アンダーヒューマン

ガム

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九話――《執行者エクレア》

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「一体、お前たちは何が目的なんだ?」

 天然パーマの掛かったツーブロックの髪型の男性が声を荒らす。その向かい側に明らかに私達の白い服装とは違うレザージャケット、レザーパンツ、革靴を着こなす赤毛の革女が短銃らしきものを両手で持って構えていた。
 よく見てみると、男性の後ろには隠れるように身を縮めた小柄な女性。体を震わせ怯えているように左肩を押さえていた。

「一時的にあなたたちを拘束します。反論は許さない」
「一体どういう事なんだよ⁉ 理不尽にも程があるだろ!」
「理由はあるわ」

 革女はクイッと手に持っていた短銃を後ろにいる女性へ向けると、

「そこの女の子を助けた人物を探しているの」
「助けた人物、だと?」
「そうよ。隠すことは自分のためにならないと知りなさい」

 まさに一触即発な現場。今にも革女が短銃を発砲しそうな。

 だが、その時――

「なにっ!?」
「なんだっ!?」

 一瞬、停電のような稲光と共に三人のあいだを割って入るようにして現れたのは、全身を真っ白な外套で身を包む小さな人物だった。


「どこから現れたの?」

 自分でも声が震えているのが分かった。
 心拍数が次第に上がっていく。
 
 人は誰しも、自分の中に思い描いている想像の許容範囲を超えると恐怖を感じると言う。
 恐らく、今がその状態であると私は身をもって痛感した。

 屈みながら見ていた私は乾いた生唾を呑み込むと同時に、視線を後ろへ向け、無言でその光景を凝視していた杏子の表情を伺った。
 
「あれは、やばい」
「私も、そう思うわ」
「いや、沙織。あたしが言いたいのは――もし仮に、あれが執行者だとしたら、絶対に勝てないし、逃げることも出来やしない」
「……。その割には、表情が嬉しそうよ?」
「そうか? まぁ、今は見ていようぜ」

 私と違い、杏子の武者震いのような声色と表情を不思議に感じながら、視線を小さな人物の方へ向けなおした。 







「ふあぁっ……ねむっ。え~っと、確か今は休息時間中のはず、だろ? 先に手を出した奴、名乗れ」

 頭からすっぽりと、全身を覆い隠すような白い外套を被った人物の胸にはⅢの文字。
 その者は見る限り、その場にいる四人の中で一番背丈が小さく、声も若かった。

「ん? どうした? 名乗らないのであれば、三人まとめて同罪と見なし、然るべきペナルティを受けてもらうことになるが?」

 白い外套の隙間から三人を一瞥するように金色の瞳孔が横に走る。
 三人に向けられる視線。特に、革女はそのものの存在を知っているかのように怯えていた。

「こいつです! この赤毛の女が琴葉ことはを撃ったんです! よく見てください、この子の肩の傷を!」

 男性は口調を荒らしながら、後ろで左肩を押さえている女性を見せる。
 白い服で身を包んでいる女性の肩からは紅い液体が滲むように広がっていた。
 そして私は気づく。その女性が誰なのかを。

 確か、同級生の三乃下琴葉さんのしたことはだ。普段から丸眼鏡を掛けていて成績優秀。軍事訓練での成績はともかく、筆記並びにグループごとに分かれて行われる作戦立案試験などでは右に出る者はいないほどの実力者だ。そのため、学級委員長の座にまで昇り詰めていたから知名度はかなり高い。

 しかし、そのトレードマークでもある丸眼鏡を外し、髪型もいつもの三つ編みではなく、ストレートヘアー。その為か、一瞬誰なのかわからなかった。
 執行者は琴葉の肩から滲み出る紅い鮮血を確認すると、革女を睨みつけ、

「なるほど。では、早乙女恵美さおとめめぐみ。貴様が先に手を出したと?」
「ち、違うわ! 確かに撃って怪我をさせたのは私だけど、先に手を出してきたのはそっち! それに、休息時間になってまだ間がないじゃない! あなたたちの指示通りに動いたんだから少しは善処してくれても――」

 怯えながらも、何かを払拭するように声を張って言い返す恵美。
 そんな時、何処からともなく軽快な電子音が聴こえてくる。

 ピピピッ、ピピピッ……。

 執行者は外套の内側ポケットから携帯端末のようなものを取り出すと耳に当て、

「はい。……はい、そうです。……え? ……そうですか、了解しました」

 携帯端末を切り、無造作に内ポケットに入れなおすと恵美の方へ向き直し、ふくれっ面で口調を荒らす。

「では、執行者『エクレア』の名のもとに判決を下す! 二階堂潤にかいどうじゅん及び三乃下琴葉は免罪ッ。早乙女恵美は所持物及び所持金の全額没収とする!」

 そのエクレアの判決に気を張っていた琴葉と潤は安堵する。
 だが、恵美はその判決を不服とすると、声を荒らして人差し指を二人の方へ指しながら、

「ちょっと! 先に仕掛けてきたのはあっちだって言ってるじゃない!」

 当然と言えば当然だろう。先に手を出したのは目の前にいる男なのだから。
 正当防衛として持っていた拳銃を発砲しても自分に被は無いはず。
 しかし、エクレアは外套越しに小さな溜め息をつくと、

「お前には申し訳ないが、これは決定事項だ。それに、お前たちのリーダーである陸継遼一りくつぎりょういちは我々に対して反逆行為を冒したそうだ」

 スゥっと心を見透かすような視線を送る執行者に対し、驚きの表情を隠せない恵美は冷や汗を流しながら一歩、後退り、

「なっ、陸継が……しくじった……?」
「今しがた上層部から報告があってな。そういうわけだから、そのメンバーの一員でもある貴様には悪いが、ペナルティを課させてもらった」

 平然とジャッジを行う執行者に対し恵美は憤りを感じると、歯を強く噛みしめながら、

「こ、こんの、鎖に繋がれた犬どもがッ‼」

 手に持った拳銃を執行者に向けてガンマンのような早打ちで撃ち放つ。
 パァン、パァン。という銃声と共に発射された鉛弾は一直線に執行者へと向かっていく。

 しかし、執行者には当たらなかった。

 白い外套より現れた、執行者エクレアの半身を覆うような巨大な盾。いや、違った。盾のようなものだった。
 それは複数の棒を組み合わせて作られた三節棍の先端に取り付けられた槍。組み合わせれば執行者の身長を有に超える、二メートル近い長さの槍へと変化する。
 槍の頭部分を地面に叩きつけると、深く重く静かな声色で早乙女恵美を薄っすら睨みつけた。

「執行者への攻撃を確認。『禁牢』へ連行する。……それと、お前たちには期待していたが、残念な結果に終わってしまったようだな?」
「な、何を!」

 身構える恵美は再度、執行者に向けて発砲を行おうとするが、

「禁牢へ行って頭を冷やすことだ」

 執行者のその言葉と同時に、執行者及び早乙女恵美の姿が忽然とその場から消えたのだった。
 私は、咄嗟に周囲全体を見渡すようにその存在の確認を急ぐ。

「あっ……」

 遥か上空に一筋雲が一直線に私たちが放り出された場所、もとい《セントラルタワー》まで伸びていた。

「一体何が起きたの?」

 曇り空を見上げながら開いた口が塞がらない。呆け面をしていた私は人間離れした執行者の動きが理解出来ず、気づいた時には隣で始終見ていた杏子に質問を投げかけていた。

「わからないから、あたしに訊くな」

 私と杏子は目を合わせてきょとんとする。
 恐らく『あれ』は、私たちがどれだけ強くなっても敵う存在ではない。そう肌で感じ取れた。
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