長い長い衛星 構想:空をぶち抜くエレベータを作ってみる

東洋クイーン

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七 静止軌道の主権

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○地上基部の所長室
   所長、真世がソファーに座っている。
 所長「本社からのミッションが真世さんに来てます」
 真世「どんなミッションですか?」
 所長「エレベータの部品を打ち上げるミッションのため本社に行くように、と聞いてます」
 真世「どこで打ち上げるんですか?」
 所長「それは本社で確認してください」
 真世「……いつ出発しますか?」
 所長「ヘリの準備ができているので、真世さんの準備ができ次第すぐにヘリポートへ行ってください。いいですか?」
 真世「ずいぶん急ですねえ……分かりました、いってきます」
 所長「いってらっしゃい」
   真世は部屋を去る。

○地上基部のヘリポート
   ヘリが離陸する。

○シアトル・タコマ国際空港の滑走路
   飛行機が着陸する。

○本社のロビー
   真世が座っている。エレナが歩いてくる。
 エレナ「真世さん。お待たせしました」
 真世「久しぶりですね。お元気ですか?」
 エレナ「ええ、元気です」
   エレナが座る。
 エレナ「久しぶりに帰ったところをすみませんが、もう少し待ってもらえますか」
 真世「え! ……いつまでですか?」
 エレナ「最後の衛星部品が搬出されるまでです」
 真世「じゃあ、それまで仕事の話でもしながら……」
 エレナ「社外で仕事の話はできないんですよ。噂によると社内の情報が漏れているとか……」
 真世「『情報が漏れている』と話すのもダメなんじゃ……」
 エレナ「そうでした……とにかく、連絡が来るまで世間話でもして待ちましょう」
 真世「分かりました」
   真世とエレナは世間話をする。しばらくして、エレナは携帯電話を取り出す。
 エレナ「(電話に)もしもし……エレナです……分かりました」
   エレナは携帯電話をしまう。
 エレナ「搬出されたので、中に入って仕事の話をしましょう」
 真世「はい」
   エレナは歩き始め、真世は後を追う。

○本社の小会議室
   真世とエレナが座っている。

 エレナ「ここなら話せるわ」
 真世「打ち上げの場所はどこかしら」
 エレナ「真世さんは種子島で、私はボストチヌイよ。まず、報道機関への説明をやるわ」
 真世「お願いします」
 エレナ「今回打ち上げる人工衛星は静止軌道エレべータのケーブルを長い距離に渡って設置するための部品です。では、ケーブル敷設作業の手順を説明します」
   壁面に箇条書きが映る。

・ケーブル敷設作業の手順
 ・部品:四十トンのケーブル、敷設用無人宇宙船、燃料
 ・打上げ:部品を低軌道に二組輸送する
 ・組立て:部品を組み立てて、完成した宇宙船にする
 ・輸送:宇宙船を静止軌道に上昇させる
 ・敷設:宇宙船を上昇させながら、ケーブルの先端を地球に向けて下降させる

 エレナ「部品はケーブル、宇宙船、燃料の三種類です。打ち上げにより部品を低軌道に二組輸送します。この部品を組み立てて、完成した宇宙船になったら、静止軌道に上昇させます。静止軌道に着いたら、ケーブルの先端を地球に向けて下降させます。以上がケーブル敷設作業の手順です。二組、輸送する理由はケーブル整備と車両すれ違いの都合です。以上」
 真世「報道機関には、こんな感じで説明すればいいのね」
 エレナ「ええ。種子島も、ボストチヌイも同じでいいわ」
   さらに打合せは続く。

○本社の廊下
   真世が歩いている。立ち止まって、携帯電話を取り出す。携帯電話に会長の動画が映る。会長はホワイトボードに文字を書いている。
 真世「(わざわざホワイトボードに書くより、口で説明した方が……あ! 盗聴されているとしたら……)」
   会長が書いた文字は……

・次の指示に従うこと
・会長の前で倒れる
・救急車に乗せられる
・以上

   動画が終わり、真世は携帯電話をしまって、歩き始める。
 真世「(仮病けびょうを使うのね。でも、そこまでして周りの目をごまかす必要あるのかしら)」
   廊下の向こうから会長が女性と二人で歩いてくる。
 真世「(会長の前で倒れて苦しめば、あとは会長が……)」
   真世が立ち止まって倒れこむ。会長と女性がそばに寄る。
 会長「大丈夫か?」
 真世「(苦しそうに)ウーッ」
 会長「(女性に)彼女を移動するための椅子を用意するんだ。キャスター付で肘掛なしを三つ」
 女性「はい」
   女性が立ち去る。会長は携帯電話を取り出して、操作する。
 会長「(電話に)もしもし、急病人が一人います。来てください。場所は……」

○本社建物の入口
   車寄せに救急車が止まっている。ストレッチャーに乗せられた真世が運ばれて、救急車に乗せられる。救急車が走り去る。

○道路
   救急車が赤色灯をつけず、サイレンも鳴らさずに走っている。救急車が飛行場に着く。

○飛行場
   救急車は、あるプライベートジェットのそばで止まる。プライベートジェットの中から会長が出てきて、救急車に歩いていく。会長が救急車をノックする。
 会長「もう仮病は終わりです。真世さん出てきていいですよ」
   救急車の後部ドアが開いて、真世が出てくる。
 会長「携帯電話の電源は切ってありますよね」
 真世「はい」
 会長「詳しいことはあの飛行機に乗ってから説明します。来てください」
 真世「はい」
   真世は会長に付いてプライベートジェットに乗る。

○機内
   会長と真世が並んで座っている。
 会長「ウソのミッションで地上基部から呼出してすみませんでした。今から説明します」
 真世「(え! 部品を打ち上げるミッションがウソってこと?)」
   会長が小型のホワイトボードに「状況と予定」を書き込む。

・状況と予定
 ・エレベータ部品の打上
 ・軌道上での部品組立と上昇
 ・ケーブルの敷設
 ・地上基部でケーブルの受入
 ・地上基部で記者団に『宣言』

 会長「今はエレベータ部品の打上げ準備が進んでいる状況です。今後は(ホワイトボードを指して)この手順で進める予定です」
   会長がもう一つのホワイトボードに「『宣言』演出に関する要望」を書き込む。

・『宣言』演出に関する要望
 ・大統領:記者団の心に響く『宣言』
 ・記者団にケーブル受入の瞬間をそばで見てもらう
 ・大統領が記者団と会って触れて伝えたい
  ・警備上の制約で多数の記者に会うのは難しい
  ・協会本社の情報漏れのため秘密保持が難しい
  ・少数の記者に絞ると広く伝わらない

 会長「地上基部でのケーブル受入を記者団に取材してもらう日が近づいています。そのとき行う『宣言』の要望が大統領から出ています。記者団の心に響く『宣言』の演出計画を練りますが、この飛行機から情報が漏れる可能性も考えて計画内容はまだ話せません」
 真世「つまり、私のミッションの表向きは『部品打上の立会』だったけど、本当は『秘密計画作成』ってことですね」
 会長「そうです。だから私についてきてくださいね」
 真世「はい」
 真世「(大統領の隠密行動なら、秘密が漏れちゃダメね)」

○国際空港の滑走路
   飛行機が着陸している。

○ホテルの廊下
   会長と真世がホテルマンの案内するドアの前に到着する。ホテルマンがノックする。ドアが開くと政府高官(四十代男性マタラム人)が二人を迎える。
 会長「こんにちは」
 高官「こんにちは。中へどうぞ」
   政府高官が二人を中へ案内する。

○ホテルの一室
   三人が歩いてくる。
 高官「長旅、お疲れ様でした。ひと休みしてください」
   三人はソファーに座る。
 会長「ご要望の通り、真世を連れてきました」
 真世「こんにちは」
 高官「こんにちは。真世さんとはエレベータの国際法問題の件以来ですね」
 真世「はい」
 高官「真世さんに事情を説明したいのですが、ここでは情報漏れの恐れがあるので、説明は車に乗ってからになります」
 真世「分かりました」

○車の中
   政府高官と運転手は前の席、真世と会長が後ろの席に座っている。
 会長「(真世に)今から説明します。真世さんは大統領の要望でこの計画に参加してもらうことになりました」
   会長が小型のホワイトボードに「大統領の隠密行動計画」を書き込む。

・大統領の隠密行動計画
 ・目的:記者団の心に響く『宣言』
 ・技術者を装い地上基部へ
 ・所長以外には知らせない→偽IDを発行、真世と密着
 ・記者会見は遠隔会議方式が安全
 ・課題:記者団に会って触れて伝えたい

 会長「大統領は記者団のそばで伝えたいという要望ですが、安全を考えると難しい。という話になっています」
 真世「安全と要望のバランスですね」
 会長「そうです。今、車は大統領がいる場所に向かっています。大統領と会って計画を磨きあげましょう」
 真世「はい」

○会議室
   高官、会長、真世の三人は座っている。部屋に大統領(四十代女性マタラム人)が入ってくる。
 大統領「真世さん、久しぶりです。元気でしたか?」
 真世「元気でした。大統領も元気そうでなによりです」
 大統領「真世さんのいないところで、計画を進めてすみません」
 真世「いえ、そんなことより、大統領の思いを聞かせてください」
 大統領「
 真世「きっとできますよ」
 大統領「そのマイルストーンとして、記者団の心に響く『宣言』にしたいのです」
 会長「そろそろ、計画の詳細に入りますよ。まず、記者会見までの待機場所ですが……」
   四人の話し合いは続く。

○地上基部のヘリポート
   話し合いから数ヶ月経過し、計画が実施される。着陸したヘリコプターから会長、真世と技術者に変装した大統領が降りてくる。

○地上基部、真世の部屋
   洗面所で変装から戻った大統領が口紅を塗っている。塗り終えた大統領が会長と真世が居る部屋に戻ってくる。テレビに映るヘリコプターはヘリポートに止まっている。
 会長「もう少し、時間がかかりそうです」
 大統領「もう少しで、長い長い衛星が地球につながるんですね」
 会長「ここまで来るのは長かった。本当に長いのはこれからでしょうが……」
 大統領「どういったきっかけで始まったのですか?」
 会長「当時、私は宇宙旅行を提供していました。高度を高く、値段を安く、時間を長く、という要望にこたえる方法を探してナサに行ったときのことです」

   ×    ×    ×
○ナサの面談室
   ナサの代理人リサ(二十代女性アメリカ人)と会長が面談している。
 会長「ナサは軌道エレべータの建設に消極的との話ですが、なぜでしょうか?」
 リサ「消極的ではありません。建設は国際機関が行うことになりますし、『開発研究』は行っています」
 会長「では、国際機関の状況はどうですか?」
 リサ「(隠してもしょうがない)」
 リサ「船頭多くして船山に登るという状況です」
 会長「ナサが主導できないのですか?」
 リサ「ロケット打ち上げ射場否定になる軌道エレべータの予算確保は難しいです」
 会長「……民間で建設するとしたらどうでしょう」
 リサ「……最後の技術的課題のケーブル素材がクリアされそうなので、技術的には作れそうですが、国際法をクリアしないと……」
 会長「……では、私が国際法をクリアして建設するとしたらどうでしょう」
 リサ「…………建設する場合、人材交流をしていただきたい。本社をわが国に置いていただければ、私たちが宇宙開発の主導権を確保する効果的な第一歩となります」
 会長「分かりました。お互いに協力し合える関係を作っていきましょう」
   ×    ×    ×

 会長「その後、アメリカで静止軌道エレべータ事業を始めることになったんです」
   会長は携帯電話を取り出す。
 会長「(携帯電話に)……分かった。今から行く」
   会長は携帯電話をしまう。
 会長「私は行きます。二人はもう少し待機していてください」
 真世「分かりました」
   会長が部屋を去る。真世はテレビを指して大統領に話しかける。
 真世「そろそろ、ケーブルの地球接続が始まりそうです」

○テレビ中継
   上空でヘリコプターがケーブルに近づく。ケーブル先端は銀色のツインテール髪型のように見える。ヘリがツインテールをつかまえる。その様子はヘリコプター内部のカメラで撮影されている。

○ヘリコプター内
   カメラマンはヘリコプター内でヘッドホンをしてテレビカメラを操作している。
○テレビ中継
   ヘリコプターは地上基部のヘリポートに向かって進み、着陸する。その様子は地上基部上のカメラで撮影されている。ツインテールがヘリコプターからトラックに運ばれる。トラックは地上基部の建物に向かって進み、到着する。ツインテールが建物のクレーンでトラックから建物の屋上に運ばれ、設置される。

○新宿の街頭ビジョン前
   街頭ビジョンを多くの人々が見ている。

○地上基部、真世の部屋
   真世と大統領はテレビを見ている。
 真世「きっと世界中の人々が、この映像を見ていますね」
 大統領「その人々の心に響く『宣言』にするためには……」
 真世「記念すべき日に……心に響く『宣言』……」
   真世の携帯電話が鳴り、取り出す。
 真世「(携帯電話に)分かりました。今から行きます」
 真世「(大統領に)会長の記者会見が始まります。私たちも、行きましょう」
 大統領「はい」
   真世と大統領は部屋を去る。

○地上基部の記者会見場
   会長と司会者(二十代女性)が座っている。記者会見が始まる。
 会長「私は宇宙旅行協会の会長リチャードです。静止軌道エレべータ建設の事業主です」
   壁面に箇条書きが映る。

・静止軌道エレべータ
 ・ロケットの燃料費と危険性
 ・宇宙と地球がケーブルでつながった
 ・二十年以内に宇宙旅行を提供
 ・運営方針:全人類の共同の利益

 会長「ロケットで人類は宇宙探査・開発が可能になりましたが、いくつか欠点があります。大量の燃料を必要とすること、地球へ戻る時の大気圏再突入が危険ということです。この欠点を技術の革新で克服する『静止軌道エレべータ』というものがあります。これはケーブルを使って地球と宇宙を行き来するものです。このケーブルがたった今、宇宙とつながりました。このケーブルを十五年かけて育て、宇宙旅行を二十年以内に提供します。宇宙空間の利用は『全人類の共同の利益』であるベき、と宇宙法に書かれています。宇宙旅行協会は静止軌道エレべータを独占せず、この宇宙法の精神に従って他の国や国際機関と連携して『全人類の共同の利益』となるように運営していきます」
 司会「では、次にマタラム共和国大統領からのメッセージがあります」
   大統領が壁面に映る。
 大統領(壁面映像)「皆様、たった今つながったケーブルにより、人類は静止軌道という貴重な天然資源を『管理する力』を手に入れます。そこで、この『管理する力』にふさわしい秩序を考えました。管理する環境維持義務を負うなら、経済的な主権を主張することも可能とする以下の静止軌道宣言です」
   壁面に説明の箇条書きが映る。

・静止軌道宣言
 ・静止軌道は行き届いた管理により人類に利益をもたらすため、宇宙空間と別に扱う必要がある
 ・管理能力がある国(または『国際的な制度』)は経済的主権を主張できるが、環境維持義務を負う
 ・管理能力がある国は開発途上国が静止軌道を利用できるように配慮する
 ・経済的主権を複数の国が主張した場合(国際紛争)は、平和的手段で解決する
 ・平和と安全の維持のため査察する
 ・サービス実施を監督するための機構を用意する

 大統領「ここから……静止軌道の新しい秩序が始まります」
 司会「では、ここまでで質問はありませんか?」
 記者A「会長の『全人類の共同の利益』を具体的に説明してください」
 会長「ほかの国が静止軌道エレべータを建設する場合、協力するということです」
 記者B「静止軌道エレべータの営業を開始したら、経済的主権を主張するのですか?」
 大統領「環境維持の実績を見て、主張するタイミングを考えます」
 記者C「静止軌道宣言の『監督』『査察』を説明してください」
 大統領「『監督』は国際電気通信衛星機構をイメージしています。『査察』は南極条約の七条をイメージしています」
 記者D「月の経済的主権、たとえばヘリウム3の主権はどうなりますか」
 大統領「月では、静止軌道での秩序実績を参考にして秩序が作られていくと思います」
 司会「では、次に『国際宇宙エレべータのための協力に関する国際機関』からのメッセージがあります」
   アンヌが壁面に映る。
 アンヌ(壁面映像)「『国際宇宙エレべータのための協力に関する国際機関』代表のアンヌです。宇宙旅行協会と同様に静止軌道エレべータ建設を目指しています。今回の地球へのケーブル接続は建設の大事な通過点です。私は協会を祝福し、推移を見守っていきます」
 司会「では、アンヌ代表に対して、質問はありませんか?」
 記者A「静止軌道宣言について賛成とも反対とも言ってませんが、どうなんでしょうか?」
 アンヌ「黙認ということです。問題が発生した場合、国際司法裁判所などが対応すると思います」
 記者B「国際機関にとって、今回の件をどのように見ていますか?」
 アンヌ「技術的視点でみると、エレべータ建設が促進されました。広報的視点でみるとエレべータの宣伝になりました。ただ、法的視点でみると分かりませんが、国際機関とは異なる試み、『静止軌道宣言』という試みを見守っていきます」
 司会「アンヌ代表、ありがとうございました。では次に」

○国際機関の会議室
   アンヌが座っている。壁面に司会者が映っている。アンヌがパソコンを操作して壁面の映像が消える。ケイトが不機嫌なアンヌのそばに寄る。
 ケイト「終わったのね」
 アンヌ「ええ」
 ケイト「協会の思うがままに動かされてたように」
 アンヌ「次は協会の鼻を明かす!」
 ケイト「何か……手を打った?」
 アンヌ「フフフ……いまにわかるわ」

○地上基部の船着場
   案内人(二十代女性)が記者団を船へ誘導する。
 案内人「取材、お疲れ様でした。お帰りの船はこちらです。一流料理人が腕を振るうスペシャルな料理でおもてなし致します」
   機材を持った記者団が次々と船に乗る。

○帰りの船、休憩所
   記者が十数人、飲み物を片手に談笑している。記者Aは携帯電話を片手に荷物からパソコンを取り出し、操作する。記者Aの電話が終わると記者Bが話しかける。
 記者B「やあ。あわててるね。何かあったの?」
 記者A「ああ。さっきの『宣言』に抗議する国が出てきた」
   二人はパソコンをのぞきこむ。他の記者も集まってくる。
 記者B「『抗議』に対する大統領のコメントが欲しいかな?」
 記者A「そうだな。ちょっと待ってて」
   記者Aは部屋を去る。しばらくして、案内人を連れて部屋に入る。パソコンを案内人に見せる。
 記者A「これです」
 案内人「……なるほど。分りました。報告しておきます。ありがとうございます」
   案内人が携帯電話を取り出し、操作しながら部屋を去る。しばらくして、放送が入り、大画面ディスプレイのある部屋に集合する指示が出る。記者たちは部屋を去る。

○帰りの船、大画面ディスプレイのある部屋
   記者が数十人集まっている。大画面ディスプレイの前に案内人が立っている。
 案内人「皆様、わざわざ集まっていただいてすみません。今から宇宙旅行協会会長のメッセージをご覧ください」

○大画面ディスプレイの映像
   会長の上半身が映っている。
 会長「皆様、取材お疲れ様でした。遠くから来ていただいた方も多いと思いますが、ケーブル受入の瞬間をそばで見ていただきたくて招待いたしました。ただ、このケーブルが本当に宇宙につながっていることを分かっていただくのは」
 案内人(音声のみ)「会長」
 会長「はい」
 案内人「『宣言』の『抗議』に対してコメントを欲しいという要望が来ているのですが」
 会長「その件は今、準備中でして……あ、ちょっと待って……準備ができました。記者の方をヘリポートに案内してください」
 案内人「ヘリポート? ……分りました」

○帰りの船、ヘリポート
   ヘリコプターが止まっている。ヘリの前に大統領が立っている。記者たちと案内人が集まる。案内人がワイヤレスマイクを大統領に渡す。
 大統領「皆様、こんにちは。静止軌道宣言に『抗議』が来てしまいました。私は『抗議』を歓迎します。静止軌道の主権について議論して、より良い方法が見つかる手がかりになるからです。静止軌道宣言は未完成で、これから成長します。新しい秩序は合意を積み重ねて作っていく覚悟です。たとえ時間がかかっても、多くの国が認める条約を目指します」
   大統領はマイクを案内人に返し、記者一人ひとりと笑顔で握手する。記者も笑顔を返す。全員との握手が終わると大統領はヘリに乗り、ヘリが飛ぶ。上空でヘリのドアを開けて大統領が笑顔で手を振る。記者たちも笑顔で手を振る。



○作者コメント
 遺伝子、人工知能など、技術の進歩にルールが追いつかない場合があります。将来を見据えてルール修正を考えないと「毒をばらまいて、解毒剤を売る」商売とかが、できてしまいます。
 既に八話以降のために課金したユーザがいます。でも、ここは無課金利用できる……なんてできない……どうしましょうか……。
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