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勇太と陽、それから海
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恋人になったのは、大学三年の頃だった。言い出したのはやはり、陽。
『良かったら俺と恋人になってくれない?』
最初は揶揄われているのだと思った。まさか、自分みたいな根暗と付き合いたいだなんて、しかも陽と話したのは偶然被ったゼミのみで、それも数回だけだった。なのに、どうしてと、正直、そう思わない人がいるのだろうか。
一回目は誰かと勘違いしていないかと言った。しかし、二回目、三回目と陽は変わらずに勇太に告白してきた。もう、勘違いなどではないと悟った。
『俺なんかのどこがいいの?』
『なんかなんて、言うなよ。俺は磯貝の真面目で、優しいところが好きだよ』
そんなふうに言われたことなどなかった。いつも、勇太を表す言葉は、根暗、気持ち悪い、近づくな、その言葉だけだった。
多分、絆されていた。言われるまで好きだと一回も思わなかった。なのに、気付けば、
『俺なんかで良ければ』
そう、返事をしていたのだ。人間とは単純な生き物だ。
就活の四年生になっても、陽は変わらなかった。むしろ、働けることにワクワクしていた。
『やっと社会人の一員になれると思うと、なんかこう、興奮するよな』
『うん、そうだね…』
就職が決まっても勇太はそうは思わない、むしろ憂鬱だとは言い出せなかった。
言ってしまえば、陽に嫌われるかもしれない。もうその頃には、勇太も陽を好きになっていた。
鬱になるまで、そう時間はかからなかった。大手と言うと、ホワイト企業だと想像していたが、実はそれは全体像で、勇太の勤める部署はほぼブラックな環境だった。
残業は当たり前、企画書を作れと言われ作っても何回も没にされ、理由もわからぬままただ怒られ、怒鳴られ。家に帰るのはみんなが寝静まる頃、気が付いたら太陽が顔を出している。
その頃はまだ、陽と同棲はしておらず、けれど週末の度に会っていたため、陽は酷く心配してくれていた。
『顔色悪すぎる』
『ご飯作って持ってきたから食べよ?』
『ほら、部屋の空気も入れ替えよう』
まるで母親のように、世話をしてくれていた。きっと、陽の存在がなかったら、狭い1DKの部屋で孤独死していたかもしれない。
退職を決意したのは、職場で呼吸困難になったことがきっかけだった。過換気症候群、いわゆる過呼吸になった。
思ったよりも症状が酷く、当時、心配してくれていた上司が病院に付き添ってくれた。ストレスですね、と医者に言われ、もう潮時かと思った。
けれど、退職したとしても次の職のあてなどない。勤めてまだ一年。経歴にもキャリアにもならない。
就職に固執していないとしても、何か職を見つけなければ生きてはいけない。光熱費、家賃、水道代、電気代、食費。施設を出て一人暮らしをしていたため、そのくらいの常識はある。
バイト、と頭を過る。大学時代、いくつかバイトをした。飲食店、居酒屋、本屋。どれも、酷く怒られることはなかったが、自分でも要領が悪いことは自覚していた。
社会不適合者、烙印を押されたような気持になった。
それならこのまま、鬼のような上司の元で頑張るしかない。せっかく、陽にも協力してもらって、人並みになれたのだから、せめてやめることだけはやめよう。
そう決意した日の夜、陽が部屋を訪れた。その日は平日の真ん中で、陽が来る日ではない。
『俺たち、一緒に住まない?で、勇太は仕事辞めて?』
瞬間、何を言っているのだ、こいつは。そう思った。一緒に住むことは頭の片隅でほんの少しだけ考えたことがあるにしろ、仕事を辞めてとは一体どういうことだ。
『何、言ってんだよ。辞められるわけね―じゃん』
『生活費なら俺の稼ぎでなんとかなる。勇太に不自由させない。だから、辞めてくれ』
『だから、なんで陽がそれを決めるんだよ!』
『勇太を失いたくないからに決まってんだろ?!』
聞けば、陽は勇太の様子を見て、精神的に追い詰められていると思っていたそうで、自分でいろいろと調べていたそうなのだ。
そこで、鬱という言葉に出会った。勇太の症状とほぼ同じだったという。
『俺、勇太に死んでほしくない。生きてくれるためなら、何だってする』
『陽…』
『だからお願いだ、仕事、辞めてくれ。俺のために、勇太のために』
それから一か月後、勇太は退職届を出した。心配してくれた上司は、ほっとしたような顔を見せてくれた。
病院に受診すると、やはり、陽の言ったとおりに鬱だと診断された。早々にアパートとさよならをして、勇太は陽と同棲を始めた。
『良かったら俺と恋人になってくれない?』
最初は揶揄われているのだと思った。まさか、自分みたいな根暗と付き合いたいだなんて、しかも陽と話したのは偶然被ったゼミのみで、それも数回だけだった。なのに、どうしてと、正直、そう思わない人がいるのだろうか。
一回目は誰かと勘違いしていないかと言った。しかし、二回目、三回目と陽は変わらずに勇太に告白してきた。もう、勘違いなどではないと悟った。
『俺なんかのどこがいいの?』
『なんかなんて、言うなよ。俺は磯貝の真面目で、優しいところが好きだよ』
そんなふうに言われたことなどなかった。いつも、勇太を表す言葉は、根暗、気持ち悪い、近づくな、その言葉だけだった。
多分、絆されていた。言われるまで好きだと一回も思わなかった。なのに、気付けば、
『俺なんかで良ければ』
そう、返事をしていたのだ。人間とは単純な生き物だ。
就活の四年生になっても、陽は変わらなかった。むしろ、働けることにワクワクしていた。
『やっと社会人の一員になれると思うと、なんかこう、興奮するよな』
『うん、そうだね…』
就職が決まっても勇太はそうは思わない、むしろ憂鬱だとは言い出せなかった。
言ってしまえば、陽に嫌われるかもしれない。もうその頃には、勇太も陽を好きになっていた。
鬱になるまで、そう時間はかからなかった。大手と言うと、ホワイト企業だと想像していたが、実はそれは全体像で、勇太の勤める部署はほぼブラックな環境だった。
残業は当たり前、企画書を作れと言われ作っても何回も没にされ、理由もわからぬままただ怒られ、怒鳴られ。家に帰るのはみんなが寝静まる頃、気が付いたら太陽が顔を出している。
その頃はまだ、陽と同棲はしておらず、けれど週末の度に会っていたため、陽は酷く心配してくれていた。
『顔色悪すぎる』
『ご飯作って持ってきたから食べよ?』
『ほら、部屋の空気も入れ替えよう』
まるで母親のように、世話をしてくれていた。きっと、陽の存在がなかったら、狭い1DKの部屋で孤独死していたかもしれない。
退職を決意したのは、職場で呼吸困難になったことがきっかけだった。過換気症候群、いわゆる過呼吸になった。
思ったよりも症状が酷く、当時、心配してくれていた上司が病院に付き添ってくれた。ストレスですね、と医者に言われ、もう潮時かと思った。
けれど、退職したとしても次の職のあてなどない。勤めてまだ一年。経歴にもキャリアにもならない。
就職に固執していないとしても、何か職を見つけなければ生きてはいけない。光熱費、家賃、水道代、電気代、食費。施設を出て一人暮らしをしていたため、そのくらいの常識はある。
バイト、と頭を過る。大学時代、いくつかバイトをした。飲食店、居酒屋、本屋。どれも、酷く怒られることはなかったが、自分でも要領が悪いことは自覚していた。
社会不適合者、烙印を押されたような気持になった。
それならこのまま、鬼のような上司の元で頑張るしかない。せっかく、陽にも協力してもらって、人並みになれたのだから、せめてやめることだけはやめよう。
そう決意した日の夜、陽が部屋を訪れた。その日は平日の真ん中で、陽が来る日ではない。
『俺たち、一緒に住まない?で、勇太は仕事辞めて?』
瞬間、何を言っているのだ、こいつは。そう思った。一緒に住むことは頭の片隅でほんの少しだけ考えたことがあるにしろ、仕事を辞めてとは一体どういうことだ。
『何、言ってんだよ。辞められるわけね―じゃん』
『生活費なら俺の稼ぎでなんとかなる。勇太に不自由させない。だから、辞めてくれ』
『だから、なんで陽がそれを決めるんだよ!』
『勇太を失いたくないからに決まってんだろ?!』
聞けば、陽は勇太の様子を見て、精神的に追い詰められていると思っていたそうで、自分でいろいろと調べていたそうなのだ。
そこで、鬱という言葉に出会った。勇太の症状とほぼ同じだったという。
『俺、勇太に死んでほしくない。生きてくれるためなら、何だってする』
『陽…』
『だからお願いだ、仕事、辞めてくれ。俺のために、勇太のために』
それから一か月後、勇太は退職届を出した。心配してくれた上司は、ほっとしたような顔を見せてくれた。
病院に受診すると、やはり、陽の言ったとおりに鬱だと診断された。早々にアパートとさよならをして、勇太は陽と同棲を始めた。
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