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どうやら俺には身近にファンが居た様です。喜べないけど
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「よぉ、元気してたか小僧共~。あ、真緒君これ駅前で売ってる人気のケーキね」
俺達が共同で暮らしているマンションの一室にやってきたのは、入院していたマネージャーである黒瀬鷹臣さんだ。いつもへらへらしていて、仕事したくね~って愚痴りながら煙草を吸ってる悪い大人の見本みたいな人だ。口では色々言うけど仕事は出来るし、頼りになる人なんだよな。まぁ、権力とかにめっぽう弱いから社長の息子である俺の事をあからさまに贔屓するが。手土産のケーキも俺の分しか用意されてない。
「あんたそのお荷物の謎料理の所為で入院する羽目になったのに、よくゴマ擦り続けるな」
「やれやれ、ガキは分かってねぇな。大人は多少の怪我を押してでも権力には媚売らなくちゃいけないんだよ」
「本人の前で言うの止めて……」
ふぐぅううう、今日も俺のハンカチはべしょべしょだ。それにたまたま俺の料理を食べた直後に体調が悪くなっただけであり、原因が俺の料理の所為と決まった訳じゃないから! 胃洗浄されてたらしいけど、犯人が俺とは限らないから!
「あ、黒瀬さんの退院祝いに俺何かつく――」
「真緒君、お気持ちだけで十分だ」
最後までいう前に割り込まれた上で、真顔で拒否された。やはり犯人は俺なのかもしれない。ふぐぅううう。料理教室にでも通おうかな?
「そういう役目は下々のやることだ。陽太、お前がやれ」
「なんでだよ!」
「はぁ……真緒君は事務所社長の息子、影月も直接は関係無いが両親が音楽業界の大御所。で、お前は?」
「ただの一般家庭出身だよちくしょう!」
漣君はグチグチ文句を言いながらも、対面式のキッチンで料理を作っていく。どうやら今日は中華のようだ。大変そうなので手伝おうとすると、「お前は邪魔だからケーキでも食ってろ。いいか、絶対に台所に入って来るんじゃねぇぞ! フリじゃねぇぞ!」と怒られた。俺はべしょべしょになりながら黒瀬さんが持ってきてくれたケーキを口にした。流石人気のケーキなだけあって一瞬で気分が上昇する。勝手知ったるなんとやらで、黒瀬さんが自分の分と俺の分のコーヒーを淹れてくれたのでありがたく頂く。因みに砂糖とミルクも俺の好みの量入れられていた。流石仕事のできる人だ。俺にゴマを擦っても、昇進に関わらないとおも――あの父なら否定しきれないな。
なお深山君は我関せずでソファーに腰掛けて音楽を聴いている。自分の部屋に籠らずリビングに居るのは、どうせ黒瀬さんに引きずり出されるのが分かってるからだろう。話は聞いていなくても良いが、せめて同じ場所に居ろってのが黒瀬さんの方針だ。
最初の頃は深山君も抵抗していたが、黒瀬さんは深山君を抵抗させずに軽々抱えて連行できるので、連行される前に自分の意思で移動することにしたようだ。偉い。お兄さん花丸満点つけてあげちゃう。漣君は「話聞く気が無いんだから意味ねぇだろ」と怒っているが。
「黒瀬さん、俺はこんな家政婦まがいの事をする為にこの業界に入った訳じゃないんっすけど! ルミナスみたいにトップアイドルになりてぇんだけど!」
「え~今くらいの売れ方で良くない? 仕事が増えるの勘弁なんだわ」
「いいわけあるか! 仕事しろ仕事!」
漣君が口にしたルミナスとは正式名称【ルミナス・クレイドル】といううちとは別事務所の5人組のトップアイドルだ。事務所の規模は小さい為、本当に地力でトップになった実力派グループだ。完成度の高さ、そして調和のとれたパフォーマンスが人気の理由だと思っている。他のメンバーも人気なんだけど、センターの久遠レオがやはり圧倒的だ。金髪碧眼で、誰にでも丁寧に接し、誰もが虜になるさわやかなその笑みから、ファンから王子と呼ばれている。深山君も久遠レオのことは認めてるみたいで、ルミナスの曲を聴いてる姿を何度か目にしている。
「まぁルミナスレベルは今のお前らにはまだ早い」
「お荷物が居なければ、俺とガキなら届く!」
「ふぐっ」
それは俺も思ったことが何度もあるので、否定しきれない。漣君と深山くんの歌唱力があればルミナスレベルに売れるのは難しくないはずだ。けれど。
「そりゃどうだろうね。世間はそんな甘くない、とお前らより長生きしてるオッサンは言っておくよ」
「俺らに何が足りないって言うんだよ!」
「影月のやる気」
「………………」
それはそう。漣君も言い返せなかった。全員の視線が深山君に向くが、彼は全く気にする様子が無い。メンタル強すぎるんだよなぁ。まじで深山君歌以外やる気ないしなぁ……。
「まぁそれだけじゃないけどな」
黒瀬さんがぼそっと呟いたその声は、離れていた漣君には聞こえなかったようだ。うーん俺には二人に足りないもの、他に思いつかないな。
「それより真緒君、俺が居ない間に変な仕事回されてないだろうな?」
「変な仕事ですか? ああ、バンジーで飛んでる間だけ俺達の曲を流してくれるっていう変わった仕事はありましたね」
「は? ふざけんな、誰だそんな仕事回した馬鹿は」
「何怒ってるんですか、身体を張るくらいこいつはやって当然でしょ」
それは本当にそう。俺がちょっと体を張るだけで、曲の宣伝が出来るなら安いもんだ。まぁ身体を張るって程の物じゃなかったが。あの程度の高さ、全く怖くないし。とはいえびびってないと絵面的に面白くないから、必死にビビってるふりはしていたが。
「真緒君、それはいつ放送されるんだ?」
「あ、放送されないです。お蔵入りしたんで」
「は?」
「いや、なんかバンジー中にロープが切れちゃって、思いっきり事故映像になったから使えないみたいなんですよね~」
「待て待て待て!? お前無事か!?」
料理を放り出して漣君が俺の身体をぺたぺた触って無事を確かめる。勿論手を洗った上なので杞憂民もご安心です。
「騒ぐな陽太、無事じゃなかったらここに居ないだろうが。真緒君、怪我はないのか?」
「ああ、なんか川が増水してたみたいで特に問題なかったですよ」
「お前……運がよかったな。本当……よかった」
「普段お荷物お荷物言ってる割に、滅茶苦茶心配するんだな陽太」
「んぐっ!? いや、そりゃ! メンバーが死にかけたら心配くらいするだろう!」
「うんうんそうだな」
「ニヤニヤすんじゃねぇ!」
漣君は妙に心配してくれているが、仮に増水してなくても高々200m程度から落下した程度で傷つく程、俺の身体はヤワじゃないが。あの時も落下中空中で決めポーズをするくらいには余裕あったし。どう考えても事故の映像を使えるわけないから、無駄な努力だったけど。
「映像が使われてたらバズったかもしれないのにな~」
「あのなぁ……そんな場合じゃないだろ。それにそれでバズってもお前がいつも通りエゴサで泣く未来しか見えないぞ?」
「『真緒あのまま死んでおけば良かったのに!』とかSNSで言われてたか……」
「そこまでは無いだろ、無いよな? 俺達のファンの民度そこまで低くないだろ、多分」
「そ、そうだよな!」
危ない危ない、普段叩かれ過ぎてついつい悪い方に想像してしまった。ファンの倫理観を疑うなんて、アイドルとしてどうなんだ。うちのファンはそんな民度終わってないよな!
「……っち、俺の所に何の報告も来てねぇぞ。馬鹿共が、シリウスを舐めて無事で済むと思うなよ」
「黒瀬さん?」
「あ? ああ、なんでもねぇよ。ちょっと俺は急用が出来たから帰るわ」
「はぁ!? あんたの分の飯も作ってんだけど!?」
「わりぃな母さん」
「誰が母さんだ!」
そう言いながらも、作り終えてた総菜をタッパに詰めて渡しながら「どうせろくなもん食ってないんだろ?」って口にしてる辺り完全にお母さんだ。黒瀬さんがこいつまじかよ、って目で見てるが漣君は気づいてない。本当にいい子なんだよな漣君。ちょっと伝え方が不器用なだけで。
「で、メンバーの危機だったってのにお前は相変わらず無関心なんだなクソガキ」
「漣君、深山君イヤホンしてるから聞こえてないよ」
「あ? お前こいつを舐めてんのか? それぐらいでこいつが周りの声が聞こえなくなる訳ないだろ。こいつの歌の才能が周囲とは次元が違うってことはな、当然耳もやべぇんだよ。だから当然俺らの会話も聞こえているが、意識を割くほどの興味は無しってだけだろ。だよなクソガキ?」
「…………どうでも良い」
え、深山君っていつも俺達の話聞こえてたの!? まぁ陰口とか俺も漣君も言わないから特に問題は無いか。そういうこと言う人がいたら危うくグループ崩壊の危機だったよ。
「グループメンバーが死にかけたって話題よりも優先する曲ってどんなもんだよ」
漣君は深山君の右耳からイヤホンを奪い去ると、それを自分の耳にはめた。そして一瞬でイヤホンを放り投げた。
「!?!?!? なんだこれ……脳が搔き乱されるような……きもちわるっ……」
「……神の曲は聞く人を選ぶ。お前には資格が無かったのだろう」
「神の曲!? 魔王の曲の間違いだろ!?」
自分の名前が出て、興味が出た俺は漣君が放り投げて宙ぶらりんになったイヤホンを耳にはめる。そして聞こえてくるのは全てをぶち壊そうとでも言わんばかりのデスボイス。思わず息を深く吸う。感銘を受けたから、なんかじゃない。いやだって……これ歌ってるの俺だ。
「あの……深山君この曲って……?」
「神、Demon King様が動画投稿サイトに投稿している楽曲の1つDestructionだ。なぜか神の知名度は低いが、きっとこれから人気になるだろう」
Demon Kingって名前が出てきて、完全に言い逃れが出来なくなる。俺じゃん。確実にそれ俺じゃん。中学時代に、気まぐれで作った動画投稿サイトのアカウントじゃん。元々の俺の声はDemon Kingで歌っているものだ、でもアイドルでそんな歌声でやっていける訳ないので無理して声を作っているのだ。ただそれはかなり神経を使うので、たまに素の自分の声で歌い、それを投稿しているのだ。9割以上の人からは否定されているが、何故か一部の人間には非常に人気が高く、なんかカルト的なものになっているらしい。本当に意味が分からない。ちなみにこのアカウントが俺のものだと知っているのは父さんくらいだ。
「いや、これが人気になったら世界終わりだよ。なんだよこのデスボイス。あ~まだ耳キーンってなってる。でもまぁ良し悪しは別にして、確かに凄い声だな」
「……神のアカウントのURLをお前のラインに送った」
「いや聞かねぇぞ!? 何布教してきてんだよ! お前そんなキャラじゃないだろ!?」
「神の為ならなんだってする。お勧めプレイリストも送っておいた。信者の中には最初は受け付けられなかったが、何回も聞くうちに良さが分かった人間もいる。お前もそうなるだろう」
「ならねぇよ!」
「ふむ、聞き入っているってことは間桐にも適性があるということだな。アカウントとプレイリストをお前にも送っておく」
いや、聞き入ってるわけじゃないんだ。あまりに現実が受け入れられなくて固まってただけなんだ。なんでよりによって深山君が俺の信者なの!? 君のイメージと違い過ぎるでしょ!?
「神は素性を明かしてないが、きっと素晴らしい人だということは曲を聞いていれば分かる。矮小なこの身で少しでも神に近づく為に俺は日々歌っている。俺のオリジンだ」
「そっか……」
なるほど、なるほどね? 完全に理解した。これ絶対にDemon Kingが俺だってバレたらいけない奴だ。絶対幻滅される。お前を殺して俺も死ぬ状態になってもおかしくない。この秘密は墓まで持っていかないと。ふぐぅうう、ちょっと息抜きしてただけなのになんでこんな事態に!?
「……テレビ出演してる時に神の宣伝をするのも手か?」
「絶対にやめろ。俺らにまで飛び火して炎上するわ」
「そうだな、俺如きが神のことを紹介する等おこがましかった」
「会話が全然噛み合ってないが、まぁ紹介しないならそれでいいわ」
なんか胃が痛くなる会話を二人が繰り広げてるが、俺は口を挟まない。余計なこと言って俺の正体がバレる訳にはいかないのだ。漣君が良い感じに着地してくれることを祈っておく。
そして深山君は再び音楽を聴いている。布教出来たのが嬉しかったのかご機嫌だ。その聞いてる曲や、布教したのが俺のじゃなかったら微笑ましかったんだが、現実は俺の胃を苦しめる。
本当にどうしてこうなった!?
俺達が共同で暮らしているマンションの一室にやってきたのは、入院していたマネージャーである黒瀬鷹臣さんだ。いつもへらへらしていて、仕事したくね~って愚痴りながら煙草を吸ってる悪い大人の見本みたいな人だ。口では色々言うけど仕事は出来るし、頼りになる人なんだよな。まぁ、権力とかにめっぽう弱いから社長の息子である俺の事をあからさまに贔屓するが。手土産のケーキも俺の分しか用意されてない。
「あんたそのお荷物の謎料理の所為で入院する羽目になったのに、よくゴマ擦り続けるな」
「やれやれ、ガキは分かってねぇな。大人は多少の怪我を押してでも権力には媚売らなくちゃいけないんだよ」
「本人の前で言うの止めて……」
ふぐぅううう、今日も俺のハンカチはべしょべしょだ。それにたまたま俺の料理を食べた直後に体調が悪くなっただけであり、原因が俺の料理の所為と決まった訳じゃないから! 胃洗浄されてたらしいけど、犯人が俺とは限らないから!
「あ、黒瀬さんの退院祝いに俺何かつく――」
「真緒君、お気持ちだけで十分だ」
最後までいう前に割り込まれた上で、真顔で拒否された。やはり犯人は俺なのかもしれない。ふぐぅううう。料理教室にでも通おうかな?
「そういう役目は下々のやることだ。陽太、お前がやれ」
「なんでだよ!」
「はぁ……真緒君は事務所社長の息子、影月も直接は関係無いが両親が音楽業界の大御所。で、お前は?」
「ただの一般家庭出身だよちくしょう!」
漣君はグチグチ文句を言いながらも、対面式のキッチンで料理を作っていく。どうやら今日は中華のようだ。大変そうなので手伝おうとすると、「お前は邪魔だからケーキでも食ってろ。いいか、絶対に台所に入って来るんじゃねぇぞ! フリじゃねぇぞ!」と怒られた。俺はべしょべしょになりながら黒瀬さんが持ってきてくれたケーキを口にした。流石人気のケーキなだけあって一瞬で気分が上昇する。勝手知ったるなんとやらで、黒瀬さんが自分の分と俺の分のコーヒーを淹れてくれたのでありがたく頂く。因みに砂糖とミルクも俺の好みの量入れられていた。流石仕事のできる人だ。俺にゴマを擦っても、昇進に関わらないとおも――あの父なら否定しきれないな。
なお深山君は我関せずでソファーに腰掛けて音楽を聴いている。自分の部屋に籠らずリビングに居るのは、どうせ黒瀬さんに引きずり出されるのが分かってるからだろう。話は聞いていなくても良いが、せめて同じ場所に居ろってのが黒瀬さんの方針だ。
最初の頃は深山君も抵抗していたが、黒瀬さんは深山君を抵抗させずに軽々抱えて連行できるので、連行される前に自分の意思で移動することにしたようだ。偉い。お兄さん花丸満点つけてあげちゃう。漣君は「話聞く気が無いんだから意味ねぇだろ」と怒っているが。
「黒瀬さん、俺はこんな家政婦まがいの事をする為にこの業界に入った訳じゃないんっすけど! ルミナスみたいにトップアイドルになりてぇんだけど!」
「え~今くらいの売れ方で良くない? 仕事が増えるの勘弁なんだわ」
「いいわけあるか! 仕事しろ仕事!」
漣君が口にしたルミナスとは正式名称【ルミナス・クレイドル】といううちとは別事務所の5人組のトップアイドルだ。事務所の規模は小さい為、本当に地力でトップになった実力派グループだ。完成度の高さ、そして調和のとれたパフォーマンスが人気の理由だと思っている。他のメンバーも人気なんだけど、センターの久遠レオがやはり圧倒的だ。金髪碧眼で、誰にでも丁寧に接し、誰もが虜になるさわやかなその笑みから、ファンから王子と呼ばれている。深山君も久遠レオのことは認めてるみたいで、ルミナスの曲を聴いてる姿を何度か目にしている。
「まぁルミナスレベルは今のお前らにはまだ早い」
「お荷物が居なければ、俺とガキなら届く!」
「ふぐっ」
それは俺も思ったことが何度もあるので、否定しきれない。漣君と深山くんの歌唱力があればルミナスレベルに売れるのは難しくないはずだ。けれど。
「そりゃどうだろうね。世間はそんな甘くない、とお前らより長生きしてるオッサンは言っておくよ」
「俺らに何が足りないって言うんだよ!」
「影月のやる気」
「………………」
それはそう。漣君も言い返せなかった。全員の視線が深山君に向くが、彼は全く気にする様子が無い。メンタル強すぎるんだよなぁ。まじで深山君歌以外やる気ないしなぁ……。
「まぁそれだけじゃないけどな」
黒瀬さんがぼそっと呟いたその声は、離れていた漣君には聞こえなかったようだ。うーん俺には二人に足りないもの、他に思いつかないな。
「それより真緒君、俺が居ない間に変な仕事回されてないだろうな?」
「変な仕事ですか? ああ、バンジーで飛んでる間だけ俺達の曲を流してくれるっていう変わった仕事はありましたね」
「は? ふざけんな、誰だそんな仕事回した馬鹿は」
「何怒ってるんですか、身体を張るくらいこいつはやって当然でしょ」
それは本当にそう。俺がちょっと体を張るだけで、曲の宣伝が出来るなら安いもんだ。まぁ身体を張るって程の物じゃなかったが。あの程度の高さ、全く怖くないし。とはいえびびってないと絵面的に面白くないから、必死にビビってるふりはしていたが。
「真緒君、それはいつ放送されるんだ?」
「あ、放送されないです。お蔵入りしたんで」
「は?」
「いや、なんかバンジー中にロープが切れちゃって、思いっきり事故映像になったから使えないみたいなんですよね~」
「待て待て待て!? お前無事か!?」
料理を放り出して漣君が俺の身体をぺたぺた触って無事を確かめる。勿論手を洗った上なので杞憂民もご安心です。
「騒ぐな陽太、無事じゃなかったらここに居ないだろうが。真緒君、怪我はないのか?」
「ああ、なんか川が増水してたみたいで特に問題なかったですよ」
「お前……運がよかったな。本当……よかった」
「普段お荷物お荷物言ってる割に、滅茶苦茶心配するんだな陽太」
「んぐっ!? いや、そりゃ! メンバーが死にかけたら心配くらいするだろう!」
「うんうんそうだな」
「ニヤニヤすんじゃねぇ!」
漣君は妙に心配してくれているが、仮に増水してなくても高々200m程度から落下した程度で傷つく程、俺の身体はヤワじゃないが。あの時も落下中空中で決めポーズをするくらいには余裕あったし。どう考えても事故の映像を使えるわけないから、無駄な努力だったけど。
「映像が使われてたらバズったかもしれないのにな~」
「あのなぁ……そんな場合じゃないだろ。それにそれでバズってもお前がいつも通りエゴサで泣く未来しか見えないぞ?」
「『真緒あのまま死んでおけば良かったのに!』とかSNSで言われてたか……」
「そこまでは無いだろ、無いよな? 俺達のファンの民度そこまで低くないだろ、多分」
「そ、そうだよな!」
危ない危ない、普段叩かれ過ぎてついつい悪い方に想像してしまった。ファンの倫理観を疑うなんて、アイドルとしてどうなんだ。うちのファンはそんな民度終わってないよな!
「……っち、俺の所に何の報告も来てねぇぞ。馬鹿共が、シリウスを舐めて無事で済むと思うなよ」
「黒瀬さん?」
「あ? ああ、なんでもねぇよ。ちょっと俺は急用が出来たから帰るわ」
「はぁ!? あんたの分の飯も作ってんだけど!?」
「わりぃな母さん」
「誰が母さんだ!」
そう言いながらも、作り終えてた総菜をタッパに詰めて渡しながら「どうせろくなもん食ってないんだろ?」って口にしてる辺り完全にお母さんだ。黒瀬さんがこいつまじかよ、って目で見てるが漣君は気づいてない。本当にいい子なんだよな漣君。ちょっと伝え方が不器用なだけで。
「で、メンバーの危機だったってのにお前は相変わらず無関心なんだなクソガキ」
「漣君、深山君イヤホンしてるから聞こえてないよ」
「あ? お前こいつを舐めてんのか? それぐらいでこいつが周りの声が聞こえなくなる訳ないだろ。こいつの歌の才能が周囲とは次元が違うってことはな、当然耳もやべぇんだよ。だから当然俺らの会話も聞こえているが、意識を割くほどの興味は無しってだけだろ。だよなクソガキ?」
「…………どうでも良い」
え、深山君っていつも俺達の話聞こえてたの!? まぁ陰口とか俺も漣君も言わないから特に問題は無いか。そういうこと言う人がいたら危うくグループ崩壊の危機だったよ。
「グループメンバーが死にかけたって話題よりも優先する曲ってどんなもんだよ」
漣君は深山君の右耳からイヤホンを奪い去ると、それを自分の耳にはめた。そして一瞬でイヤホンを放り投げた。
「!?!?!? なんだこれ……脳が搔き乱されるような……きもちわるっ……」
「……神の曲は聞く人を選ぶ。お前には資格が無かったのだろう」
「神の曲!? 魔王の曲の間違いだろ!?」
自分の名前が出て、興味が出た俺は漣君が放り投げて宙ぶらりんになったイヤホンを耳にはめる。そして聞こえてくるのは全てをぶち壊そうとでも言わんばかりのデスボイス。思わず息を深く吸う。感銘を受けたから、なんかじゃない。いやだって……これ歌ってるの俺だ。
「あの……深山君この曲って……?」
「神、Demon King様が動画投稿サイトに投稿している楽曲の1つDestructionだ。なぜか神の知名度は低いが、きっとこれから人気になるだろう」
Demon Kingって名前が出てきて、完全に言い逃れが出来なくなる。俺じゃん。確実にそれ俺じゃん。中学時代に、気まぐれで作った動画投稿サイトのアカウントじゃん。元々の俺の声はDemon Kingで歌っているものだ、でもアイドルでそんな歌声でやっていける訳ないので無理して声を作っているのだ。ただそれはかなり神経を使うので、たまに素の自分の声で歌い、それを投稿しているのだ。9割以上の人からは否定されているが、何故か一部の人間には非常に人気が高く、なんかカルト的なものになっているらしい。本当に意味が分からない。ちなみにこのアカウントが俺のものだと知っているのは父さんくらいだ。
「いや、これが人気になったら世界終わりだよ。なんだよこのデスボイス。あ~まだ耳キーンってなってる。でもまぁ良し悪しは別にして、確かに凄い声だな」
「……神のアカウントのURLをお前のラインに送った」
「いや聞かねぇぞ!? 何布教してきてんだよ! お前そんなキャラじゃないだろ!?」
「神の為ならなんだってする。お勧めプレイリストも送っておいた。信者の中には最初は受け付けられなかったが、何回も聞くうちに良さが分かった人間もいる。お前もそうなるだろう」
「ならねぇよ!」
「ふむ、聞き入っているってことは間桐にも適性があるということだな。アカウントとプレイリストをお前にも送っておく」
いや、聞き入ってるわけじゃないんだ。あまりに現実が受け入れられなくて固まってただけなんだ。なんでよりによって深山君が俺の信者なの!? 君のイメージと違い過ぎるでしょ!?
「神は素性を明かしてないが、きっと素晴らしい人だということは曲を聞いていれば分かる。矮小なこの身で少しでも神に近づく為に俺は日々歌っている。俺のオリジンだ」
「そっか……」
なるほど、なるほどね? 完全に理解した。これ絶対にDemon Kingが俺だってバレたらいけない奴だ。絶対幻滅される。お前を殺して俺も死ぬ状態になってもおかしくない。この秘密は墓まで持っていかないと。ふぐぅうう、ちょっと息抜きしてただけなのになんでこんな事態に!?
「……テレビ出演してる時に神の宣伝をするのも手か?」
「絶対にやめろ。俺らにまで飛び火して炎上するわ」
「そうだな、俺如きが神のことを紹介する等おこがましかった」
「会話が全然噛み合ってないが、まぁ紹介しないならそれでいいわ」
なんか胃が痛くなる会話を二人が繰り広げてるが、俺は口を挟まない。余計なこと言って俺の正体がバレる訳にはいかないのだ。漣君が良い感じに着地してくれることを祈っておく。
そして深山君は再び音楽を聴いている。布教出来たのが嬉しかったのかご機嫌だ。その聞いてる曲や、布教したのが俺のじゃなかったら微笑ましかったんだが、現実は俺の胃を苦しめる。
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