俺達は全員ワケありの最強従者 ~マーヴェリック家は本日も平和です~

八魔刀

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第2章 クレア・オルレアン

第十五話 マーヴェリック家の女騎士

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 マーヴェリック家。世界最大の貿易商であるライオネル商会を束ねる大貴族。
 エドラシウス・マーヴェリックが現社長であり、マーヴェリック家当主である。
 豪放磊落で鷹揚な性格であり、その風貌から獅子王とも呼ばれる。

 彼には一人の娘がいる。
 名をセラ・マーヴェリック。朱いセミロングの髪に金色の瞳をした令嬢で、才色兼備に加えてまるで天使の如し優しい心を持つ次期当主様。17歳にして既に父に代わって領地を治められる手腕と信用を得ている。広大な敷地を持つ大きな屋敷に、数名の従者と一緒に住んでおり、時折外に出ては領地の様子を視察している。

 そんなマーヴェリック家だが、表沙汰にはしていない、とある秘密がある。
 それは、代々マーヴェリック家に纏わる古い因縁。
 人間界と魔界の間で行われてきた戦い。
 その戦いに、マーヴェリック家は創設時代から関わってきた。

 そしてそれは、今も続いている。
 セラは体内に生まれ付き魔力を保有している。
 ただ、肉体は人間であるため、魔力に適応せず虚弱体質になってしまっている。

 1年前まではそれこそ、歩くだけでも相当な体力を消耗していたらしい。
 今では少し改善して、少しだけだが走ることができるようになった。
 また、魔力が身体を蝕む所為で寿命が短い。
 二十歳になる前には寿命が尽きてしまうと言われている。
 ご当主様は、セラの命を救うために世界各地を飛び回っている。

 さて、ここで魔界とは何かだが、魔界とは人間が住むこの人間界とは別次元に存在する世界。
 魔界では魔物と呼ばれる住人がおり、その姿は人間から見るとまさに異形の化け物と言うのが多い。魔物は人間界を支配しようと企んでおり、人間を殺戮対象として見ている。また、悪魔と呼ばれる魔界の上位種族も存在している。
 魔の力が強ければ強いほど、次元を越え難く、人間界に来られるのはある程度の力を持つ魔物ぐらいだが、特殊な手段を踏めば悪魔も次元を越えることができる。

 マーヴェリック家は表世界では世界最大の貿易商であるが、裏世界では人間界を守る守護者の一員として大昔から戦っている。

 だが、最近までマーヴェリック家はその戦いに出ていなかった。
 セラを守る為に全てを費やしていた為である。

 しかし、セラの身体に快調の兆しが現れたことにより、世界各地の守護者から戦いに戻るようにと厳命され、私の先輩であるヴァルト・クラインがマーヴェリック家の代表として、その戦いにご当主様と赴かれている。

 私の使命は、先輩が不在の間、先輩の代わりにセラを守ることである。

「クレア、今度はこれを着てみて!」

「……あ、あの……」

「姉さん、こっちも!」

「いや、待って……」

「お姉ちゃん、これも可愛いよ!」

「いや、仕事が……」

 守る……ことであるはずなのだが、どうしてか私はセラと妹達の手によって着せ替え人形と化していた。

 私、クレア・オルレアンはマーヴェリック家の騎士として、この屋敷に二人の妹達と住んでいる。
 私と双子のステラとミリアは、人間と魔物の戦いで家族を失い、私も命を失いかけてた。
 ご当主様はそんな私をご当主様のお力で救ってくださり、妹達と一緒に引き取って下さった。
 私は人造悪魔となり、ご当主様に命を救ってくださった恩返しをしている。
 妹達は人間のままだが、特別にメイドとして屋敷に住まわせていただいている。

 今日は先輩が不在で、私が一人で日課の巡回をしていた。
 その時、セラに呼び止められ部屋に招かれた。
 それが運の尽きだった。
 私は隠れていた妹達に捕まり、何処から取り寄せたのか、可愛らしい服を手に躙り寄り、私の服を剥いで着せ替えを始めた。

 私はお洒落というものに興味がない。機能性や着易さを重視した物しか着ないし、そもそも普段は騎士服であるコートで過ごしているから、全く必要性を感じない。
 だがセラがそれは勿体ないと言いだし、こうやって私を拉致して服を着させるのだ。

「セラ……もう勘弁して……。私、巡回中なんだけど……」

「大丈夫。マリナには私から言っておくから」

「いや、今朝はエードリアン執事長もいるんだけど……」

「んー……諦めて」

「諦めて、じゃないわよ! そんなイイ笑顔で言われても困るんですけど!?」

 セラは舌をペロリと出して笑う。

 いやいやいや、マリナさんは兎も角、執事長が怒ったらもの凄く怖いんですけど!?
 給料減らされるのは困るんですけど!?

「でもクレアが悪いんだからね? こんなに可愛いのにお洒落の一つもしないんだから」

「そ、それを言ったらマリナさんだって同じじゃない。あの人、いつもメイド服で私服なんて質素なものばかりよ?」

「マリナにだってお洒落させようとしてるわよ。今は、クレアよ」

「ちょ、もう良いから! 私、仕事に戻るから!」

「あ、ちょっと!?」

 私は隙を見て騎士服を奪い、素早く着替えて部屋を後にした。
 セラには悪いけど、私はこっちのほうが好きだ。
 ビシッとして気が締まるというか、心が落ち着く。

 それに、先輩が褒めてくれたし……。

 私の騎士服は先輩の騎士服と同じ黒緑の生地で、ロングコート状の物。
 先輩はズボンにブーツだけど、私は丈が短いスカートにブーツだ。

 これでも可愛いとは思うんだけど……。

 セラと私は同じ歳であり、主従関係と言うよりは友達関係がしっくりくる。
 公の場所ではお嬢様と呼ぶけど、敷地内ではセラと名前で呼んでいる。
 セラにとって私は初めての同年代の友達だそうで、実を言うと私もセラが初めての友達。
 私は小さな村の漁師の娘で、その村には子供が私達しかいなかった。
 貧しい村で、学校にも行けなかったから友達はいない。
 此処に来たことで、セラと友達になり、妹達とも仲良くしてくれる。

 感謝しかないが、着せ替え人形だけは勘弁してほしい。

 私はふと、屋敷の廊下の窓に映った自分の姿に足を止める。
 マリナさんよりは短いけど、腰ぐらいまでの金髪に紅い瞳の顔は、最近になってとても整っていることが分かった。別に、それがどうしたというわけでもないけど。マリナさんと比べたら大人の魅力に負けてるけど。
 胸の大きさはそれなり、騎士として身体を鍛えてるから、スタイルも良いと思う。
 確かに、お洒落に力を入れたら、それなりの物になるだろう。

 お洒落したら、先輩も褒めてくれるかな……。

「――――って、何考えてんの私は。あのズボラでヘビースモーカーでセクハラ男なんかに褒められたって嬉しくないし。そもそも先輩にはマリナさんがいるし。何の関係も無いとか言ってるけど、アレ絶対好きでしょ」

 先輩とマリナさんは絶対に浅からぬ関係だ。
 何せ、マリナさんが屋敷にやって来た日に大泣きしてたのだから。
 マリナさんは記憶を失っているらしいが、あれは絶対に何かある。

 例えば、元々此処で働いていて、私達と同じ人造悪魔で、戦いが原因で記憶を失ったとか。
 それで、何か訳があってマリナさんにそれを隠してるとか。
 先輩とマリナさんは実は恋人同士で、記憶を失ったことで破局してしまったとか。
 きっとそんな感じの何かがあるに違いない。

「でも、詮索は無粋よねぇ……。誰も教えてくれないってことは、そういうことなんだろうし」

「何がそういうことなのかしら?」

「ヒェ……!?」

 いきなり後ろから話しかけられ、私は変な声を出して驚いた。
 見ると、洗濯物の籠を抱えたマリナさんが、氷のような表情で立っていた。

 あ、何か怒ってらっしゃる……。

「ま、マリナさん、ご、ご機嫌よう……アハハ」

「今は巡回中でしょう? 窓の前で立ち止まって、何をしているの?」

「えーっと……世界の不思議についてちょっと……」

「ハァ……まぁ良いわ。それより、ステラとミリアを知らないかしら? 洗濯物を頼んだのに、姿を消してしまったの」

 あんの馬鹿! まさかマリナさんから言われた仕事ほっぽり出してたの!?

 私はマリナさんに頭を下げた。それはもう、床と上半身が平行になるようにビシッと。

「ご、ごめんなさい! あの子達にはキツく言っておきます!」

「……まぁ、あの子達はまだ12歳だし、本来ならまだ遊びたい年頃だし、強くは言わないわ。でも、マーヴェリック家に仕えるのなら、そろそろ学んで貰わないと……」

「はい! はい! 仰る通りです! ごめんなさい!」

「……そんなに謝られると、何だかこっちが悪い気がするわ。別にそこまで怒ってないわよ」

 マリナさんはしゅん、と気落ちしたように眉を下げる。

 マリナさんは此処に来たばかりの頃は、もの凄く優しい淑女のような方だった。
 しかし、時が経つにつれてその優しい淑女は何処に行ったのか。
 マーヴェリック家のメイドとして誇りと威厳を持つようになり、まるで氷の女王のようになってしまった。
 まぁ、メイドが妹達しかおらず、先輩達もできる範囲でメイドの仕事をしていたが満足のいく出来ではなく、マリナさんが統括して動かさなければ、今頃屋敷はどうなっていたか。
 それに、マリナさんは厳しいけど、それはメイドとしてであり、プライベートはとても優しい。
 趣味も編み物と、とても魅力的な女性だ。

「……そんなに怖いかしら、私……」

「いい、いいえ! そんな! 妹達もマリナさんのことは大好きですし、怖いなんてそんな……」

「そう……? だったら良いのだけれど……」

「……誰かに、怖いって言われたんですか?」

「いいえ、そういうわけじゃないないの。ただ……ヴァルト様が」

 あのクズ、マリナさんにいったい何をしたのよ!? 
 マリナさんにこんな顔させるなんて、騎士の風上にも置けないわ!
 今度帰ってきたらぶん殴ってやる! 一度も勝てたことないけど!

「先輩が何かしたんですか?」

「いえ……あまり、顔を合わせてくれなくて……。私を避けてるというか……腫れ物に触るみたいに……」

「先輩が? それは有り得ないですよ。だって、先輩はマリナさんのこと――――」

 私は慌てて口を噤んだ。

 実は、セラからキツく言われていることがある。
 それは例え先輩が本当にマリナさんのことが好きだと思っても、それを決してマリナさんに教えてはならないと。詳しくは知らないけど、それだけは絶対に禁止と厳命されている。

 私はもう少しでその厳命を破るところだった。厳命を破った場合、いったいどんな罰が待っているかなんて、考えたくもない。

「ヴァルト様が……何……?」

「ぁー……ぇー……そう……照れてるんですよ! マリナさん、もの凄く美人ですし! ほら! マリナさん、先輩にも甲斐甲斐しくお世話するから、きっとこんな美人にお世話されて照れて恥ずかしくて顔を合わせづらくなってるだけですよ! ええ! きっとそうですよ!」

「え? 美人って、そんな……」

「たぶん、その内慣れますから! うん! きっと! というか慣れさせますから! だから安心してください! あ、洗濯物ですよね? 私がしておきますから! どうぞ他のお仕事でも休憩でもお好きに!」

「そ、そう? 分かったわ……そっか、美人か……」

 マリナさんから洗濯物を引っ手繰り、私は脱兎の如くマリナさんから離れた。
 あれ以上一緒にいたらボロが出そうで怖かった。
 もしボロを出したら誰に何をされるのか分かったもんじゃない。

 私は水場で洗濯を始め、通りかかった妹達を取っ捕まえて説教をした。





 その日の晩、敷地内に魔物が侵入した。

 数は一体のみで、ランクもC級。
 私だけでも対処できる相手だ。
 私は庭先に出て、魔物の前に出た。
 魔物は人の形をしてはいるが、まるでマリオネットのような人形に見える。
 両手が刃となっていて、アレで攻撃してくるようだ。

「下郎、大人しく立ち去るのなら見逃してやる」

「カタカタカタ――――」

「ま、そうなるわよね……」

 両手の刃を構える魔物に対して、私は剣を抜いた。
 私には先輩のように退魔の力があるわけではない。
 ただ、人造悪魔になって発現したこの力は、退魔ではないがそれに近いモノだ。
 私は襲い来る魔物の刃を剣で受け止めた。
 ガキィンと火花が散り、刃が交差する。

「カタカタカタ――――」

「カッタカタ、カッタカタうるさいわね!」

 魔物は何度も何度も刃を振るい、私はその刃を何度も何度も剣で受け止める。
 防戦一方に見えるだろうが、実は違う。
 私の攻撃は刃を受け止めると同時に繰り出されている。

「カタ――――?」

 十数回程度だろうか。私の剣と打ち合った魔物は、動きが止まり、錆びた人形のような音を鳴らして地面に崩れ落ちていく。

 へぇ? C級にしてはけっこう耐えたじゃない。

「苦しい? 苦しいでしょう? もうアンタの魔力無いもんね」

 私は蒼く煌めく剣で、魔物の片腕を斬り落とす。
 その蒼の輝きは魔力だ。私の魔力ではない。この魔物の魔力だ。
 私は魔物と打ち合うと同時に、魔物の魔力を吸収して剣に内包していた。

 これが、私の力――暴食。

 相手の魔力や生命力を吸い取り、己の力にして撃ち払う力。
 この剣に名前を付けるなら、『己が血肉とせよグラトニー暴食の魔剣イビル・エスパーダ』ってところかな。

 私は魔物のもう片方の腕を斬り落とし、首を掴んで持ち上げる。
 魔物は、私の両親の仇。慈悲の心など持たない。
 私の両親を殺した魔物は逃げ果せた。
 必ず探し出して八つ裂きにして殺してやる。
 その為に、お前の力を喰らってやる。

「喰らえ、魔剣」

 魔剣から魔力が飛び出し、まるでドラゴンの口のような形になり、魔物を咀嚼した。
 魔物は塵一つ残さず消え、魔力の粒子一つすら、魔剣によって喰われた。

「ふぅ……ごちそうさま」

 私は剣を納めた。
 今晩は既にエードリアン執事長がいない。報告は書類に纏めて出そう。
 そう思い、私は裏口から屋敷に入った。

「お疲れ様。怪我は無い?」

「わひゃぁ!?」

「しー……」

 裏口には、なんとセラがいた。
 セラは寝巻にカーディガンを羽織っており、寝癖がちょっと付いていることから、さっき起きたのだろう。

「せ、セラ……!? 貴女、どうしてここに!?」

「ちょっと目が覚めちゃって、お手洗いに行ってたの。そしたら、クレアが出て行くのが見えて、魔物が来たんだなって……」

「そこまで分かってたのなら、どうして部屋にいないのよ……」

「だって、大切な家族でお友達が私の為に戦ってくれてるのよ? せめてお出迎えぐらいは……」

「……もぅ。気持ちは嬉しいけど、体調に触るわ。セラは私達を信じて堂々と部屋で寝てなさい。それに、マリナさんにこの事知られたら駄目なんでしょ? 見つかったら面倒よ」

 そう、マリナさんは一般人だ。悪魔的なまでの美貌を持っていようと一般人。
 一般人に、この裏事情を知られるわけにはいかない。
 知ってしまうと、自ずと巻き込まれてしまい命を落とすことだってあり得る。
 マリナさんが危険な目に遭うのは、この屋敷にいる者全員が望んでいない。特に、先輩は。

「はい、部屋まで送ってあげるから、もう寝なさい」

「はいはい、分かってるわよ」

「ったく……」

 私とセラは手を繋いで、セラの部屋に向かった。
 セラと手を繋いだ時、セラの手は震えていた。
 その震えの原因は、何となくだけど分かる。
 恐怖と安堵だ。私が戦いで命を落とさないかという恐怖、無事に帰ったことへの安堵。
 その二つの感情によって手が震えていたのだろう。
 私はセラを安心させるために、セラの手をぎゅっと握り締めた。
 セラは私の大事な友達。魔物や悪魔なんかに絶対傷付けさせない。
 彼女は私達が守る。もう二度と、私の大切なモノを奪われたりなんかしない。

「クレア」

「なに?」

「……今日も良い日だったね」

「……ええ、そうね」

 先輩、マーヴェリック家は本日も平和でしたよ。



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