無能の瞳 その者は世界の共犯者〜魔力なしで無能と蔑まれ、他力本願の力に依存する。【憑依召喚】で体を乗っ取られて、もうすぐ俺が最強だ〜

雨井雪ノ介

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一章

第8話:階位の始まりと力との対話(2/10)

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 ダンジョンの広大な空間は、天井が高く、見渡す限り広がっており、不思議なことに温度は快適だった。その中でレンは、入口からずっと左側の壁をたどってきたため、基本的には右側のみに注意を払えば良い状況にある。

 クロウが先導し、相手に気付かれずに進んでいる。クロウが獲物を見つけたことをレンは感じ取るが、まだ攻撃はせず、状況を見守る。敵は一匹、小柄でレンの鳩尾ほどの背丈、緑色の肌に筋骨隆々で禿頭、大きな目と鉤鼻を持ち、手には太い棍棒を握っている。

 レンは、心臓の激しい鼓動を胸に、小太刀をぐっと握りしめた。彼の身体は戦闘への準備で、張り詰めた弓のように今かいまかと待ちわび、立ち向かう構えをとる。彼の信頼する仲間、クロウに向けて短く鋭い指示を送る。

「クロウ、今だ!」

 その瞬間、クロウの唸り声が空を裂き、幽体の形態を利用して敵に迅速に襲いかかる。敵の反撃は虚を突くもので、棍棒が空を切り、重く石畳に打ち付けられる。クロウは瞬時に一部を実体化させ、敵の横腹を深くえぐり取る。悲鳴と共に敵は激痛に顔を歪める。

 クロウの能力は独特で、通常は幽体のまま存在し、実体化させるのは意識的に選んだ部位だけだ。この時は、攻撃のために牙を実体化させ、敵を効果的に噛みついて負傷させる。

 敵が血を撒き散らし、深い傷から血を流し苦しんでいる間に、レンは戦場を駆け抜ける。彼の全身からは集中力がみなぎり、その結果、周囲の動きがまるで時間が引き伸ばされたかのように感じられる。彼はこの一瞬を逃さず、魔獣の急所を狙って小太刀を振り下ろす。

 レンの小太刀は、まるで豆腐を射抜くかのように魔獣の頭部をあっさりと貫通。魔獣の悲鳴が一瞬空に響き、レンが小太刀を抜き取ると、魔獣はその場に崩れ落ち、動かなくなる。レンの動きは一連の流れるようであり、初めてにしては彼の動きは見事としか言えず、クロウとの連携した判断が見事に結実した。


 魔獣が地に倒れると、その全身からダイヤモンドダストのような銀色の輝きが噴出し、レンの胸に向かって静かに流れ込む。触れた感覚はないものの、その光は彼の体内へと消えていった。この現象により、レンは清涼感で満たされ、力が溢れる感覚に包まれた。しかし、その直後には激しい痛みが彼を襲った。

「なっ、何だこれは! グアー!」痛みに耐え切れず、レンは膝をつき、石畳の上で苦しんだ。そんな彼に、ルナの声が心の中で響いた。

「レン、大丈夫。これは強くなるために必要な過程よ」

「一体……これは何だ? グアー!」

「おめでとう『騎士』へ階位が上がったのよ。体が急速に再構築されて、より強固になっているの」

 痛みに耐えながらもレンは意識を保ち続け、数十分後、痛みは嘘のように消え去った。起き上がると、体が以前よりも格段に軽く感じられた。

「体が……階位が上がるとは、このことか?」

「ええ、体感できたようね。レンの場合、魔力器官がないから、体の変化がより顕著になるのね」

「あの激痛は、戦闘中に起きたら……最悪だな」

 レンの表情は戦闘中に起こり得る予期せぬ階位の上昇への恐怖で曇っていた。それは、突然動けなくなるかもしれないという不安から生まれたものだ。そんな彼の横で、ルナは彼の心配を和らげるために声をかけた。

「階位っていうのはね、この世界の力の階級のこと。全部で14段階あって、各々が戦闘力の目安になるのよ」彼女の声は穏やかで、レンに対する深い理解と優しさが込められていた。

「階位が上がるたびに得られる恩恵は、人それぞれ違うわ。でも、それによって自分の現在の力がどれくらいなのか、ちゃんと把握できるようになるのよ」ルナの説明は、レンの不安を少しでも軽減させようとする彼女の願いを映し出していた。

 そして、彼女は少し得意げに続けた。「階位は、この世界そのものが設けたシステムなの。私が"世界"と直接話したことがあるから、その情報を知っているのよ」レンは、ルナの言葉に心からの信頼を寄せながらも、彼女が持つ知識とこの世界の神秘に改めて驚かされた。

 レンはルナの言葉を聞き、世界や神々、そして黄金色の者の存在について考えを巡らせる。しかし、現時点で彼に必要なのは、階位に関する知識とそのシステムがもたらす強化である。強敵を倒すことで階位が上がるが、その具体的な基準は不明である。
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