上 下
3 / 4

お義母様にお許しを頂く話

しおりを挟む
「……はぁ……ちょっと目を離した間に何やらかしてるんですか貴方は」
「いや~その……魔が差したというか? ちょっと欲望に正直になりすぎたというか、正直辛抱堪らんかったというか」
「それ、言い訳にすらなってないですからねこのレイプ未遂のショタコン野郎」
「エル誤解だよ! まずカイトきゅんショタって年齢じゃないからな! あと突っ込んでもらうつもりだったから逆レイプ未遂だよ!! 若さによる体力で吾輩を立てなくなるまで滅茶苦茶にしてもらいたかっただけだから!」

冷めた視線を向けてくるエルの誤解を解こうとアルフレッドは頑張った。
頑張った結果余計に自分の評価が下がる羽目になっているのだが。
この変態に何を言っても無駄だと理解したエルは、説教をすることを諦めため息をつくのだった。

「……俺……もう結婚できねぇ……」

エルの隣を歩くカイトはカイトで落ち込んでいた。
まぁ窃盗行為をしようとしていたとはいえ、いきなりクンカクンカぺろぺろの全身コースなんていう逆レイプ未遂(エルが帰ってこなければ絶対に致していた)をされれば仕方ない。
因みに最初アルフレッドはカイトの横を歩こうとしていたのだが、エルによりそれは止められた。
その際“これ以上セクハラしたら牢屋にぶち込みますよ?”などと主に対する言葉とは思えない事を言われているが、まぁいつものことである。
主従どちらもいつも通り酷い。

「大丈夫だって! 吾輩が責任もって貰ってやるから、童貞も一緒にな!」
「ど、ど、童貞なわけないだろ!!! 俺だって女の子とその……そういうことしたことあるし……!」
「へ~。そういうことって具体的にどういうことかな?」
「そういうことはそういうことだ!!」

童貞であることを必死に否定するカイトだが、顔を真っ赤にさせている為嘘だとバレバレだった。
まぁ仮に表情に出ていなかったとしてもアルフレッドは分かったであろう。
だって変態アルフレッドだから。

「初めては正常位? それとも騎乗位? 自分の部屋でやったの? それとも敢えての野外プレイ?? 欲望に身を任せて抜かずの3連発とかやったの?? カイトは全裸派着衣派? あ、吾輩はどっちも好き派なんだけど」
「お、俺は……その……っっ……!」
「いい加減にしろアホ王子!」
「ぐふっ……」

カイトの顔は完全にゆでダコのようになり、教育上良くないと判断したエルは肘をゲス野郎の腹部にぶち込む。
王位継承権を捨てたとはいえ王族にこんな事をすれば最悪死刑なのだが――本人が一般人とかほざいてるから問題ないでしょ。だいたいばれなきゃ問題ないですし――という判断だった。
主とは別ベクトルで酷い従者である。
その後も言葉責めセクハラをしてはエルに物理的に黙らさせられるという茶番を繰り返していると、三人の視界に王都とは真逆といっていい程寂れた田舎町が入る。

「ついたぜ、ここが俺達の村だ」
「おー見事に何もないな!」
「まぁそりゃな……元々対した村じゃなかったけど、若い奴は都会に憧れて村を出て行くからどんどん寂れていってるからな」
「カイトも若いし都会に行きたいのか?」
「いや、俺は別に都会に興味ねぇし。それに……畑いじるの……嫌いじゃないからな」

頬を掻き、照れながらそんなことを言うカイトをエルは微笑ましく思った。
勿論約一名は不純な気持ちで一杯だったが。

「やばい吾輩ムラっときた。可愛すぎるだろ……!!! このままここでぶち犯したいというか犯されたい。知らない村人達に見られながらとかハードル高いけど逆にそれが良――」
「黙れ歩く性欲」
「ごふっ……あれ、もしかして口に出てた?」
「お前本当に救いようがねぇ変態だな……」
「いや~照れるなぁ~」
「褒めてねぇよ……。んなことよりこれからどうすんだお前ら? うちの村に宿なんてねぇぞ?」
「え、カイトの家に泊めてもらう気満々だけど? 夜這いする気も満々だよ?」
「……エルさんだけなら泊めてもいいぞ」
「そうですね、ではお言葉に甘えて。アル様は野宿で大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃないよ!! 野党とか獣とかに吾輩が乱暴されてド淫乱になってしまったらどうすんの!?」

“いや、もうなってるだろ”、と思いつつもカイトとエルは何も言わなかった。
なので、“どちらかという野党や獣の方が心配だ”など思われていたことをアルフレッドは気づかなかった。

「カイト手出して」
「え、やだけど」
「なんで!?」
「いや……だってどうせ変態じみたことしてくるんだろ? 舐めたり嗅いだり」
「舐めたいけど違うから! 一本ずつ丁寧に舐めたいし、咥えたいけど今回は違うからな!」
「…………なぁエルさん、セクハラで訴えたら俺勝てるかな?」
「間違いなく勝てますよ。その時は証言しますのでお任せ下さい」
「なに主人裏切ろうとしてんの!? ていうか本当に何もしないから!」

まったく、これっぽっちも信じきれないカイトだったが、これ以上このやりとりをするのも面倒だった為、しぶしぶ手を差し出す。
なんだか指に熱視線を送られている気がするのは、多分気のせいなんだろうと思い込んでおく。

「はい、宿代」

そう言ってアルフレッドが手渡したのは金貨10枚(その際さりげなく手を握っていた)。
カイト一人なら金貨一枚で一年生活できる、それが10枚。

「おまっ……何考えてんだ! どう考えても過剰だろう!」
「え、適正じゃない?」
「これだから貴族は……。あのなぁ――」
「それセクハラ夜這いその他諸々の迷惑料も入ってるからな!」
「…………お、おう……そうか……」

思わず突っ返したくなったが、盗賊まがいの事をしなくてはいけなくなるほどカイトは金に困っていた。
その為多少触られたり嗅がれたり舐められたりするくらいで、この金額が手に入るなら問題ないのではと考えそのまま受け取ってしまう。
どう考えてもその程度で終わるわけがないというのに。
二人のやり取りに、エルはただため息をこぼすのだった。



「ただいま~」
「いや、お前の家じゃないからな」
「えっ、だってカイト吾輩のハーレムに入るだろ? で、ここはカイトの家だろ? つまり吾輩んちじゃん?」
「いつお前のハーレムに入るなんて言った!」
「言わなくていいから入れよ! 入らないなら性的関係のある爛れた仲になってよ!」
「大して変わんねぇだろそれ!!」

他人の家に我が物顔でずかずかと入り込んだアルフレッド。
遠慮なんて言葉は彼の辞書にない。
因みにセクハラダメ絶対っていう項目はあるが、自ら黒く塗りつぶしている。

「あら、お客様?」

部屋の奥には布団に横になっている女性がいた。
あまり顔色も良くなく、カイトが何故お金を必要としているのかアルフレッドなんとなく理解した。

「お袋ただいま。しばらくウチに泊めることにしたエルさんと変態だ」
「カイトきゅん??? その紹介おかしいよね?? お義母さんに吾輩が変態だと思われたらどうすんだよ!」
「変態で合ってるだろうが!!」
「まぁそれもそうか」
「納得するなら最初から突っかかってくんじゃねぇよ……」

まだアルフレッドと出会ってからそんなに時間が経っていないというのに、カイトは疲れきっていた。
ツッコミをカイトに任せて楽をしようとエルが企んでいたのも原因なのだが、カイトは気づいていない。
アルフレッドが勝手に自分の母親を義母呼びしていることにも。
気づいたところで彼の負担は減るどころか増えるだけなのでこのままの方が幸せだろうが。

「私はカイトの母のエレノアと申します。あまり動けない為お二人にはご不便をおかけしてしまうと思います。申し訳ありません」
「いやいや気にしないでください! あ、吾輩はアルフレッドです。カイトとは色々な意味で仲良くしていこうと思ってますんで、これから宜しくお願いしますお義母様!」
「エルと申します、この馬鹿は責任もって私が面倒みますのでお気になさらず」
「アルフレッドさんにエルさんですね。あら……アルフレッド……?」
「この変態がどうかしたのかお袋?」

エレノアにじっと見つめられたアルフレッドは自分の正体がバレたことに気づく。
まぁ青い瞳を持つ者は王族しかいない上に名前もそのままなのだから、気づく人は気づくだろう。
アルフレッドとしてはできればカイトにはまだ知られたくなかったので、目で黙っていてくれるよう頼み込む。

「いえ、なんでもないわ。それよりお二人はこの村の人ではないようですが、どこでうちの息子と知り合ったんですか?」
「そ、それは……」

途端に慌て出すカイト。
まぁ窃盗行為をしようとして返り討ちにあい、逆レイプされかけて知り合いましたなんて言えるわけがない。
逆レイプ云々抜きにしても事実を言うのは非常にまずいのだが。
それを察したアルフレッドは助け舟をだそうと口を開こうとしたのだが――。

「カイト君とは我が主であるアル様に対して窃盗行為をしかけた事を切っ掛けに知り合いました。その後、主の方が色々と口にはできないことをカイト君にしでかしているので謝罪は不要ですよ」

アホか――!!!
そう思わず叫びたくなるアルフレッドだが、エルの手によって口を塞がれ何も言えない。
とりあえず悔しいので手のひらを舐めてやったら、頬に爪をたてられた。

「……カイト……貴方なんてことを……!」
「貴族から金を奪おうとして何が悪いんだよ!! あいつらは俺達から何もかも奪っていったんだぞ!」
「だからと言って貴方が盗みを犯していいなんて理由にはなりません! アルフレッド様本当に申し訳ありません!」
「あ……いや、どちらかというと謝らなくちゃいけないようなことしているので謝罪はむしろこっちがしないといけないような……?」
「多少は自覚あったんですね」
「まぁ……ちょっとは? そういう事なんで大丈夫ですよエレノアさん」
「いいえ、そうはまいりません。カイトきちんと謝罪をしたのでしょうね?」
「するわけねぇだろ!!! 俺は……俺は悪くねぇ!!!」
「カイト!!!」

カイトは乱暴に扉を開け外へと駆け出した。
確かにカイトがした行為は許されないことではあるが、その後が後なだけに悪いと思えないのは仕方がない。
それだけが彼が意地をはる理由ではないのだが。

「申し訳ありませんアルフレッド王子。我が子の罪は母である私にございます。どうか裁くなら私を……!」
「カイトをどうこうするつもりはないですから安心してください」
「性的にはどうこうするつもりあるんでは」
「おいやめろ! 吾輩が珍しく真面目にしてるのに台無しにすんな!」
「???」
「あー、なんていうか吾輩カイトに一目惚れしてしまったので、吾輩のハーレムに入って貰いたいと思ってるんですよ。好きな相手を罪に問うわけにはいかないでしょ?」
「まぁ……カイトがアルフレッド様のハーレムの一員に……? ですがうちの子はがさつで、気が利かず、考えなしに突っ走しる上に考えたところであまり意味のないような子ですよ?」
「よ、容赦ない………ま、まぁ確かにそういう部分もあるんでしょうが……純粋で母親思い、それに涙目がめちゃしこ――可愛いんです」
「今一言で雰囲気ぶち壊しましたねアル様」
「うっさい! とにかく、本人が望まない限り無理強いはしませんので安心してください」
「……行為は無理やりしますけどね」
「お前なんなの!? 吾輩の信用度ガタ落ちしちゃうでしょうが! まぁその通りだけども!」
「ふふっ、カイトのこときちんと見てくださっているようで安心しました。いくらアルフレッド様といえど無理やり婚姻させるというのならば反対するつもりでしたが、あの子が望むようになれば宜しくお願い致します。……まぁあの子鈍感で純情で、恋に夢見ているので中々大変だとは思いますが……」
「その辺はまぁ長期戦で頑張りますよ」

“押しに弱そうだし、しばらく押してたらなんとかなりそうだしな”なんて考えるアルフレッドだった。
勿論押すの中に性的行為が含まれているのは間違いない。
カイトのここが可愛い話で盛り上がり出すアルフレッドとエレノアの話を聞き流しながら
、エルは外堀から埋められたカイトを哀れに思うのだった。
しおりを挟む

処理中です...