青春の初期衝動

微熱の初期衝動

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潮風、サンセット。

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 カシスオレンジが染める空の下、僕は潮風が心地良い海辺で座っていた。瞼を閉じると風の音、鼻につんとする潮の香り、海と一体になる感覚を覚える。と、同時に今日に至るまでの時間が、生々しく再生される。
 君と出会った日のこと。それは大学の講義で、偶然隣だった君。特に面白いとも思わない、長い話をぼーっと聞いて過ごしてした。思わずあくびをすると、それにつられたのか、隣の君もあくびをした。そのとき、初めて目が合った。くすりと笑顔になった君の無邪気さに心打たれた。
 特別決まった席はないものの、いつも通りの席に座ると決めている僕は席についた。君も同じだった。今日は何もなかったのに、座るなり笑顔をくれた。耳たぶが、わあっと熱くなった。それを冷やしたいがためにすぐさま摘んでみたが、熱いままだった。
 結局、耳たぶが熱いまま講義が終わった。その熱さにかこつけて、僕は君に声をかけた。来週も同じ席に座ろうと決まった。そして、3回目、小さなメモの筆談で、講義のつまらなさ、互いの出身地や自分のことなどを交換した。僕は東京出身、君は静岡県の熱海出身でだった。そうこうしているうちに講義が終わろうとしている。君は急いでノートをとる。最後の手紙には「もう講義終わっちゃうから、これ私の連絡先。またここの席で会おうね。」と綴られていた。
 唐突な出来事に頭が追いつかない。しかし、その手紙に甘えて、僕は君にメッセージを送った。すぐに返事が来た。何かが始まる予感がして、耳たぶが再び熱くなる。心臓の鼓動も、手先に流れてくる血の音ですらも感じてしまう。
 それから講義でも、それ以外の時も話しているうちに、デートをするようになった。君と付き合っていた。
 一緒に行ったパブで、僕はシャンディガフを頼むのが常だったが、君はカシスオレンジだった。ほろ酔いになった僕らは鶯谷をふらふらと歩く。冬でも湿っぽい、独特な空気感のあるこの街には、様々な顔をする男と女に溢れていた。そして後日、いつも通り同じ席で講義を受けていたが、君は来なかった。教室中を探してもいない。何週経ってもいない。メッセージも返ってこない。
 他の男と歩いている君を見かけた。結果がどうであれ、君との日々をやり直したい。海辺でカシスオレンジを飲んだ。
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