三日月の竜騎士

八魔刀

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第2章 竜剣編

第15話

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 先に動いたのはレギアスだ。オンスロートの注意を引く為に先手を取り、剣で斬りかかる。
 足下から崩すのを狙い、オンスロートの巨体を支える足を狙った。
 オンスロートはアックスでレギアスの剣を受け止め、馬鹿力で跳ね返す。

「うおっ!?」

 攻撃が跳ね返され、身体が宙に浮く。返す刃で振るわれるアックスを、身体を捻る事で避ける。再び攻撃を仕掛け、今度はベールの援護が加わる。
 ベールは二挺の魔銃でオンスロートの目を狙う。弾丸はオンスロートが持ち上げたアックスの刃に防がれるが、それによって視界が狭まり足下が空く。
 ベールの援護を受け、レギアスはオンスロートの足を斬り裂く。肉を確かに斬り裂くが、体勢を崩す程の傷は与えられなかった。巨体を支えるその足は太く、硬い筋肉で被われていた。

『鬱陶しいわ!』

 オンスロートは足下のレギアスに蹴りを放って己から離す。ベールの射線から身を翻してかわし、アックスを眼前に構えて前のめりの体勢を取る。そして床を震動させる勢いでベールに突進する。

『ヴォォォオッ!』
「くっ!」

 ベールは横に飛び転がるようにして突進をかわし、バク転しながらオンスロートから距離を取っていく。そしてある程度距離を確保したら、再び銃を連射する。
 弾丸はオンスロートの身体に弾かれていくが、衝撃だけは身体に駆け巡っているのか、アックスで弾丸を防ぎ始める。

「【オルトロス】でも貫けない……! なら、アレの出番ね」

 ベールは魔銃を異空間に収納し、一挺の大きなライフルを手に出した。

「穿て、【マーベリック】!」

 ズガァンッ!

 耳を劈く銃声が鳴り響き、マーベリックと呼ばれたライフルから弾丸が射出される。その弾丸はオンスロートのアックスを大きく弾き上げ、二発目に放たれた弾丸がオンスロートの左肩を貫き穴を開ける。

『ヌオオオッ!?』

 ベールはマーベリックをコッキングして三発目を放つ用意をする。

『この人間めがァ!』

 オンスロートは左肩の穴をすぐに再生させ、ベールに突進する。
 ベールはオンスロートが怪我をすぐに再生させて動き出すとは思っていなかったのか、一瞬だけ驚いた顔をする。だがすぐに冷静になり、スコープでオンスロートに狙いを定める。
 そして放たれた三発目の弾丸は突進するオンスロートの右脚を穿ち、オンスロートは地面に勢い良く倒れる。

「レギアス!」

 コッキングしながらベールが叫ぶ。
 レギアスが剣に魔力を纏わせながらオンスロートに飛び掛かり、倒れているオンスロートの背中へ剣を突き刺す。

『オオオオッ!?』

 オンスロートは剣に刺された痛みでジタバタとのたうち回るが、すぐに右脚の再生をして立ち上がる。
 レギアスはオンスロートの背中に剣を突き刺したまま取り付き、更に深く剣を突き刺す。

『ええい! 離れろォ!』
「なっ――!?」

 剣が刺さっている傷口から青い炎が噴火した。傷口だけでなく、オンスロートの全身から青い炎が噴き出した。剣を抜いて青い炎から逃れたレギアスはオンスロートからも距離を取る。

「レギアス!?」

 ベールがレギアスに駆け寄る。レギアスは「問題無い」と言って剣を構え直す。
 オンスロートは青い炎を衣のように身体に纏い、怒り狂ったように地団駄を踏む。

『クソッタレが! 人間のくせに! 人間のくせに!』
「おいおい、さっきまでの戦士っぽさはどうしたよ? まるでガキのようだぜ?」

 オンスロートの怒りを更に焚き付けるように、レギアスは挑発する。
 それにブチ切れたのか、オンスロートの魔力が増大する。オンスロートはアックスに青い炎をアックスに集約させ始め、大きく振りかぶる。
 レギアスはベールを横抱きにしてオンスロートから可能な限り距離を取る。

『ぶち殺してやるぅ!!』

 青い炎を纏ったアックスが振り下ろされ、叩き付けられた床は木っ端微塵に吹き飛ぶ。そして青い炎の噴火と共にホール全体の床が爆発して砕け散る。
 レギアスはベールを抱えた状態で連続して噴火し爆発する炎の間を掻い潜り、オンスロートの攻撃を避ける。

「なに挑発してるのよ!?」
「怒りで動きを単調にさせようとしたんだよ!」
「その結果がこれ!?」
『そこかァァア!』

 再びアックスが振り下ろされ、青い炎が真っ直ぐレギアスとベールへ襲い掛かる。
 ベールを後ろに下がらせ、レギアスはありったけの魔力を剣に込める。

「フンッ!」

 振るわれた剣から放たれる深紫の衝撃波が、青い炎を撥ね除けてオンスロートへと直撃する。
 オンスロートは直撃した衝撃で背中から倒され、纏っていた青い炎も消えてしまう。

「チッ……」

 レギアスは舌打ちをして剣を捨てる。先程の一撃で剣身が砕けてしまったのだ。
 どんなに強い魔力を持っていても、武器がそれに耐えられなければ持ち腐れになってしまう。
 こうなれば拳で叩き伏せるしかないと、四肢に魔力を練り上げる。

「ベール、その武器はまだ使えるか?」
「マーベリックの弾はまだあるわ。だけどすぐに傷を再生させるから無駄弾になるわよ」
「試しに頭をぶち抜いてみるか。俺が隙を作る。お前はそこを狙え」
「……分かったわ。気を付けて」

 レギアスはオンスロートに迫り、ベールは床に座って狙撃体勢に入る。

「オラ! 牛頭! 行くぞ!」
『調子に乗るな人間!』

 オンスロートは立ち上がり再び青い炎を全身から噴き出す。アックスを振り回し、レギアスを叩き斬ろうとする。
 レギアスは全身に魔力を駆け巡らせ、感覚全てを強化する。武器を持っていない今、アックスの一撃を防ぐ事はできない。なら紙一重で避けるしかない。
 オンスロートが振るうアックスをかわし、オンスロートの顔面に飛び掛かって拳を叩き込む。
 魔力が込められた拳はオンスロートの頬を捉え、大きく振り払われる。

『オオオオッ!』

 だがオンスロートは足を踏ん張り、アックスを捨ててレギアスに真っ向からの勝負を挑む。
 レギアスも床に着地し、オンスロートを見上げる。拳に操れるだけの魔力を込め、オンスロートと殴り合いを始めた。
 レギアスとオンスロートでは拳のリーチの差が大きく出ている。明らかにレギアスが不利の筈だが、どうしてかレギアスが繰り出す拳はオンスロートの顔や胴体に命中している。

 ベールはスコープ越しにレギアスの戦いを見て驚愕していた。
 レギアスの拳そのものは、確かにオンスロートに届いていなかった。だが伸ばした拳から魔力で形成された拳が放たれ、オンスロートを叩いている。
 ベールはそんな戦い方を今まで見た事がなかった。今まで名だたる騎士達の戦いを目にしてきたが、魔力そのものを豪快に使用する戦法を用いた者はいなかった。もしかしたら竜騎士の中にはそういった戦いをする者もいるかもしれないが、少なくともベールは知らない。

 ――レギアス、貴方は……。

 ベールは呆けている顔を引き締め、オンスロートに照準を定める。
 オンスロートは高い再生能力がある。頭を撃ち抜いたとしても死なずに再生するかもしれない。
 であれば、どうするか。
 ベールはライフルのマガジンを外し、別のマガジンを出して装填する。

 ――だったら、再生する部分すら無くしてやる。

 ベールが装填した弾は特別製。使用者の魔力を弾丸の威力に還元する代物。メリットは還元した魔力によって爆発的威力を生じさせる事だが、デメリットとして使用者の魔力をふんだんに持って行く。
 ベールは弾丸に魔力を注ぎ込む。スポンジが水を吸うようにして、ベールの魔力を弾丸が吸い込んでいく。

 ――きっちり一撃で仕留める。それができるだけの力を、私は持ってる。

 弾丸に魔力を込め終わり、精神統一を行ってトリガーに指を添える。
 レギアスとオンスロートはその間も拳と拳を交差させている。

「おおおおおっ!」
『ルゥァァアッ!』

 レギアスは身体の底から這い上がってくる悍ましい感覚に焦っていた。
 魔力を此処まで練り上げ続けるのは、ミハイル島での一件以来であり、それまでは魔力を使う事があっても、少量に抑えていた。
 だが此処に来てレギアスは抑えるのを止めた。此処で手を抜いてしまえば死ぬのは己だけでなく、後ろにいるベールもだ。ベールを守る為に、レギアスはオンスロートと戦いながら、内に眠るドラゴンの力と戦っていた。

 ――チクショウ! 意識が持ってかれそうだ! 身体が熱い! 呑まれる!

 オンスロートの拳を拳で弾きながら、レギアスは歯を食い縛る。血管が浮き出し、今にも弾けそうになる。
 だがそれでも魔力を抑えるわけにはいかない。
 今此処で魔力を弱めればドラゴンの力に呑み込まれる事は避けられるかもしれない。
 だが目の前のオンスロートにベール諸共殺される。

 ベールが死ぬのだけは、それだけはレギアスは認められなかった。

『人間! 貴様、ただの人間ではないのか!?』
「どうだかな!? 俺も良く分かってねぇんだよ!」

 オンスロートの拳をレギアスは打ち砕いた。しかしオンスロートは砕かれた拳をすぐに再生し、反撃を繰り出す。

『だが所詮は人間! 人間如きに負けられんのだ!』
「それは――俺も同じなんだよ!」

 レギアスの連打によってオンスロートの両腕を弾いた。再生が始まる前にオンスロートの足を蹴り払う。魔力によって巨大な蹴りとなったソレはオンスロートの両足を刈り取った。
 オンスロートは膝から崩れ落ち、大きな隙を生み出した。

「ベェェェルゥゥゥゥ!」

 レギアスはベールの射線から跳び退いた。
 オンスロートの頭に照準をセットしたベールは、静かに言った。

「――BANG」

 マーベリックの銃口からは考えられない程の大きな菫色の魔力が放たれる。音を置き去りにした魔力の閃光はオンスロートの頭だけでなく、上半身を飲み込み、そのままホール奥の扉をまでも破壊した。
 衝撃音が鳴り止んだ後に残ったモノは、再生能力を失い床に転がったオンスロートの下半身と、青い炎が消えた静かなホールだった。

「――ふぅ……」
「ふぅ、じゃねぇよ!」
「あら……」

 敵を討ち、ホッと胸を撫で下ろしたベールにレギアスの大声が届く。
 レギアスは崩れた瓦礫の上で倒れていた。
 ベールの射線から跳び退いたレギアスだったが、放たれた一撃の衝撃が凄まじく、その障礙によって吹き飛ばされたのだ。
 頭を逆さまにして呆れ返った顔をしているレギアスを見て、ベールは舌をペロっと出して見せた。

「ってー……で、奴は?」

 瓦礫の上から起き上がったレギアスはオンスロートの亡骸を確認する。
 オンスロートの下半身は再生する事もなく、そのまま魔力の粒子になって消えていった。
 青い炎も消えた事から、死に絶えたと考えても良いだろう。
 一先ず、この場での戦いを終えたことに安堵し、己の身もドラゴンに堕ちていない事を確認した。
 ベールはマーベリックを消してレギアスに駆け寄る。彼女にも怪我はないようで、レギアスは安心した。

「奴は……デーマンだったのか?」
「たぶんね。言葉を交わせるデーマンなんて初めてだけど、ミノタウロスと言うのは騎士団のデータベースにも歴史書にも記載されてるわ」
「何にせよ、こんな奴が門番を張ってるんだったら、この先不安だな」
「ええ。でも、来ちゃったから。最後まで着いて行くわよ」
「フッ……」

 二人は大穴の空いた扉を見て苦笑する。
 この先何があろうと、自分達なら乗り越えられる。
 レギアスとベールはそんな予感めいた事を思いながら扉へと足を進めた。

 そんな彼らの後ろ姿を、紅い眼をした【魔女】が見つめていた――。





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