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入学編

ep24 理由

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 *

 授業でやらかしたことにより、俺はクラスで悪目立ちしてしまった。
 おかげでフェエルと仲良くなれたのは良かったけど、今後はできるだけ大人しくしようと思っていたんだ。
 思っていたんだけど......。

「ねえヤソみん。すっごい注目されているね」

「そ、そうだな」

「ジェットレディは今をときめくスター魔術師だからね」

 フェエルの言うとおり「学校を歩くスター魔術師」という非日常的な光景に生徒たちは騒然としていた。
 
「えっ?あれホンモノ?」
「なんでうちの学校にいるの?」
「そういえば今日、ジェットレディの肝入りの特待生が入学したらしいじゃん」
「じゃあ後ろの二人のどっちかがその特待生?」
「小さいほうの奴は前からいたと思うぞ」
「ということは黒髪のほうのアイツか」

 まるで何かのパレードのように人だかりの花道ができている。
 ヤバい。
 完全に悪目立ちだぞコレ!

「ちょっとリボルバーさん!」

 何人かの先生が慌てて俺たちの前に躍り出てきた。

「困りますよ!学校が混乱してしまいます!」

「ええ?なんでだよ?アタシはOGだぞ?」

「それはそうですが、今や貴女は有名人なんですから!」

「カワイイ後輩くんのために来たんだ。別にいーだろ?」

 ジェットレディは肩越しに俺たちへ向かってウインクした。
 もう諦めるしかないねという具合にフェエルが俺を見て微笑する。

「イメージどおりの人だね。ジェットレディは」

「せめてクラスの奴には見られていなければいいけど......」


 *


「寮に着いたぞ!ここも懐かしいな~!」

 ジェットレディに引率されて、俺たちはリュケイオン魔法学園の広大な敷地内にある寮の前に着いた。
 歴史感たっぷりの横長に大きい屋敷のような宿舎は、四階建ての立派な建物。
 所々にハチミツ色の「ハニーストーン」がほどこされた外観は上質なおもむきを演出している。

「どうだ?なかなかステキだろ?」

 ジェットレディがニカッと笑った。

「まっ、アタシがいたのはあっちの女子寮だけどな」

「素敵な寮ですね」

「だろだろ~?」

「あ、あの!」

 突然、フェエルが焦ったように口を挟んできた。
 その声には必死感がある。
 
「ジェットレディ...ジェットさんにおきしたいことがあるんですけど......あ、ぼくはフェエル・ポランと申します...」

「んん?なんだいなんだいフェエルくん?」

 ジェットレディとともに俺もフェエルをじっと見た。
 フェエルがジェットレディに訊きたいことってなんだ?
 妙に必死な感じもなんだろう?

「あの、その、ど、どうしても訊きたくて!」

 フェエルはまごつきながらも覚悟を決めたように切り出した。

「ヤソガミくんのことです!」

「ほう??」

「ジェットさんは、なぜヤソガミくんをリュケイオン魔法学園の特異クラスに斡旋あっせんしたんですか?それとも特異クラスに編入したのは学校の判断ですか?」

 その質問にハッとした。
 フェエルは、トッパーが俺に対して言ったことを気にしていたんだ。
 
"コイツは放ったかしといたら社会的にマズイからとりあえずリュケイオンの特異クラスに引き取った、てのがジェットレディと学園の本音じゃねえの?それがオマエだよ"

 たしかにあの言葉は気になっていた。
 でも、こんな快活お姉さんのジェットレディに限ってそんなことをするだろうか?
 
「ヤソガミくんを斡旋した理由ねぇ」

 うーんとジェットレディは考えこむ素振りを見せるが、すぐに何かを言いたげにニヤリとする。

「誰かになんか言われたのかな?」
 
「あっ、その、ええと...」

 図星を突かれたフェエルは、しどろもどろになりながらも負けずに言った。

「り、理由を教えてください!」

「わかったわかった。まずヤソガミくんを特異クラスに斡旋したのはアタシだ。それに理事長が同意したってわけだ。理由っていってもなぁ。将来のためになるってことじゃダメなのか?」

「そ、それはヤソガミくんの将来のためという意味ですか?」

「もちろんそうだ。でもそれだけじゃないぞ?リュケイオン魔法学園の将来のためでもあるし魔術師界の未来のためでもあるし、ひいては我が国オリエンスのためでもある」

 それはいくらなんでも大仰おおぎょうすぎる理由だった。
 しかしジェットレディに嘘や冗談を言っている様子は微塵みじんもない。
 たぶんこの人は、自らの判断と行動に絶対の自信を持っている。
 ということは......。

「納得はしてくれたかな?フェエルくん」

 フェエルが俺にチラッと視線を投げてきた。
 俺はこくんとうなずいて返しながら、そっと胸を撫で下ろした。
 すると、途端にフェエルはペこぺことジェットレディに恐縮して、
「あ、ありがとうございました。では、ぼくはこれで」
 遠慮するようにそそくさと本来の帰路へ去っていった。
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