴染みで、幼い時から仲が良く、社交を始める年齢で二人は婚約したそうです。そう、横槍を入れてきたのはあの男だったのだそうです。
「あの男は彼女の両親と兄弟を陥れた」
「え?」
「既に鬼籍に入っている」
私はあまりの事に両手で口を塞ぎました。酷い人だとは思っていましたが、自分の思い通りにならないと何をするか分からない。そんな危険な人物だったのです。
「貴女が無事であったのは奇跡です。まあ、自分の境遇をあまり不審がっていないのが問題点ではありますが」
いえ、私も流石に扱いが酷いとは思ってましたよ。食事は一日一回だけ。酷い時は与えてもくれません。しかも、使用人よりも酷い食事です。唯一、庭師の方がこっそり私に食べ物を分けてくれていました。それがなければ今頃、儚くなっていたかもしれません。
「これ程の証拠はありませんよ。やっと、王弟殿下の無念が晴らせます」
公爵様の言葉はある意味、恐ろしい程に室内に響いていました。それに身のうちから溢れ出る魔力がかなりキツイです。それでも耐えられるのは私にも魔力が備わっているからでしょう。あの男には知られていませんでしたが、かなりの魔力量であると母は言っていました。それは多分ですが本当の父親である王弟殿下の血筋であるからなのではないかと推察します。
「君は屋敷で寛いでいてくれたまえ。これから、あの男は地獄を見るだろう」
公爵様はいうなり席を立ち、執務室を出て行かれました。その時、執事と思われる方に何やら話しておられました。
その後、私は今までとは天地の差ほどもある扱いを受けています。朝早く起きる必要もなく。掃除や洗濯、食事の用意の前の準備などしなくて良くなったのです。ですが、私は毎日毎日、仕事に明け暮れていたので暇なのです。他のご令嬢の方々は何をしているのでしょうか。異父妹は碌でもないことを企んでいましたが。
あの日から半年。私は公爵様と共に国王陛下と謁見しております。マナー関係はここ半年でかなり叩き込まれましたが、それでも、まだまだ及第点は貰えていません。それでも、謁見しなくてはならないのだと言われました。
「陛下におかれましてはご機嫌麗しく」
公爵様はそう言うと臣下の礼を取りました。私も倣います。
「よい。して、その娘が私の姪か?」
「そうです。そして……」
公爵様の言葉の後に、謁見の間の扉が開かれました。そして、放り込まれるように入ってきたのは、私を蔑んでいた家族であると思っていた男と妹。そして、元婚約者の家族です。何が起こっているのか理解していない顔です。
「調べが付いたのだな?」
「ええ。彼女のお陰で、決定的証拠も手に入れました。これ以上ない証拠ですよ」
母が私に託していた宝飾品の魔道具ですが、かなり優秀なものであったようです。私が見たもの聞いたものは一部に過ぎなかったのです。多くの証拠が、残っていたそうです。それを検証し、映し出されていた者達を探し出し、そして、彼等の後ろに連れて来られています。流石のあの男も何が起こっているのか察したようです。分かっていないのは妹でしょうか。私の姿に鬼の形相を見せています。そうでしょうね。私が身に纏っているドレスや宝飾品は妹が身につけているものなんか目ではないくらいの高級品ですもの。特に今日は戦闘服だ、そう言われていつも以上の豪華さです。豪華ではありますが下品な煌びやかさはありません。妹は下品な煌びやかな物が好きでしたね。理解は出来ませんでしたが。
「何故に呼ばれたか、分かっていないのだろうな」
「いくら公爵様であろうと私は侯爵です。どうなっても知りませんぞっ」
「その言葉はそのまま返そう。国王陛下には既に捜査結果は報告済みだ」
何を言っているのか、そんな表情だ。
「王弟殿下を手にかけた罪。その妻である侯爵令嬢を手に入れるために、その実家を没落させ、秘密裏に殺害した罪。隠し通せるととでも思っていたのか?」
公爵様の言葉の後に、私はあの宝飾品を男に見せました。一体、何をしているのかと言う表情です。私はその宝飾品に触れました。そう、耳飾りです、映像の方はスクリーンがなくては駄目なので、音声だけです。耳障りな声が謁見の間に響きます。その声を耳にし、男は青ざめました。自分で語った言葉です。覚えている筈ですよね。
「我が弟をその妻をその娘を、妻の家族を不幸にした自覚はあるな。娘は私の姪だ。つまり、王族だ。弟は当時、まだ王族に籍があった。言っている意味が理解出来るな」
国王陛下は厳しい表情で言い募ります。
「言いがかりです! しかもそれはなんですか?!」
「母が私に託していました。魔道具だそうです」
私は静かに語りました。男は驚愕に目を見開きます。
「待ってよ! その女が王族なら私も王族でしょ!」
妹の言葉に国王陛下と公爵様は氷の眼差しを向けます。
「お前はその男の娘だ。我が弟の娘ではない」
「分からないじゃない!」
「いいや、絶対にあり得ない。何故なら、王弟殿下が亡くなられてから三年後にお前は生まれている。日数が合わないだろう?」
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「じゃあ、その女もじゃない!」
「彼女は王家の色を受け継いでおり、お前とは四歳差。ああ、薄汚れた色、そう言っていたか? 後ろにいる男も言っていたな。これ程、はっきりと王家の色であるのに」
妹も元婚約者も驚愕に目を見開いています。あの当時、私の栄養状態は最悪でした、髪はパサパサで銀髪には見えず、瞳も精彩を欠いていました。今は綺麗に手入れされ、痩せ細っていた体はうっすら肉に覆われています。何せ、あまり食べていなかったので、体を慣さなくて食べられなかったのです。最近、やっと少しずつ量が増えてきています。それでもまだ少ないと言われていますが。
「王族に対して暴言を吐き、最低なことをしていた自覚はあるな。特に妹、か。最低であると報告は受けている。よって、侯爵家は爵位を剥奪しその罪に応じた刑罰が与えられる。尚、侯爵本人は磔の上公開処刑とする。そして、我が姪の婚約者でありながら、妹と密通し、更に暴言を吐き助けることすらしなかった伯爵家もまた、爵位剥奪の上、平民とする」
国王陛下の言葉に絶望が映し出された顔が並びます。
「侯爵から罪の話を聞きながら報告しなかった者達は鉱山送りとしよう。どうせ世の中に戻しても碌な事にならん。また誰かを騙す可能性もあるからな」
ここに連れて来られた者達は全て、元の身分には戻れません。そして、妹ですが。
「私は知らないわ! だって、知らされていなかったのだもの!」
「本来、自分の姉が迫害されていたら手を差し伸べるのが姉妹だ。それすらせずに、父親やその他者達と同様に使用人以下の扱いをしていた。知らないとで思っているのか? よって、お前も鉱山行きだ。昼は鉱夫達の食事の用意。夜は慰み者としてせいぜい頑張るのだな。お前は若い。人気者になるだろう」
妹は目を見開く。そうでしょうね。夜は娼婦になれと言われたのですもの。しかも、罪人専門の娼婦です。こんなことを言ったらなんと言われるかわかりませんが、自業自得であるとそう思います。それに、あの子はもう純潔ではありません。父親ともそのような行為をしていました。私は下女以下の扱い。だから、そんな場面もよく目撃しました。まあ、誰にも伝えてはいませんよ。流石に恥だと思いますから。
結果、私を、否、私達家族を陥れた者達は断罪されました。国王陛下の前に連れて来られた者達だけではありません。爵位を失った者もかなりいたそうです。つまり、あの男に手を貸していた者達は多かったと言うことです。
そして、私ですが……。
「いいえ、貴族令嬢として教育を受けていませんので、侍女辺りの職につければそれで嬉しいのですが」
「何を言っている? 君は王族籍を得たのだよ。このまま、私の妻に、そう国王陛下には伝えてあるよ」
「え?」
「こう見えて、私はまだ、二十代なのだよ」
「はあ……」
「そして、未婚で結婚を約束した女性はいない」
どういう事でしょうか。私、公爵様に迫られてます。当然私は逃げ腰です。グイグイ来られるとどうしてよいのか分からなくなります。
「最初、第二王子の婚約者にと国王陛下が宣いましたが、鼻で笑ってやりました」
え? 国王陛下を鼻で笑う?!
「私なら、多少、マナーがなってなくても。淑女教育を受けておらず、多少、問題があっても、何とでもなりますからね。ほら、睨めば大抵皆、黙ります」
いえいえ、待ってください。それは脅しと言いませんか?!
そして気が付けば、国王陛下公認で婚約し、一月で結婚式。このドレスやら宝飾品はどのように用意されたのですか。身震いしてしまいそうです。それに、大教会はそんな簡単に予約が取れる場所ではありませんよ。そんな気持ちで公爵様に視線を向ければ、満面の笑みを向けられました。あ……、これは逆らってはいけないやつですね。私、この先、どうなってしまうのでしょうか?
終わり。
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