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世界一の恋人、そして夫
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当時はお金のかかる習い事の他に、地域の人がボランティアとして来てくれるものもあった。海の母親、優里菜と一緒に絵画を習った。
『すごい、勇太!めっちゃうまいじゃん!』
優里菜は人を褒めることが得意だった。施設にいると、様々な事情の子どもがいる。親に虐待された子、親を亡くしてしまった子。一人では生きていけない子どもが集う。
中には、精神的に不安定な子どももいた。勇太も当初は、落ち着いているとは言えない精神状態だった。
けれど、優里菜は出会った頃から違った。優里菜は勇太の二つ上で、施設に入ったのは勇太より数年前だったという。
明るく、心の闇をかんじさせない、それが優里菜と会った時の印象だった。
もちろん、人気者だった。だから、優里菜に構われる勇太に嫉妬する子どももいた。
そんな時、優里菜は怒るわけでもなく、ただ、勇太を仲間に入れてくれた。
『おいで、勇太』
差し出された手は温かかった。握ると、思わず涙が出そうなほどに。
勇太がデッサンを好きになったのは、優里菜がいたおかげなのかもしれない。思い出すと途端に優里菜に会いたくなり、けれど会えない現実に悲しくなる。
せめて、絵で海を届けられたらいい。きっと、優里菜もどこかの空から見ているはずだ。
そんなことを考えていると、隣に座っていた陽がリュックから何かを取り出そうとする音が聞こえた。
(海と遊ぶのかな?)
普段、アクティブなことは陽に任せっきりだ。悪いと思いながらも、つい、アクティブな陽に任せてしまっている。
(たまには、俺も遊ぼうかな)
陽がリュックから出すアイテムに注目していると、陽が振り向いた。
「陽、俺もたまには一緒に遊ぶよ」
「はい、勇太」
「え?これって」
差し出されたものに、言葉を失った。陽から受け取ったもの、それは使い古された鉛筆とスケッチブック。
勇太がいつも、愛用しているものだった。
「どうして、陽がこれを?」
「勇太なら描きたいって思うかなってね?あれ、違った?」
ぶんぶん、首を横に振る。描きたいに決まってる。
「俺、勇太の描く絵が好きなんだよな。絵のこととかなんにもわからないけど、でも勇太の描く絵はなんかあったかい気がする」
「あったかい?」
「そう、無機質じゃなくて、なんていうんだろう。想いが籠ってるみたいなそんな感じ」
ニッと笑って言う陽の姿が滲む。雨は降っていない。ただ、勇太の前だけ雨が降っている。
もう、言葉が出なかった。何から言えばいいのかわからない。けれど、想いは溢れ出る。
陽はいつもそうなのだ。出会った時から今も、いつも勇太の心を簡単に奪っていく。
『俺、陽っていうんだ。磯貝くんだよね?よろしくな?』
たったそれだけの、誰にでも言うようなセリフ。なのに、勇太はとても嬉しかった。ただの言葉、けれどそこには陽の人柄がにじみ出ていたのだと思う。
嬉しいんだよ、陽。お前と出会えて、こうして今も一緒にいられることが、たまらなく嬉しいんだ―。
「あれ?勇太?俺、なんか余計な事言っちゃった?」
「…がう」
「ん?何?」
「違う。ただ、陽が好きだなって思っただけだ」
ニッと、出来る限りの笑顔で返す。陽に伝われ、そう思いながら。
「うわ~勇太…ちょっと、どこでそんなん覚えたの」
「は?」
「俺、今の笑顔で一生分の幸せ貰った気がする」
膝に押し込んだ顔が赤い。けれど、その顔は幸せそうで。
(やっぱり陽の言葉は魔法みたいだ)
名は人を体現する。しかし、その人から出る言葉もまた、その人を体現している。そう、思わずにはいられなかった。
二人して顔を赤らめていると、海が「陽!勇太!」と呼びながら、二人の元へ駆け寄って来た。
「二人とも、顔が真っ赤だよ?暑かったの?」
「そ、そうだよ?お日様も元気一杯みたいだね」
「そうなんだ。じゃあ、サッカーできない?」
「できる、できる!サッカー、やろう!」
小さな手で大きな手を引っ張り、太陽の下へ向かう。
勇太はスケッチブックを広げ、鉛筆を握った。
優里菜は見ているだろうか。見ているといいな。
鉛筆を走らせながら、勇太は輝く二人を見ていた。
『すごい、勇太!めっちゃうまいじゃん!』
優里菜は人を褒めることが得意だった。施設にいると、様々な事情の子どもがいる。親に虐待された子、親を亡くしてしまった子。一人では生きていけない子どもが集う。
中には、精神的に不安定な子どももいた。勇太も当初は、落ち着いているとは言えない精神状態だった。
けれど、優里菜は出会った頃から違った。優里菜は勇太の二つ上で、施設に入ったのは勇太より数年前だったという。
明るく、心の闇をかんじさせない、それが優里菜と会った時の印象だった。
もちろん、人気者だった。だから、優里菜に構われる勇太に嫉妬する子どももいた。
そんな時、優里菜は怒るわけでもなく、ただ、勇太を仲間に入れてくれた。
『おいで、勇太』
差し出された手は温かかった。握ると、思わず涙が出そうなほどに。
勇太がデッサンを好きになったのは、優里菜がいたおかげなのかもしれない。思い出すと途端に優里菜に会いたくなり、けれど会えない現実に悲しくなる。
せめて、絵で海を届けられたらいい。きっと、優里菜もどこかの空から見ているはずだ。
そんなことを考えていると、隣に座っていた陽がリュックから何かを取り出そうとする音が聞こえた。
(海と遊ぶのかな?)
普段、アクティブなことは陽に任せっきりだ。悪いと思いながらも、つい、アクティブな陽に任せてしまっている。
(たまには、俺も遊ぼうかな)
陽がリュックから出すアイテムに注目していると、陽が振り向いた。
「陽、俺もたまには一緒に遊ぶよ」
「はい、勇太」
「え?これって」
差し出されたものに、言葉を失った。陽から受け取ったもの、それは使い古された鉛筆とスケッチブック。
勇太がいつも、愛用しているものだった。
「どうして、陽がこれを?」
「勇太なら描きたいって思うかなってね?あれ、違った?」
ぶんぶん、首を横に振る。描きたいに決まってる。
「俺、勇太の描く絵が好きなんだよな。絵のこととかなんにもわからないけど、でも勇太の描く絵はなんかあったかい気がする」
「あったかい?」
「そう、無機質じゃなくて、なんていうんだろう。想いが籠ってるみたいなそんな感じ」
ニッと笑って言う陽の姿が滲む。雨は降っていない。ただ、勇太の前だけ雨が降っている。
もう、言葉が出なかった。何から言えばいいのかわからない。けれど、想いは溢れ出る。
陽はいつもそうなのだ。出会った時から今も、いつも勇太の心を簡単に奪っていく。
『俺、陽っていうんだ。磯貝くんだよね?よろしくな?』
たったそれだけの、誰にでも言うようなセリフ。なのに、勇太はとても嬉しかった。ただの言葉、けれどそこには陽の人柄がにじみ出ていたのだと思う。
嬉しいんだよ、陽。お前と出会えて、こうして今も一緒にいられることが、たまらなく嬉しいんだ―。
「あれ?勇太?俺、なんか余計な事言っちゃった?」
「…がう」
「ん?何?」
「違う。ただ、陽が好きだなって思っただけだ」
ニッと、出来る限りの笑顔で返す。陽に伝われ、そう思いながら。
「うわ~勇太…ちょっと、どこでそんなん覚えたの」
「は?」
「俺、今の笑顔で一生分の幸せ貰った気がする」
膝に押し込んだ顔が赤い。けれど、その顔は幸せそうで。
(やっぱり陽の言葉は魔法みたいだ)
名は人を体現する。しかし、その人から出る言葉もまた、その人を体現している。そう、思わずにはいられなかった。
二人して顔を赤らめていると、海が「陽!勇太!」と呼びながら、二人の元へ駆け寄って来た。
「二人とも、顔が真っ赤だよ?暑かったの?」
「そ、そうだよ?お日様も元気一杯みたいだね」
「そうなんだ。じゃあ、サッカーできない?」
「できる、できる!サッカー、やろう!」
小さな手で大きな手を引っ張り、太陽の下へ向かう。
勇太はスケッチブックを広げ、鉛筆を握った。
優里菜は見ているだろうか。見ているといいな。
鉛筆を走らせながら、勇太は輝く二人を見ていた。
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