アンダーヒューマン

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三話――《沙織の選択》

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「ここは……指導室?」

 扉の入口上部に掲げられている立札を読み、一気に緊張感が増してくる。
 まだ高校二年になったばかりの私は進路について話し合うわけではなく、恐らく十七歳の誕生日を来月に控えているためか、養成所へ行く話であろうと考えていた。

 少し緊張気味で良質なソファーに腰を掛ける私の前には、軍服姿の直塚なおつか中佐と軍事指導教育担当をしている紫道室褌しどうむろみつ教官の二人。

 紫道は目の前の机にティーカップに入った紅茶を差し出す。
 そして、直塚中佐はそれを確認すると、ソファーに深く腰を掛けると共に重い口調で話し始めた。

「九条……沙織君、これより君には二つの選択肢から一方を選んでもらう。一つは、このまま軍事過程を進め、卒業後はその成績に適した場所へ配属されるということ。もう一つは、特殊部隊になるために一年の間、養成所へ入るということだ」

「はい」

 薄々と気づいていた私は静かに頷く。その表情は何処となくほころんでいた。

 理由は一つ。もしかすると、裂真先輩に出会えるかもしれないからだ。

 直塚は手前の机に置かれた、私の顔写真が記載されている個人資料を手に取り、パラパラと目を通す。
 そして、何かに気づいたのか僅かに眉をひそめて深く息をすると、

「まぁ、選択は自由だが……今すぐ決断してもらう」

 その言葉に私は「え?」と声にもならない様子で驚いた。

「い、今……ですか?」

「そうだ」

 書類に目を向けていた視線をスゥとこちらに向ける直塚。
 直塚中佐の、私の心を見透かしたような表情にゾッとすると、生唾混じりの空気を呑み込み、

「わ、分かりました。……と、特殊部隊要員になることを申請します」

 少し不思議に感じたが、今は裂真先輩。どのみち特殊要員になるために養成所へ行くことは前から決めていたことだった。

「結構。では、こちらに同意のサインをしてくれたまえ」

 私は手渡された一枚の書類にサインをし、それを直塚は受け取るとザッと目を通し、

「今から話すことは機密事項のため、郊外無用とする。これは、軍人を目指すものの中でも極一部の者にしかこの情報は知り得ないからだ」

 意味深な前置きで話し始める直塚は、紫道へ複数枚に渡って纏められた書類を粗雑に渡すと、それをこちらへ差し出してきた。

 私はそれに目を通すようにしながら細かく書かれた概要に目を通していく。

「まず初めに、一般的に人々の生活の中に溶け込みつつあるコクーンを応用し、それを使いこなすことの出来る者が《精神物質特異体アビスター》と言われる特殊部隊と位置づけられている。そして、それを使い、訓練を行う場所がアビス訓練場というわけだ」

「アビスを使って訓練を行っている場所というわけですね?」

「ああ、そう思ってもらって構わない」

 書類の一項目に『アビスを受け取った後、早急に訓練を実施すること』と書かれている。恐らく、機密事項なのはアビス訓練場で特定のアビスを使用した武器などを使うため、郊外することが出来ないのだろう。

「これより、君には特殊軍人養成課程を目指すため、早急に指定の場所に行ってもらう」

「はい」

「だが、その場所は極秘な場所であるため、規定でこれを飲んでもらうことになっている」

 直塚は机の上にそっと一錠のカプセル状の薬らしきものを差し出す。
 それを手に取った私は、チラッと視線を中佐の方へ向け、「これは?」と不思議そうに訊き返した。

「一時的な睡眠薬だ。申し訳ないが『規則』なのでね。不安だと思うが受け入れてくれ」

 腕を組み、深くソファーに腰を掛け直す直塚。
 その姿を見る限り、『仕方のないことなのかもしれない』と自分に言い聞かす私は手前に差し出されていた紅茶の入ったカップを手に取り、薬を一気に飲み干した。

「これで、いいですか?」

「結構だ。最後に、気を失う前に一つ言っておくが、君には『期待』をしている。是非、我々の考えに沿った能力所有者になることを願い、特殊要員として第一線で励んでほしい」

 ――うっ……。

 即効性のある薬。直塚の言葉が徐々に重く、鈍くなっていく。
 視界もぼやけ、身体の力も自然と抜けていった。
 虚ろな瞳は平衡感覚が無くなると、そのままソファーに倒れ込み、意識が遠のいていくのだった。
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