守らせて、俺の全てで

ゆきの(リンドウ)

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勇太と陽、それから海

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「行ってきます!」
「は~い…行ってらっしゃい…」
「相変わらず、起きてないね、勇太は」

 玄関先、時刻は朝の七時四十五分。子どもらしく、元気よく海が挨拶をする傍ら、今日もスーツをびしっと決め陽が呆れながら言った。
 海は五歳、現在、保育園の中くらいの組さんだ。この言い方は海本人がそう呼んでいるため、勇太も陽も自然とそう呼ぶようになった。

 一方、陽は会社員だ。営業を担当しているそうで、それを聞いた時は陽にぴったりだと思った。
 自宅から保育園までと陽の会社は近く、自転車で十五分だ。始業開始の八時半に間に合うように、二人はいつもこの時間に家を出る。

「ちゃんとご飯、食べるんだよ?」
「わかってるよ」
「食べるんだよ?」
「海まで言うとはな。わかってる、食べるよ」

 いつもの朝の光景だ。陽は結構、過保護だ。けれど、そうさせたのは他でもない勇太自身のため、海が陽の真似をしても言い返せない。

「じゃあ、行くね。ちゃんと」
「ほら、遅れるぞ?」
「はいはい、じゃあ今度こそ行ってきます」

 陽が意味ありげな視線を送る。勇太はその視線の意味を知っている。

 勇太は鬱なのだ。

 といっても、仕事はしている。今は在宅のウェブデザイナーをしている。それまでは陽と同じように安全で安心な篭の外で働いていた。

 以前の勇太の仕事は、会社員で主に商品の企画を担当していた。今でこそ、ガリガリでしかも背は高く、おまけに猫背のため、ひょろっと見えるが、こうなる前はそれなりに筋肉もついており、髪の毛もビジネスマンらしく、爽やかにセットされていた。
 いかにも出来る風な印象だっただろう。それらしく見せるため、陽に相談したこともあった。

 大学を卒業して入社した会社は、いわゆる大手の会社で、一つの箱に人が溢れかえっているような社内だった。
 こう言うと八割は反感を抱かれるが、勇太は正直、この会社に固執してはいなかった。というより、就職自体に強い執着や焦り、羨望がなかったのだ。

 就職しないと、でも正直、どこでもいい。

 そう思ったのは、就活というものを始めてからわりとすぐで、思えば昔から何かに固執する性格ではなかったのだと思う。

 ただ、周りがちゃんとしてるから、自分もちゃんとしないと。

 特に恋人の影響は大きかった。大学で知り合い、恋人になった陽は、勇太と正反対に飛びぬけて明るい性格だった。

 ルックスも服装も、おまけに性格まで垢ぬけて陽気で、まるで陽の周りには名前の如く、小さな太陽が陽を照らし続けているような、そんな錯覚すらを感じさせる。それが陽という人。

 反対に勇太は根暗で、暗い。陽が太陽に照らされているのなら、勇太は土の中の太陽に照らされている。ルックスはただ、背が百八十センチと高いだけで、髪は目を覆い隠すように長く、そして高校の頃から使っているリュックが根暗感を増長させていた。

 何もかもが正反対。今でも勇太は、どうしてそんな自分たちが恋人になったのだろうと、首を傾げずにはいられない。
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