青春の初期衝動

微熱の初期衝動

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花の話。

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 私は実家住まい。ダイニングにあるテーブルで、いつも家族みんな仲良く食卓を囲む。そんなテーブルの中央には花瓶に挿された一本の花がある。
 その花は枯れている。いつ枯れたかも分からないまま、みんな話題にもせず普通にご飯を食べる。姉も弟も父も母も。まるでそこに存在しないかのように見える。一度気がついてしまった私は、毎食ごとにその花瓶の存在をひしひしと感じてしまう。みんなも実は気がついていて、でもそれが自分だけなのだと思ってあえて触れていないのではないか。
 そう思って、洗い物をしていつる母に聞いてみた。「それ、ドライフラワー。」と真顔で言われ、そのまま何もなかったかのように洗い物を続ける。私は少し呆けて、改めてテーブルの花瓶を台所から眺め、その視線のままじりじりとテーブルに歩を進めた。花を凝視し、花瓶の中も覗いてみた。何日も、何ヶ月も変えられていなさそうな水に浸った花だった。花びらもわずかな葉も、花瓶の中に落ちていて、生気のない花びらたちが、生存競争を勝ち上がってきたかのように粘り強く残っている。いや、干からびている時点でそれらも負けているとも言える。
 はて、この花の正体は何なのだろう、と私は気になって仕方がなくなってしまった。今度は姉に聞いてみた。「そんなのあったっけ。」と言われたので、テーブルまで連れていき、「ドライフラワー」を見せた。「あ~こんなの置いてたね。」と一言。次に弟にも聞いてみた。姉と同じ反応だった。最後に父に聞いてみた。「あぁ、今流行りのドライフラワーってやつだろ?」と、得意げな顔をしながら言ってきたので適当にあしらった。
 結局答えが出ないまま、家族インタビューは終わってしまった。それから数日後、もうどうでも良くなって、私はSNSを眺めていた。なんとなく、自分のInstagramの投稿を見返していると、花を持った自分が写っていた。半年と少し前、私は3年勤めた会社を辞めたのだった。その花は、持ち帰るには大きくて電車の中で恥ずかしい気持ちになりながら帰ったのであった。それから母に、この花をどうするか聞いて、お気に入りの花を一輪選んで、生けておこうということになった。あぁ、全部思い出した。
 新しい会社で忙殺されていた私が、「ドライ」してしまったのだ。
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