守らせて、俺の全てで

ゆきの(リンドウ)

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世界一の恋人、そして夫

(6)

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「寝た?」
「寝た。ぐっすりだ」

 時刻は二十時。二人にしては広いリビングのソファに座る陽が勇太に問いかける。
 海の寝室の扉は開いている。海がぐずった時、すぐに行けるようにしているためだ。

「やっぱり、疲れたのかな?」
「疲れただろ、あんなにはしゃいで」
「だよな、でも楽しそうにしてくれて良かった」
 陽が言い、勇太も同意した。海は今日一日、とても楽しそうだったのだ。それに、海の夢も聞けた。

 あれから、陽と海、二人でサッカーをしていると、通りがかりの男性が声を掛けてくれた。
 聞けば、サッカーの講師をしているそうで、海のことをサッカー教室に誘ってくれた。

『でも、僕…』
『どうした?海』
 もじもじと決められない。海はアクティブだが、決断力に欠ける性格をしている。
 (俺たちに遠慮してるんだろうな)
 本当の親じゃないと、そんな時、痛感させられる。勇太はスケッチブックを置き、海のそばに向かった。

『海、いいんだよ』
『勇太』
『海がしたいことしてくれたら、俺も陽も嬉しいんだ。だから、言っていいんだよ?』
 そう言うと、海は目をキラキラさせて『本当はね、ずっとやってみたかったんだ』と教えてくれたのだ。

 子どもの夢が嬉しいだなんて、以前の勇太なら考えられないことだ。自分まで成長させられているな、と感慨深く思っていると、いつの間に席を立ったのか、陽が「はい」と言いながらグラスをくれる。

「これ、ワイン?」
「そう、勇太好きだろ?」
「けど、アルコール飲んだら、海になんかあった時、大変だろ?」
「大丈夫、俺のはただの葡萄ジュースだから」

 いざとなったらタクシーで行けばいいのだが、そういうところが陽だ。それに、勇太が好きなワインを今日、このタイミングで出すとは、相変わらず惚れさせてくれる。

「乾杯?」
「おう、乾杯」
 カチン、とグラスを控えめに合わせた。

 それからしばらく、話題は海のことだった。陽も海の夢を聞けて、興奮しているようだ。

「海が将来、サッカー選手になったら俺、どこまででも応援に行っちゃうな」
「どこまででもって、ブラジルでも?」
「もちろん」
「おいおい、親バカかよ。仕事はどうすんだよ」
 言うと、有給取ればいいと言う陽に、本気で親バカだと思う。

「そういう勇太だって、親バカでしょ?」
「なんだよ」
「これ、見ちゃったんだ」
 いつの間に持ってきたのか、スケッチブックを見せられる。しかも、そこには今日描いた二人の絵が。

「バカ、お前!人に見せるもんじゃねーんだよ」
「ええ?そうなの?いいじゃん、見せてくれたって」
「こういうのは、一人で見るためのもんなんだよ」
 もう見ちゃったもんね~と言われ、思わず毒気が抜ける。

 返せよ、と陽が高々に上げたスケッチブックを取り返そうとした。が、陽の身長は百八十六センチと大きく、勇太の身長は百七十センチと差がある。
 酔っていたといっても、まだ一杯しか飲んでいない。めったに外に出ないのに、日光に当たったせいで疲れていたのだろう。
 既に酔いが回り、足元はおぼつかない。ふらつきかけた瞬間、陽の厚い胸板に抱き留められた。

「…酔った?勇太」
「…酔ってねーよ」
 なんとなく、甘い雰囲気が流れる。ドクドク、心臓に送られる血液の音が聞こえる。
 ぎゅっと抱きしめられた。チラッと残った理性で寝室を見ると、すやすやと眠る海の姿が見え、ほっとする。

「ねえ、勇太。いい?」
「聞くなよ、いちいち」
「ごめんね?聞いちゃった」
 ぎゅっと抱きしめられる。熱い。思った瞬間、頬を大きな掌が包む。

 口づけが降ってくる。

 葡萄の味が、交ざり合う。

「寝室、行く?」
 問われ、コクンと頷いた。その意味はもう、知っている。
 優しく手を取られ、すると流れるように腰を抱かれた。

 (くそ、何から何まで最高かよ)

 彼氏としても、パパとしても、最高すぎる恋人を、勇太は少しだけ恨めしく思った。
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