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episode 8
7
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それぞれの場所にきちんと座り直すと、彼女はホッと息をつき、「流石にイケメン高校生三人に囲まれると、お姉さん、心臓ドキドキしちゃうわ」などと、訳の分からない事をブツブツ呟いた後、気合いを入れ直すように自分の両頬を叩いた。
「まず、結論から。龍平さんは、上田君がいずれ実戦で空手を使う時が来る事を予想していたのよ」
「え?」
「は?」
「ほえ?」
三人三様の間抜けな声を出す。
そりゃそうだ。
さっきまで、彼女自身が言っていた。
“平和な日本社会の中。普通の生活をしていれば、そうそう襲われるというシチュエーションは無い”
だったら、実戦で空手を使う事なんて、そうある事ではないし、争い事やいざこざに自分から首を突っ込まなければ、殆ど喧嘩にだって遭わないだろう。
そりゃ、俺は目つきが悪いから、初対面の人には怖がられたり、目をつけられたりもしてきたが、大概、中身を知れば仲良くなる。
俺の性格をよく知る祖父なら、俺が実戦で使うようなシチュエーションを予想するなんてことはない筈。
「あ、別に上田君が喧嘩を吹っ掛けられたり、吹っ掛けたりするなんていう心配は龍平さんもしていなかったと思うわよ」
困惑している俺達の顔を見て考えている事が分かったのか、米澤さんはすかさずフォローを入れた。
「これはあくまでも憶測。龍平さんは、自分のせいで貴方が何者かと戦うことになると確信に近い予感があったんだと思うわ」
「じいちゃんのせいで?」
「ええ」
生前の祖父を知っている俺達全員が訳が分からず、戸惑い、声を出せずに彼女に鋭い視線を突き刺すが、そんなもの痛くも痒くもないといった風体で、米澤さんは家族の俺ですら知らなかった事実を口にした。
「あなたも知っているように、お祖父さまは建築設計士として山上工務店に勤務。山上工務店と言えば、スーパーゼネコン五社の内の一社。そんな大手企業の中でも、龍平さんは相当優秀だったようね」
目線を下に落とし、自分の指を一本一本折り曲げながら祖父が受賞してきた数々のデザイン賞や建築賞などを呟きだした。
建築業界の発展にも、国の施設開発にも多大なる貢献をしてきた祖父へは、そういったコンテストでの賞だけでなく、国や県、会社からの感謝状も数多い。
その中でも主主たるものを口にした後、スッと視線を俺に移した。
「これだけの才能、政府が目をつけなかったと思う? いいえ、思わないわよね」
まるで祖父が政府と繋がっていたかのような言い方。
この人は一体何を言っているんだ?
俺の家に政府の役人が来た事も、祖父がそんな人達と関わっていたなんていう話しは聞いちゃいない。
――いや。考えても見ろ。
政府からの仕事の依頼と言えば、秘密裡に行われることも多い筈。
そうなれば、家族にだって依頼も仕事内容も話す訳なんて無い。
「要するに、龍平ジィは政府と繋がっていたってことが言いたいんですね?」
当事者である俺が発するより先に、隣にいた洋一郎が静かに答えた。
「繋がっていた……というと少し語弊があるかも。ただ、龍平さんは山上工務店を通してではなく、政府直々の依頼。いいえ、命令として後に自分も含む全国民に多大なる影響を及ぼす事となった施設の意匠、構造、設備。全ての設計に携わった。しかも、その施設の設計プロジェクトのリーダーとしてね」
「まさか、それって……」
ハッキリと施設の名を名言はしていないが、ここまで話せばどんなに鈍い奴だって分かる。
緊張感を露わにした洋一郎に、血の気のなくなった顔をし、俺の様子を心配そうに伺う大介を見ても、やはり、俺と同じ答えに行きついているのは明らかだ。
「そう。『paraíso』の施設よ」
俺達の反応を見てまごつくことも臆することもなく、平然と言ってのけた彼女のは、俺にとって救いとも言えるべき話しを続けた。
「龍平さんを始め、設計プロジェクトに携わった人は皆、政府からは『軍事兵器研究所』として依頼されたの。本土から離れた無人島に建設するのだから、住民反対運動が起こることはないし、むしろ、国有資産である土地の有効利用にもなる」
確かに、全く使われていない無人島に国有の大きな施設を作ったとして、反対運動をする者がいるとすれば、国民の税金を無駄な施設建設に使うなと叫ぶ、反政府団体ぐらいだろう。
第一、政府が緘口令を敷けば、例え無人島に多くの人間が送り込まれようと、何が行われていようと島の内部での出来事は一般人に知られる事はない。
これは既に、『paraíso』計画が執行されてから数年経った今でも、あの施設内で起きている事実を一般人が誰も知らないという点から見ても明らかだ。
「世情から言っても、後々、軍事力を高めなければならないことは一般人でも容易に理解出来た筈。ただ、当時はまだ日本国防軍は自衛隊であったし、日本国内でそんな大規模な軍事施設が出来ようものなら国内外からの非難が殺到する事は目に見えていた」
「だから、じいちゃんは極秘任務としてその依頼を断ることなく受け入れたってことか」
「そういうこと。こういった理由であれば、依頼を受けた人間は誰一人として秘密を離す事は無いでしょう? 秘密が漏れれば、日本は世界的に非難を受ける。しかも、それが自分が原因だとバレたとしたら――」
「下手したら、自分の命どころか家族や知人の命まで危ういって事ですか?」
彼女の言葉に続くであろう台詞を補うように確認すると、俺の目をしっかりと見据えて深く頷いた。
「ってことは、じいちゃんは、自分がその秘密を誰かにバラそうとしていた? だから、俺に空手を?」
「それは話が飛躍し過ぎよ。龍平さんは、あくまでも『軍事兵器研究所』の設計に携わっていたのだから、かなり不自然な注文や不可解な部分があったとしても、国の為だと思い政府の要求を飲んだ筈。あくまでも国の為に……ね。自分が心血を注いだものが、『paraíso』施設に使われた事に、お祖父さまは発表後、直ぐに気が付いた。そして、同時に政府の思惑にもね……」
「『paraíso』計画が高齢化社会対策ではなく、軍事目的で生物兵器を開発する為に高齢者を人体実験に使う計画だって事にか? だとしたら、じいちゃんは非人道的な政府の計画に文句をつけに行こうとしたんじゃっ」
「そこまで貴方のお祖父さまは考え無しの大馬鹿者なの?」
声を荒げた俺よりも大きな声を出して、俺の発言を打ち消す彼女の言葉にぐうの音も出ない。
「龍平さんは馬鹿ではない。きちんとした証拠も無しに下手な行動をするような人ではないわ。現に、今まで貴方は誰かにつけられたり、襲われたりなんかしていない」
過去を振り返ってみても、両親から過剰なまでの保護は受けていないし、門限なんかも特に設けられていない。
それどころか、全ての期待は兄貴にいっているせいか、俺は自由気ままに生活させて貰っている。
「龍平さんは、『paraíso』計画が執行された直後から、自分が携わった施設がその計画の一部だと知りつつも黙認していたの。彼の心の奥底では怒りと疑惑の炎が常に燃えていたけれど、それをひた隠しにしてね」
彼女の話を聞いているうちに俺はふと気が付いた。
俺が極真空手へ変わった時と、政府が『paraíso』計画を開始した年とが同じだということに。
頭の中で駆け巡る様々な情報。
その中でも、何故、祖父自身が『paraíso』に収容されるまで、頑なに秘密を守り通していたと言うのに、俺にフルコンタクト派空手を習わせ、実戦でも使えるよう鍛えさせたのか。
彼が秘密を暴露しない限り俺達家族が狙われる事もないし、第一、もし危険にさらされるのであれば、俺だけでなく家族全員に他国かどこか安全な場所に避難するように指示する筈。
頭の中はまさに疑問だらけになった。
「ふふふっ」
こちらが散々頭を悩ませているというのに、この場にそぐわない軽やかな笑い声が響く。
チロリと睨めば、「そんな悩む事?」などと、悩ませた張本人がケロリろした表情で尋ねる。
「そりゃ悩むでしょう? じいちゃんが施設に入るまで秘密を暴露しなかったんだから、俺達に危険が及ぶ事はない。俺が実戦で空手を使う確率なんて無いに等しいでしょう」
「でも、龍平さんは、貴方の性格を貴方以上によぉく理解していた」
「え?」
「あぁ。成程」
「は? 洋ちゃん、今の会話で何が『成程』な訳?」
大介の言う通りだ。
祖父が俺の性格を理解しているのと、今までの話と何の繋がりがあるんだよ。
洋一郎はやけに納得しているようだが……どういうことなんだ?
ムカムカとモヤモヤが入り混じったような複雑な苛立ちを含みながらギロリと睨めば、それを受けた洋一郎は肩を竦める。
「いいか。克也。お前は今、何をやっている?」
「はぁ?」
そんなの聞かなくったって、お前も一緒になってやっている事なんだから分かっているだろうが。
第一。
やけに怪しい『paraíso』計画。
調べれば調べる程、完璧な老人たちの楽園。
そこにある歪みを発見してきたのは、洋一郎、お前じゃないかよっ!
俺は、米澤さんが言わんとする答えを知っていながら焦らすような態度を取る親友に、小さな怒りが込み上げ、ムッとした表情で黙り込む。
そんな俺とは反対に能天気な大介が「え? 何って、洋ちゃん、馬鹿なの? 龍平ジィ救出大作戦! あわよくば『paraíso』の秘密を大暴露計画でしょ」と、俺達の企みをネーミングセンスの欠片も無い言葉で堂々と発言した。
だが、そんな彼に対し、二人は大袈裟に「そうだよ! その通りだよ」と拍手しながら褒め称えだす。
当たり前の事を言っただけなのに、思わぬ反応をくらい照れていいのか、得意気な顔をしていいのか分からず困惑気味な大介に、相変わらず、二人が何を言いたいのかが分からない俺。
ムカついていた気持ちもどこかへ消え去り呆気にとられていると、米澤さんが静かに笑った。
「だから。そういうこと。変なところで正義感が強くて義理堅い。しかも、おじいちゃんっ子だった貴方は、龍平さんが『paraíso』へ収容されたら、間違いなく、その施設を調べるだろうと見越していたのよ。言うまでもなく、自分を助けにくるであろうこともね」
「その言い方だと、じいちゃんが大人しく収容されたのは、自分で政府の思惑を暴露するんじゃなく、俺の性格上、政府に疑問を持ち、何等かの行動に出る事を予想していた。そえで、自分の命も『paraíso』計画の未来も俺に委ねたって訳?」
「お前、それは自意識過剰だろ。たかが高校生のお前に龍平ジィは何の期待もしてないよ」
これまでの話の流れからしてみれば、どう考えたって俺が『paraíso』施設に乗り込むところまでは想像していなくても、政府に喧嘩を売るような行動を取るって事は予想していた訳だろ?
だったら、多少なりとも祖父は俺がこの計画の氷山の一角でも崩す期待をしていたって思ったっておかしくないのに、洋一郎は冷静に「それは違う」と否定する。
「大体、何で龍平ジィが何故大人しく施設に行ったか。それは、龍平ジィの頭ん中には施設内の全ての配置が記憶されていたからだ」
「洋ちゃん、どういう事?」
俺同様、全く話しの中身が見えてこない大介が食いつく。
「七十歳になれば、政府直々に島へ招待してくれる。龍平ジィは自分が携わった施設で何が行われているのかを自分の目で確かめる為に時を待ったんだよ」
「流石はIQ150は違うわね」
ヒュウッと口笛を鳴らし、感嘆の声を上げるが、そんな米澤さんの態度は、このシリアスな状況にはかなり不釣り合いで、茶化されたような形になった洋一郎がチロリと睨む。
「怖い怖い」と、全く怖く無さそうに呟き肩を竦める彼女を尻目に、洋一郎は続けた。
「簡潔に言えば……。建設されたものは軍事関係の研究施設だ。何かしらのトラブルが発生した場合、その全てを隠蔽する為に、施設そのものを破壊する仕掛けも設置してあったんじゃないかと思う。そして、それを設計し、建設時にも要所要所で立ち合っていたのは龍平ジィの筈だ」
そこで初めてピンと来た。
「じいちゃんは、自分の命と引き換えに施設を破壊しようと考えていたんだな」
「あぁ。正確には、自分の目で確かめ、それが人道に反する施設だと判断した時に、政府の狂った計画と共に崩壊させようとしたんだろう」
しんみりした空気が流れる。
祖父ならやりかねない。
いや、間違いなく、洋一郎が言ったことを実行しようとしたんだろう。
それで……逆に捕まえられ、マインドコントロールを受けた。
祖父の計画は失敗に終わったんだ。
悔しさと無念で無意識に拳を強く握りしめ、歯を食いしばる。
「そして、『paraíso』施設破壊に失敗すれば、いつか必ず孫の耳に何かしらの情報が入る。そうなれば、危険を顧みず、自分と同じように政府に立ち向かうであろう大事な孫にせめて少しでもその身を護る術を身につけさせる為に実戦空手を身につけさせたっていうのが、私達の憶測」
重苦しい空気を断ち切るかのように、米澤さんが洋一郎の言葉の後を続けた。
「で、龍平さんの考えは見事的中。現に、あなた達。アレを見てしまったのでしょう?」
「アレって?」
まるで蓄音機に耳を傾けるビクター犬のように、目を真ん丸にして小首を傾げる大介は、全く思い当たらないようだ。
だが、流石にこれは俺でも分かる。
「S共和国とI国との紛争の映像。その中に映し出された日本国防軍――いいや、人体実験にされた人々」
「それと、マインドコントロールされた龍平ジィ」
「あぁっ! ソレか!」
「マインドコントロール?」
洋一郎の言葉に合点がいった大介とは対照的に、不思議そうに首を捻る米澤さん。
俺達は、洋一郎が政府機密情報システムから入手した映像を元に、『paraíso』と日本国防軍との繋がりや、何故、祖父があの現場でカメラマンに指示を出していたのかを独自で推理した内容を手短に説明した。
「それより、さっきから引っ掛かってるんですが、米澤さんも例の施設に収容された人達が人体実験に使われているって睨んでいるんですか? それとも、あなた方の調査で既に確認済なのですか?」
洋一郎が急に思い出したかのように顔を跳ね上げ彼女の顔を見る。
突然自分に質問が投げかけられ、一瞬目を丸くしたものの、すぐに目を細めた。
「あ~。さっきから君達が軍事施設で人体実験が行われているというのを仮説としてではなく、事実だとして語っていることに、否定もしなければ驚きもしないから?」
彼女の言葉に洋一郎は肯定の意味で頷く。
「あなた達も忘れたの? あなた達の所にやって来た原因となったものは、今話をしていた政府機密システムの件よ? あの映像のことだって、さっきも『アレ』呼ばわりしていた私が、その中身を見たことは言うまでもないでしょう?」
「あっ……そうか。そうですよね。アレを政府機密システムの……しかも、『paraíso』の極秘ファイルから見つけ出したんであれば、同じ結論に辿り着くのは当然だ」
「そういう事」
お茶目にウィンクをキメる彼女は、再び俺の方に顔を向けた。
その目はいやに真剣で、何故か俺は空手の師範から注意を受ける時のように緊張し、背筋を伸ばした。
次は一体何を言われるのか?
ただならぬ雰囲気に他二名も姿勢を正す。
「上田君」
「はい」
「君には八歳年上のお兄さんもいるわよね。名前は直也。百瀬君も相当頭がいいけれど、彼は頭がいいっていうレベルではない。まさに、天才」
今までの話の流れをぶった切っての兄貴の話に頭が真っ白になった。
まさか。
いいや。
兄貴に関しては国家レベルの機密事項だ。
流石の米澤さん達だって、彼の事は政府の研究機関で働いているレベルしか調査しきれていないだろう。
だが、そんな俺の甘い予測は見事に裏切られる。
「直也さんは、軍事機密研究所で軍事兵器の開発に掛かりっきりだそうね。しかも、今回の新兵器開発チームでのチーム長を務めているとか。優秀な人材ばかりを集めている中で二十代にしてチーム長なんて、よっぽど優れていなければ誰も認めないわ」
俺でも知らない兄貴の情報を、何故、こんなにも彼女は詳しく知っているんだ?
愕然とする俺を見て、「あ~……」と、困った顔をして頭を掻く米澤さん。
「そういえば、肉親ですらも連絡は禁止。研究所の場所すらも教えられていないという徹底ぶりなのよね」
「どうしてそこまで……普通に調べたぐらいじゃ、ただ単に政府管轄の研究機関に所属している事しか分らない筈ですよね?」
「そりゃぁ、私のボスは裏が激しいですから」
彼女達は俺以上に俺の事を知っているんじゃないかと思う程の情報網に驚き狼狽え、その情報の入手先を尋ねるが、彼女は上手に躱す。
多分、彼女と共に行動していれば、嫌でも世間の裏側とやらを目の当りにするだろうから、ここはひとまず、深く追求しないでおこう。
とはいえ、彼女がここで兄貴の名前を出したという事は、もしかして――
「もしかして、直也さんもあの島に?」
洋一郎の声が響く。
そうだ。
俺達は、兄貴が軍事兵器開発に携わっているであろう事も、この『paraíso』に関係しているであろう事も予測していた。
だが、なんでこんな単純な事に気が付かなかったんだ。
連絡手段も存在地も分からない軍事機密研究所。
それが、『paraíso』施設そのものだっていう事に何で気が付かなかったんだろう。
「多分ね。で、ここからが私の提案」
今までの話は、あくまで彼女が僕達をどの程度まで調べているのか。
そして、互いにどの程度まで『paraíso』に関しての知識を持ち、どう考えているかという情報の擦り合わせ及び確認に過ぎない。
問題はここからだ。
俺達は、彼女がこれから発表する『提案』とやらに、猜疑心とドキドキワクワクする好奇心と、不安とが入り混じった何とも例えがたい気持ちの昂ぶりを感じた。
「まず、結論から。龍平さんは、上田君がいずれ実戦で空手を使う時が来る事を予想していたのよ」
「え?」
「は?」
「ほえ?」
三人三様の間抜けな声を出す。
そりゃそうだ。
さっきまで、彼女自身が言っていた。
“平和な日本社会の中。普通の生活をしていれば、そうそう襲われるというシチュエーションは無い”
だったら、実戦で空手を使う事なんて、そうある事ではないし、争い事やいざこざに自分から首を突っ込まなければ、殆ど喧嘩にだって遭わないだろう。
そりゃ、俺は目つきが悪いから、初対面の人には怖がられたり、目をつけられたりもしてきたが、大概、中身を知れば仲良くなる。
俺の性格をよく知る祖父なら、俺が実戦で使うようなシチュエーションを予想するなんてことはない筈。
「あ、別に上田君が喧嘩を吹っ掛けられたり、吹っ掛けたりするなんていう心配は龍平さんもしていなかったと思うわよ」
困惑している俺達の顔を見て考えている事が分かったのか、米澤さんはすかさずフォローを入れた。
「これはあくまでも憶測。龍平さんは、自分のせいで貴方が何者かと戦うことになると確信に近い予感があったんだと思うわ」
「じいちゃんのせいで?」
「ええ」
生前の祖父を知っている俺達全員が訳が分からず、戸惑い、声を出せずに彼女に鋭い視線を突き刺すが、そんなもの痛くも痒くもないといった風体で、米澤さんは家族の俺ですら知らなかった事実を口にした。
「あなたも知っているように、お祖父さまは建築設計士として山上工務店に勤務。山上工務店と言えば、スーパーゼネコン五社の内の一社。そんな大手企業の中でも、龍平さんは相当優秀だったようね」
目線を下に落とし、自分の指を一本一本折り曲げながら祖父が受賞してきた数々のデザイン賞や建築賞などを呟きだした。
建築業界の発展にも、国の施設開発にも多大なる貢献をしてきた祖父へは、そういったコンテストでの賞だけでなく、国や県、会社からの感謝状も数多い。
その中でも主主たるものを口にした後、スッと視線を俺に移した。
「これだけの才能、政府が目をつけなかったと思う? いいえ、思わないわよね」
まるで祖父が政府と繋がっていたかのような言い方。
この人は一体何を言っているんだ?
俺の家に政府の役人が来た事も、祖父がそんな人達と関わっていたなんていう話しは聞いちゃいない。
――いや。考えても見ろ。
政府からの仕事の依頼と言えば、秘密裡に行われることも多い筈。
そうなれば、家族にだって依頼も仕事内容も話す訳なんて無い。
「要するに、龍平ジィは政府と繋がっていたってことが言いたいんですね?」
当事者である俺が発するより先に、隣にいた洋一郎が静かに答えた。
「繋がっていた……というと少し語弊があるかも。ただ、龍平さんは山上工務店を通してではなく、政府直々の依頼。いいえ、命令として後に自分も含む全国民に多大なる影響を及ぼす事となった施設の意匠、構造、設備。全ての設計に携わった。しかも、その施設の設計プロジェクトのリーダーとしてね」
「まさか、それって……」
ハッキリと施設の名を名言はしていないが、ここまで話せばどんなに鈍い奴だって分かる。
緊張感を露わにした洋一郎に、血の気のなくなった顔をし、俺の様子を心配そうに伺う大介を見ても、やはり、俺と同じ答えに行きついているのは明らかだ。
「そう。『paraíso』の施設よ」
俺達の反応を見てまごつくことも臆することもなく、平然と言ってのけた彼女のは、俺にとって救いとも言えるべき話しを続けた。
「龍平さんを始め、設計プロジェクトに携わった人は皆、政府からは『軍事兵器研究所』として依頼されたの。本土から離れた無人島に建設するのだから、住民反対運動が起こることはないし、むしろ、国有資産である土地の有効利用にもなる」
確かに、全く使われていない無人島に国有の大きな施設を作ったとして、反対運動をする者がいるとすれば、国民の税金を無駄な施設建設に使うなと叫ぶ、反政府団体ぐらいだろう。
第一、政府が緘口令を敷けば、例え無人島に多くの人間が送り込まれようと、何が行われていようと島の内部での出来事は一般人に知られる事はない。
これは既に、『paraíso』計画が執行されてから数年経った今でも、あの施設内で起きている事実を一般人が誰も知らないという点から見ても明らかだ。
「世情から言っても、後々、軍事力を高めなければならないことは一般人でも容易に理解出来た筈。ただ、当時はまだ日本国防軍は自衛隊であったし、日本国内でそんな大規模な軍事施設が出来ようものなら国内外からの非難が殺到する事は目に見えていた」
「だから、じいちゃんは極秘任務としてその依頼を断ることなく受け入れたってことか」
「そういうこと。こういった理由であれば、依頼を受けた人間は誰一人として秘密を離す事は無いでしょう? 秘密が漏れれば、日本は世界的に非難を受ける。しかも、それが自分が原因だとバレたとしたら――」
「下手したら、自分の命どころか家族や知人の命まで危ういって事ですか?」
彼女の言葉に続くであろう台詞を補うように確認すると、俺の目をしっかりと見据えて深く頷いた。
「ってことは、じいちゃんは、自分がその秘密を誰かにバラそうとしていた? だから、俺に空手を?」
「それは話が飛躍し過ぎよ。龍平さんは、あくまでも『軍事兵器研究所』の設計に携わっていたのだから、かなり不自然な注文や不可解な部分があったとしても、国の為だと思い政府の要求を飲んだ筈。あくまでも国の為に……ね。自分が心血を注いだものが、『paraíso』施設に使われた事に、お祖父さまは発表後、直ぐに気が付いた。そして、同時に政府の思惑にもね……」
「『paraíso』計画が高齢化社会対策ではなく、軍事目的で生物兵器を開発する為に高齢者を人体実験に使う計画だって事にか? だとしたら、じいちゃんは非人道的な政府の計画に文句をつけに行こうとしたんじゃっ」
「そこまで貴方のお祖父さまは考え無しの大馬鹿者なの?」
声を荒げた俺よりも大きな声を出して、俺の発言を打ち消す彼女の言葉にぐうの音も出ない。
「龍平さんは馬鹿ではない。きちんとした証拠も無しに下手な行動をするような人ではないわ。現に、今まで貴方は誰かにつけられたり、襲われたりなんかしていない」
過去を振り返ってみても、両親から過剰なまでの保護は受けていないし、門限なんかも特に設けられていない。
それどころか、全ての期待は兄貴にいっているせいか、俺は自由気ままに生活させて貰っている。
「龍平さんは、『paraíso』計画が執行された直後から、自分が携わった施設がその計画の一部だと知りつつも黙認していたの。彼の心の奥底では怒りと疑惑の炎が常に燃えていたけれど、それをひた隠しにしてね」
彼女の話を聞いているうちに俺はふと気が付いた。
俺が極真空手へ変わった時と、政府が『paraíso』計画を開始した年とが同じだということに。
頭の中で駆け巡る様々な情報。
その中でも、何故、祖父自身が『paraíso』に収容されるまで、頑なに秘密を守り通していたと言うのに、俺にフルコンタクト派空手を習わせ、実戦でも使えるよう鍛えさせたのか。
彼が秘密を暴露しない限り俺達家族が狙われる事もないし、第一、もし危険にさらされるのであれば、俺だけでなく家族全員に他国かどこか安全な場所に避難するように指示する筈。
頭の中はまさに疑問だらけになった。
「ふふふっ」
こちらが散々頭を悩ませているというのに、この場にそぐわない軽やかな笑い声が響く。
チロリと睨めば、「そんな悩む事?」などと、悩ませた張本人がケロリろした表情で尋ねる。
「そりゃ悩むでしょう? じいちゃんが施設に入るまで秘密を暴露しなかったんだから、俺達に危険が及ぶ事はない。俺が実戦で空手を使う確率なんて無いに等しいでしょう」
「でも、龍平さんは、貴方の性格を貴方以上によぉく理解していた」
「え?」
「あぁ。成程」
「は? 洋ちゃん、今の会話で何が『成程』な訳?」
大介の言う通りだ。
祖父が俺の性格を理解しているのと、今までの話と何の繋がりがあるんだよ。
洋一郎はやけに納得しているようだが……どういうことなんだ?
ムカムカとモヤモヤが入り混じったような複雑な苛立ちを含みながらギロリと睨めば、それを受けた洋一郎は肩を竦める。
「いいか。克也。お前は今、何をやっている?」
「はぁ?」
そんなの聞かなくったって、お前も一緒になってやっている事なんだから分かっているだろうが。
第一。
やけに怪しい『paraíso』計画。
調べれば調べる程、完璧な老人たちの楽園。
そこにある歪みを発見してきたのは、洋一郎、お前じゃないかよっ!
俺は、米澤さんが言わんとする答えを知っていながら焦らすような態度を取る親友に、小さな怒りが込み上げ、ムッとした表情で黙り込む。
そんな俺とは反対に能天気な大介が「え? 何って、洋ちゃん、馬鹿なの? 龍平ジィ救出大作戦! あわよくば『paraíso』の秘密を大暴露計画でしょ」と、俺達の企みをネーミングセンスの欠片も無い言葉で堂々と発言した。
だが、そんな彼に対し、二人は大袈裟に「そうだよ! その通りだよ」と拍手しながら褒め称えだす。
当たり前の事を言っただけなのに、思わぬ反応をくらい照れていいのか、得意気な顔をしていいのか分からず困惑気味な大介に、相変わらず、二人が何を言いたいのかが分からない俺。
ムカついていた気持ちもどこかへ消え去り呆気にとられていると、米澤さんが静かに笑った。
「だから。そういうこと。変なところで正義感が強くて義理堅い。しかも、おじいちゃんっ子だった貴方は、龍平さんが『paraíso』へ収容されたら、間違いなく、その施設を調べるだろうと見越していたのよ。言うまでもなく、自分を助けにくるであろうこともね」
「その言い方だと、じいちゃんが大人しく収容されたのは、自分で政府の思惑を暴露するんじゃなく、俺の性格上、政府に疑問を持ち、何等かの行動に出る事を予想していた。そえで、自分の命も『paraíso』計画の未来も俺に委ねたって訳?」
「お前、それは自意識過剰だろ。たかが高校生のお前に龍平ジィは何の期待もしてないよ」
これまでの話の流れからしてみれば、どう考えたって俺が『paraíso』施設に乗り込むところまでは想像していなくても、政府に喧嘩を売るような行動を取るって事は予想していた訳だろ?
だったら、多少なりとも祖父は俺がこの計画の氷山の一角でも崩す期待をしていたって思ったっておかしくないのに、洋一郎は冷静に「それは違う」と否定する。
「大体、何で龍平ジィが何故大人しく施設に行ったか。それは、龍平ジィの頭ん中には施設内の全ての配置が記憶されていたからだ」
「洋ちゃん、どういう事?」
俺同様、全く話しの中身が見えてこない大介が食いつく。
「七十歳になれば、政府直々に島へ招待してくれる。龍平ジィは自分が携わった施設で何が行われているのかを自分の目で確かめる為に時を待ったんだよ」
「流石はIQ150は違うわね」
ヒュウッと口笛を鳴らし、感嘆の声を上げるが、そんな米澤さんの態度は、このシリアスな状況にはかなり不釣り合いで、茶化されたような形になった洋一郎がチロリと睨む。
「怖い怖い」と、全く怖く無さそうに呟き肩を竦める彼女を尻目に、洋一郎は続けた。
「簡潔に言えば……。建設されたものは軍事関係の研究施設だ。何かしらのトラブルが発生した場合、その全てを隠蔽する為に、施設そのものを破壊する仕掛けも設置してあったんじゃないかと思う。そして、それを設計し、建設時にも要所要所で立ち合っていたのは龍平ジィの筈だ」
そこで初めてピンと来た。
「じいちゃんは、自分の命と引き換えに施設を破壊しようと考えていたんだな」
「あぁ。正確には、自分の目で確かめ、それが人道に反する施設だと判断した時に、政府の狂った計画と共に崩壊させようとしたんだろう」
しんみりした空気が流れる。
祖父ならやりかねない。
いや、間違いなく、洋一郎が言ったことを実行しようとしたんだろう。
それで……逆に捕まえられ、マインドコントロールを受けた。
祖父の計画は失敗に終わったんだ。
悔しさと無念で無意識に拳を強く握りしめ、歯を食いしばる。
「そして、『paraíso』施設破壊に失敗すれば、いつか必ず孫の耳に何かしらの情報が入る。そうなれば、危険を顧みず、自分と同じように政府に立ち向かうであろう大事な孫にせめて少しでもその身を護る術を身につけさせる為に実戦空手を身につけさせたっていうのが、私達の憶測」
重苦しい空気を断ち切るかのように、米澤さんが洋一郎の言葉の後を続けた。
「で、龍平さんの考えは見事的中。現に、あなた達。アレを見てしまったのでしょう?」
「アレって?」
まるで蓄音機に耳を傾けるビクター犬のように、目を真ん丸にして小首を傾げる大介は、全く思い当たらないようだ。
だが、流石にこれは俺でも分かる。
「S共和国とI国との紛争の映像。その中に映し出された日本国防軍――いいや、人体実験にされた人々」
「それと、マインドコントロールされた龍平ジィ」
「あぁっ! ソレか!」
「マインドコントロール?」
洋一郎の言葉に合点がいった大介とは対照的に、不思議そうに首を捻る米澤さん。
俺達は、洋一郎が政府機密情報システムから入手した映像を元に、『paraíso』と日本国防軍との繋がりや、何故、祖父があの現場でカメラマンに指示を出していたのかを独自で推理した内容を手短に説明した。
「それより、さっきから引っ掛かってるんですが、米澤さんも例の施設に収容された人達が人体実験に使われているって睨んでいるんですか? それとも、あなた方の調査で既に確認済なのですか?」
洋一郎が急に思い出したかのように顔を跳ね上げ彼女の顔を見る。
突然自分に質問が投げかけられ、一瞬目を丸くしたものの、すぐに目を細めた。
「あ~。さっきから君達が軍事施設で人体実験が行われているというのを仮説としてではなく、事実だとして語っていることに、否定もしなければ驚きもしないから?」
彼女の言葉に洋一郎は肯定の意味で頷く。
「あなた達も忘れたの? あなた達の所にやって来た原因となったものは、今話をしていた政府機密システムの件よ? あの映像のことだって、さっきも『アレ』呼ばわりしていた私が、その中身を見たことは言うまでもないでしょう?」
「あっ……そうか。そうですよね。アレを政府機密システムの……しかも、『paraíso』の極秘ファイルから見つけ出したんであれば、同じ結論に辿り着くのは当然だ」
「そういう事」
お茶目にウィンクをキメる彼女は、再び俺の方に顔を向けた。
その目はいやに真剣で、何故か俺は空手の師範から注意を受ける時のように緊張し、背筋を伸ばした。
次は一体何を言われるのか?
ただならぬ雰囲気に他二名も姿勢を正す。
「上田君」
「はい」
「君には八歳年上のお兄さんもいるわよね。名前は直也。百瀬君も相当頭がいいけれど、彼は頭がいいっていうレベルではない。まさに、天才」
今までの話の流れをぶった切っての兄貴の話に頭が真っ白になった。
まさか。
いいや。
兄貴に関しては国家レベルの機密事項だ。
流石の米澤さん達だって、彼の事は政府の研究機関で働いているレベルしか調査しきれていないだろう。
だが、そんな俺の甘い予測は見事に裏切られる。
「直也さんは、軍事機密研究所で軍事兵器の開発に掛かりっきりだそうね。しかも、今回の新兵器開発チームでのチーム長を務めているとか。優秀な人材ばかりを集めている中で二十代にしてチーム長なんて、よっぽど優れていなければ誰も認めないわ」
俺でも知らない兄貴の情報を、何故、こんなにも彼女は詳しく知っているんだ?
愕然とする俺を見て、「あ~……」と、困った顔をして頭を掻く米澤さん。
「そういえば、肉親ですらも連絡は禁止。研究所の場所すらも教えられていないという徹底ぶりなのよね」
「どうしてそこまで……普通に調べたぐらいじゃ、ただ単に政府管轄の研究機関に所属している事しか分らない筈ですよね?」
「そりゃぁ、私のボスは裏が激しいですから」
彼女達は俺以上に俺の事を知っているんじゃないかと思う程の情報網に驚き狼狽え、その情報の入手先を尋ねるが、彼女は上手に躱す。
多分、彼女と共に行動していれば、嫌でも世間の裏側とやらを目の当りにするだろうから、ここはひとまず、深く追求しないでおこう。
とはいえ、彼女がここで兄貴の名前を出したという事は、もしかして――
「もしかして、直也さんもあの島に?」
洋一郎の声が響く。
そうだ。
俺達は、兄貴が軍事兵器開発に携わっているであろう事も、この『paraíso』に関係しているであろう事も予測していた。
だが、なんでこんな単純な事に気が付かなかったんだ。
連絡手段も存在地も分からない軍事機密研究所。
それが、『paraíso』施設そのものだっていう事に何で気が付かなかったんだろう。
「多分ね。で、ここからが私の提案」
今までの話は、あくまで彼女が僕達をどの程度まで調べているのか。
そして、互いにどの程度まで『paraíso』に関しての知識を持ち、どう考えているかという情報の擦り合わせ及び確認に過ぎない。
問題はここからだ。
俺達は、彼女がこれから発表する『提案』とやらに、猜疑心とドキドキワクワクする好奇心と、不安とが入り混じった何とも例えがたい気持ちの昂ぶりを感じた。
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