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カイトが陥落する話

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エレノアと語り合っている途中、アルフレッドは気になっていたことを尋ねていた。
“なぜカイトは貴族嫌いなのか”
その理由はエレノアとその夫――つまりカイトの父親の結婚前まで遡る。
エレノアは末席ではあったが貴族の娘であった。
そして美しい彼女を見初めた力のある貴族は彼女を側室として招こうとする。
両親は婚姻を喜んでいたが、エレノアは違った。
彼女には想い人がいたのである。
それは自らの家に仕える使用人の息子だった。
婚姻の前日、二人は家から、そして貴族から逃げ出した。
二人共畑仕事などしたことなどなかったが、ミニム村の住人は優しくなんとか暮らしていくことができた。
やがてカイトが生まれ、決して裕福ではないが幸せな日々を送ることになった――カイトが10歳を迎えるその日まで。

二人が幸せなことが気に食わない男がいたのだ。
それは結婚相手のはずだった貴族。
“過去のことは自分はもう怒っていない、エレノアのご両親に子供の顔を見せてあげなさい”
夫婦は喜んだ。両親に孫にあたるカイトを見せてあげたいと常々思っていたのだから。
そうしてわざわざ用意してくれた馬車に乗り、実家へと向かう途中。
馬車が盗賊に襲われたのだ。
その時カイトの父親は命を落とした。
悲しみにくれるエレノアに貴族の男は自分が守ってあげようと甘い言葉を紡ぐが、エレノアはそれを断った。
すると男は怒り狂い、エレノアに暴力を振るったのだ。
カイトは必死に母を守ろうとするが10歳の子にはそんな力はなく、蹴り飛ばされ動けなくなる。
“お前なんかと結婚したからあの男は命を落としたのだ”
エレノアはようやく気づいた、男は自分達を許してなどなかったことに。
盗賊に夫が殺されたのは偶然なんかではなかったのだ。

だが証拠はなく、エレノアは何もできなかった。
そして村に戻ってからも嫌がらせは続き、やがて病に臥せた。
カイトはエレノアの薬代の為に必死になって働いた。
エレノアが倒れてから、彼に自由な時間なんてなかった。
貴族が裏から手を回し、どんどんと薬代は高くなり、ついにはカイトには払いきれない値段になってしまった。
そうしてアルフレッドとカイトの出会いへとつながる。

「私さえいなければあの子は自由に生きれるのです。私があの子を不幸にしてしまっている……」

話を全て聞き終えたアルフレッドは怒っていた。
貴族の男に対して――そしてそんな事件に気づいてあげれなかった自分に。

「エレノアさん、吾輩はまだカイトのことはそんなに深く知らない。けど、あいつは絶対にエレノアさんといることを不幸だなんて思ってませんよ。カイトは貴方のことが大好きだから」
「……どうしてそんな事が分かるのです?」
「ん~、まぁ知っているからとしか言い様がないかな~。吾輩実は魔法使いなんですよ。だから……分かるんです」
「ふふっ、優しい魔法使いさんもいるのですね」
「むむ信じてないな~。まぁ優しい魔法使いが保証しますよ。貴方の息子は不幸なんかじゃないと。なんたって吾輩に出会える幸運の持ち主ですし? さぁ少し喋らせすぎてしまいましたから休んでください」
「そうですね……アルフレッド様本当にありがとうございます」

それだけ告げるとエレノアは眠りについた。
本人は気づいていなかったが、かなり無理をしていた為だ。
アルフレッドは掛け布団を整えた後控えていたエルに声をかける。

「吾輩はカイトを迎えに行ってくるから、エルは晩御飯でも作っててくれ」
「……私が行った方が良いのでは?」
「いや、吾輩がいくよ。エレノアさんのこと頼むな」
「分かりました」



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貴族は嫌いだ。
親父を殺し、お袋をひどい目に合わせやがった。
自分達が偉いからって下の者共に何をしてもいいと思い込んでやがる最低野郎どもだ。
あの男だけじゃねぇ。
親父の件を祖父母にあたる二人も、もみ消すのを協力してやがった。
実の娘や孫よりも、あの男がもたらす利益の方が大事だったんだ。
貴族なんて皆滅びればいい。
あの変態野郎もどうせ他の奴らと同じクズに違いない。
仮にあの時盗みが成功してたとしても、なんも問題ないはずだった。
だから――俺は悪くない――。

「いいや、お前は悪いよ」
「っ……!?」

振り返るとそこにはヘラヘラと笑う、俺の嫌いな男が立ってやがった。
一歩ずつ近づいてくるそいつから距離を取る為、後ろに下がろうとしたができなかった。
親父の墓が後ろにあったからだ。

「カイト、お前の身の上話は全部聞いた。確かにお前は大変だったな。貴族を憎んでも仕方ない」
「お前に……貴族のお前に何が分かる……!」
「貴族ではないんだが……まぁ似たようなものか。そうだな、吾輩にはお前の気持ちは分からないだろうな。吾輩食うものに困ったことも、重労働をしたこともないし? まぁ苦労をしてこなかったわけじゃないが、周りには助けてくれる人が大勢いたからな。自慢じゃないが吾輩人気者でな~」
「馬鹿にしてんのかてめぇ!!」
「馬鹿にはしてないよ。少し話がそれてしまったな。カイトが悪い、そう吾輩は言ったが何故だか分かるか?」
「盗みは悪いことだとか、そんな事をしてもお袋が悲しむとかそんな話か? 馬鹿馬鹿しい」

悪いのは貴族だ!
クズどもだ!
俺は……俺はお袋を救うためにああするしかなかったんだ!

「少しは考えれないのか? だからお前は騙されたんだぞ?」
「は……?」

何を言ってるんだこの変態は。
俺が騙された……?
一体誰に……。

「貴族に盗みを働いて無事に済むと思ってるのか?」
「無事に済んでるんじゃねぇか!」
「それは吾輩が変態かつ変人だったからだ。他の人間だったらどうなってたと思う? まずそもそも護衛が沢山いただろうな。ただの村人のお前がそんな連中から逃げ切れたか?
まぁ無理だろう。捕まって、その場で首を撥ねられただろうな」
「それは……っ……」

確かにこいつじゃなかったら、普通の貴族があの時通っていたら俺は死んでいたのかもしれない。
こいつがいうように所詮俺はただの村人だ。
傭兵や騎士なんかから逃げられはしなかっただろう。
ようやくその事に気づいて冷や汗が頬を伝う。
今ここに立っているのがどれだけ奇跡的なのか理解したからだ。

「そうしたらエレノアさんは悲しんだろうな。夫に続いて息子まで失ったらきっと耐えられなかっただろうよ。お前はエレノアさんを殺すところだったんぞ。まんまと罠にかかって」
「罠……? なんだよそれ……それにさっきも騙されてるって……」
「なんでお前は貴族が――吾輩があそこを通ると思ったんだ?」
「それは聞いたから……」
「誰に?」
「いつも薬を持ってきてくれるおっちゃんが言ってたんだよ。明日ある高貴なお方がこの村にやってくるって、馬車が通れる道が途中で塞がっているからあの道を通る羽目になるだろうって」
「そいつにどうせ“その御方ならこんな薬のお金なんてはした金なんだろうな、多少金を盗まれても痛くもないだろう”とでも言われたんだろう?」
「なんで知って――」
「クズのやり方は分かるんだよ。お前は盗みを働くよう嗾けられたんだよ。で、お前は貴族を激怒させ殺される」
「俺なんかをなんでわざわざ……」

本当は分かっている。
ただの農民の俺をわざわざ罠に嵌め用とするのなんて一人しかいない。
ただ受け入れたくなかった。
あいつの手のひらの上で踊らされてたなんてことを。

「お前を殺して、エレノアさんを苦しませる為に決まってるだろ?
ルールだからとか、人として盗みをしてはいけないなんて吾輩は言わない。
お前が追い詰められてたのは十分分かったからな。だが、それでも盗みなんてしちゃいけなかったんだよ。エレノアさんが大事ならこそ」
「じゃあどうすりゃ良かったんだよ!! 俺は……俺はどうしてれば良かったんだ……」
「まぁどうしようもなかっただろうな!」
「はぁ……?」

何を言ってるんだこいつは。
どうしようもなかったっていうならさっきまでの話は何だったんだ!

「まぁ状況つんでたからな~。お前はそこまで追い込まれる前に頼れる誰かを見つけなくちゃいけなかったんだよ。貴族相手にお前一人でエレノアさんを守りきれると思い上がったのが悪い」
「そんな奇特な奴いるわけねぇだろ……俺達を助けてくれるやつなんて……そんなのただの馬鹿だ……」

そんな奴がいるならとっくに頼っている。
誰も俺達になんて見向きもしてくれねぇ。
俺達みたいななんの価値もねぇ人間を救ってくれるやつなんているわけが――。

「確かに今まではお前の周りにそんな奴はいなかったかもしれない。
けど今は違うだろ? 居るじゃないかお前に惚れてる変態で変人の馬鹿が目の前に」
「アルフレッド……?」
「吾輩が守ってやるよ。お前もエレノアさんも。だからもう無理しなくていい」

気がつくと俺はアルフレッドに抱きしめられていた。
いつもだったら抵抗してるはずなのに……俺はその温もりを手放せずされるがままでいる。
親父が死んでからずっと一人の力で立っていたのに、アルフレッドはもうそうしなくていいと背を撫でてくる。
こいつは貴族なのに……そんな奴に触れられたくなんてないはずなのに……何故か嫌ではなかった。むしろ――。

「あーカイトの匂い嗅げて幸せだな~」
「…………お前アホだろ……」

いや、ない。
こんな変態に気を許すとかありえないだろ。
なんだか鼓動が早い気がするのもきっと気のせいに違いない。

「嗅ぐのやめろ!」
「いーじゃん!! もう一働きしなくちゃいけないんだから、その前にエネルギー補給をさ!」
「はぁ? なんだもう一働きって」
「それは――ってもういらっしゃったみたいだな」

急にアルフレッドは俺から離れたと思ったら墓の入口の方へ振り向いた。
離れたのがちょっと寂しかったとかそんな事はない。
断じてない!
そんなことよりも誰か――誰か達が近づいてくる足音が聞こえてくる。

「おぉこちらにおられましたかアルフレッド様」
「なんでお前が……!!」

やってきたのは親父を殺したあの男と、そいつを守るように付き従う騎士達だった。
親父の墓があるこの場所にこの男がいることが許せず、手を出しそうになる俺をアルフレッドが手で制した。
大丈夫だからと言いたげに俺の背中にぽんと叩く。
目の前に殺したいほど憎い男がいるというのに、それだけで俺は冷静になれた。

「そっちは名前を知ってくれてるのに申し訳ないが、吾輩お主の名前知らなくてな、名乗ってもらってもいいか?」
「勿論ですとも。私はクロインツ家当主、マルゲルと申します」

俺はこの男――マルゲルがへりくだっている姿を初めて見た。
傲慢で、誰もを見下しているこの男がアルフレッドに対しては下手に出ている。
一体なんでだ……!?

「そうかマルゲルか。それでお主は何しにここまで来たんだ? まさか墓参りに来たなんて言わないだろう?」
「勿論違いますとも! 本日はアルフレッド様に対して窃盗行為をする等ととんでもない大罪を犯した者を捕らえに来たのです!」

そう言ってマルゲルは俺に向かって下衆な笑みを向けてくる。
ああ、本当にアルフレッドが言ってたとおり俺は罠にハメられてたんだ。

「ほぅ、そんな愚か者がいるのか」
「ええ、アルフレッド様危険ですのでその罪人から離れてください」

騎士達が俺を捕らえようと近づいてくる。
ああ、結局俺はこいつらに殺されるのか。
そして俺が死んだらお袋も……!!
けれどここで抵抗してもお袋に被害が及ぶのは分かっていた。
そうして俺は何もできず、近づいてきた騎士達に腕が掴まれそうになったとき――。

「おい貴様ら、誰の許可を得て吾輩の愛する者に触れようとしている」

アルフレッドが出したとは思えない低い声を受けて騎士達は動きを止めた。
俺の隣に立っているのは本当にあの変態のアルフレッドなのか……?
睨まれているのはあいつらなのに、俺まで震えてしまう。
それほどアルフレッドからは殺気が溢れていた。

「な、何を仰られているのですがアルフレッド様! そこにいるのは罪人――」
「ほぅ、貴様は吾輩の愛する者を罪人呼ばわりするのか」
「呼ばわりもなにもこの者は確かに貴方様を恐れ多くも落とし穴に落とし、あまつさえ盗みを働こうと――」
「何故その事をお主が知っているのだ? あの場には吾輩と従者のエルとそしてこの青年しかいなかったはずだが? まさか吾輩が穴に落ちていたにも関わらず助けにも来ず眺めていた者がいるとは思えんが」
「そ、それは……」
「それだけの兵を動かしているのだ。余程信頼できるものが現場を目撃していたのだろうな。で、誰だか申してみろ。その不届き者の名を」
「い、いえ……それは……で、ですがその者は間違いなく大罪を」
「ああ大罪といえば大罪を犯したのかもしれんな」

呼吸が止まりそうになる。
裏切られた。
信じていたのに結局こいつも俺のことを助けてなんてくれないんだと。
けど――。

「まぁ大罪は大罪でも吾輩の心を奪うという罪だがな。思わず出会ったその場で手を出してしまった程だ。で、まさかその事で貴様らはこの者を裁くとでも?」
「ま、まさかそんな……我々が言いたいのはこの者が窃盗を――」
「吾輩は確かにこの者が仕掛けた落とし穴に引っかかった。まさかあんな所に狩りの罠があるとは思わなくてな。逆に罠を潰して申し訳ないことをした。で、それに気づいたこの者が吾輩のもとにやってきた。吾輩はこの者に心を奪われ手を出した。あの場で起きたことはそれだけだ。それ以外には何も起きておらん、分かるなマルゲル?」

実際にはマルゲルの主張の方が正しいのに、事実を知っている俺ですらアルフレッドが言っていることは正しいと思いそうになってしまう。
だから当然マルゲルの野郎が連れてきた騎士達も困惑しだした。

「さて、話はこれで終わりでいいか?」
「なんだこれは……なんでこんな事に……」
「マルゲル何か不満でもあるのか?」
「ええい、貴様らアルフレッド様は罪人に騙されておる! 奴を捕らえてアルフレッド様を正気に戻して差し上げるのだ!」

戸惑いながらも主の命令に従おうと動き出す騎士達。
けれど俺に触れれる者は居なかった。

「馬鹿が……シンファ片付けろ」

一瞬だった。
どこからともなくフードを被った男が現れたと思ったら、次の瞬間騎士達が倒れていた。

「なっ……なにが……」
「王族が護衛も連れずに旅に出るわけがないだろうが。さて、こいつらの捕縛任せたぞ」

男は頷くとマルゲルを気絶させ、他の連中共々縄で縛っていく。
この男の存在も気になる、気になるのだがそれよりも――。

「お、お前王族だったのか!?」
「ん? 言ってなかったか? 吾輩現王クラウスの弟だよ~」
「聞いてねぇよ!!」
「ん~まぁ今言ったから良いだろ? それより疲れたから帰ろうぜ~吾輩腹減ったし」
「帰るってどこに……?」
「決まってるだろ? カイトの家にだよ。それでもって吾輩の家でもあるけどな!」

さっきまでとはうって変わって呑気に笑うアルフレッド。
俺はこの毒気が抜ける笑顔の方が好きだ。
ずっと見ていたいと思うほどに。

「ばーか勝手におまえの家にすんじゃねぇ」
「いやいや、今の一件で吾輩に惚れてくれたくね? もうハーレムメンバーじゃない?」
「ねぇよ」
「えー!! 吾輩頑張ったのに~! ハーレムメンバーに入ろうよ! もしくは性的関係のある爛れた仲に――」
「ならないから」
「そんな~」

大げさに落ち込むアルフレッドを見て少し可哀想に思ってしまう。
だが嫌なものは嫌だから仕方ない。
大人数の中の一人なんてごめんだ。

「絶対に俺以外目に入らなくさせてやるよ」

調子に乗るだろうから、アルフレッドには聞こえないよう小さな声で呟く。
守ってもらうだけじゃなくて、この変態だが優しいアルフレッドを守れるような存在になって独占してやる。
だから――

「覚悟しとけよアルフレッド」









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「それで、貴方が動かなければどうなるはずだったんですか?」
「ん? 何の話か吾輩よく分からんな~」

何もかも眠っているような時間だというのにも関わらず、アルフレッドとエルは縁側に佇んでいた。
カイトやエレノアは勿論眠っている。
二人に聞かれないために、わざわざこんな時間を選んで話しているのだ。

「惚けないでください。この村に来たのも偶然じゃないんでしょ?」
「…………まぁ、な」
「“視た”んですね」
「ああ。本来ならカイトが接触するのは吾輩ではなく別の貴族だった。マルゲルの手の者のな」
「それで彼は殺されていた、と」
「いんや死んでは無かったよ……まぁ死ぬより辛かったかもしれんがな。カイトは捕らえられ王都の牢に放り込まれた。それを知ったエレノアさんは心が先に壊れて死んだ。まぁそんなの知ったらカイトも精神的に無事にすまんだろ。結局はイケメンホイホイで釣られた吾輩が助けることになるんだが…………本当の意味では助けられなかったんだよ」

辛そうに話すアルフレッドを見て、エルはようやく気づく。
アルフレッドがカイトを好きだというのは単に顔だけではなく、本当に愛しているのだ。
それこそ“出会う前”から。
本人ですら知りえない、アルフレッドしか知らないカイトを視てきたのだから。

「だから貴方がここに来ることで未来を変えたと? イケメンハーレムもその為の方便だったんですか?」
「いやいや、それは本当だよ。吾輩イケメンハーレム作るし」
「作りたいではなく、作るですか……どんな未来を視てるのか言う気は無いんでしょうね」
「相変わらず鋭いな~。まぁ言う気はないよ。誰にも、ね」
「……はぁ……全く貴方は……無茶だけはしないでくださいよ」
「なんだい、吾輩が死んだらエルちゃん悲しんじゃうのかい?」
「…………当たり前でしょうが」

いつもなら毒舌で返してくるというのに、泣きそうな表情をするエルを見てアルフレッドは困ったように頭をかく。

「おやまぁ珍しいなエルが素直なんて。まぁ心配しなくても大丈夫大丈夫! 内容は言わないけど、一年先に吾輩が何をしているかも視てるからね。それまでは絶対に吾輩は無事だよ」
「……なら良いです。貴方がそう言うなら絶対に大丈夫なんでしょうから」

エルは安心して笑みをこぼす。
アルフレッドが本気で言う言葉なら、エルは疑わない。
だってそれは絶対的な真実なのだから。




ファルム王国現王であるクラウスの弟アルフレッド。
王宮内での彼の評価は変態・ちゃらい・馬鹿と散々なものだ。
だが一部の者はそれとは違い、彼を国にとって何よりも大事な存在だという。
現王であるクラウスもまたその一人である。
決して弟だからなどという理由ではない。
何故なら未来を視ることができるアルフレッドは――ファルムの切り札なのだから。
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