三日月の竜騎士

八魔刀

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第2章 竜剣編

第13話

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「……へぇ?」
「っく……!」

 鮮血はリーヴィエルのものだった。両手に魔力で形成した白い光の槍で、クレイセリアが突き放った紅い槍を逸らしていた。だが逸らすのが遅れたのか、脇腹を槍で引き裂かれていた。

「リーヴィエル!? くそっ!」

 庇われたアナトがリーヴィエルの脇からガンブレイドを伸ばし、クレイセリアに向けてトリガーを引く。剣身から魔力が放たれ、爆発が起こる。
 クレイセリアは後ろへと飛び退き、爆風を槍で斬り裂いて攻撃をかわす。

「ふぅん……」

 乱れた髪を整え、砂埃で汚れた服を手で払ったクレイセリアは何かを確かめるように笑う。
 リーヴィエルは斬り裂かれた脇腹を押さえ、治癒魔法を施すが傷口が再生しない事に驚く。

「ざ~んねん。さっきの攻撃に不治の呪いを付けたから。いくら竜騎士でも治らないでしょう?」
「不治の呪い……? そんな高等呪法をどうして……!」
「ん~どうしてでしょう?」

 クレイセリアは子供の様に笑い、それから狂気を感じた。
 アナトは負傷したリーヴィエルの前に出ようとするが、リーヴィエルはそれを制止して後ろに下がらせる。負傷してようと、竜騎士としての勤めを果たそうとしているのだ。

「貴女は竜騎士の中でも魔法士として優れてるって聞いてたけど、近接戦もイケるのね?」
「そうでなければ竜騎士は務まりませんから……!」
「ふ~ん……でもその傷じゃあ満足に動けないでしょ?」
「……竜騎士を侮らないでください。この称号は、たかが腹が割けた程度で戦えない者に渡されるモノではない」

 リーヴィエルは装飾品を光らせ、魔力の球体を幾つも周囲に展開させる。
 アナトとオルガも得物を構え、クレイセリアと対峙する。
 それに対してクレイセリアは紅い槍をくるくると回し、無邪気そうな顔で考えに耽る。
 アナトはクレイセリアに問い掛ける。

「お前、何が目的だ? 列車に残った騎士達はどうした?」
「目的は教えられないかな~。列車に残った騎士達はある程度殺してきてデーマンの餌にしてきたよ。あ、でもそこの竜騎士さんに免じて一つだけ教えてあげる」

 紅い槍から紅い魔力が漂い、クレイセリアの身体からも紅い魔力が溢れ出す。その魔力は到底人間のソレとは思えない禍々しさを放っていた。

「私は【魔女の一族】、その最後の生き残りよ」
「【魔女】!? 滅んでいなかったのですか!?」
「【魔女】って、アレだよな……?」
「ああ……ドラゴン側についた最初の人間、そしてドラゴンの魔力と魔法をその身に宿す一族だ。だが魔女はもう千年以上も前に滅んでいる筈だ」
「それが生き残ってたんだよね~。私一人になっちゃったけど、力は健在だよ。ところで、レギアスともう一人の王女様の姿が見えないけど?」
「それを貴女に教えるとでも?」

 クレイセリアはニコリと笑い、槍をリーヴィエルに向ける。その矛先から純粋な魔力による砲撃を放つ。リーヴィエルは障壁でその砲撃を上に反らし、展開していた球体で反撃する。
 球体は弾丸のようにクレイセリアへ襲い掛かるが、彼女は槍を巧みに操って球体を叩き斬っていく。

「オルガ!」
「おう!」
「いけません! 殿下!」

 クレイセリアが球体の対処をしている隙を狙い、アナトとオルガがリーヴィエルの両脇から飛び出し、クレイセリアを挟み込むようにして攻撃を仕掛ける。

「魔女相手に考えも無しに近付いちゃ駄目よ」

 二人が気付いた時には既にクレイセリアの魔法は発動していた。クレイセリアを中心にして魔法陣が地面に描かれており、それは紅く発光する。最初にクレイセリアが槍をくるくると回していたのは、地面に魔法陣を描くためのブラフだったのだ。

 魔法陣から紅い電撃が激しく迸り、クレイセリアに近付いていた二人は電撃に鞭打たれる。
 だが身体に直撃はしておらず、武器で防御することに成功していた。それでも電撃の威力は高く、二人は後ろに飛ばされ、オルガは車に背中を打ち付けてしまう。

「凄い凄い、よく電撃を防げたね――あら?」

 クレイセリアの前後左右に白い魔法陣が展開される。それらから炎が吐き出され、クレイセリアを呑み込む。炎は拡散する事はなく、クレイセリアを閉じ込める。
 だがそれはほんの僅かの事で、炎はクレイセリアの左手に全て吸収され、彼女の手の上で一つの球となる。

「お返し」

 その炎の玉を地面に叩き付けると、リーヴィエルの足下から炎が噴き出す。
 すぐさまその場から飛び上がり、上空から光の槍を雨のように降らせる。

「ほい」

 しかしクレイセリアが槍と自分の間の空間に穴を開け、そこに槍は吸い込まれる。
 そしてリーヴィエルの周囲の空間に同じような穴が開くと、吸い込まれた槍が吐き出される。
 その槍をリーヴィエルは周囲に魔法障壁を出して防ぐ。

「このくそ女ァ!」

 アナトは弾薬を炸裂させ、ガンブレイドの刀身から魔力を放出する。振り下ろしたガンブレイドから白銀の斬撃が、地面を走るようにしてクレイセリアに襲い掛かる。
 白銀の斬撃を紅い槍で振り払うが、土埃で視界が悪くなる。

「どっせぇぇい!」

 そのタイミングでオルガは車を持ち上げてクレイセリアに飛び掛かり、彼女が立っている場所に車を叩き付ける。
 しかしクレイセリアは槍に魔力を纏わせ、車を突き破って飛び上がる。当然、飛び上がった先にはオルガが待ち構えており、空中で槍と拳の攻防が繰り広げられる。

 オルガはクレイセリアの槍術に内心驚愕する。超近接戦闘の距離であるのにも関わらず、クレイセリアは槍を身体の一部のように自在に操り、遠心力を活用しながら不利な攻撃を凌いでいく。凌ぐだけではなく、凌ぎながらオルガの身体を矛先が撫でていく。

「近付けば勝てると思った? 残念、槍の扱いも得意なんだ」
「ぐっ――」

 ズパンッ!

 大きな音を立ててオルガは振り下ろされた紅い槍によって地面に叩き付けられる。
 オルガはすぐさま立ち上がり、クレイセリアからの追撃をかわす。
 地面に槍を突き刺した状態でクレイセリアは首を傾げる。

「おかしいな……さっきから槍で斬り裂いてる筈なんだけど、どうして傷付いてないのかな?」

 クレイセリアの言う通り、オルガの身体には傷一つ付いていなかった。槍で何度も斬られている筈なのにだ。

金剛鎧殻こんごうがいかく、俺自慢の防御技だ。俺ァ、頑丈なのが取り柄なんでな」
「ふ~ん……面白い魔力をしてるね。身体強化系の魔法かな? 何も呪いを付与してないとはいえ、この槍って結構斬れ味良いんだけどな~」

 クレイセリアは妖艶に槍を撫でる。
 オルガはこんな状況にも関わらず、クレイセリアの色香にゴクリと喉を鳴らす。
 直後、クレイセリアの頭上に魔法陣が出現し、彼女を圧壊させようと押し迫る。
 リーヴィエルが上空で装飾品に魔力を流し、魔法を発動していた。

「ちぃ……!」

 初めてクレイセリアの表情が歪んだ。
 リーヴィエルは此処で決めようと、更に魔法陣を二つ重ね合わせるように展開し、圧力を強めた。クレイセリアの周囲が陥没するも、クレイセリアは耐え続け、槍を消して両手で魔法陣に触れる。白い魔法陣がクレイセリアの魔力に侵食されているのか、手が触れている部分から紅くなっていく。

「こんなもの――」
「あまり竜騎士を舐めないでください――フォールン・グラビティ」

 三重の魔法陣から放たれる圧力が一気に吹き出し、クレイセリアを地面と共に地中深く押し潰していく。やがてクレイセリアは地中の闇の中へ姿を消してしまう。

 リーヴィエルはアナトの側に降り立ち、アナトに怪我が無いかを確認する。

「殿下、お怪我はありませんか?」
「私よりも自分の傷を心配しろ
「この程度、どうとでもなります」
「だが治せないんだろ?」
「魔法で治癒できないだけです。今は魔力で編んだ糸で傷口を塞いでいます。それに時間をかければ、解呪は可能ですから」

 そんな事を口にするリーヴィエルは汗一つ流していなかった。痛覚を遮断する魔法もあるのだろうが、与えられた傷口は決して浅くないはず。それでも澄ました表情でいられるのは、リーヴィエルが強いからだろう。

「……で、アイツは死んだのか?」
「そう思いたいところですが、本当に【魔女】ならば油断はできません。魔女の中には命を複数ストックしていた者もいましたから」
「いったい何時から王都に侵入していたんだ?」
「分かりません。ですが今思い返してみると、クレイセリアという存在がいつからいたのか、頭の中に靄がかかったように思い出せません。おそらく強力な精神干渉魔法を施して紛れ込んでいたのでしょう」
「いったい何の目的で……」
「このタイミングで仕掛けてきたとすれば、狙いは【竜剣】だと思います」
「なら急いで姉さん達を追おう。列車に残った騎士達は……」
「俺が行ってきます。姐さんと姫様はレギアス達を追ってくれ」

 大穴の様子を見ていたオルガがそう提案する。
 クレイセリアは騎士達を殺したと言っていたが、通信機で連絡してきたのは間違いなく列車の警護班からだ。まだ生き残っている者がいる可能性がある。それを無視するわけにはいかない。

「ですが、車は貴方が武器にして壊してしまいました」
「姐さん、俺を舐めちゃいけねぇ。ただ走るだけなら車よりも速い」

 パンパン、とオルガは自分の脚を叩いて見せる。

「……仕方がありません。騎士オルガ、警護班と列車は任せました。殿下、我らはベール殿下とファルディア殿を追います」
「うむ」
「それじゃ、俺は行ってきます」

 オルガは全身、特に脚部を魔力で強化し、電光石火の如く走り去っていく。
 それを見届けたリーヴィエルは人一人が乗れそうな大きさの魔法陣を出し、その上にアナトを乗せて空を並走する。

 大きく穿たれた大穴は、不気味なほど静かであった。

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