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今日も俺のファンは生まれませんでした
しおりを挟む「あのさぁ、何回転べば気がすむんだよ」
「本当に申し訳ございません!」
俺達オーバーウェルミングは、今日生放送の歌番組に出演していた。そして出番の最中に、当然如く何もない場所で転んであわやカメラに激突!? となっていた俺を漣君が颯爽と抱き寄せ、まるで最初から予定されていたパフォーマンスかのように自然と組み込んでくれたのだ。結果的には問題無かったが、だからといって気にしないで良いかと言えばそんな訳ない。というか毎度毎度パフォーマンスが変にならないように気を付けながら俺をフォローするという高難易度ミッションをさせられている漣君は怒り心頭である。
「はぁ……ほんといつまでこんなお荷物抱えなきゃいけねぇんだよ」
「ふぐぅうう……」
辛辣な発言だが、誰がどう見ても事実なので何も言えない。因みに楽屋でこんなやりとりをしている俺らのことを一瞥もせずに、深山君はワイヤレスイヤホンで音楽を聴いている。彼は基本的に移動中も待機時間もイヤホンを耳から離さない。俺だけじゃなく、漣君の事も完全にシャットダウンしている。薄々察されているだろうがメンバー仲は最悪だ。
「俺はアイドルだ! お荷物と歌以外やる気ないガキの子守りじゃねぇんだよ!」
「…………」
「聞こえてる癖に無視してんじゃねぇよクソガキ!」
「あわ、あわわ。漣君落ち着いて」
「アッ?」
「っす……なんでもないです」
楽屋の空気はいつも死んでいる。それでもアイドルとして活動している時は漣君は常に笑顔を浮かべて、俺たち二人の事を「仕方ない奴らだなぁ~俺が頑張って支えなきゃいけねぇ!」って口にしているのだ。プロだ! グループのごたごたをファンには見せない様にするなんて、なんてファン想いの人なんだろう。まぁ、残り二名が二名なのでファンからは薄々不仲がばれつつある。それでも『陽太優しい~!』ってよくファンが呟いているのでまだ大半は騙しきれているようだ。因みに先程の呟きには大抵『さっさと真緒なんか見捨てれば良いのに』と続く。ふぐぅうう。俺もそう思う。でも俺がトップアイドルになる為には二人の力が必要不可欠なので見捨てないでほしいというジレンマ。
因みにだが俺は22歳、漣君が18歳、深山君が15歳とわりと年齢差が大きいグループだったりする。俺と深山君に至っては7歳差だ。で、リーダーは俺、なのだが多分ファンは渚君がリーダーだと思ってる。なんなら番組制作の人達も。俺一番お兄さんなのに! まぁ漣君が一番頼りになるのだから仕方ない。というか深山君は俺の言う事を全く聞いてくれないので、渚君しか仕切れないのである。
深山君は歌唱力で人を見ているので、平凡な俺の言葉は聞く価値無しみたいだ。まぁ漣君ですら完全には認められてないのを見ると、そりゃそうだって感じだけど。でも芸能人やスタッフの人達もその評価基準なのは止めて欲しい。今でこそクールキャラということで大目に見られているが、結成当初は深山君の他人への不遜な態度の所為で俺と漣君は謝り通しだった。当然のように深山君自身は謝らなかったので、漣君が頭を引っ掴んで無理やり下げさせていたが。本当に彼は歌以外に全く興味が無いのである。
「~~~~♪」
「あ、これ最近CMで流れてる奴だ。鼻歌なのに、オリジナルより聞き惚れてしまう不思議」
「まぁ、歌だけは馬鹿みたいな才能の持ち主だからな」
今日は歌番組だったので深山君も機嫌が良いみたいで、音楽を聴きながら鼻歌を口ずさんでいる。バラエティの収録の後なんかは無表情で不機嫌オーラ全開になるので差が分かりやすい。深山君の鼻歌のお陰で、緊迫していた雰囲気は無散した。漣君もようやく腰掛けたので、俺もそれに倣う。で、スマホを取り出すと番組のエゴサを始めた。
『今日も真緒邪魔だった』
『なに陽太君に抱き寄せられてんだよ! 場所変われ!』
『陽太君は影月君のなのに、なんで真緒がくっ付いてるの!? ホント消えて欲しい!』
『陽太と影月は最高なのに、真緒とかいう異物がいるせいでマイナス評価なるの勘弁して欲しい』
俺への不満がずらっと溢れていて、俺はそっとスマホの画面を消した。どうやら今日も俺のファンは生まれなかったらしい。ふぐぅうう。ハンカチを取り出し、べしょべしょ泣いてる俺を漣君は気味悪がりながら「どうせ傷つくだけなんだから、いい加減エゴサ止めろよ……」と呆れた声を零すのだった。うるせぇ! エゴサしなきゃ俺に肯定的な意見を見ることが出来ねぇんだよ! 君ら人気者には分からないでしょうね! まぁ毒サソリが大量に生息する砂漠で針を探すような行為なのは自覚しているけど。因みに以前は父親が俺への暴言を呟いてる人間はオーバーウェルミング公式アカウントで大量ブロックしていたが、俺が止めさせた。そのままだと一般人のフォロワー0人になっちゃいかねないからだ。父親は滅茶苦茶ごねてたが「パパお願い」って上目遣いで言ったら諦めてくれた。うーん流石俺のファンクラブ第一号。会員数は3桁あるのか怪しい所だが。
「よしっ、今日は漣君に迷惑かけちゃったから俺がご飯作るよ!」
「今日も、な。後お前に作らせると碌なもんにならねぇから俺が作る……前みたいに謎の物体を作り出されるのは勘弁だわ」
「ふぐぅうう……。いや、でもあの時に比べたら俺の料理の腕も上達しているはずで……!」
「おい、クソガキ。お荷物の料理食うか?」
「……いらない」
「だそうだ」
「ふぐぅうう……」
料理なんて口に入れば良いと考えている深山君にまで拒否されて、俺は何も言えなくなり皺くちゃピカチュウになった。え、俺の料理毒物かなんかとでも思われている!?
「ミンチが残ってたはずだから今日はハンバーグな」
「え、本当!? やった~! 俺漣君のハンバーグ大好き~!」
「褒めても何も出ねぇぞ? デザートはブドウのシャーペットにしてやるか」
「神!? あなたが神だったか!?」
「うるせぇ、耳元で騒ぐな。クソガキも文句ねぇな? まぁ文句言ったら食わせねぇが」
「…………食べれるなら問題無い」
「お荷物じゃねぇんだから食べれるに決まってるだろ」
「ふぐぅうう。しれっと俺に流れ弾してくるの止めてよ……」
うちの事務所の方針、というか父親の考えにより事務所のアイドルは結成してしばらくはルームシェアすることになっている。その為、グループ内の雰囲気最悪な俺達もひとつ屋根の下で暮らしているのだ。因みに俺も深山君も家政婦がいる家庭で育ったから家事経験なんて0で、その所為でしわ寄せは全部漣君にいっている。深山君は母親が世界で活躍するピアニストで、父親がバズる曲しか生み出さないと言われている作曲家という金持ちの子だったりする。そんな深山くんとこよりうちの家の方が豪邸だったり。親馬鹿な面ばかり目立つが、アイドル事務所以外にも多くの事業を展開しており、日本国内で見ればわりと富豪の一人に入るのである。その為俺は、親以外は平凡とも言われでいる。う~ん否定できない……。
まぁ? 最近は洗濯機で床一面泡だらけにすることも無くなったし、俺も家事レベルはかなり上がっているはずだ。今日も漣君がつけ置きしていた洗濯機に、服がふわふわになるように柔軟剤をたっぷり入れておいた。一本丸ごと入れておいたからふっわふわのふわふわになっているに違いない。俺はやればできる男なのである。これで漣君も俺の事を見直してくれるに違いない。そしてグループ内の不和は無くなり、俺達はトップアイドルに!
「やけに上機嫌だなぁ。そんなにハンバーグが楽しみなのかよ」
「勿論それも楽しみだ!」
「……それも? おいお荷物。お前なんか余計なことしてねぇだろうな?」
「余計な事? いやしてないが?」
「…………」
漣君が手を押し付けて考え込む。ハンバーグのソースを何にするかでも考えているのだろうか? 俺はデミグラスソースでチーズが乗っている奴が良いな! そんな風に呑気に考えていた俺は、帰宅後に洗濯機を目にした漣君が「お荷物~~!!!!」と怒鳴り声をあげ、正座させられ1時間説教された上デザート抜きにされることになるなんて思いもしていなかった。
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