しにかけの転生者~しにかけた中年はしにかけた青年に転生し異世界で魔剣使いになる~

根立真先

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魔剣使いの闘い~狂戦士編

ep137 かの男

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 *

「で、なんでいきなりこうなるんだ?」

「あたしに聞くな」

「しかもこれから朝になるんだぞ?」

「だからあたしに聞くな」

 俺は今、明け方の酒場にいる。
 もう閉まっていた店を、かの男が強引に開けさせたのだ。
 テーブルを挟んで向かいにどかっと座る男は、さも当たり前のようにグラスに口をつけている。

「オラどうした?テメーも飲め」

 飲めるわけがない。
 それは時間の問題じゃない。
 状況の問題だ。
 
「......早く話を済ませてシヒロを解放してもらう。こっちはわざわざあんたのことを待っていたんだ」

 俺は酒のグラスに触れもせず言った。

「いいから飲めっつったろ?大の男があせってんじゃねえ」

 男はこちらを見もせずに酒を飲みながら言った。

「......」

 俺が無言でにわかに立ち上がろうとすると、隣のアイに制止された。

「クロー。やめておけ」

「なんでだ?」

「まずはボスと話せと言ったろう」

「俺は話そうとしているだろ。なのにそっちのボスが...」

「おいおいオレは朝帰りで疲れてんだ。ゆっくり飲ませろよ。いいからテメーらも飲みやがれ」

 男は拍子抜けするぐらいの振る舞いだった。
 出会い方が違えば悪くない印象を持ったかもしれない。
 ただ、それでも底知れぬ迫力はぬぐえない。
 
「早く飲めよ。魔剣使い」
 
 男の態度と言葉に、俺は仕方なくグラスを口に運んだ。
 そのままゴクゴクと一気に飲み干してやった。

「これでいいか。さっさと話とやらをするぞ」

 空になったグラスをどんとテーブルに置いた。

「なかなかイイ飲みっぷりじゃねえか」

 男は面白そうにニヤけた。

「これぐらいはたいしたことない」

 強がりじゃない。事実だ。
 俺はこの世界にやってきて半年間の淫蕩いんとう生活を経て、かなりの量を飲めるようになっていた。
 くわえて〔魔導剣〕を手にし〔魔導剣士〕となってからは、さらに酒が強くなっていた。
 ひょっとしたら何かしらの耐性のようなモノを備えたのかもしれない。
 今ではおそらく、かなりの酒豪と呼べるレベルにまで達していると思われる。

「いいねぇ。んじゃオレも」

 男もグラスの酒をググッと一気に飲み干した。
 この男も酒豪なのか?

「オイ!オレとそいつの酒を十杯ずつ追加で持ってこい!」

 男が店主に向かって声を上げた。

「ちょっと待て。話をするんじゃないのか」

 俺はすかさず言った。
 当たり前だ。
 そのためにここに座っているんだから。

「話は飲んでからだ。男同士、そういうもんだろ?」

「なら、飲めばいいってことだな?」

「そういうことだ」

「......ここはどいつもこいつも酒飲みばっかなのは、ボスがそうだからなのか」

「ああ?うちの連中と飲んだのか?」

「まあな」

「ハッハッハ!おもしれーなテメー!」

「は?」

「敵地に乗り込んできてそこの連中と飲んだってこったろ?ハッハッハ!」

「メインは俺というよりツレだがな」

「ツレも中々おろしれーじゃねえか」

「あんたの知り合いもいるぞ」

「ああ?誰だ?」

「カレンだ。魔法剣士カレン」

「あのカレン嬢が来てんのか?」

 男はアイの顔を見た。
 彼女は「そうだ」と頷いた。

「ますますおろしれーなテメーは。よくあのおカタイお嬢を口説いたもんだ」

「別に彼女とは仲間ってわけじゃない。ただ色んな事情が重なってそうなっただけだ」

 やがて大量の酒がどかんと運ばれてくると、俺と男は競うように飲み始めた。
 どんどん空になるグラス。
 じゃんじゃん運ばれてくる酒。
 店の者たちは呆気にとられたように俺たちを眺めていた。
 だが俺もかの男もお構いなしにガンガン飲んでいく。

「キラースのヤローまで来てやがんのか!」

「俺もカレンもヤツをぶちのめしたくてたまらないがな!」

「アイ!お前も飲め!」

「あたしはいい」

 アイはひとり冷静だった。
 というより、呆れているのかもしれない。

「魔剣使い!いや、クロー!つくづく予想通りテメーはおろしれえ!」

「〔狂戦士バーサーカー〕、いや、ジェイズ。正直あんたのことはよくわからない!」

「ハッハッハァ!」

 そうして数時間後......。

 俺たちは二人で、店にあった残りの酒をすべて飲み干してしまった。
 いったい俺はこんな時に敵と何をやっているんだ?馬鹿なのか?

「酒がなくなっちまったんならしょーがねえ。おひらきだ」

 ジェイズが仕方なさそうに言った。

「結局ハナシってのはなんだったんだ」

「わからねえ」

「はぁぁ?」

「ふぁ~...さすがにねみいな。おいオヤジ!上で寝かせろ!」

 ジェイズが店主に向かって声を張り上げた。
 俺もだが、さすがに彼も酔っていた。

「しかしボス!あなたにはもっと良い寝床があるでしょうに!」

 店主のオヤジはおろおろと困ったように答えた。

「戻んのがめんどくせえ!」

 ジェイズはダルそうに立ち上がって問答無用にズカズカと店の奥に進んでいった。
 俺はヤツの背中をボンヤリと目で追ってから、ぐでっとテーブルに覆いかぶさった。
 そのまま気を失うように眠りに落ちた。
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