Parasite

壽帝旻 錦候

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episode 7

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「よっしゃーー!」

 教壇の前でガッツポーズをキメて叫んでいるのは、勿論、大介。

「代々木。お前、そんなガッツポーズ出来るような点数じゃないだろ」
「何言ってんっすか! 今回のテスト、一個も赤点取らなかったんっすよ? むしろ、褒めてくださいよ!」
「いや。それが当たり前だからな。代々木」

 冷静な担任のツッコミに、教室中が“ドッ!”と湧く。
 相変わらずの、大介の調子の良さに、俺も洋一郎も顔を見合わせ苦笑するものの、直ぐに洋一郎は、どこか納得いかないような不機嫌そうな顔をし、答案用紙を見ながら、何やらブツブツ独り言を言っていた。
 学年一位をずっとキープしている奴の事だ。
 きっと、一つでも間違った事の方が気になっているんだろうと、その時は思っていた。
 その後、テストの解放感からか、一週間後に迫った夏休みへの期待感からか、浮足立ち、ザワついたHRも終わると、嬉しそうに目を輝かせながら大介が俺らに駆け寄って来た。

「ジャジャーーン! 見てくれよ!」 

 テストの結果が配られた日は、大概、赤点の一つや二つあり、いつも、追試や補講で涙目になって落ち込む筈のコイツが、今日は、ドヤ顔でテスト結果を見せて来た。
 落ち込んで暗くなられるのもウザいが、こうやって、赤点ギリギリな点数が並ぶ成績表を印籠のように持って、自慢げな顔をされるのも、ちょっとウザいな……と思っていると、横から、その結果表を取り上げ、無表情に確認する洋一郎の姿があった。

「答案用紙」

 冷たく言い放つその声に、大介は怖々と鞄から答案用紙を差し出すと、一枚一枚チャックし出した。
 その異様な様子に、大介の耳元で、「お前、何かしでかした?」と小声で尋ねると、小さくフルフルと首を横に振る。
 しかし、答案用紙を確認していく度に眉間に皺が寄って行く洋一郎の姿を見ていると、どうも、おかしい。

「どうした?」

 思わず、聞いてしまう。
 すると、プルプル小刻みに震え出した。

「だ……」
「だ?」
「大介……」
「大介の答案用紙がどうかしたのか?」

 俺達の様子をオロオロと見る大介の顔は、先程の輝きに満ちた表情ではなく、既に恐怖心で一杯の。
 まるで、粗相をして叱られる前の犬のようであった。

 俺は、その顔を見て確信した。
 きっと大介は、洋一郎に勉強を見て貰っていたのだと。
 そして、この成績は教えた洋一郎のプライドを粉々にするに値する程、酷いという事は明白。

『あ~……やっちまったなぁ。大介』

 そう思った瞬間、洋一郎の絶対零度な言葉が投げつけられた。

「大介。僕はね。お前が“勉強を教えてくれ”と頼んで来た時。心底喜んだよ。ようやく、真面目にテストを受ける気になったのかと」
「えへへ」
「ここは、別に褒めてない。照れ笑いする必要は全くない! 今回は、お前に赤点なんか取られたら、補講で夏休みが潰れる事になる。そうなったら、例の計画は丸つぶれだ。それだけは最低限避けて欲しかったし、その為にも俺はひと肌脱いで、お前の勉強に付き合った」
「お陰様で赤点は免れ……」

 パンッ!

 大介の言葉を遮り、洋一郎は、いつの間にか丸めた答案用紙で、片手を叩き、大きな音を鳴らした。
 その音に、思わず俺までビビると、「赤点を取らない事は“最低限”の事なんだ!」と、声を荒げた。

「……はい」
「大体、僕が教えたからには、どんなに馬鹿でも、せめて全教科平均点以上は取って貰うつもりだった」
「うっ……」
「しかも、今回のテスト。僕、出そうなポイント、お前に教えたよね?」
「はい……」
「そのポイントの八割は出ていたと思うんだが……」
「え? そうなの?」

 神妙な顔をしながら話す洋一郎に対し、いきなり、すっとぼけた声を上げる。
 思わず、その言葉にポカーンとしたものの、次の瞬間

「お前は、何を聞いていたんだあぁぁぁぁぁ!」

 常に冷静な洋一郎が、珍しく怒鳴ると、“ヒィッ”と、喉を鳴らして俺の後ろに隠れる。
 
 はぁーーーーーーっ……成程。
 さっき、自分の答案用紙を何度も確認しながら不機嫌そうな顔をしていたのは、そのヤマカンポイントが、どれだけ出ていたのかチェックしていたんだな。
 で、そのポイントだけでも正解していれば、きっと、平均点は取れていた筈。
 それなのに、コイツは赤点ギリギリだったって訳か。
 まぁ……自分の貴重な時間を割いて、教えた結果がこれじゃぁ、確かに、怒る気持ちも分らんでもないが、今は、それよりも……

「まぁまぁ。そのくらいにしておけよ! それよりも、ようやく、テスト結果も出て、安心出来た事だし。俺んちに来ねぇ?」

 その一言で、二人共、俺が言わんとする事を察知する。

「そうだったな。“こんな事”で、ギャーギャー騒いでいる場合じゃなかったな」

 先程までの怒りの余韻が残っているのか、大介に対し、棘のある言い方をしつつも、洋一郎も納得したものの、何かを思い出したかのように「あ!」と、声を上げた。

「どうした? 何か予定でもあったか?」

 その表情から、今日は塾や家庭教師が来る事でも忘れていたのかと心配すると少し考えるような素振りをした後で、首を横に振った。

「いや。今日、明日は別に何もないんだが……とりあえず、まずは、ここを出よう」

 チラリと周りの様子を気にするその視線を辿ると、まだ教室にはチラホラとクラスメイトが残っていた。
 勿論、別にそいつらが俺らの会話を聞いている雰囲気も、何かを探っているような素振りも無いのだが、誰にも聞かれたくはない内容なのだろう。
 考えてみれば、これから三人で話し合う事だって、学校で話せるような事ではない。
 俺らは残っているクラスメイトに挨拶をすると、学校を後にした。
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