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一章

第2話:未知への共感(5/9)

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 冴島は、その出来事から、愛と喪失が心に与える影響の深さを痛感した。そして、彼は、翔子が抱える無限の苦悩を前に、言葉を失った。
 
 冴島が語る重い心情――。彼が語るのは、村人全員が目撃した悲劇――仲間が命を落とした瞬間。この事故の背後にある罠を忘れて放置した「人的ミス」を自らの責任として今も背負っている。

 蓮司は冴島の話を聞き終わり、部屋を出て中庭に立つ。彼の心は未来への重たい思いに沈んでいたが、突如、風に乗って運ばれてきたフローラルの香りによって現実世界へと引き戻された。

「この香りは――」と言いながら振り返ると、翔子がそこにいた。彼女の目には深い悲しみが宿っているように見えた。蓮司が彼女の視界に入るたびに、翔子の目はその悲しみを深める。彼女にとって、蓮司は亡きアキトを思い起こさせるのだろう。

「アキト……あっ、レン君、ごめんなさい」と翔子は慌てて謝る。「大丈夫です。似てるってよく言われるから」と蓮司は柔らかく応じる。

「アキトのこと、もし良かったら話してもらえませんか?」蓮司の問いに、「ええ……でも、不思議ね。あなたと話してると、彼がまだそばにいるみたい」と翔子は静かに答える。

 その会話は、互いの心を少しずつ開いていくきっかけになる。翔子はアキトとの絆、そして彼を失ったあの悲劇の日のことを話し始める。「アキトと一つになりたくて……彼を食べたの。それが私にとって、彼を永遠に心に留める唯一の方法だったわ」と翔子は打ち明ける。

 蓮司は翔子の告白に深い理解を示し、「翔子さんがアキトと一つになるために選んだその方法、それが翔子さんにとって正しかったんだ」と優しく語る。彼は彼女の過去を受け入れ、共に新たな道を歩もうと提案する。

 翔子は蓮司の提案に心を動かされ、「ありがとう……でも、少し考えさせて」と静かに言う。蓮司は快くそれを受け入れ、「時間はたくさんあるから」と答える。

 この会話を通じて、蓮司と翔子はお互いの心の距離を縮め、未来への一歩を踏み出そうとする。蓮司は翔子の強さと献身に心を打たれ、彼女を支え、ともに歩むことを望む。

 数日が経ったある日。翔子が時折、空に向かって独り言をつぶやく様子を、蓮司は遠くから見守っていた。彼女は亡きアキトに話しかけているようだ。村人たちは、そんな翔子を同情の眼差しで見るが、彼女に直接声をかけることはない。狂って見えるかもしれないその行為に、蓮司は翔子の精神がいつか壊れてしまうかと案じていた。

 翔子が誰もいないところで空に話しかけているのを見つけるたび、蓮司は現実へ彼女を引き戻そうと声をかけた。今日の彼女は、蓮司に気づいて声をかけてきた。

「あら、レン君、起きてたの?」翔子の言葉には悲しみが込められていたが、その笑顔は儚げだった。蓮司に対してアキトを重ねているかもしれないその姿に、蓮司は寂しさを感じた。見た目が似ているからと彼に近づく翔子が、本当は過去に生きているのではないかと。

 蓮司は、翔子が彼の存在を真に見ていないことに苦しさを感じた。彼女の心が過去に囚われていることへのもどかしさと、どうやって心を開いてもらえるかへの思いが彼を苛んだ。彼は翔子に対してすべてを受け入れる覚悟を持っていた。彼女の好きなこと、嫌いなこと、共通の話題があるかどうか、そんなことすべてが気になっていた。

 しかし、翔子と対面すると、すべての思いが飛んでいく。彼女の現在の感情に応えようと、蓮司は必死だった。翔子は村のために尽くし、誰もが彼女を頼りにしていた。彼女の献身的な姿に、蓮司はますます惹かれていった。

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