三日月の竜騎士

八魔刀

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第1章 入学編

第4話

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 案内された場所は王都の端っこに位置する所だった。
 家自体は何の変哲も無い、二階建ての一軒家だった。
 古くもなくでも豪華でもなく、一般的な家だが、敢えて特筆するなら敷地を囲む巨大な塀だ。
 鉄製であり更に魔力も帯びている事から、何かしらに備えての安全策なのだろう。
 より正確に言うなら、此処は住居ではなく牢獄なのだろう。
 半人半竜を隔離する場所だ。その証拠に、塀の門には2人の騎士が配備されていた。
 案内人によって開けられた家に入り、担いできた荷物をリビングに置いた。
 中も綺麗で、王都の様式美に沿った作りになっている。
 色々見慣れない設備もあり、使い熟すまでには時間が掛かりそうだ。

「では、私は此処で失礼します」
「ああ、ありがとうございます」
「学校の制服はクローゼットにあります。学校には既に話を通しているので、明日からお願いします」
「――あ、明日!?」

 案内人から告げられた事実にレギアスは目玉を飛び出させる。
 案内人は淡々と説明するように話を続ける。

「入学式は一週間前に終わっていますが問題ありません」
「は、はぁ……」
「ご安心下さい。騎士学校は16歳から入学可能なだけで、過去に20代で一年生という事例もあります」
「あ、一年生なんだ、俺……」
「現に貴方以外にも18歳で入学している者がおります。彼もワケありですが」

 自分以外にもワケありの人間がいることに、ちょっとした安心感を得たレギアスだった。
 確かに周りが全員年下という環境は、少し居心地が悪い。1人でも同い年の生徒がいるのなら、是非とも仲良くしたいとレギアスは思う。

「それでは……。くれぐれも、我が王の信頼を裏切らないで下さいね」

 案内人は鋭い眼光でそう言うと、家から出て行くのだった。
 1人になったレギアスはもう一度家の中を眺めてから、家の中を歩き回る。
 寝室を見付けると、此処に来るまでに溜まり込んだ疲労が一気に襲ってきた。
 ベッドに身体を放り投げると、すぐに睡魔が来る。

「……これから大変だなぁ……」

 瞼を閉じると、すぐに眠りに落ちた。



 どのような環境の変化が来ようとも、レギアスの起床時間は変わらない。
 日が昇り始めてすぐに起床し、トレーニングを開始する。
 この身体になってからトレーニングをしていなかったなと思い出した。
 いざ始めて見ると、全くトレーニングをした気にならなかった。
 確かに肉体は活性して以前よりは逞しくなっている。だが此処までになると今までのメニューでは意味が無い。何かしらの方法を考えるべきかと、今日はすぐに切り上げた。
 そう言えば、今日から学校生活が始まる。まだ何の準備もしていなかったと思い出して大慌てで準備を始める。王都に来る道中で入学案内書は読んでいたが、制服や学校に行ってから何をすればいいのかまでは確認していなかった。
 急いでシャワーで汗を流し、身嗜みを整え、制服に袖を通す。
 制服は黒のブレザータイプで、赤いネクタイを着ける。
 どうやって身体のサイズを知り得たのか、完璧にフィットしていた。
 教材も用意されており、革製の鞄に放り込んで準備を終わらせる。
 朝食を準備しようとキッチンに立つが、そのキッチンシステムが最新設備であり、今まで見たことも無かったレギアスは使い方が分からず手子摺ってしまう。食材は予め少しだけ用意されており、買い出しに行く手間が省けたのは幸いだった。
 悪戦苦闘の末、何とか作れた朝食を食べ終えた頃には家を出る時間になってしまった。

「やっべ!?」

 慌てて家を出て、騎士学校へと向かう。
 だが此処で問題が発生した。
 案内書には目を通したが、通した項目には騎士学校の場所は記されていなかった。
 完全に見落としていた。改めて確認しようと鞄の中を漁るが、不運なことに案内書を入れ忘れていた。
 普段は犯さないミスにレギアスは思わず舌打ちしてしまう。
 仕方なく、朝の王都を行き交う人達に学校の場所を訪ねる。
 幸いな事に尋ねた人は親切な方で、分かり易く教えてくれた。
 教えてくれた場所はランバルト城のすぐ近くで、ランバルト城よりも城らしい古城の外見をしていると言う。
 城の近くと言うことは、少しだけ時間が掛かる。念の為に早い時間に出たが、それでも少し足りないかもしれない。
 どうしようかと悩んだ末、道を大幅にショートカットする事にした。
 具体的には、建物の屋根を飛んで行く事だ。
 王都の建物は高い建物が多い。その屋根に純粋な身体能力で飛び乗り、学校の方角に向かって屋根から屋根へと移り跳んでいく。
 遠目に古城らしき建物が見え、それが騎士学校であると分かる。
 まさか登校初日に、とんだ通学方法を取ることになったものだと苦笑する。
 騎士学校に到着し、受付を経由して担当クラスの教師と顔合わせする。
 教員室の応接間に通され、向かいに座る教師から挨拶をされる。

「お前さんのクラスを担当するエルド・ヴィンセントだ。お前さんの事は陛下から聞いてる。ま、色々と大変な立場だな」

 エルドと名乗った、くすんだ金髪の男性教師は葉巻に火を点け、煙を吐き出す。
 第一印象は草臥れた感じがするおっさんだった。
 エルドが葉巻を持った手を一振りすると、応接間のブラインドカーテンが独りでに落ち、外からの干渉を妨げた。

「お前さんの事情は明かせない。此処ではタダの一般学生として振る舞え」
「分かりました」
「教師陣は事実を知っているからいつもお前を監視している。ま、少し息苦しいだろうが普通に学生生活を送ってくれ。お前さんが半人半竜だろうと、歳的には青春を謳歌するべきガキだ。勉学に励むのも良し、剣に魂を捧げるのも良し、男女の秘め事に熱を注ぐのも良し。ガキを拵えなければ何でも良いさ」

 最後のは兎も角、エルドは随分と寛大な器を持つ教師のようだ。
 悪く言えば、放置気味だ。

「さて、お前さんのクラスは一組だ。時間も時間だから行くとしよう」
「はい」

 教員室から出て廊下を歩き進む。
 外見は古城だが、中はそれなりに最新設備に整えられていた。
 廊下を歩いてる時、エルドが思い出したように言う。

「そうそう、一組には第二王女がいらっしゃる。くれぐれも粗相の無いようにな」
「第二王女? って事はべールの妹か?」
「何だ? ベール殿下の事を知ってるのか?」
「あ、いや……その、まぁ……」

 もしかしたら忘れられているかもしれないが、と嫌な可能性が頭を過る。
 エルドは葉巻を吹かしたまま「そうか」と興味をあまり示さず、目的のクラスへと辿り着く。
 ところでその葉巻はそのままで良いのだろうか。校内で喫煙もそうだが、生徒の前で吸うのは如何なモノか。

「おーい、席に着けぇ」

 エルドと一緒に教室に入ると、教室中の視線を一身に受ける。
 あまり注目される機会が無かったレギアスは、変な緊張感を持ってしまう。

「さて、今日から遅れて新入生が来る。ほら、自己紹介」

 教壇に立たされたレギアスはジッと見つめてくるクラスメイト達からのプレッシャーにゴクリと喉を鳴らす。

「えー……本日付で入学しました、レギアス・ファルディアです。歳は18で皆より2つ上だけど、仲良くしてくれると助かります」

 挨拶をするとクラスメイト達はざわざわと騒ぎ出す。
 何か悪口でも言われているのだろうかと心配になるが、聞こえてくる言葉からそう言う訳では無さそうだ。

「んじゃ、席は決まってないから好きな所に座りな」

 エルドは投げやりにそう言うが、何処に座れば良いのか分からない。
 長机が階段のように何列も並んでいるが、殆どが仲良しグループを作って座っている。
 そこに新参者が入れるわけもなく困っていると、後ろの方で大きく手を振っている男がいた。
 屈強で大きな身体を持つ彼は、茶髪をオールバックにかき上げている緑目の生徒だ。
 どうやら隣に座れと言っているようで、お言葉に甘えてその隣に座った。

「よっ、俺はオルガってんだ。よろしくな」
「ああ、レギアスだ。こちらこそ、よろしく」
「俺も18だ。年上同士、仲良くしようぜ」

 どうやら彼が訳ありの生徒のようだ。差し出された手を握り、固い握手を交わす。
 仲良くしたと思っていた人物と早速交流を持てて、幸先の良い学校生活をスタートさせたレギアスだった。


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