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俺の彼氏へ、バレンタイン
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『一週間以内に好みを聞きなさい』
言われた通り、雪は考えていた。どうすれば、姉の言う通りに榊の好みを聞き出せるだろう。
姉は榊の友人に当たれと言った。となると、男子よりも女子の方が多くなる。
普段、教室にいる榊を思い出す。その周りには女子がいて、たしかその中には吉井や斉藤がいた。
雪自身、女子とは適度に話す方だ。けれど、あまり積極的に話そうとは思わない。吉井は穏やかな雰囲気で話しやすそうではあるが、今までの接点がない。斉藤は―。
やはり、斉藤しかいない。斉藤とは、中学の頃からラグビー部のマネージャーとして仲良くしており、今はマネージャーではなく、どうやら漫画研究会に属しているらしいが、それでもそれなりに話す仲ではある。
もう、斉藤しかいなかった。
「おはよ、雪」
そんな最中の登校日、ちょうど声を掛けられ、振り向くと斉藤がいた。
「おお、はよ」
「なに?なんか様子変だけど。悩み事?」
「ん~っていうか、相談事?」
濁しながら言うと、斉藤が訝しそうに雪を見る。
「え、ちょっと待って、雪が?何それ、珍しすぎる」
「だ、だよな?俺も実は、そう思ってた、んだけどさ」
「え、なに。もしかしてマジなやつ?」
いつもならきっと、そこで引いていた。そうそう、とか言いながら、出かけた言葉を引っ込めていた。
陽気、明るい=悩みごとなんてない。そうやって生きてきたツケなのか、雪が深刻な顔をしていても誰も、真剣に請け合うことはしてくれなかった。
といっても、雪自身、そこまで深刻になるほどの悩みはない。せいぜい、あると言ってもテストの成績が思いのほか良くなかったとか、姉と喧嘩したとか、その程度のことでいずれも自分で解決できるようなことばかりだ。
けれど、今回は引けなかった。引けないとなると、今度は引かない方法がわからず、雪には珍しく口籠ってしまったのだが。
歩きながら、歩調が自然とゆっくりとなり、生徒玄関の手前で足が止まる。
「斉藤?」
「…そっか、わかった。私で力になれるなら、相談、乗らせて?」
そう言った斉藤の顔が、斉藤らしくない気がして少しだけ、返事が遅れてしまった。
その日の放課後。部活がある雪を待ってると言ってくれたため、雪はラグビー終了後の十八時、片付けを終えたその足で斉藤の待つ教室へと足を走らせていた。一年生が片づけをすることが部のルールのため、仕方ないのだが、今日ばかりは人を待たせていると思うと練習後の重い足が少々、恨めしい。
雪のクラスは一年C組。二階の廊下を登り、右手に曲がった三つ目の教室だ。
急いで教室に向かうと、窓側の席に座り、校庭を眺めている女子の姿が目に映った。
長い髪を頭の高い位置に結んだその後ろ姿は、朝と変わらない斉藤の姿だ。
「ごめん斉藤、待たせた」
慌てて言うと、斉藤は「全然?たまには放課後の教室もいいね」と言って笑っていた。
結局、帰り道が同じ方角だったこともあり、また、二月とはいえ日はまだ短く、既に暗い夜道を女子一人で歩かせるわけにはいかないと、肝心の相談は帰りの道中で歩きながらすることになった。
言われた通り、雪は考えていた。どうすれば、姉の言う通りに榊の好みを聞き出せるだろう。
姉は榊の友人に当たれと言った。となると、男子よりも女子の方が多くなる。
普段、教室にいる榊を思い出す。その周りには女子がいて、たしかその中には吉井や斉藤がいた。
雪自身、女子とは適度に話す方だ。けれど、あまり積極的に話そうとは思わない。吉井は穏やかな雰囲気で話しやすそうではあるが、今までの接点がない。斉藤は―。
やはり、斉藤しかいない。斉藤とは、中学の頃からラグビー部のマネージャーとして仲良くしており、今はマネージャーではなく、どうやら漫画研究会に属しているらしいが、それでもそれなりに話す仲ではある。
もう、斉藤しかいなかった。
「おはよ、雪」
そんな最中の登校日、ちょうど声を掛けられ、振り向くと斉藤がいた。
「おお、はよ」
「なに?なんか様子変だけど。悩み事?」
「ん~っていうか、相談事?」
濁しながら言うと、斉藤が訝しそうに雪を見る。
「え、ちょっと待って、雪が?何それ、珍しすぎる」
「だ、だよな?俺も実は、そう思ってた、んだけどさ」
「え、なに。もしかしてマジなやつ?」
いつもならきっと、そこで引いていた。そうそう、とか言いながら、出かけた言葉を引っ込めていた。
陽気、明るい=悩みごとなんてない。そうやって生きてきたツケなのか、雪が深刻な顔をしていても誰も、真剣に請け合うことはしてくれなかった。
といっても、雪自身、そこまで深刻になるほどの悩みはない。せいぜい、あると言ってもテストの成績が思いのほか良くなかったとか、姉と喧嘩したとか、その程度のことでいずれも自分で解決できるようなことばかりだ。
けれど、今回は引けなかった。引けないとなると、今度は引かない方法がわからず、雪には珍しく口籠ってしまったのだが。
歩きながら、歩調が自然とゆっくりとなり、生徒玄関の手前で足が止まる。
「斉藤?」
「…そっか、わかった。私で力になれるなら、相談、乗らせて?」
そう言った斉藤の顔が、斉藤らしくない気がして少しだけ、返事が遅れてしまった。
その日の放課後。部活がある雪を待ってると言ってくれたため、雪はラグビー終了後の十八時、片付けを終えたその足で斉藤の待つ教室へと足を走らせていた。一年生が片づけをすることが部のルールのため、仕方ないのだが、今日ばかりは人を待たせていると思うと練習後の重い足が少々、恨めしい。
雪のクラスは一年C組。二階の廊下を登り、右手に曲がった三つ目の教室だ。
急いで教室に向かうと、窓側の席に座り、校庭を眺めている女子の姿が目に映った。
長い髪を頭の高い位置に結んだその後ろ姿は、朝と変わらない斉藤の姿だ。
「ごめん斉藤、待たせた」
慌てて言うと、斉藤は「全然?たまには放課後の教室もいいね」と言って笑っていた。
結局、帰り道が同じ方角だったこともあり、また、二月とはいえ日はまだ短く、既に暗い夜道を女子一人で歩かせるわけにはいかないと、肝心の相談は帰りの道中で歩きながらすることになった。
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