銀の鳥籠

善奈美

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銀の鳥籠SS

006 もう一つの……。

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■008オレ的地獄の入口で、サクヤはルイに、ユエはライカにそれぞれ部屋に引きずり込まれました。本編は主人公二人の話を綴りしたが、番外編は本編では書かなかったユエとライカがどうなったのかを書いていきます。
 
 
 
 目の前でサクヤが部屋に引きずり込まれるのを見た。でも、その姿もすぐに扉という壁が遮った。そして、俺も同じように引きずり込まれた。力強い腕に体を絡め取られて、背後から抱き締められた。
 
 自然と体が震えた。だって、部屋に引きずり込まれたら逃げるのなんか無理だ。力だって魔力だって叶うはずない。サラリと頰に触れた長い髪が、頰と首筋を擽る。
 
「……返事を待つつもりだったんだけどね」
 
 ボソリと耳元で呟かれた言葉に、体から血の気が引いた。だって、それは返事なんか聞かないで、手篭めにするってことだよね。
 
「……まっ……」
 
 言葉が紡げない。だって、どうして切羽詰まってるのかなんて、分かってるんだ。多分、副会長は闇に落ちる魔法使いの筆頭だ。会長と肩を並べてるのも分かってる。
 
 いきなり体を反転させられて、壁に押し付けられた。かなり強い力だったから、背中を強かに壁に打ち付けられた。一瞬、息が詰まる。副会長は俯いていて、表情なんか分からない。でも、肩で息をしていて、辛いんだってことは分かった。多分、魔力の淀みが限界に達してるんだ。どんなに放出しても淀みを解消することができなくて。
 
 ゆっくり顔を上げた副会長。赤い瞳が俺を射抜いた。
 
 肉食獣……。そんな言葉がぴったりの鋭い視線。体の震えが止まらなかった。何をしようとしてるかなんて、教えてもらわなくても分かってるんだ。
 
 ヤられる……。この考えが体を竦ませ、うまく呼吸ができない。だって、今の俺じゃ、副会長の魔力なんか受けきれない。閉ざされた魔力を解放しないと、魔力の器の大きさが絶対に合わない。俺はサクヤと違って破壊の魔力も持ってるから、いきなりじゃ、ぜったいに精神的におかしくなる。
 
「……ひっ、……や……」
 
 怖いって伝えたいのに、声が上手く出せない。ヒューヒューとただ、恐怖に声すらも固まってる。いきなり触れた唇。うっすらと唇が開いていた俺の口内に、ぬるりと滑りを帯びた熱いモノが侵入してきた。口内をネットリと舐められて、舌を絡められて、その感覚に更に体が固まった。ゆっくりと離れた唇。目の前にある薄い唇が薄い光に反射して光ってた。
 
「鍵、外すよ」
「鍵……?」
「そう、リミッターとも言うね。俺は貴方を壊す気はないから。せっかく、釣り合う魔力の器を持つ魔法使いを見付けたのに」
 
 さっきとは違う荒々しい口付け。噛み付くように口を塞がれて、思わず副会長の体に縋った。息ができない。鼻でするって知ってはいても、実際に体験して実行できるかっていうとそうじゃない。酸素が肺の中から吐き出されて、補給ができない。霞がかかり始めた脳の片隅で、嫌な音を聞いた。今まで感知はしていても、絶対に触れられなかった場所。自分ではどうすることもできなかった場所。ざわりと肌を何かが這い上がる。
 
「あっ!」
 
 副会長の体に縋ったまま、身の内から湧き出す今までにない魔力の奔流。魔力の制御ができない! こんな魔力、制御の仕方なんて身につけてない!
 
「あぁ! 無理!」
「落ち着いて。ゆっくり息して」
 
 耳元で囁かれた言葉に、素直に従った。息をゆっくり吸って、そして吐き出した。それを繰り返す。体の中で暴れまわる魔力。でもそれは破壊の魔力じゃなくて、サクヤと同じ癒しの魔力。ギュッと目を閉じて、左手で自分の心臓の辺りの制服を握り締めた。だんだんと、魔力が落ち着いてくる。制御はできなくても、最初の時のように、体の中を暴れまわったりはしなかった。
 
「落ち着いた?」
「何したの?」
「鍵を外したんだよ」
「嘘……、簡単に外せるなんて聞いてない」
「普通ならね」
 
 副会長の言葉に、俺はマジマジと顔を凝視した。
  
 普通なら解除できない……。じゃあ……。
 
「俺をその辺の魔法使いと一緒にしないで。伊達にルイの側にいた訳じゃあないんだよ」
 
 言われなくても分かってるけど! でも、それは本当の意味で分かってなかった。多分、会長もだけど副会長も学校になんか来る必要ないんだ。そう、学生でいるのは相手を見付けるのに最適な場所だからだ。魔力によって振り分けられるクラス。その中で特Aは魔法使いの中でトップクラスの魔力を持ってる。俺もサクヤも本当なら特Aに振り分けられる。でも、俺は魔力が閉じていて、サクヤは制御ができてなかった。それはある意味、幸運だったんだ。もし、最初から特Aだったら、大変な目にあってた。
 
「……初等部、中等部、相手になる存在はいないと思ってた。ルイは魔力の器という意味では同等以上だけど、破壊の魔力同士で、どうやっても相手にはならない。高等部に入った時、諦めたんだよ。闇の魔法使いとして狩られるなら、自分から魔法省の地下に行こうとすら考えてた」
 
 隠れの魔力。其れが俺の本当の魔力を封印してた。生まれた時から癒しの魔力の半分に鍵が掛かっていて。俺より魔力が強くないと感知も、もちろん、解除もできない。中等部に上がる時、両親にそう言われて。その時、本当なら特Aクラスだったんだって言われた。知っているのは一握りの魔法使い。魔法省の中でも数人の魔法使いしか俺の秘密は知らない。
 
「まさか、ルイがご執心の彼の友達が特殊な魔力の持ち主だったなんてね」
 
 逃げられない。魔力の解放は相手となる魔法使いにのみ開かれる。だから、俺は副会長に捕まったんだ。
 
「今なら、俺の魔力を受けても気が触れたりしない。見事に半々の魔力の持ち主なんだね。普通なら癒しの魔力は持っていても、破壊の魔力に傾倒している場合が多いから。そうなると、俺の相手にはならないしね」
 
 俺だってこんなに綺麗に半々だったなんて知らなかった。外されるまで、破壊の魔力の方が強かったから、体が変な感じだ。魔力が勝手に体のあちこちを修復してる。まるで、待ち望んでいたかのように。
 
「……解除できるって、あの時から分かっていたの?」
「職員室の前でのことだよね。当たり前だよ。隠れの魔力の話は聞いて知っていたよ。そんな魔法使いがいるなんて思ってなかったけどね」
 
 そうか。解除できるって自信があったから求愛されたんだ。でも、なんでだろう。サクヤにあんなことを言ったのに、虚しいって思うなんて。だって、魔力と器だけで選ばれたんだよな。俺自身は見てもらえてないって……。我が儘だって分かってるけど。副会長のモノになった方が安全だって分かってる。でも……!
 
「何を考えてるか、手に取るように分かるね。特A出身者なら隠す感情がダダ漏れだよ」
 
 泣きたくなった。素直に感情が顔に表れてるって言われて。だって、俺はまだ、高等部に上がったばかりの子供と変わらないんだ。
 
「ああ、泣かない。本当に可愛いな。絆されそうだよ」
 
 可愛いって……。サクヤなら可愛いって思ったけど。
 
「おいで」
 
 手を引かれて連れてこられたのはバスルーム……、って! なんなの?! この広さ!
 
「どうしたの?」
「無駄に広いのはなんで?」
「ああ、特別寮は古い建物なんだよ。それに、最上階は二部屋しかないしね」
「へ?」
「扉。二つしかなかったでしょう? この一階下は四部屋あるけどね」
 
 もう一つ疑問。既にバスタブにお湯が張られてんだけど。湯気が浴室内を満たして白く霞んでるし。泣きそうじゃなく、本当に涙が出てきて、鼻をすすった。なにより、目の前の現実に体が竦んだ。副会長を見上げて、覚悟を決めないと駄目なんだって、心臓がキュウっとなった。
  
「あのっ……!」
「なに?」
「なにしてるの?!」
 
 いきなり上着に手をかけたと思ったら、簡単に脱がされた! 抵抗しなかったせいもあるけど!
 
「なにって、見て分からない?」
「分かるけど、……!」
 
 スルリとネクタイを解かれて、そのままの勢いでベルトまで抜かれた! 慌てて身を捩って、副会長の手から逃れる。心の準備が! だって、副会長の体って立派な感じがする。服の上からは華奢に見えるけど、それはあくまで身長があるからそう見えるんだと思うんだ。
 
「逃げられないよ」
「……恥ずかしいから」
 
 俺は筋肉はつく方だと思うけど、肉付きも良くないし、ただ、ヒョロッとしてるだけ。見た目も普通だと思う。特Aで会長に次ぐ魔力を持ってる副会長は綺麗で格好いいし。絶対、バランスのとれた体付きをしてるって想像できる。
 
「恥ずかしいのなんて一瞬だよ。それに、同じ性別で恥ずかしいもないでしょう?」
「……自信なくす」
「ん? 自信?」
「ただでさえ身長は低いし」
 
 赤い瞳が細められて、嫌な予感がした。スッと伸びてきた手が俺を抱き上げて、そのまま!
 
「わあ!」
 
 浴室に響いた激しい水音。俺、まだ、靴も履いたままだったんだけど?! 少し温めのお湯を張った浴槽の中に放り投げられた。制服が貼り付いて気持ち悪い。
 
「さあ、服を脱がないと」
 
 楽しそうに言わないで。更に、そんな目で見ないで。
 
「シャツが肌に貼り付いて、透けて見えてるよ」
 
 透けて見えるって? そう思って視線を下に向けたら……! 乳首が見えてる! しかも、立ってるし!
 
「見るな!」
「無理。さあ、脱がないとね」
 
 そう言ったかと思うと俺を軽々と持ち上げて、浴槽から引き上げると全部脱がされた。鬼だ! 更に持ち上げられて、今度は静かにお湯に体を浸してくれた。飴と鞭なの? 衣擦れの音に視線を向ければ、副会長が制服を脱いでた。引き締まった男の体してるし。やっぱり、自信なくす。脱いだと思ったら、髪の毛を縛ってた。うん、髪の毛長いから。邪魔じゃないのかな?
 
「ガン見してるのもどうかと思うけどね」
 
 指摘されてあわてて視線を反らせる。だって、目のやり場が。それに、気になるのも事実だし。浴槽のお湯が揺れて触れ合う肌に体がビクついた。一緒に入るの?!
 
「腕出して」
「腕?」
 
 ここまで来たら観念するしかないし。素直に左腕を差し出すと、スポンジが肌を滑っていく。
 
「お風呂の中では手を出さないから。上気せるでしょう?」
 
 ゆっくり丁寧に体を洗われる。そんなことをされたのは初等部入学前、両親にしてもらって以来だ。手付きが優しいって思った。強すぎず弱すぎず。
 
「緊張するなって言っても無理だろうけどね」
「……覚悟できるまで待ってくれるんじゃなかったの?」
「そのつもりだったんだけどね。それより、断ることは考えなかったんだ?」
「あの言い方は断るのは論外で、覚悟して落ちて来いってことでしょう?」
 
 有無言わせてなかったじゃん。
 
「分かってたんだ」
 
 俺は素直に頷いた。
 
「さっきも言ったけどね、ほんとうに諦めてたから。貴方を見たときは息が止まりそうだったよ。ぱっと見た感じ、破壊の魔力の方を強く感じるからね。近付いて確信したんだよ。あの話が本当だったって」
「隠れの魔力のこと?」
「そう。誕生時から魔力、それも、癒しの魔力の半分に鍵が掛かっている魔法使い。Aクラスの生徒ではまず、分からないだろうね。特A内でも分かるのは生徒会役員くらいだと思うよ」
 
 俺は吃驚して目を見開いた。生徒会役員って! 魔力がトップもトップじゃん!
 
「分かってないんだね。貴方の魔力は魔法使いの中でも上に位置してるよ」
 
 驚きすぎて一瞬、息が止まった。
  
 俺の魔力が実は生徒会役員並みに強かった、らしいことはこの際横に置いといて。当面の問題はこの後のことだよぉ!
 
 お風呂は正直、凄く良かったんだ。使ってるバスソープはいい香りだったし。きっと、高級品。食事も凄く美味しかったと思う。思うっていうのは緊張しすぎて、味どころじゃなかったからだ! だってさ、この格好がやります感を出してんだもん。
 
 普通の寝間着を着たかったのが正直な気持ちで。でも、着せられたのが黒のバスローブ。もちろん、下着は着けさせてもらえなかった。なんで黒なのかは考えなくてもなんとなく。副会長は私服が全身黒ずくめ。何回か見たことあるし。
 
「いっぱいいっぱいになってるね」
「あの! やるの……」
 
 今いるのはベッドの上で。そのベッドもキングサイズって、こんなベッドに一人で寝てたの?!
 
「ここまで来て、今更訊いてくるの?」
「……だって……」
 
 覚悟する時間をスパッと切り落としたじゃないか?!
 
「答えとしてはやる、だけどね。魔力を解放してしまったし。早く印をつけないと持って行かれる」
 
 頰に触れてきたと思ったら、唇をなぞられて、体がぞくりと震えた。言葉遣いは柔らかいのに、気配が凄く怖い。実は会長より威圧感があるんだ。年上だっていうのもあるとは思うんだけど。
 
「抱かれる側になるとは考えてなかったでしょう。違うか? 誰にも気付いて貰えないと思っていた、かな?」
 
 副会長の言葉に体が固まった。そう、誰にも気がついてもらえないと思ってた。特A級の魔力を持つ魔法使いと接触する機会なんてそんなにない。それが生徒会役員ともなれば、更に機会なんかあるわけない。サクヤと一緒にいなければ、そのまま誰にも見つけてもらえなかった。閉じられた魔力のまま、相手を見つけて生きていたと思う。
 
「正直だね。全部、顔に出てる」
「……仕方ないじゃないか。俺自身、そのことを知ったのが中等部のときだし。ずっとAクラスで、いきなり言われても対応なんかできない」
 
 副会長の手が頰から顎に移動してきた。抵抗したとしても魔力で押さえつけられたら、何もできない。目頭が熱くなって、涙が溢れてきた。テリトリー内に引き込まれて、逃げ道はないし。
 
「泣かないの。大丈夫。ちゃんと守ってあげるよ。せっかく見付けた大切な相手だ」
 
 唇と唇が触れ合う。一度軽く触れて、すぐに離れた。右人差し指で唇をノックされて。なにが言いたいのか分かってる。少し躊躇って、薄く唇を開いた。再び合わさった唇。滑りを帯びた熱い舌が伺うように侵入してきた。ゆっくり、口内を堪能するように蠢く。
 
 唇が合わさったまま、副会長は俺が着ているバスローブに手を掛けてきた。腰の紐を解いて、前を肌蹴させる。ゆっくりと肌の上を手が撫でていく。唇が解放されて、そのまま耳に移動して軽く息を吹きかけられた。その擽ったさに肩を竦める。
 
 耳殻を食まれて舌が舐め上げる。自分とは違う意志を持ったモノが、肌の上を滑る。首筋に移動してきた生暖かい空気が、肌を掠めていく。無意識に体が息を吐き出そうとしてる。同時に声も出そうで、キュと奥歯と唇を噛み締めた。
 
「こら、噛み締めない。奥歯が痛むし、唇も傷つく」
 
 そんなこと言っても、本人の意志を無視して声が出そうになるんだもん!
 
「声を出した方がいいよ。誰も聞いてない」
「副会長は聞いてる」
「そりゃあね。悪戯しているの俺だよ」
 
 そう言いながら、副会長はあらぬ場所に指を這わせた。普段、気にもしない場所。
 
「さっきは立ってたのにね」
「……んっ、あれは急にお湯に放り込まれたから」
 
 あれは自然の反応。俺の様子を伺っていた副会長。急に口角を上げたと思ったら、ただ触れていた乳首を強く摘まんだ。
  
 一瞬、息が詰まる。ピリリッとした痛みに身を捩り副会長から逃れようとして失敗した。そのままベッドに身を沈めてしまったんだ。慌てて起き上がろうとするけど、力が入らない。何もされてないのに、なんで?!
 
「感じ易いね」
「……っ、ちがっ」
 
 違うと言いたいのに、そっと触れてくる手に過剰に反応する。考えたくないけど、体の方が勝手に準備を始めてるの?! 心の方を無視して?!
 
「違うか。魔力が反応してるんだ」
「魔力……」
 
 涙目で副会長を見上げた。それは、知識として知ってる。中等部に入るとある一定の魔力を持つ魔法使いは授業で教えられるから。闇の魔法使いにならないように、自分の持つ魔力が呼応する相手を見つけなさいと教わる。男子校に通う魔法使いは、両親が同性、それも同じ性別の場合が多くて、普通に受け入れてた。俺の両親は異性同士だったけど、父方の祖父母は同性で、小さい時は戸惑ったんだ。
 
「そう、ここ」
 
 そう言いながら副会長が右手の人差し指をついた場所は心臓の上辺り。魔力がある場所だ。
 
「俺の持つ魔力は破壊の魔力のみだけどね。多分、貴方の持つ癒しの魔力が反応してるんだよ。鍵を外した魔力に過剰反応してる」
 
 俺は目を見開いた。閉ざされていた魔力を開放できるのは、それ相応の魔力でなくてはならない。開放してくれた魔力に、俺の癒しの魔力が従順になってるってこと?!
 
「魔法使いにとって魔力は切っても切れないモノだよ。魔力のせいで全てが決められてしまう時もある。学校もその一つだよね」
「あのさ……、訊いてもいい?」
「なに?」
「副会長って、学校に来る必要があったの?」
 
 俺の質問に、赤い瞳が細められる。その感情の色にぞくりと体が震えた。
 
「一言で言うと、来なくても問題ないよ。授業内容なんて、初等部高学年前に大抵、習得済みだから」
 
 やっぱり! じゃあ、大人しく学校にいるのって? もしかしなくても、相手を見つけるためなの?!
 
「なにを考えてるのか想像は可能だけどね。学校に来なくても問題なくても、出してもらえないんだよ。頭では分かっていても、魔力はそうじゃない。幼い器に強い魔力を宿してるんだよ。暴走しないと自信があったとしても、それは絶対じゃないからね。管理されてるっていうのが正確なんだと思うよ」
「管理?」
「そう。貴方のようになんらかの理由で魔力が閉じていた場合は、おそらく、暴走することは少ない。ルイの相手は別の意味で安全だ。あの魔力は暴走したところで、命あるモノに牙を剥かないからね」
 
 男子校は山奥、女子校は確か森の中にある。あれって、暴走したときのことを考えてるのか?
 
「相手を得られるということは、幸運なんだよ。特に役職を与えられた幼い魔法使いには、ね」
 
 魔力で学校が決められる魔法使い。それは、同等の魔力を持つもの同士で監視し合うっていう理由と、将来の相手を見つけるのが目的。それは俺だって知ってる。感情よりも魔力に合う相手を見付ける。今の自分という存在を維持するのに必要不可欠だから。
 
 副会長のさっきの様子で、普段は必死で溜まり込んだ魔力に耐えてるってこと。それも、気取られないようにしてるんだ。
 
「心情が分からないほど鈍感でもないし。そうだね」
 
 副会長の手が俺の肌を撫でた。でも、その仕草はただ、撫でただけ。これから行おうとしている行為を全く匂わせてなかった。
 
「俺のモノになりなよ。今は感情が伴ってなくても、居心地のいい場所を絶対に提供する自信はあるしね」
 
 翳りを帯びたその微笑みに、俺はなぜかやられたって思ったんだ。
  
 どうしてそんな顔をするの?
 
「あの……」
「なに?」
「どうして、そんな顔」
 
 副会長がバツが悪そうな顔をした。あれ? もしかして……。
 
「はは、まだ、俺も未熟だってことか」
 
 右手で顔を覆って、自嘲気味に笑う。その姿が、孤独を感じさせた。
 
「限界なの?」
「そうだよ。何でもないフリをするのは、正直にキツかった。既に闇が目の前まで来てる」
「どうして?!」
 
 俺は少し身を起こして副会長を凝視した。流れるような癖のない長い黒髪と、鋭い赤い瞳。いつも落ち着いた印象があるんだけど。
 
「ルイのように最強に強い破壊の魔力じゃなくても、俺の持つ魔力も破壊の魔力だけ。宥めてくれる癒しの魔力を持っていないんだ。澱のように溜まりこんでいく魔力をどうにかしようともがいていても、それは踠いているだけ。何の解決にもならないんだ」
 
 初めて聞いた弱音。きっと、会長も見たことないと思う。バスローブの合わせ目から覗く肌。その奥にある心臓近くに、魔力は潜んでる。思わず軽く触れると副会長の体が震えた。
 
「俺じゃないと駄目なの?」
「誰でもいいわけじゃない。特に俺とルイは偏った魔力の持ち主で、ルイほどではないにしても魔法省から危険視されてる。両親も実は一歩離れた場所から接してくる。これでも、必死で自分にしがみ付いた。相手を見付けるのは諦めてはいたけど、せめて、学生の内は自由でいたかった」
 
 副会長は両手で顔を覆ってしまった。多分、抑えていたものが溢れたんだ。誰にも弱音を吐き出せなくて。俺は完全に身を起こすと、副会長の体を抱き締めた。なぜか、そうしないと駄目だって思ったんだ。
 
「……ユエ?」
 
 副会長が顔を上げ、初めて呼ばれた名前に、ぞくりと体が震えた。今まで、貴方って言われてたし。
 
「どうして、そんな弱味を俺に見せるの?」
「分からない。ただ、誰かに聞いてもらいたかった」
 
 足掻くのやめよう。心とかそんなのは後から何とでもなる。この人となら、ずっといても平気だとそう思えた。魔力は強くても、制御する術を身につけていても、最終的には魔力に侵食されてしまう。俺だって、いつかは相手を見付ないといけないんだ。サクヤは奪われてしまったし。
 
「本当に守ってくれる?」
「全てに対して。それは、誓いを破らないように、努力してみせる」
「努力なの?」
 
 努力の言葉に笑いが込み上げた。だって、副会長が努力してる姿を想像できないんだもん。
 
「これでも、色々と努力はしてるんだよ。絶対に守ると約束できても、実行するとなればそれなりの努力は必要だよ。側にい続けるのは現実問題として無理だしね」
 
 言ってることは間違えてない。自然と唇が触れ合って、抱き締めていたのは俺なのに、いつの間にか逆になってた。触れるだけのキスが少しずつ深いものに変わっていく。剥き出しの肌を副会長の手が撫でていく。ただ、話を聞いただけなのに、それだけなのに感じ方が変わってる。人って不思議。
 
「抵抗しないの?」
「今の話聞いて、拒否する魔法使いがいたらお目にかかりたいけど?」
「同情?」
「違うと思うけど。実際問題として、みんな最初はこんなものだと思う。ただ、納得するかしないだと思うよ」
 
 だって、破壊の魔力の強い魔法使いって、相手を見付けると速攻、求愛してくるだろう? 周りなんて目に入ってない感じで。何度か見たことあるし。まさか、俺自身がそんな目に合うなんて思ってなかったけど。
 
「だから、これでいいんだと思う」
 
 逃げたとしても絶対に捕まる。魔力を解放された俺は魔力の制御ができなくなったし。この状態で迫られたら、何もできないままただ、為されるがままだと思うから。だから……。
 
「俺を甘やかして。どんなことがあっても守って。それが条件」
 
 好きになってくれとか、愛してくれとか、そんなことは絶対に言えない。俺自身もこれからの感情がどうなるかなんて分からないんだから。
  
 ベッドに沈められた体。覚悟は決めたけど、やっぱり怖いし恥ずかしいし。ギュッと目を瞑って終わるのを待とうとか思ってた。
 
「呪文は?」
「呪文?」
 
 その言葉にゆっくり目を開く。
 
「循環の魔法の呪文。知ってる?」
「……知ってるけど」
「そう、じゃあね……」
 
 副会長がスッと触れてきた場所に、過剰に体が反応した。性的な意味じゃなくて、普段、自分ですら特定の時にしか触れない場所に躊躇いなく触れてきたから!
 
「ここで繋がったら、同時に詠唱するよ。分かってると思うけど」
「……それは知ってるけど」
 
 一つ疑問なのは、知識としては知ってるんだけど、本当に入るの?! 本来は出す専門だし。
 
「初めてだしね」
 
 副会長がそう言いながら枕の下から出した物。それって……。その前に、いつそんな物、用意した。
 
「香油を使うよ。ああ、変なものは入ってないから安心して。調合したのは俺だけどね」
「ほえ?!」
「これくらいなら、材料があれば作れるし」
「……恐ろしいこと聞いた気がするんだけど」
「恐ろしい?」
「今日は入ってないだけで、次は入れるとか言わないよな?」
 
 スッと目を細めた仕草! それって、いけない薬入りを作る気あるってことじゃん! その前に、なんで、そんな物調合できるんだ?!
 
「さあ?」
「誤魔化すな?!」
「それは次回のお楽しみで」
「楽しみにしてないから!」
「はいはい。始めるからね」
 
 キュッと蓋が開く音がして、お腹の上に垂らされた液体。一瞬触れた冷たさに肌が粟立った。俺の体温に馴染むと冷たさも感じなくなったけど。それを指で馴染ませる動きが肌を刺激する。
 
「そうそう。声は我慢しない。ユエが自分自身を傷付ける。それは本意じゃないしね。それに、外部に声は漏れないから安心して」
「副会長が……」
「俺が聞くのは特権でしょう? パートナーになるんだしね」
 
 そう言うと、香油を馴染ませている手とは逆の指が、俺の唇をなぞる。
 
「いい声を聞かせて」
「男の喘ぎなんて聞いて楽しいの?」
「楽しいに決まってるでしょう? それに、魔力の強い魔法使いは異性の喘ぎ声を聞くことは稀だと思うけどね。受け入れてくれる存在を蔑ろになんてしないよ。まあ、好奇心でその手の店に行く魔法使いはいると思うけど」
 
 その手の店ってどんな店だ?!
 
「あれ? 知らないの? そこまで純真?」
「純真言うな!」
 
 確かに知らないけど、純真なわけないだろう! この行為を知ってるんだから!
 
「魔法使いでその手の職業に就いてる者はいないけどね」
「それって?」
「魔力を持たない人が、まあ、非合法的に商ってる商売だよ。体を売るんだ」
「なに? そんなの売り物にならないだろう……」
「男って魔力があろうがなかろうが、欲望に忠実な生き物だからね。それにその店にいるのは女だけじゃない。男もだよ。ヤルことは一緒」
 
 そんなの、絶対、普通じゃない。
 
「俺達のように管理されてる魔法使いはまず、近付かない。それに、俺にはユエがいてくれれば、それでいいし」
 
 おしゃべりはここまで、そう言わんばかりに副会長の唇が俺の肌をなぞる。胸になんで存在してるのか微妙な飾り。それを口に含まれ、ネットリと舐められると、腰が痺れたような感覚を覚えた。舌を使って器用に押し潰したり、かと思えば吸い付いてきたり。軽く歯も立ててくる。声、押さえるの無理。噛み締めてないと声が漏れちゃうし、そんな長い時間、噛み締めてられない。
 
「……ぁ」
 
 一度、声を出した体は副会長の動きに合わせて、素直に体から音を出すようになった。俺の意思じゃないから!
  
 体がおかしいって思った。刺激されて、それを素直に受け止める体。神経がざわついて、それでも不快感を感じない。
 
 ただ、後ろを解される感じが違和感半端ない。それもありえないくらい丁寧に扱われるもんだから、変な声出る。思わず両手で口を押さえたんだけど、それを目敏く指摘してくる。仕方なく枕をギュッと握り締めて、感覚を逃がそうとするんだけど……。
 
「!」
 
 体がビクンッて仰け反った。本当に反射的に。驚いて視線を下半身に向けたら、ありえない光景が広がってた。副会長の長い髪が俺の下半身を覆ってる。内股に冷たく触れる感触と、本来なら視界に入るだろう反応した俺自身が副会長の口の中に納まってた。
 
 更に後ろには指まで差し込まれて、それが刺激するような微妙な動きをしてる。時々、変な場所に触れてくるのか、その度に体が過剰な反応をしてくる。本人の意思など御構い無しにただ、与えられる感覚が体を突き動かす。
 
「……ああ! やめて! おかしくなるから!」
 
 両足の指をギュッと丸めて、それでも、感覚が逃げていかない。腰を浮かそうと思っても、副会長の動きに阻まれて自由にならない。
 
「おかしくなって、と言いたいところだけど、今日は駄目だよ。慣らさないと痛いのはユエだから、堪えてね」
「無理! 絶対無理!」
 
 そんな、あっちもこっちも刺激されて、冷静でいられるわけないだろう?! しかも、初めてのことなんだって! 副会長は楽しそうに悪戯してるけど、俺的には神経を剥き出しにされた感覚なんだって! 今ならどこを触られても変な反応するって自信ある。
 
「いけない子だ」
「はあはあ。初めての人間に中と外から刺激してくるテクニック使うな!」
 
 そうなんだ。まず、どうして中のその辺りを刺激したら前まで連動するんだよ。そして、何食わぬ顔で容赦なく弄ってくるし。なにより! なんで知ってんの?! それも、迷いがなかったような気がすんだけど?!
 
「ここ?」
 
 今までの比じゃない強さで、中の反応する部分を強く押してきた。しかも、俺の雄にわざと息を吹きかけるような位置で言わないで!
 
「ひっ! んっ!」
「誰もこの中を知らないんだね。初々しい反応だよ」
「当たり前だろう?! こんな恥ずかしい場所、誰に晒すっていうんだよ?!」
「そりゃあ、ねぇ」
 
 なに?! 中に冷めた空気が入り込んでるような気がする。それに、広げられてるような感覚。それなのに、痺れてるような感じがするだけで、痛みをほとんど感じない。
 
「んんっ!」
 
 一度、指を引き抜かれて次に来た圧迫感。そう、圧迫感だけで本当に痛みがないんだ! 麻痺したような変な感じがして。
 
「素質ある。一気に三本を難なく飲み込んだね」
 
 入れられた瞬間、毛穴からブワッて汗が噴き出した。それくらい強い刺激で。枕に顔を埋めて、それを強く握り締めてないと意識が持って行かれる。
 
「これ以上は意識が持たなそうだね。少し痛いかもよ」
 
 何度も息を吐き出して、その言葉を聞いた。圧迫感が消えて、代わりに感じるのは入り口に感じる熱いモノ。凄く熱くて、ヌルッと刺激してくる。ただ、触れて擦り付けられただけ。入れられてもない、ただ、その場所を確認するように充てがわれただけ。
 
「いい反応だよ」
「嫌だ! 俺じゃない!」
「間違えなくユエの体が反応してるんだよ。さあ、始めよう」
 
 グッと後ろに強い圧迫を感じて、でも、それは一瞬だった。絶対に痛いって思ってた。確かに少し痛みはあるけど激痛じゃない。なにより、ほんの少しの抵抗だけで受け入れてる自分の体が理解できなかった。中を圧迫して、内壁を掻き分けながら侵入してくるモノ。中に灼熱の棒を差し込まれたかのような熱さ。ゆっくりと侵入してきて、俺を侵食しようとしていた。
  
 凄く熱くて内臓を押し上げてくる初めての感覚に、どうしていいのか分からなかった。荒い息を吐き出してなんとかやり過ごそうとするけど、俺の体内に埋め込まれてるモノの存在感が半端ない。
 
「さあ、入ったよ」
 
 副会長も荒い息遣いで、俺だけが苦しいんじゃないんだって知った。頬を汗が伝ってる。
 
「痛い?」
 
 そう言いながら、入り口を指でなぞる。その刺激に腰がヒクついた。
 
「……痛くは、ただ、苦しいだけ」
「そう」
 
 副会長は体を倒してきて、俺の額にそれを軽く触れ合わせた。
 
「改めて言うよ。俺と一緒になって。魔法を使えば互いを縛り合うことになる。余程でないと手放すことはないよ。俺は嫉妬深いしね」
「ここまできて、拒絶はしないよ。ただ、絶対、守って」
 
 それだけは守ってほしい。自分では分からないけど、癒しの魔力が強いと、魔力の強い魔法使いの目の色が変わる。それは知っていたから。
 
「始めよう」
 
 俺は小さく頷いた。まさか、高等部に上がってすぐ、求愛されるなんて思ってなかった。それ以前に、求愛してくる存在があるなんて考えたこともなかった。ゆっくりと互いに呪文を唱える。長いような短いような独特の音。互いに詠唱しないと、所有の魔法に変わる厄介な魔法。
 
 呪文を唱えるたび、体の奥底から何かが這い上がってくる。魔力が魔法に呼応してる。最後の言葉を言い終えると、体を襲ったのは熱、だった。凄く熱くて濃くて苦しかった。それは俺の魔力じゃなくて、副会長の……!
 
「あ! あつ!」
「最初は辛いよ。耐えて」
 
 そう言うと俺の足を抱えて直して腰を使い出した副会長。最初はゆっくり。でも、俺が熱さだけを訴え、痛みを感じていないのを察知すると、容赦なく打ち付けてきた。
 
「待って! 嫌だ! 熱い!」
 
 異質なものが俺の体内を巡る。これが魔力の澱み。気が狂いそうなほどの濃さ。こんなの常時抱えて堪えてたの?! こんなの正気を保ってられないじゃん!
 
「ユエ、息を詰めない」
「だって、熱い! こんなの無理!」
 
 無理だって思うのに、体は思いの外、その熱さに適応する。熱さの後にスーッと冷たさが襲う。なんでかって疑問に思っていたら、俺が達したからだって、副会長の言葉で理解する。
 
「敏感なんだね」
 
 よくよく冷静になれば、確かに熱さは引いたけど、体の奥に熱いものが残ってる。自分の腹の上には吐き出したモノ。さっき感じだ恐怖に近い感覚に涙が溢れてきた。
 
「ユエ。ユエ、辛い思いをさせたね」
 
 優しく髪を梳いてくる。額に張り付いた前髪を掻き上げてくれる。自然に体が動いて、副会長に抱き付いてた。怖かったんだ。あんなの抱えてる副会長が、ただ熱いだけじゃない。そこには痛みもあって、こんな魔力抱えてたら精神的におかしくなるのも分かる。
 
 何か言いたいって思うのに、限界を迎えていた体はそうじゃなかった。意識が閉じようとしてる。最初は一番辛いって、説明を受けなくても分かってる。長い間溜め込んだ魔力を受け止めたんだから、意識を閉じて体が休みたがってるのも。でも、待って。まだ、何も言ってない。ただ、泣いただけ。だから、待って。
 
「おやすみ、ユエ」
 
 副会長の言葉が体が眠るのを阻止していた俺の意思に勝った。意識が遠のいて、その後どうなったかなんて俺には分からなかった。
  
 目覚めた時、見慣れない部屋に一瞬、ここどこ? と、軽くパニックになった。昨日は連れ込まれて、うん。お風呂もいただいたし、食事もしたし。でも、いっぱいいっぱいで。ベッド広い。で、真っ黒。
 
 若干感じる体の違和感。でも、思ったよりひどくなくて。何より、解放された魔力が変な感じで。広いベッドに一人横たわってて。副会長はどこに行ったんだろう?
 
「目が覚めた?」
 
 頭上から降ってきた声に視線を向ける。サラリと流れる黒髪が不思議。
 
「どうしたの? 体が痛い?」
 
 痛くはないけど怠い。で、布団が気持ち良い。ホーフもシーツもピロも肌触り抜群。そう思ってスリスリしていたら、笑い声が耳に入る。やばっ! 痛いか訊かれてるのに、堪能してた!
 
「痛くはない」
 
 顔を半分隠して、もそっと答えた。
 
「そう? 一応、学校なんだけどね」
 
 そう! 学校! ガバリと起き上がって吃驚。思ったより本当に痛くない。それに寝巻きも着てる。下着も履いてる感じがする。頭に疑問符を大量に浮かべている俺に、副会長が更に笑いを堪えてる。
 
「大丈夫そうだね。食堂に行く時間はないから、軽いものを用意したよ」
 
 そう言われたから、ベッドの端まで四つん這いで這って行って、恐る恐る立ってみた。あ、よろめかない。怠いけど歩けそう。それを見ていた副会長。不意に視線を向けると、昨日までと雰囲気が違う気がする。ピリピリしてないって言うか。
 
「本当に可愛い」
「ほえ?」
「今日も喰べるから覚悟してね」
 
 へ? マジですか?! これ、毎日しないと駄目なの?!
 
 そんなこんなで、なぜか昨日も食事の時に使った椅子まで運ばれた。歩けるって言ったら、甘やかしてって言ったの忘れた? とか言われて。確かに言ったと思うんだけど。思うって言うのは、まだ、実感が薄いから。確かに体は怠いし違和感が残ってるけど。よくよく考えたら、俺がこの人の相手ってあり得なくない? 学校No.2の魔法使いだよ。
 
「そこそこ考えが顔に出るよね」
「……っ、仕方ないだろう。俺、自分の価値なんて分かんないし。魔力を解放されたから、少し強くなったかもっては思うけど」
 
 目の前に用意されてるサンドイッチに手を伸ばしてパクリ。あ、美味しい。
 
「そうか。魔力、扱えそう?」
「分からないけど、今は無理。慣れてないし。でも、破壊の魔力じゃないから、暴走はしないで済みそう」
「そのことなんだけど。ユエの杖を勝手に見させてもらったよ」
「杖?」
「そう。合わなくなってる。今までの杖は鍵がかかってる状態だったから問題なかったんだけどね」
 
 そうなの?! でもさ、うちって新しい杖買う余裕ない。あの杖だって、ご先祖様の杖で。変わり者だったご先祖様だったから、杖も変わり者で。一緒に埋葬されなかった杖だから。それも、唯一、俺の魔力に合ってて。どうしよう。
 
「次の休みの日。買いに行こうね」
「へ?」
 
 思わず副会長を凝視。うん。見た目が最高に良いです。赤い目が慣れるまで怖いと思うけど。
 
「ユエは初等部からいるんだよね? 
だったら、求愛された相手は求愛してきた相手にありとあらゆる物を用意されるのは知ってるよね?」
 
 はい、知ってます。でもそれは、サクヤみたいな外部じゃ……。
 
「嫉妬深いって言ったの忘れたの? もう、身包み買い換えたいんだけどね。今身に付けてる下着から寝巻き。ああ、お風呂道具は俺と同じものだから問題ないけどね。それこそ、制服から私服。学校で使う諸々、全部、買い換えたいくらいだよ」
 
 口に入れていたサンドイッチの欠片を飲み込んで、更に息も飲む。俺、魔力の強い魔法使いを舐めてました。
  
 顔は笑ってるんだけど、目がやっぱり怖い。雰囲気は少し柔らかくなったけど、それは、柔らかくなったかなぁ、くらいだし!
 
「ちゃんと食べて」
 
  動きが止まった俺に副会長はそう促してきた。だってさ、怖いものは怖いんだもん。
 
 できるって言ったんだけど、着替えまで手伝ってくれて。確かに甘やかして、とは言ったけどこれって過保護の間違いだよ。ネクタイまで結んでくれるし。
 
「そうそう、もう一つ言っておきたいことがあるんだけどね」
 
 言っておきたいこと?
 
「副会長呼びは禁止だよ。仮にも恋人になるんだしね」
「急には無理……」
 
 俺の中じゃ、初等部高学年から副会長なんだ。近付くこともないと思っていたし。昨日の今日で、名前で呼ばせていただきます。にはならないと思う。
 
「……駄目だよ。絶対名前で呼んで」
「凄まれても、長年馴染んだ癖を簡単には直せないし」
「寂しいことを言うね」
「それに、一学年上だし」
 
  年上なのは本当だろう。魔法使いは基本的に年齢というよりも魔力で全てがきまる。年上で魔力はトップクラス。魔法使いの中でも一目置かれる存在。そんな人を、簡単に名前呼びはできないと思う。
 
「できたよ」
 
 ネクタイを縛り終えて、額にキスされた。うう、恥ずかしいんだけど。
 
「それでも名前で呼んで。ずっと副会長呼びだとお仕置きするよ」
「お仕置き?!」
「そう。寂しいし悲しいし。俺の中ではユエは完全に家族も同然」
「そうなの?!」
「当たり前でしょう。求愛っていうのは基本的に成人した時に婚姻届を出す関係のことだよ。ただのママゴトとは違うんだから」
 
 そんなの言われなくても分かってるんだけど。でもさ、すぐポンッてできない……。サクヤならしてるかも。適応力半端なかったし。
 
「さあ、呼んでみて?」
 
 首傾げながら促してこないで。
 
「……ライ……カ」
 
 呼び捨てはやっぱり無理!
 
「……先輩……」
 
 俯き加減で、チラリと顔色を伺う。なんとも微妙な反応。本当にこれが精一杯なの! 努力は認めて欲しいんだけど! 仕方ないと言わんばかりに溜め息を吐かれた。
 
「仕方ないね。まあ、すぐその呼び方も改めないといけないと思うけどね」
 
 どう言うこと?!
 
「改めて言うけど、ユエは俺のものだよ。手放す気はないし、奪われる予定もない」
「……そんなに俺の魔力って変わったの?」
「綺麗に半々だって言ったよね? それに、俺の魔力の澱みを受け止めて立ってるし歩いてる。それは稀なことだと思うけどね」
 
 あの魔力の澱みは凄くて吃驚だったけど。
 
「魔力の器が俺と大差ないってことだよ。極端に違えばきっと、立ってはいられないと思うしね」
 
 うん。普通に立ってる自分に驚いたし。体が怠いだけで痛いとも痒いとも感じない。
 
 まさか、きちんと名前呼びができるようになって、依存するようになるなんて、この時は思ってなかったし、考えてもいなかった。たくさん、甘やかされて。一番驚いたのは、落第してきたこと。相手に合わせて学年変わるなんて、長い間、魔法学校に通ってたけど初耳だった。特A生には常識だって言われて、あり得ないとさえ思った。
 
 その後、いろいろあって。サクヤ目当てで? あの人が現れて、大騒ぎになって。サクヤと会長が巻き込まれて、寝こけたり怪我したり。気が付いたら使い魔が増えてたり。そんな二人に振り回されながら、ライカが心配してる姿が驚きで。会長はライカが心配性で困るとボヤいていたり。意外な一面を見ることになって。今では傍にいられることが幸運なんだって思えるようになった。ずっと、一緒に歩いて行くって、そんな存在なんだって。
 
 
終わり。
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