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episode 16
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かなりの振動が、底の方から伝わって来る装甲兵員輸送車に乗って、俺達は安全地帯へと移動している。
日野浦さん達が乗って行った軽装甲機動車に比べ、一回りほど大きいだろうか。
左右四本ずつ、合計で八本のタイヤで動く、大型車両。
操縦席は前方の天井に付けられたハッチから降りるような構造になっており、その他の乗員は後部中央にある兵員用乗降ハッチから兵員室へと入るような仕組みになっていた。
車内は側面にアルミ製のパイプで組み立てられ、背もたれと座る部分は厚手のポリエステルで作られた椅子が四脚ずつ、しっかりと固定されているので、必然的に進行方向に対しては横向きの格好になってしまう。
車内は意外に狭く、対面する人の膝と膝とが辛うじてぶつからない程度。
内側には被弾時に、装甲の内部剥離を防いで、人員への被害を少しでもなくすために、ケブラー繊維(アラミド繊維の一種で、耐熱性・引っ張り強度・弾力性に優れる繊維)による内張が施されているので、全体的にベージュがかった色をしている。
軽装甲車両と言われているが、高硬度鋼板の上に、更に、軽量のセラミックス複合装甲パネルを重ね、ボルトで止めてあるので、防御力だってある。
紛争地域であれば、これだけしっかりした車両に乗っていたって、命の保証はなく、不安でいっぱいになるだろうが、ここは日本。
狂気に満ちた感染者が現れようと、元は人間。
鉄の塊には流石に勝てない。
そして、何より俺達を驚かせ、安心感を抱かせたのは、操縦席を含む前方部分に埋め尽くされた装置。
外部に装備された機関銃は、手動で使用する事も可能ではあるが、擲弾発射機、発煙弾発砲機と同様、赤外線画像監視装置により車内のモニターを見ながら操作が出来ることに加え、この赤外線モニターのお陰で夜間の戦闘も可能だということ。
更には、GPSシステム、衛星通信装置等が搭載され、車内モニターで、島内全域のマップだけでなく、他の車両がどこに移動しているのか、他のエリアに異常はないかを確認出来る。
要するに前もって、この車両に近付いて来るものが分かるシステムまで備え付けられているのだ。
お陰で、ひとまずのところ、命の危険を脱したという安堵感から、車内にいる人間は皆、緊張し強張らせていた全身から力を緩ませ、表情にも若干の余裕が見える。
ただ。
俺は――俺と大介は、そんな事よりも気掛かりなことがあり、小難しい顏をしている俺の目の前で、大介は不安気に眉を下げていた。
狭っ苦しい兵員室の前方部。
つまりは、俺と大介が座っているところと、操縦席や色々なモニターや色々な装置が、ぎっしりと詰まっているフロント部分との間に、窮屈そうに体を丸めるボンは、飼い主とその親友の微妙な空気を察知して、心配そうにチラチラと上目遣いで様子を伺っている。
唇を噛みしめ、口を一切開かない俺達をよそに、兵員室にいる他のメンバーは、あれだけ恐怖に怯えて腰を抜かしていたというのが嘘のように、かしましく喋っている。
「まっつんは、ほんと、図太い神経してるよねぇ~。絶対、ホラー映画の最後で、『あれ? 皆は?』とか言って、散々苦労しながら敵をやっつけて生き延びた主人公達の前に、とぼけた顏して現れるタイプ。いいキャラしてんよっ!」
「違いますよ、晴香さん。どうでもいい知識だけが豊富で、いざとなったらすぐに逃げ去る腰抜けキャラですよ。で、逃げた先にいた敵に掴まって、食べられちゃう」
「お、おいっ! 米澤。お前なぁ~、縁起でもないこと言うなよ」
「あら、怒るとこソコなの? 図太い神経だとか、腰抜けってとこは気になんないの?」
「あははははっ! ヨネちん、そんなの当然よぉ~。だって、あんな切迫した場面で白目剥いて……ぷふっ」
「あ~、もうっ。勘弁してくださいよ。晴香さん」
席を一つ空けて、俺と横並びに座る女性二人にからかわれている松山さん。
一見、緊張感がないように見える車内の雰囲気は、何も知らない人間が見たら、それだけ装甲兵員輸送車に対する信頼感からきているものだと思うだろう。
けれど実際には、ピリピリとした空気を敢えて生み出さないよう、各々が気を遣っているだけだ。
兵員室には窓がなく、飛行場から出て来てから一度も周りの景色や状態を見ていない状況下で、不安や恐れを抱かない方がかえっておかしい。
ただ、俺と大介にとっては、そんなことよりも、洋一郎がこの場にいないことの方が大問題だ。
あいつ。
どう考えたって、怪しさ満点の日野浦さんと一緒に研究所に行くだなんて言い出しやがって。
普段、冷静なヤツだけに、一旦、こうと決めたら周りがどんなに反対しようと、自分の意見を押し通す。
そりゃぁ、俺も頑固だと自覚しているが、アイツは俺以上だ。
俺だけじゃなく、俺達の安全を確保しなくてはならないという責任を背負った神崎さんや、態度L・ふてぶてしさナンバー1なのに、どこか頼れるオッサンというイメージが定着した本郷さんも反対したってぇのに、「研究所に僕も行きます」の一点張り。
その理由ときたら、これまたアイツらしいっちゃぁアイツらしいんだけど。
まさか、「ここには、軍の関係者、名目上報道関係者、高校生の三つのグループがある訳ですけれど、やはり、情報は全てそれぞれのグループで平等に知っておくべきだと思うんです」なんて言い出すとは。
あんときの大人達の顏といったら、皆、ポカンと口を半開きにして、すげぇ間抜ヅラだったけど、すぐに本郷さんが言ったんだよな――――
その時の事を思い出しているうちに、車内であっても、頭に響くようなエンジンの大きな音が気にならないくらい、自分の思考の中へと入り込んでいた。
日野浦さん達が乗って行った軽装甲機動車に比べ、一回りほど大きいだろうか。
左右四本ずつ、合計で八本のタイヤで動く、大型車両。
操縦席は前方の天井に付けられたハッチから降りるような構造になっており、その他の乗員は後部中央にある兵員用乗降ハッチから兵員室へと入るような仕組みになっていた。
車内は側面にアルミ製のパイプで組み立てられ、背もたれと座る部分は厚手のポリエステルで作られた椅子が四脚ずつ、しっかりと固定されているので、必然的に進行方向に対しては横向きの格好になってしまう。
車内は意外に狭く、対面する人の膝と膝とが辛うじてぶつからない程度。
内側には被弾時に、装甲の内部剥離を防いで、人員への被害を少しでもなくすために、ケブラー繊維(アラミド繊維の一種で、耐熱性・引っ張り強度・弾力性に優れる繊維)による内張が施されているので、全体的にベージュがかった色をしている。
軽装甲車両と言われているが、高硬度鋼板の上に、更に、軽量のセラミックス複合装甲パネルを重ね、ボルトで止めてあるので、防御力だってある。
紛争地域であれば、これだけしっかりした車両に乗っていたって、命の保証はなく、不安でいっぱいになるだろうが、ここは日本。
狂気に満ちた感染者が現れようと、元は人間。
鉄の塊には流石に勝てない。
そして、何より俺達を驚かせ、安心感を抱かせたのは、操縦席を含む前方部分に埋め尽くされた装置。
外部に装備された機関銃は、手動で使用する事も可能ではあるが、擲弾発射機、発煙弾発砲機と同様、赤外線画像監視装置により車内のモニターを見ながら操作が出来ることに加え、この赤外線モニターのお陰で夜間の戦闘も可能だということ。
更には、GPSシステム、衛星通信装置等が搭載され、車内モニターで、島内全域のマップだけでなく、他の車両がどこに移動しているのか、他のエリアに異常はないかを確認出来る。
要するに前もって、この車両に近付いて来るものが分かるシステムまで備え付けられているのだ。
お陰で、ひとまずのところ、命の危険を脱したという安堵感から、車内にいる人間は皆、緊張し強張らせていた全身から力を緩ませ、表情にも若干の余裕が見える。
ただ。
俺は――俺と大介は、そんな事よりも気掛かりなことがあり、小難しい顏をしている俺の目の前で、大介は不安気に眉を下げていた。
狭っ苦しい兵員室の前方部。
つまりは、俺と大介が座っているところと、操縦席や色々なモニターや色々な装置が、ぎっしりと詰まっているフロント部分との間に、窮屈そうに体を丸めるボンは、飼い主とその親友の微妙な空気を察知して、心配そうにチラチラと上目遣いで様子を伺っている。
唇を噛みしめ、口を一切開かない俺達をよそに、兵員室にいる他のメンバーは、あれだけ恐怖に怯えて腰を抜かしていたというのが嘘のように、かしましく喋っている。
「まっつんは、ほんと、図太い神経してるよねぇ~。絶対、ホラー映画の最後で、『あれ? 皆は?』とか言って、散々苦労しながら敵をやっつけて生き延びた主人公達の前に、とぼけた顏して現れるタイプ。いいキャラしてんよっ!」
「違いますよ、晴香さん。どうでもいい知識だけが豊富で、いざとなったらすぐに逃げ去る腰抜けキャラですよ。で、逃げた先にいた敵に掴まって、食べられちゃう」
「お、おいっ! 米澤。お前なぁ~、縁起でもないこと言うなよ」
「あら、怒るとこソコなの? 図太い神経だとか、腰抜けってとこは気になんないの?」
「あははははっ! ヨネちん、そんなの当然よぉ~。だって、あんな切迫した場面で白目剥いて……ぷふっ」
「あ~、もうっ。勘弁してくださいよ。晴香さん」
席を一つ空けて、俺と横並びに座る女性二人にからかわれている松山さん。
一見、緊張感がないように見える車内の雰囲気は、何も知らない人間が見たら、それだけ装甲兵員輸送車に対する信頼感からきているものだと思うだろう。
けれど実際には、ピリピリとした空気を敢えて生み出さないよう、各々が気を遣っているだけだ。
兵員室には窓がなく、飛行場から出て来てから一度も周りの景色や状態を見ていない状況下で、不安や恐れを抱かない方がかえっておかしい。
ただ、俺と大介にとっては、そんなことよりも、洋一郎がこの場にいないことの方が大問題だ。
あいつ。
どう考えたって、怪しさ満点の日野浦さんと一緒に研究所に行くだなんて言い出しやがって。
普段、冷静なヤツだけに、一旦、こうと決めたら周りがどんなに反対しようと、自分の意見を押し通す。
そりゃぁ、俺も頑固だと自覚しているが、アイツは俺以上だ。
俺だけじゃなく、俺達の安全を確保しなくてはならないという責任を背負った神崎さんや、態度L・ふてぶてしさナンバー1なのに、どこか頼れるオッサンというイメージが定着した本郷さんも反対したってぇのに、「研究所に僕も行きます」の一点張り。
その理由ときたら、これまたアイツらしいっちゃぁアイツらしいんだけど。
まさか、「ここには、軍の関係者、名目上報道関係者、高校生の三つのグループがある訳ですけれど、やはり、情報は全てそれぞれのグループで平等に知っておくべきだと思うんです」なんて言い出すとは。
あんときの大人達の顏といったら、皆、ポカンと口を半開きにして、すげぇ間抜ヅラだったけど、すぐに本郷さんが言ったんだよな――――
その時の事を思い出しているうちに、車内であっても、頭に響くようなエンジンの大きな音が気にならないくらい、自分の思考の中へと入り込んでいた。
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