魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。

八魔刀

文字の大きさ
68 / 114
第三章 後継者

第66話 コンビネーション

しおりを挟む


 暗闇の包み込まれたララとリインは息を呑む。暗闇はまるで星空のような点々とした光を放ち、ホールから別の異空間へと跳ばされたのだと理解するのに時間は掛からなかった。

 グリゼルは穴が空いた箇所を押さえながら魔力を垂れ流しており、怒りに染まった形相で二人を睨み付けている。

 二人は察する――ここからがグリゼルの本気だと言うことを。

「貴様らにこの姿を見せることになるとは……! お許し下さい我が君! アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 グリゼルが突然叫び出す。するとグリゼルの魔力が更に噴き出し、全身を覆う。魔力はどんどん肥大化していき、その中から巨大な怪物が現れた。

 上半身はグリゼルのままであるが、下半身は蛇であり、背中からは二対の翼が生えている。

 ララは以前、ルドガーから教わった怪物の中で似たような姿をしているものを思い出す。

 怪物エキドナ。あらゆる怪物の母と言われ、神話上の怪物だ。
 本物、と言うわけではないだろうとララは考える。先程から感じていた魔力から、純粋な魔族の気配を感じず、人族の魔力と混ざり合った気配から、どういう手段かは不明だが己に改造を施したのだろうと推察する。

 グリゼルの顔は人と言うよりも怪物らしい恐ろしい形相でララとリインを睨み付ける。

「この結界は外界と分断する魔法……これならば私の姿が我が君に見られる心配は無い。貴様達は誰にも見られることなく、私に殺されるのだ!」

 グリゼルは吠えた。その声はまさに怪物のそれであった。
 リインは剣を構え、ララに話しかける。

「……聖女様、お身体に変化は?」
「無い。本当にただの結界のようだ。だが魔法は使える」
「私が斬り込みます。聖女様は――」
「ララ、で良い、リイン」

 ララがリインの名前を呼んだ。
 牛女という不名誉な渾名ではなく、リインの名前を。

 リインは驚き、ララに振り返る。

「……いつまでも聖女様じゃ、私が聖女だってバラしてるようなものだ」
「……ふふっ、確かに。では、参りますよ――ララ様」
「ああ、魔法は任せろ」

 リインは駆けた。怪物に向かって一直線に。
 グリゼルは雷をリインに向かって降り注ぐ。リインは自身に直撃する雷だけを読み取り、その全てを避けてグリゼルに迫る。

 リインの魔力から行動を読み取る力はルドガーにも迫る程だ。寧ろ、純粋なエルフな分、ルドガーよりも才能がある。雷を避ける程度は造作も無かった。

 グリゼルは蛇のように動き出し、リインへと直接攻撃を仕掛ける。
 その動きすらリインは読み取り、最適な攻撃で防いでいく。

「氷の精霊よ来たれ――グラ・ド・コントゥディトズ!」

 ララの魔法により、グリゼルの頭上に氷塊が現れ、グリゼルを押しつぶそうと落ちてくる。
 グリゼルは蛇の動きで氷塊を避け、今度はララに向かって口から雷を吐き出した。

 ララは雷に反応できるほど、反応速度は速くない。

 だがリインは別だ。

 既にグリゼルの行動を見切っており、グリゼルが雷を吐くよりも先に動き出し、ララの前に躍り出ていた。
 剣で雷を受け止め、雷を剣に帯電させる。その剣を振るい、雷をグリゼルへと返した。

 グリゼルは雷を浴び、悲鳴を上げる。
 だが少し焼けただけでダメージはそこまで通っていない。

「おのれ! 炎よ――!」
「ララ様、地の防御魔法を!」
「地の精霊よ来たれ――ノム・ド・スクートゥムズ!」

 ララが呪文を唱えると、二人を岩の球体が包み込む。
 次の瞬間、グリゼルの魔法が発動する。

「――灰燼と化せ! バーン・エクスプロード!」

 地面が真っ赤に染まり、大爆発が起きる。
 燃えカスすら残さないような灼熱の炎が空間を包み、ララとリインを遅う。

 しかし岩の盾に守られている二人は無傷で生還し、爆発が収まったと同時に岩の盾が解除されてリインが飛び出す。

「耐えたのか!?」
「秘技――」
「させぬわ!」

 グリゼルが翼を広げると、無数の羽根が刃となってリインに降り注ぐ。

「誰に言っている? 風の精霊よ来たれ――シフ・ド・スクートゥムズ!」

 だがそれらはララが張った風の盾により逸らされてしまう。
 その間にリインがグリゼルに迫り、剣を腰だめに構える。

「――ルナエ・エクシウム!」

 リインが放った斬撃は三日月の如く煌めき、魔力の衝撃と共にグリゼルの翼一つを両断した。
 まさか翼が両断されるとは思っていなかったのか、グリゼルは驚愕に満ちた表情を浮かべる。

「き、貴様ァ!」
「火の精霊よ来たれ――サラ・ド・イクスズ!」

 グリゼルの顔面に、ララの爆発魔法が炸裂する。

 二人の連携によりグリゼルは強力な魔法を使うも、常に反撃されて圧倒されてしまう。

 こんなことがあって堪るか、あの男の時よりも本気を出しているのに、何故こうもいいように遇われてしまうのか。

 グリゼルは半ば錯乱状態に陥った。この状態を落ち着かせる為に、グリゼルは新たな魔法を発動する。

「絶氷よ! 凍て付け! バーン・ブリザード!」

 空間が白く染まり始め、氷の大爆発が発生する。

 一瞬で空間が凍り付き、猛吹雪が起こる。炎ですら凍り付かせるであろう絶氷に、グリゼルはこれでララとリインを凍り付かせたと思い込む。

 だがしかし、それは違った――。

 ララの魔力、魔法は戦いの中でグリゼルを上回りつつあった。
 火、たかが火だ。グリゼルの魔法は炎を凍らす程の威力が確かにあった。
 しかしララは火のゴーレムを即座に召喚し、自身とリインを包み込むようにして凍て付くのを凌いで見せたのだ。

 それは即ち、ララの魔力がグリゼルの魔力を上回ったということ。

「ば、馬鹿な――!?」
「魔王の娘を――舐めるな、下郎」
「おのれぇ! おのれおのれおのれぇえ!」

 グリゼルは魔力を溜め始めた。バチバチと帯電し始め、雷の魔法が発動する前触れだと分かる。
 ララは地属性の防御魔法を張ろうとしたが、流石に魔法を連発し過ぎたのか、グリゼルがこれから放とうとする魔法に対抗できるだけの魔法を放つ魔力が残っていないことに気付く。

「リイン、アレを完全に防ぐのは無理だ」
「ララ様、ご安心を。あの程度の雷など、私の剣で斬って見せましょう。ただ、一つお願いが」
「うむ」

 グリゼルの魔力が更に高まる。
 リインは姿勢を低くし、突撃の構えを取る。

「ララ様、お願いします!」
「地の精霊よ来たれ――ノム・ド・コンフィルマズ!」

 ララがリインの剣に地属性の魔力を付与し、剣身が地色に染まる。
 それを受けたリインは獣が駆け出すようにして地を蹴り出す。獣の如くグリゼルに迫り、剣を正面に突き出す。

「雷轟よ! 轟け! バーン・ライトニング!」
「穿ち貫け! 奥義! ノーム・クウェイカー!」

 グリゼルが空間を青一色で染める。雷鳴が轟き、雷の大爆発が巻き起こる。
 ララとリインを呑み込もうとするが、リインが全身から発する地属性の魔力とララが剣身に付与した地属性の魔力が連鎖爆発し、強烈な衝撃波が巻き起こり雷を遮断していく。

 グリゼルの胸に向かって一直線に剣が向かい、一瞬の拮抗を経てリインの剣がグリゼルの胸を穿ち貫いた。

「ぐあああああああ!?」

 グリゼルの胴体はボロボロに砕けていき、翼は羽が抜けていき、蛇の下半身は消失していく。
 リインは剣を抜き取り、ララの前に着地する。剣を血振るいし、魔力を収めた。
 勝敗は決した。ララとリインのコンビネーションを以て、魔女グリゼルを仕留めたのだ。

 しかし――、まだ物事は終わってはいなかった。

「うあああああああ!!」
「っ!?」

 身体が砕けていくグリゼルが咆哮を上げると、結界が解けて元のホールへと戻る。
 するとグリゼルは人型に戻り、霞となって上階へと逃げていった。

 グリゼルはまだ生きている。それが上階へ向かっていった。
 上階にはルドガーがいる。もしアーサーと合流されたら、ルドガーにとってよくない状況になるかもしれない。

 二人は急いで階段を駆け上がるのだった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました

Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である! 主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない! 旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む! 基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。 王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

処理中です...